ある日のこと、僕はクリスさんと一緒にある場所に来ていた。
「ねぇ、本当に行くの止めない?」
「どうして今日に限ってそんなに嫌がってるんですか?」
「だって、今から行く場所って、女神として会いにくいというか何というか……」
僕が今から向かう場所を話してからずっとこの調子だった。まぁ、仕方ないことなんだろうけど、そんなに気にする必要あるのかな?
そんなこんなで目的地へたどり着いた僕ら、
「こんにちわ~ウィズさん」
「あっ、いらっしゃいませ。ウミさん、クリスさん」
出迎えてくれたのはこの間、墓場で会ったリッチーのウィズさんだった。前に会った時、僕とカズマさんはウィズさんが経営しているお店に行くと話した。
この所特にやることもなく、折角だからと思い、こうして訪ねてきたのだが……
「あ、あの、何でかわかりませんが、クリスさんから神聖な力を感じるのはどうしてでしょうか?」
「そういう体質だと思って下さい」
リッチーだからかそう言うのを感じ取れるのだろう。
「そうそう、そういう体質だから気にしないで」
笑顔で言ってるけど、ウィズさん、思いっきり怯えてますよ。
「お店の中、見て回っていいですか?」
ウィズさんにそう言い、僕らはお店の棚に並べられた物見ていたけど、棚に並んでいるの物の殆どが爆薬だった。一体誰が買うんだよ……
「ようウィズ、久しぶり。約束どおり来たぞ」
「……ふん。お茶も出ないのかしらこの店は」
するとカズマさんとアクアさんが訪ねてきた。
「何だよ。ウミも来てたのかよ」
「うん、暇だったから遊びに来たんだけど……カズマさんは?」
「俺はウィズに用があってな……ってアクア!!イビってんじゃねぇよ!」
アクアさんはウィズさんが出したお茶が温いだの何だの陰湿なイビリをしていた。なんでこう女神ってアンデットに厳しいのかな?
「ねぇ、その中に私も入ってるのかな?」
「心を読まないで下さい。クリスさん」
「読んでないよ。ただ、君の顔を見たらそう思えただけだから……」
僕ってそんなに顔に出やすい人だったんだ。
「なぁ、気になってるんだけど、お前とクリスってそんなに仲良かったっけ?たまに一緒にいるの見てたけど……」
「え、えっと、それは……」
「あぁ、一緒の宿に住んでるからですよ」
「「はぁ!?」」
カズマさんとクリスさんが僕の肩を掴んできた。あれ?言っちゃダメなことだったっけ?
「お前、同居人がいるって聞いてたけど、女の子と住んでたのかよ!?」
「何で君はサラッと言っちゃうのかな!?」
「いや、別に隠すようなことじゃないでしょ。一緒に暮らしてるって言っても、カズマさんが思ってるような事はしてないし、というかそんな勇気ないし……」
男と女が一緒に暮らしていれば過ちの一つや2つあると思っているのだろうけど、僕にはそんな勇気はまったくない。あったら友奈に告白してたし……
「まぁ、お前が言うんだったらそうなんだろうな」
「だからといって話してしまうのはどうかと思うけど……」
そんな話をしていると、ウィズさんが思い出したかのようにある事を話した。
「そういえば、私、最近知ったのですが。カズマさんたちがあのベルディアさんを倒されたそうで。あの方は幹部の中でも剣の腕に関しては相当のはずなのですが、凄いですねえ」
ベルディアさん?何でウィズさんはさん付けなんてしてるのだろうか?
「あのベルディアさんって、なんかベルディアを知ってたみたいな口ぶりだな。あれか?同じアンデット仲間からつながりでもあったのか?」
カズマさんも同じことを思い、そんな質問をしてきた。するとウィズはニコニコと世間話をするように……
「ああ、言ってませんでしたっけ。私、魔王軍の幹部の一人ですから」
「「確保―っ!!」」
アクアさんとクリスさんがほぼ同時にウィズさんを押さえつけた。というかクリスさん、いつの間に動いたんだよ。
「やったわねカズマ!これで借金なんてチャラよチャラ!それどころかお釣りが来るわよ!」
「おいアクア、一応事情くらいは聞いておけよ、……えっと、幹部ってどういうことだ?冒険者な手前、魔王軍の幹部を見逃すってのは……」
「違うんです!魔王城を守るための結界の維持のために、頼まれたんです!もちろん今まで人に危害を加えたことなんてありませんし、私を倒したところで、そもそも賞金も掛かっていませんから!」
ウィズさんが言うには魔王城の結界維持だけを担当しているなんちゃって幹部らしい。魔王城の結界を解くには幹部全員を倒さなければならないらしいが、アクアなら幹部2〜3人分で維持する結界なら破れるそうなので、わざわざウィズさんを倒す必要がないらしい。
「でもいいのか?ベルディアを倒した俺たちに恨みとかはないのか?」
「その……ベルディアさんとは、特に仲が良かったとか、そんなことも無かったですからね……。私が歩いていると、よく足元に自分の首を転がしてきて、スカートを覗こうとする人でした。幹部の中で仲の良かった人は一人しかいませんし、その方は……まあ簡単に死ぬような方でもないですから。」
あれ?あんなに強く、騎士道を真っ直ぐ歩んでいたのにそんな事してるわけ……ないよねって思いたい。
「それにウミさんも勇者だったんですね」
「勇者を知ってるんですか?って若葉さんたちのことか……」
「ワカバさんですか?いえ、知りません。少し前に紅魔族の女の子と勇者の女の子、巫女の女の子が訪ねてきたことがありまして」
えっ、何?僕や銀、若葉さんたちの他に勇者っているの?
僕はアクアさんの方を見ると、アクアさんはあることを思い出した。
「そういえばワカバ達が来る少し前に送った覚えが……」
覚えがあるということは、他にもいるということか。機会があったら会ってみたいな……
「そういえばカズマさんは今日はどうしてここに?」
「あぁ、そうだった。スキルポイントも溜まってきたから、ウィズにリッチーのスキルを教えてもらおうと思って」
そういえば冒険者って他の職業のスキルを使えるんだっけ?だとしたらリッチーのスキルも覚えられるはず。
とはいえ、アクアさんがリッチーのスキルを覚えるなんてどうかしてると大反対していたけど、カズマさんの説得で渋々引き下がったのだった。
そしてカズマさんはドレインタッチと呼ばれる相手の魔力、体力を吸い取ることが出来るスキルを覚えるのであった。それって結構便利なスキルだな………
「そういえば僕もスキルポイント溜まってるな……」
冒険者カードを見ると、かなりのポイントが溜まっている。それもそうか、バーテックスや雪精とか大量に倒してからな。とりあえず溜まっているポイントで初代勇者の武器を使えるようにしていると、何故か見覚えのないものが書かれていた。
「『黒陽』?何だろこれ?」
とりあえずは覚えておいてもいいか。
僕がスキルポイントを全部使い切ったその時
「ごめんください、ウィズさんはいらっしゃいますか?」
店の扉を開け、中年の男が訪ねてきた。
ウィズを訪ねてきた男は不動産業を営んでおり、最近この街の空き家に、様々な悪霊が住み着きまくっているらしい。しかも悪霊の討伐クエストを出して退治しても、また直ぐに住み着いてしまうとのこと。
しかも除霊が無事に済んだら、悪評が消えるまでの間、その屋敷に住んでいいとのことだった。
「悪くないわね! ええ、悪くないわ! この私が住むのにふさわしいんじゃないかしら!」
アクアさんが件の屋敷の前でそんなことを言っていた。話を聞く限りじゃカズマさんとアクアさんは未だに馬小屋に住んでいたらしい。まぁ、借金もあって宿を取ることも出来ないから仕方ないだろうけど……
「あのさ、私も一緒にいていいのかな?」
「あら、いいに決まってるじゃない。何せ、私と同じようにアンデット関係に対してあんな風に敵意を向けてたんだから、アンデット嫌いに悪いやつはいないわよ」
「あ、あはは……はぁ」
何故か落ち込んでいるクリスさん。まぁそう思われても仕方ないもんね。
とりあえず僕らは屋敷に入り、軽く掃除をして部屋割りを決めるのであった。気を利かせてくれたおかげか、クリスさんとは部屋が別々になった
そして深夜の事、何かの物音に目覚めた僕、部屋の周囲を見渡すとそこには……
「何で人形なんか置いてあるんだ?」
西洋人形が何故か置かれていた。最初に入ったときには無かったはずなのに……もしかしてこの人形、悪霊でも取り付いてるのかな?
僕は変身して、樹の武器で人形を縛ると人形が動き始めた。
「………悪霊ってこれのことか。だったらいいか」
正直僕に出来ることないし、放って置いても別にいいか。僕はそう思い、再び眠りにつくのであった。
しばらくした後、
「ウ……さん、……ミ…ん、ウミさん?」
「ん?クリスさん?どうかしたの?」
「いや、今悪霊関係で騒がしくしてるの知ってるでしょ」
まぁ、外からアクアさん達の声が聞こえてるから、知ってるけど……
「なのに何で一人平気そうに寝てるのかなって思ったんだけど……」
「悪霊関係じゃ僕には対処しようがないから……それに別に害はなさそうだし……」
僕はそう言い、眠りにつくのであった。
「あっ、ちょっと、寝付くの早い………しょうが無い人ですね。ウミさんは……」
翌日、無事に?悪霊を除霊できたらしいけど、あの屋敷の悪霊が増えた理由を聞くと、以前共同墓地でアクアが巨大な結界を張ったせいで、行き場をなくした霊たちがあの屋敷に住み着いたらしい。
流石にギルドの臨時報酬を受取るわけにもいかず、不動産屋にも謝りに行ったのだが、屋敷の悪評が消えるまで住んでも良いということになった。