この素晴らしい勇者に祝福を!   作:水甲

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16 冬将軍

ベルディアとバーテックスとの戦いから何日か経ったある日のこと、いつもの様にギルドに行くとカズマさんとアクアさんが口喧嘩をしていた。

 

「お前の作った借金のせいで毎回、請けたクエストから報酬の大半が借金返済のために天引きされていくんだぞ!?」

 

「だってだってしょうがないじゃないの! あの時の私の超凄い活躍が無かったら、この街は滅ぼされていたかもしれないのよ!? 感謝こそされ、借金背負わされる謂れはないんじゃないかしら!」

 

二人の喧嘩はいつの間にかギルド内では名物みたいなものになってきたみたいで、他の冒険者は気にも止めなくなった。そんな中ダクネスとめぐみんの二人がやってきた。

 

「朝から何を騒いでいるのだ。皆見て……いないか。既にギルドの連中も、お前達に慣れてきたのか……」

 

「ウミ、何か良い仕事ありましたか?」

 

「まだ見ていないけど、銀は?」

 

「銀でしたら、道に迷った人を助けたりしてましたよ」

 

いつも通りトラブルに巻き込まれて遅れてるのか……

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして銀がやってきたので、僕はカズマさんとアクアさんの喧嘩を止め、クエストを見に行くのであった。

 

『牧場を襲う白狼の群れの討伐、百万エリス』

 

『冬眠から覚めてしまった一撃熊が畑に出没。討伐なら二百万、追い払うなら五十万』

 

といったクエストが掲示板に貼られていた。どうにもこの時期はこういう高額で高難易度のクエストが多いみたいだった。カズマさんはあんまり関わりたくなさそうだった。

 

他にも見てみるとちょっと気になるものがあった。

 

「機動要塞デストロイヤー接近中につき、進路予測のための偵察募集?ってなんだデストロイヤーって……」

 

「デストロイヤーはデストロイヤーだ。大きくて高速移動する要塞だ」

 

「ワシャワシャ動いて全てを蹂躙する、子供達に妙に人気のあるヤツです」

 

「私も一度見た事あるけど、下手すればバーテックスといい勝負しそうな感じだったな」

 

銀が思い出したかのように言うけど、バーテックスといい勝負するって、かなり危険なものなんじゃないのかな?

 

他にも何かないかと探してみると、カズマさんがあるクエストを見つけた。

 

「なあ、この雪精討伐ってなんだ?名前からしてそんなに強そうに聞えないんだけど」

 

雪精と呼ばれるとても弱いモンスターで人に危害は与えないが、一匹倒すごとに春が半日早く来ると言われているらしい。しかも一体討伐で十万エリス、他のクエストに比べれば破格だった。

 

カズマさんは楽そうだからということで、雪精討伐のクエストを受けることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街からしばらく歩いた場所にある平原に、雪精の群れがいた。雪精は白くてふわふわして漂っているだけだった。僕とカズマさんと銀が雪精を退治する中、アクアさんは虫あみで雪精を捕まえた。

 

アクアさんが言うには雪精を捕まえて、ネロイドをキンキンに冷やしておくと言っていた。ダクネスさんはよく見たら私服姿だし、本人は我慢大会みたいなものだって言うけど、風邪引かなければ良いんだけど……

 

めぐみんが爆裂魔法で一掃した瞬間、あたりの空気が変わった。

 

「……ん、出たな!」

 

ダクネスはソイツを見て嬉しそうに大剣を構えた。

 

「なぜ冬になると、冒険者達がクエストを請けなくなるのか。その理由を教えてあげるわ……冬将軍の到来よ!」

 

冬将軍って、厳しい冬のことを言うんじゃなかったっけ?でも、現れたのは明らかに鎧兜のモンスターだった。

 

将軍は戦闘態勢に入っていたダクネスの大剣を折った。

 

強すぎじゃない?この将軍……

 

「カズマ、ウミ、聞きなさい!冬将軍は寛大よ!きちんと礼を尽くせば見逃してくれるわ!」

 

アクアさんが土下座しながらそういった。

 

「DOGEZAよ! DOGEZAするの! 二人とも武器を捨てて早くして!」

 

土下座って!?本当に何なんだこの冬将軍てやつは……

 

とりあえず戦闘回避できるなら土下座をするべきだと思い、僕達は土下座し、めぐみんは動けないので死んだ振り。ダクネスさんは、

 

「私にだって、聖騎士であるプライドがある!誰も見ていないとはいえ、騎士たる私が、怖いからモンスターに頭を下げる訳には……」

 

意地になって頭を下げたがらず、カズマさんに無理やり下げられていた。

 

「くっ、下げたくもない頭を無理やり下げさせられるとは、どんなご褒美だ!」

 

こんな状況でもドMを貫くなんて……

 

「カズマ、武器武器! 早く手に持ってる武器捨てて!!」

 

アクアさんに言われ、大慌てで武器を捨てたカズマさんだったが、慌てていたためうっかり頭を上げてしまい、次の瞬間、カズマの頭が雪の上に転がった。

 

僕はそれを見た瞬間立ち上がり、友奈の武器を取り出し冬将軍に殴り掛かるのであったが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと僕が初めてエリスさんにあった場所に来ていた。というか隣にはカズマさんがいるし、目の前にはエリスさんが物凄く怒っていた。

 

「ウミさん~どうしてこんな所にいるんですか~」

 

「えっと……その……」

 

「何だ?ウミ、この人と知り合いなのか?」

 

「まぁ、転生した時の担当者みたいな人だし……」

 

一緒の部屋で寝てるしって言ったら、殴られそうだから言わないでおこう

 

「いきなりこっちの仕事ができたと思ったら、ウミさんは死んじゃって………私の気持ちも考えて下さい!!」

 

「す、すみません……」

 

「何だか親しげだけど、本当にどんな関係なんだよ」

 

カズマさんが僕とエリスさんのやり取りを見て、そう言うと突然空から声が聞こえてきた。

 

『カズマ~ウミ~、生き返られるわよ~』

 

「本来なら天界規定で蘇られないのですが、断ったらアクア先輩が何を言い出すか分かりませんので、すぐに戻します」

 

エリスさんがそう言いながら、指を鳴らすと空に穴が空いた。

 

「ウミさん、後でもう一度お説教です」

 

「本当にゴメンナサイ……」

 

お説教か……嫌だな~

 

「サトウカズマさん。ウミさんの事よろしくお願いしますね」

 

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、もっと私を褒めてよ、私がやったのよ? 私がアンタ達を生き返らせてあげたんだから……」 

 

目を覚ますとアクアさんがそんなことを言っていた。というかめぐみんは泣きそうだし、ダクネスと銀はホッとしていた。

 

「なぁ、ウミ」

 

「何?カズマさん?」

 

「お前、エリスさんとどういう関係なんだ?」

 

僕は目線をそらすとカズマさんが僕の肩を掴んできた。

 

「お説教がどうのこうのとか言ってたよな……一体どういうことか教えてくれないか?」

 

「えっと、さっきも言ったように……」

 

「転生の時の担当者だからって訳じゃないだろ!!明らかに親しげでまるで一緒に住んでるような関係じゃないのか!?」

 

こういう時はどう誤魔化せば良いのだろうか……とりあえず一緒に暮らしているというのは省いたほうがいいな

 

「えっと、エリスさんは僕の勇者の力の……守護精霊みたいなもので……」

 

「そういえば海も精霊いるんだっけ?」

 

銀がそう言いながら、端末から赤い甲冑を纏った精霊が現れた。あれって確か義輝だっけ?

 

「何よ?エリスのやつ、ウミの精霊なんてやってるの?」

 

「って言っても、いつもは一緒にいるわけじゃないんだよ。たまにしか出てこなくて……見た目も銀の精霊と同じような感じだしな」

 

カズマさんが義輝を見て、似たような感じだと思ったらしくすぐに責めて悪かったと謝るのであった。

 

とりあえず僕らはギルドに戻り、倒した分の雪精の報酬を受け取るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして僕は………

 

「………」

 

帰ってきてから口を利いてくれないエリスさんの前で正座をしていた。

 

「あ、あの、怒ってますよね」

 

「当たり前です!!」

 

うん、聞くまでもなかった。これはかなりお怒りだ。

 

「この間の件で大怪我をしたっていうのに、今度は死んだりして……アクア先輩がいてくれたから良かったものの……もしあのまま死んでたらって思うと私……」

 

涙を流しながら怒ってるエリスさん。それもそうだよな……この間、あんな無茶をして心配かけちゃったし……

 

「本当にごめんなさい……エリスさんの気持ちを考えずに心配をかけるようなことを……」

 

土下座をして謝ると、エリスさんはため息を付いた。

 

「……これからは本当に気をつけてくださいねって言っても、貴方のことですからまた無茶をするんでしょうから、これだけは言わせて下さい。貴方の事を心配している人がいるって言うことを………」

 

「は、はい………」

 

僕のことを心配してくれている人がいるか……前にも言われた覚えがある。

 

『お願いだから海くん、忘れないで、海くんの事を心配してくれる人がいるってこと……その一人が私だって言うことを………』

 

あの時の友奈……泣いてたな……

 

きっと僕が死んだって聞いたら、あの時以上に泣くんだろうな………

 

ちゃんと謝れればいいな……

 


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