この素晴らしい勇者に祝福を!   作:水甲

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タイトル通り、過去話になります。過去話は今回と次回で終わりになります。


108 追想

これは昔の記憶……僕が讃州中学に入学した時の………

 

入学式が終わってから数日後、僕は一人勇者部部室を訪れていた。そこには風先輩がいた。

 

「……あんたは入部希望者?」

 

「話は聞いてるはずだよ」

 

「………そう、あんたがお目付け役?」

 

お目付け役か……そうとらわれても仕方ないよな。僕自身もそんな風に命令されてここにいるのだから……

 

「あんたの方にも命令が言ってるはずだ。勇者候補である二人を勇者部に確保するようにって……」

 

「そしてあんたはその見張りってわけね」

 

「見張りか………それはちょっと違うかな?僕は見届けるしか出来ない」

 

あの時だってそうだった。銀が死んだ時、大人たちの勝手な話を聞いているだけ、勇者システムの代償を聞かされたときも……見ているだけだった。

 

「見届けるだけ……ね。あんたはそれでいいの?」

 

「………」

 

「まぁいいわ。はい、これ入部届」

 

「……入部しろと?というかここは何の部活なんですか?」

 

「勇者部よ。まぁ言うなれば勇んで人助けをやっていく部活」

 

「ボランティアってことか。まぁ面白そうだし、いいか」

 

僕は入部届に名前を書き、先輩に渡した。先輩は満足そうな顔をしていた。

 

「それじゃよろしくね。えっと」

 

「上里海です。よろしくお願いします。先輩」

 

「私は犬吠崎風。どれくらいの付き合いになるかはわからないけど、よろしく」

 

僕は先輩と握手を交わす中、突然部室の扉が開かれた。そこには確か……

 

「あれ?えっと……」

 

「同じクラスの……上里くん?」

 

同じクラスの結城友奈と東郷美森……この二人と同じクラスなのは大赦がそこら辺上手くやってくれたのだろう

 

「一応自己紹介はしたけど、もう一度しておくよ。僕は上里海。よろしく」

 

「初めまして、私は結城友奈です」

 

「友奈ちゃん、初めましてじゃないよ。東郷美森です。あの出来れば東郷って呼んでほしいな」

 

「分かった。よろしく、結城、東郷」

 

「あっ、私は友奈でいいよ」

 

いきなり下の名前で呼べと……流石に知り合ったばっかりなのにそれはどうかと思う。とりあえずなれるまでは名字で呼ぶことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから勇者部に入部した僕らは、教室や部室、ましてや休日に一緒に遊びに行くほど仲良くなった。

 

「ねぇ、海くん?まだ呼んでくれないの?」

 

「呼ぶって、何がだ?結城」

 

放課後、僕と結城の二人でゴミ拾いのボランティアをやっている時、結城が変なことを聞いてきた。

 

「ほら、また……せっかく仲良くなったのに、まだ名字呼び……」

 

「いや、東郷はどうなんだよ?」

 

「東郷さんは本人がそう呼んでほしいって言うから……」

 

「だったら僕はそう呼びたいからそうしているだけだ。それじゃ駄目か?」

 

「でも……」

 

ちょっと顔をふくらませる結城。僕としては結城呼びになれたからそっちの方が良いんだけど……というか女の子を名前で呼ぶのってちょっと恥ずかしいのだけど……

 

そんな事を考えていると、結城が突然何かを発見した。

 

「海くん、あれ……」

 

結城が指を差した方を見ると、木の上に登っている猫が一匹いた。もしかして登ったまま降りられないとか?

 

「どうしよう?あの子、降りれないのかな?ハシゴとか……」

 

「ハシゴより木を登ったほうが早くないか?」

 

僕はそう言うと、木に登り始めた。ある程度鍛錬をしているからこれぐらいの木登りくらいは楽勝だった。僕はそっと猫に手を伸ばした。

 

「ほら、こっち来い」

 

猫を怖がらせないようにそう問いかけると、猫はゆっくりだけど僕の方に近寄ってきた。僕は猫を肩に乗せた。あとは降りるだけ……

 

「海くん、気をつけてね」

 

「大丈夫。これぐらいは……」

 

僕はそう言いかけた瞬間、手が滑ってしまい木から堕ちてしまった。これぐらいの高さなら落ちても大丈夫そうだけど、打ちどころ悪かったらやばいかもしれないな。だけどこの猫だけは……

 

そう思い、僕は猫を庇うように身をかがめ、地面に落ちた。猫は地面に落ちた衝撃でびっくりしたのか、僕の手から離れて逃げ出した。

 

「いたた、猫は無事な……」

 

僕は猫の無事を確認した瞬間、突然頭を誰かに叩かれた。叩いたのは結城だった。

 

「何だよ」

 

「海くん……」

 

結城は何故か涙を流していた。何でいきなり泣いてるんだと思うと、結城は僕の肩を掴み……

 

「すっごく心配したんだよ!」

 

「心配って……これぐらい大丈夫だよ。鍛えてるし……」

 

「鍛えてても、打ちどころ悪かったら死んじゃうかもしれないんだよ」

 

「死んじゃうって……僕も一瞬やばいと思ったけど……別に心配してくれなくても……」

 

僕がそう告げた瞬間、また叩かれた。

 

「お願いだから海くん、忘れないで、海くんの事を心配してくれる人がいるってこと……その一人が私だって言うことを………」

 

泣きながらそう告げる結城……思えば僕のことを心配してくれる人って、何だか上っ面だけの大人たちだった。僕が大赦のトップだからということもあるんだろうけど……

でも、結城はそんなの関係なく、僕のことを心配してくれているのか……

 

「分かったよ。だから泣くな」

 

「もう無茶はしない?」

 

「それはわからない。今日みたいな無茶を……今日以上の無茶をするかもしれないけど……忘れないでおくよ。友奈が心配してくれていることを……」

 

「あっ、今……」

 

咄嗟に名前を呼んでしまった。結城は何だか嬉しそうにしている

 

「今のは……」

 

「ようやく名前で呼んでくれたね。海くん」

 

友奈の笑顔を見た瞬間、何故か心が温かくなってきた。これって何だろう?

 

「ほら、学校に戻ろう」

 

友奈は僕に手を差し出した。しょうがないと思いながら、僕は友奈の手をつかむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方、大した怪我がなかったけど、先輩が早めに帰るように言われた。早めに帰してくれたのはいいけど、家に帰っても暇なだけだし……僕はあの時の暖かさが何なのか知るため、ある場所を訪ねた。そこは人の身でありながら、神として祀らわれている少女……そのっちがいる所だった。

 

「久しぶりだな」

 

「久しぶり~どうしたの~」

 

「いえ、ちょっと聞きたいことがあって……」

 

僕は今日の出来事を話した。その時感じた心の暖かさについて話すと、そのっちはにやにや笑っていた

 

「そっか~カイくんは恋するお年頃なんだね~」

 

「恋?僕が誰に?」

 

「その結城友奈ちゃんにだよ。一目惚れだね~」

 

僕が友奈に恋を……そう思った瞬間顔が熱くなったのが分かった。もしかして僕は本当に……

 

「カイくんが恋するなんて~ミノさんが聞いたらびっくりしただろうね~」

 

「そんなにか?というか……どうすればいいんだ?」

 

「どうすればって……頑張って結城友奈ちゃんに告白しないとね~」

 

告白って……そこまでなのか?というか一時期お前とお見合いしたこと、忘れてないか?

 

「私は応援するね~」

 

「あ、あぁ……」

 

話が終わり、僕は帰ろうとした時、そのっちが呼び止めた。

 

「ねぇ、カイくん」

 

「何だ?」

 

「今でも……勇者になりたいの?」

 

「………なりたいよ。僕は見ていることしか出来ないのが嫌だから………」

 

「そっか~」

 

 

 

 




次回予告

「戻ってきたな……みんな」

「海くんは知っていたの?満開の後遺症について……」

「ねぇ、海くんはどうしてそんなつらそうにしているの?」

「お前はどうしたいのか聞かせろ」

「僕は………皆を……」

次回『願った思い』

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