あの戦いから数日が経った。あの後、僕は屋敷に運ばれたまま暫くの間眠りについていたみたいだった。
そしてようやく目が覚めたのは今日だった。とりあえず僕はギルドにいる皆にお礼を言いに行こうとしたのだけど………
「一体何があったんだ?」
何故かギルド内は大騒ぎだった。特に宴会とかしている様子もみられない。するとたまたま通りかかったダストに声をかけた。
「おう、ウミじゃねぇか」
「ダストさん、この騒ぎは一体?」
「あぁ、これか?これはまぁ……バニルの旦那に皆、騙されたみたいでな」
「騙された?」
「実は言うと……」
ダストさんの話を聞くと、どうやらあの戦いの最中バニルさんはマナタイトの他にも色んな魔道具を持ってきたみたいなのだが、その全てが有料だったらしく……戦い終了後、皆が宴会で盛り上がっている時に……
『貴様らが戦いで使用した道具の代金はしっかり払ってもらうぞ!もし払えなかった場合は覚悟するのだな!あとはネタ種族の所に行かなくては』
「それでみんな全財産失ってな。今は必死にクエストをこなしているということだ」
「何というか……本当に申し訳ないんだけど……」
「いいってことよ。俺は特に道具を使ったりしてないしな。礼を言うなら落ち着いてからにしとけ」
ダストさんはそう言い残して、パーティーの所に戻るのであった。まぁ、確かに今は落ち着いてからのほうがいいかもしれないな。
それに僕自身、行くべきところがあるし……
僕は若葉さんたちの屋敷を訪れるとそこには須美、そのっち、友海、牡丹の四人の前に若葉さん達が集まっていた。
「海、どうやら間に合ったみたいだな」
「はい、それにしても若葉さん、わざわざ場所の提供してもらわなくっても……」
「いや、いいんだ。未来の勇者のことをちゃんと見送ってやりたいと思っていたからな」
今回の戦いの後、ひなたお姉ちゃんと水都さんは造反神から神託を受け、もうあんな戦いは起こらない。時間を越えてきた勇者たちを帰すようにと言われたらしい。
「元気でね。みんな」
友奈さんは笑顔でそう告げると、友海と牡丹の二人は何だか寂しそうにしていた。
「ここでの出来事……忘れません。みなさんが……海おじ様が私達を助けるために頑張って戦ったことを……」
「忘れないよ。この時代でみんなが教えてくれたことを……」
「友海、牡丹。未来の僕達によろしくな」
「うん、パパ。助けてありがとうね。今度は私達がパパたちのことを助けるから」
「あぁ、未来で……」
友海と牡丹の二人は手を振りながら、笑顔で元の時代へと帰っていった。さて、次は……
「須美さん、園子さんのお二人はこの世界で起きたことは忘れるようにと言われてます」
「そうだよね~未来の出来事を知っていたら、色々と問題が起きちゃうもんね~」
「でも、私達の場合は永遠のお別れではないですよね。先の未来で皆さんと会えますから……」
「そうだな。また未来でな」
「はい、また未来で……」
須美と牡丹の二人も笑顔で元の時間に帰っていった。これで見送りは終わったな。
「それじゃ僕は準備があるので……」
「準備って……そうか。明日だったな。私達も見に行く」
「それじゃ私は海くんの事送っていきますね」
いや、お姉ちゃん。もう子供じゃないんだから送ってもらわなくても……と言う前にお姉ちゃんに手を引かれるのであった。
「海くんは本当に凄いよ」
屋敷への帰り道、いきなりお姉ちゃんにそんな事を言われた。凄いって何が?
「絶望的な状況でも、諦めずに最後まで立ち上がって……それに仲間のことを信じていられて……本当に凄いね」
お姉ちゃんはそう言いながら、僕の頭をなでた。僕は少し恥ずかしくなったけど、お姉ちゃんの優しい表情を見て拒む気にはなれなかった。
「海くん、もしかして上里の家に生まれたのに勇者にも、巫女にもなれなかったこと後悔してたよね」
「まぁ……少しは……でもそれでも僕は皆のことを支えられるように頑張ってきたけど……みんなに支えられていたな」
でも特に悔しいとは思えなかった。それが勇者なんだから……
「これからはどうするの?バーテックスとの戦いはなくなったけど……」
あの後、バーテックスの進行はもうないと言われた。どうやらあの戦いでバーテックスは全て出し切ったみたいで、次の進行は300年後だと言われている。その間に大赦は天の神との対話を出来るように動くみたいだ。
「そうですね……まぁ最初の目的を果たそうと思います」
「最初の目的?」
「カズマさん達と一緒に魔王を倒しにです。どれくらい掛かるかわかりませんが……それでも」
「それじゃその時は私達も手伝うね」
お姉ちゃんは笑顔でそう告げるのであった。とりあえず今はいい加減準備を終わらせないと……
「海くん、おかえり」
突然のことで僕は戸惑っていた。何故なら屋敷の前で友奈が僕らを待っていたのだった。友奈は僕の方へ駆け寄りそっと抱きついてきた。
「ごめんね。来るの遅くなって……」
「来れるようになったのか?」
「うん、神樹様が……ううん、神樹様と造反神があっちの世界とこっちの世界の道を作ってくれたんだって……だから……ただいま。海くん」
「あぁ、おかえり。友奈」
僕は笑顔で友奈にお帰りを告げると、屋敷からカズマさんが出てきた。
「お前ら、いちゃつくのはいいけど………準備を俺たちに任せっきりでいいのか?小道具、大道具はもう運び終わってるんだから」
「カズマさん、ありがとうございます。まさか準備の他にも演劇に参加してくれるなんて…‥…」
「ダクネスが折角だから俺たちもって言ったからな。ほら、稽古やるんだろう」
「はい」
そして次の日、僕らはエリス教の教会で孤児院の子どもたちに劇を見せることになった。
観客席には若葉さんたちの他にもダストさん達冒険者の姿や何故かアイリスたちの姿もあった。それに……先輩たちもだ。みんな、僕らの劇を見に来てくれたけど、本当にあの世界を離れていいのかな?
劇は終盤になり、勇者に扮した友奈が魔王の姿をしたカズマさんと対峙していた。
「結局世界は嫌なことばかりだろ!?」
「そんなことない!大切だと思えば友達になれる。お互いを思えば何倍でも強くなれる!無限に力が湧いてくる!!」
演目は以前友奈たち勇者部が文化祭でやった『明日の勇者へ』だ。これは友奈が僕にも参加してほしかったと言っていたらしく、この劇をやることになった。
「世界には嫌なことも悲しいことも自分だけではどうにもならないこともたくさんある。だけど、大好きな人や友達がいればくじけるわけがない。諦めるわけがない。だから…勇者は負けない!!」
「そのとおりだ。だからこそ、僕も勇者になった」
僕は白い鎧を着て、友奈の隣に並んだ。大好きなみんながいるからこそ、僕は諦めず頑張り続けてきた。
「勇者になって、わかったんだ。皆がいたからこそ、こうしてここにいられる」
「海くん?」
「おい、台詞」
台詞が違っていることに気が付き、少し戸惑う友奈とカズマさん。だけど僕は続けた。
「僕はこうしてお前と一緒に隣で並びたかった。だから……友奈。僕と結婚してくれないか?」
「えっ!?」
「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」
僕のプロボーズを聞いて、観客席が大声で響くのであった。そして舞台と舞台裏にいるカズマさん達は呆れた顔をしていた。
「おい!?台本無視して、プロポーズするなよ!!」
「何だか劇が無茶苦茶になったな。というか結婚してくれか……」
「折角だから私達も参加しましょうか」
「そうね。宴会芸で二人のこと祝福しましょう」
「海の奴は……友奈さん、顔真っ赤にしてるし……」
何故か舞台裏からアクアさんたちが出てきて、色んな意味で劇が盛り上がったのだった。おまけに観客も騒ぎに便乗し始めるし……
劇を無茶苦茶にしたけど、何だか僕ららしくていいかもしれない。
僕らの物語はまだ続く。それはこの先の未来でも………
最終回がグダグダですみません。
次回からは更新スピード落ちますが、番外編をやります。番外編の話としては本編終了後の設定でやります。