この素晴らしい勇者に祝福を!   作:水甲

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今回の話では、原作のパーティー交換の話とキールのダンジョンの話は飛ばします。作中ではやったことになってます。




17 名前で呼んで

冬将軍との一件から一週間が過ぎた。僕はエリスさん……というよりクリスさんに体をしっかり治すようにと言われ、暫くの間宿で療養していた。

 

一週間もの間休んでいて、退屈かなと思っていたけど、時々だけどカズマさん達が会いに来てくれたのだが……

 

「何だか僕がいない間に大変だったみたいだね」

 

「まぁ、互いのパーティー交換はそこまで大変じゃなかったみたいだけど、むしろ大変だったのがあっちだな」

 

カズマさんと銀が行った先はいつもとは違って、冒険者らしい冒険ができたみたいだけど、交換先のメンバー、ダストさんはアクアさんやめぐみん、ダクネスさんに振り回されたみたいだった。

 

「ダンジョンではどうだったの?」

 

「ダンジョンでは……」

 

カズマさん達はキールのダンジョンと呼ばれる場所へ行ったのだが、カズマさんとアクアさんの二人はそこでアンデットのキールの浄化に成功したみたいだった。その時のアクアさんは女神らしかったみたいだったけど……

 

「どうにもダンジョンでアンデット系のモンスターに襲われると思ったら、アクアの神聖な力に惹かれてたみたいなんだ」

 

それはそれでアクアさんも可哀想な体質だな………

 

「本当に大変だったみたいだね。僕もそろそろ復帰できるから、なるべくカズマさんの負担は減らすようにするよ」

 

「ウミは本当に良い奴だよな~」

 

「海、邪魔するぞ」

 

カズマさんと話していると若葉さん、ひなたお姉ちゃん、高嶋さんが訪ねてきた。

 

「思ったより元気そうだな」

 

「アクアさんの回復魔法がすごかったので……それでも同居人にしばらくは外出禁止されてしまって、元気が有り余っています」

 

「一週間も休んでいたら身体も鈍るだろ。鍛錬には付き合うぞ」

 

「ありがとうございます。若葉さん」

 

「でも、無理は禁物だからね。何かあったらク………一緒に住んでる人が泣いちゃったりするからね」

 

「わかってるよ。お姉ちゃん」

 

「復帰したらちゃんと皆に心配させてゴメンって言うんだからね」

 

「分かってますよ。高嶋さん」

 

僕がそう言った瞬間、一瞬だけど高嶋さんが暗い顔をした気がした。だけどすぐにいつもの笑顔に戻った。気のせいだったのかな?

 

「それじゃ今度はギルドでか?」

 

「うん、そうだね」

 

カズマさん達はそのまま帰っていくのであった。僕は皆が帰るのを見届けた後、また暇になったので、瞑想をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマSIDE

 

ウミの見舞いも終わり、ギルドで待つアクア達にウミの事を話そうと思っていると、ユウナがあることを言い出した。

 

「………ずるい」

 

「ずるいって何がだ?」

 

「どうして海くんは私のことは名字なのに、皆のこと名前で呼んでるの!?」

 

ユウナがいきなりそんなことを言い出した。そういえば確かにそうだな。

 

「確かにあいつのさん付けは癖みたいなもんだと思って、聞き流してたけど、何でユウナだけ名字なんだろうな?」

 

「カズマくんもそう思うよね」

 

ユウナ、顔が近いのだが……

 

「う~ん、もしかしてだけど海くんは重ねてみないようにしてるんじゃないのかな?」

 

ヒナタの言葉を聞いて、あることを思い出した。そういえばあいつの友達に見た目は同じ、名前も同じの奴がいるんだっけ?

 

それだったら重ねて見ないようにしてるっていうのも納得できる。

 

だけどユウナは納得していないみたいだった。

 

「海くんの友達の事は知ってるけど……それでも私は名前で呼んでほしいかな」

 

ユウナ、そんな事言うけど、お前とよく一緒にいるあの子もお前のこと名字で呼んでるのはいいのかって言いたいけど、そこは言わないでおこう。

 

「どうにも気になってるようだったら、私にいい考えがあるが……」

 

突然ワカバが何かを閃いたみたいだけど、何かあるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海SIDE

 

カズマさんたちが御見舞に来てから次の日の朝、僕とクリスさんはギルドに向かう途中だった。

 

「今日からクエストに出ても大丈夫ですね?」

 

「うん、死にたてだと体力も奪われるから、完全に戻るまでの間宿に拘束しててごめんね」

 

クリスさんが申し訳なさそうに謝るけど、クリスさんからしてみれば、僕のことを心配しての処置だったのだから仕方ないのことだ。

 

「僕が休んでる間、みんなに迷惑かけたから今まで以上に頑張らないと……」

 

「無理だけは本当にしないでね」

 

クリスさんに念を押されて、ギルドで別れるのであった。僕はカズマさんたちを探していると……

 

「海、今日から出てこれたみたいだな」

 

若葉さんに声をかけられた。

 

「はい、お見舞いありがとうございます」

 

「いや、気にするな。だが、一週間体を休めていたんだ。身体も鈍ってるだろうから、簡単なクエストに出かけてみたらどうだ?」

 

「えっ、でも、カズマさん達の所に……」

 

「許可はもらってる。お前の代わりに今日は私があちらのパーティーに入ることになってる」

 

何だか変な感じがする。まるで気を遣われているような……

 

するとお姉ちゃんと高嶋さんがやってきた。

 

「海くん、これは若葉ちゃんなりに気を遣ってるのよ。きっといつも通りに戦おうとしたら、うっかりまた怪我しちゃうかもしれないから……そのために今日は簡単にクエストをやって、鈍った身体を治そうとしてるのよ。流石に一人じゃ大変だから、友奈さんがついて行ってくれるって」

 

確かにお姉ちゃんの言うとおり、いつもどおりに動けるって思っていたら、怪我をしそうだな。

 

それだったら鈍った身体を戻すのに丁度いいかもしれない。

 

「分かりました。今日はよろしくお願いします。高嶋さん」

 

「う、うん、よろしくね」

 

笑顔で答える高嶋さんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

若葉さんから指示されたクエストは、ゴブリン退治だった。僕と高嶋さんはゴブリンの潜伏先に向かっていた。

 

「モンスターって倒されても、すぐに増えるのってどうなんだろうか?」

 

「多分だけど、繁殖力が凄いからじゃないのかな?」

 

「そう言われればそう思うけど……」

 

まぁ、異世界だから深くは考えないほうがいいかな……

 

「そろそろゴブリン達の住処に着くよ」

 

高嶋さんの言葉を聞いて、僕は夏凛の二本の刀を取り出した。ゴブリンはそこまで強くはないらしいけど、初心者殺しって呼ばれる奴がいるから警戒しないと……

 

「………ねぇ、海くん」

 

「なんですか?」

 

「あのね、聞きたいことが……」

 

『ギャオオオオオ!!』

 

高嶋さんが何かを告げようとした瞬間、どこからか雄叫びが聞こえてきた。僕と高嶋さんは声が聞こえた方へ行くと、そこには……

 

「これは!?」

 

「うっ!?」

 

そこは真っ赤に染まった草原だった。辺りには無数の肉塊があった。更にはゴブリンたちを殺したと思われる布のような触手が付いた巨大な生物がいた。僕は端末に映し出された情報を見ると、あれは乙女型のバーテックスだ。

 

「バーテックス!!」

 

まさかこんな場所で出会うなんて思ってなかった。僕は二本の刀を構えるけど、高嶋さんは何かに気がついた

 

「おかしいよ。どうしてバーテックスがモンスターを襲ってるの?」

 

「どういうことですか?」

 

「300年前に襲ってきた時は、バーテックスは動物とか襲わず、人間だけ襲ってたの」

 

バーテックスが人間とゴブリンを間違えた……なんて考えるべきじゃないな。何か思惑でもあるのか?

 

「今は考えてる場合じゃないですよ!まずはバーテックスを!?」

 

「うん!」

 

まだ乙女型はこっちに気がついていない。仕掛けるなら今しかない。僕らは同時に動き出し、乙女型に接近していく。

 

そして僕らが同時に攻撃を仕掛けようとした瞬間、乙女型の触手が突然目の前に迫ってきて、僕らを吹き飛ばした。

 

「くあ!?」

 

「きゃあ!?」

 

何とか受け身を取り、次の行動をしようとするが、今度は下腹部からミサイルみたいなものを飛ばしてきた。

 

僕は狙撃銃を取り出し、ミサイルを破壊していった。

 

「厄介な相手だ!!」

 

「どうしよう?距離を置けばミサイル撃ってくるし、近づけばあの触手が襲ってくるし……」

 

「それなら僕が奴の動きを止めますので、高嶋さんは……」

 

遠距離からの攻撃で動き止めれば、何とか出来るかもしれない。でも外したりしたら高嶋さんを危険な目に合わせてしまう。失敗は許されない

 

「海くん………大丈夫だよ!信じてるから」

 

「……はい」

 

高嶋さんが乙女型へ向かっていく。僕は高嶋さんへの攻撃を全て銃で弾いていく。

 

「高嶋さん!!このまま一気に!!」

 

高嶋さんが乙女型の近くまで来た瞬間、まばゆい光が高嶋さんを包み込み、光が消えた瞬間、高嶋さんの衣装が変わり、片目を隠した状態になっていた。

 

「勇者パアアアアンチ!!」

 

高嶋さんの拳が乙女型の装甲を砕くと同時に、御霊を破壊した。

 

「あれが……300年前の勇者達の使う満開……いや切り札か」

 

満開は神の力を使う代わりに、対価を支払わなければならない。切り札は精霊をその身に宿すことが出来るけど、その分肉体に負担が大きい

 

やっぱりどの時代でも巨大な力にはリスクが伴うらしい。

 

僕はこっちを見て笑顔で手を振る高嶋さんを見て、ゆっくり近づこうとした。

 

だけどその時、あの白いバーテックスが一匹、高嶋さんに襲いかかろうとした。

 

「友奈!後ろ!!」

 

「えっ!?」

 

気がついたときにはもうバーテックスが口を開いていた。急いで向かおうとするけど、このままじゃ間に合わない……

 

そう思った瞬間、刃の付いた盾と矢がバーテックスを攻撃し、倒したのだった。

 

「危ないところだったな。友奈!」

 

「間に合って良かったです」

 

高嶋さんを助けてくれたのは珠子さんと杏さんの二人だった。

 

「タマちゃん、アンちゃん、どうして……」

 

「若葉さんに頼まれて、二人の事を影でサポートしてたんです」

 

「危機一髪だったけどな」

 

「助かりました。高嶋さん、大丈夫ですか?」

 

僕は高嶋さんに声をかけると、高嶋さんはあることを聞いてきた。

 

「さっき、名前で呼んでくれたよね」

 

「あ、あれは咄嗟に……」

 

あの時、何故か友奈と被って見えてしまい、名前で呼んでしまった。

 

「友奈でいいよ。海くんが私と友達の子を重ねてみないようにしてるから、名字で呼んでたんだよね。でも、私は折角仲良くなれたから……名前で呼んでほしい」

 

「………」

 

もしかしてたまに僕が高嶋さんって呼んだ時に、暗い顔をしていたのってそういうことだったのかな?

 

それだったら……

 

「分かりました。友奈さん」

 

「うん」

 

僕らはそのままギルドに戻るのであった。

 

ただ気になるのは……どうしてバーテックスがモンスターを襲っていたのだろうか?

 

気になることが増えていく中、何も解決していっていない

 

 

 

 

 




今回は海×高嶋って感じの話でした。

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