友奈があちら側に戻ってから一週間が過ぎた。きっとあっちで頑張っているだろうし、僕も友奈が戻ってくるまでには、演劇の大道具の準備を進めないと……
「おっ、何だ?精が出るな」
昼過ぎに起きてきたカズマさんが、庭で作業している僕らの所にやってきた。
「全く、今起きたんですか?少しは健康的に早めに寝たらどうですか?」
「昨日も徹夜だったんだよ。バニルの奴にまた新しいアイテムを作ってくれって頼まれて……」
友奈がいなくなってすぐの頃に、僕らの屋敷にバニルさんが訪ねてきた。訪ねてきた理由はどうやらまたカズマさんにアイテム開発をお願いしに来たみたいだ。バニルさんいわくもしかしたらそれなりのお金が必要になるだろうから、少し貯めておいたほうがいいんじゃないということだった。一体どう必要になるんだ?
「というかめぐみん。手伝ってもらってるけど、別に無理しなくていいんだぞ」
特に頼んだ覚えがないのに、僕が作業を始めようとするとめぐみんも手伝うといい出し、作業を手伝ってもらってるけど、どうしてなのかちょっと気になった。
「私はウミにかなりの恩があるんです。少しでもその恩を返さないと……」
「恩って?」
「それは………まぁいいじゃないですか。ほら、カズマも手伝って下さい」
「俺もかよ!?」
めぐみんは恥ずかしそうにしながら、カズマさんに手伝うように言ってた。というか恩ってなんだろう?特に思い当たることがないのだけど………
考えても仕方ない。作業が終わってから改めてめぐみんに聞いてみるか
「そういえば、演劇ってどこでやるんだ?」
「どこって、孤児院じゃないですか?」
「いや、孤児院にこんな大きなもの入るのか?」
カズマさんの発言を聞いて僕らはしばらく黙り込んだ。そういえば作っておいて何だけど、こんな大きなもの入るのかな?
「どこでやろうか?」
ひなたSIDE
友奈さんがいなくなってから一週間が過ぎた。海くんは特に変わった様子もなくクリスさんに頼まれた演劇の準備をしていた。
「特に気にすることはないんじゃないのか?あいつは昔に比べて成長したんだから」
「そうだけど………」
私はあることが気になっていた。それは以前あの仮面の悪魔が言っていた海くんがいずれ世界を滅ぼすという未来を……
「ねぇ、若葉ちゃん。少し付き合ってもらえないかな?」
「何処に行くんだ?」
「あの仮面の悪魔に会いに……」
私は若葉ちゃんと一緒にウィズさんのお店に行くと、バニルが待っていたとばかりに出迎えた。
「来たみたいだな。つい最近また歳を重ねた巫女よ!」
「………私達が来ることは分かっていたみたいね。それなら話が早いわ。仮面の悪魔……あなたが言っていた未来は……」
もしも今回の友奈さんの帰還が、この仮面の悪魔が言っていた未来に繋がっているとしたら………
「ふははははははは、どうやら気がついたみたいだな。それならば我輩から言う必要はないであろう!巫女よ!貴様が思っているとおりだ」
やっぱり………だとしたらこの先海くんが世界を滅ぼしかねない何かを起こすというの……
「変える方法は……」
「簡単なことだ。巫女よ!あの小僧を殺してしまえば世界は滅びん!!」
なんて単純で、なんて残酷な事を言うのだろうかこの悪魔は……
「その悪感情は中々なものだ。褒美に一つ教えてやろう。貴様らが出来ることは先程言ったあの小僧を殺すことだけだ。他に方法はあるが、貴様達ではそれは無理だな」
仮面の悪魔との話が終わり、帰り道のことだった。若葉ちゃんは私にあることを呟いた。
「あいつは本当にこのままでいいのか?」
「このままでって?」
「あの仮面の悪魔が言うように世界を滅ぼしかねないということだ。本当に私たちに止める方法があるとしたら………」
「…………お願い。それ以上は何も言わないで………」
私は涙をこらえながら、若葉ちゃんに笑顔を見せた。
「私達にはそんな方法しかないけど、もしかしたらあの人達なら……」
私は海くんと一緒にいるあの人たちのことを思い浮かべていた。きっとあの人達ならそんな未来になっても……止めてくれるはずだから………
「ひなた………」
「それにもし駄目だったら……その時は海くんは………私が殺します」
子孫が過ちを犯そうとしているのならばそれを止めるのは先祖である私の役目。きっと色んな人に恨まれるだろうな………
「ひなた………」
「………海くんは忘れてるのかな?あの時言ってくれたことを……」
あの時、神樹様が作り出した世界で言ってくれたあの言葉を……
私はあの時海くんが言ってくれた言葉がすごく嬉しかった。もしもあの時私が小さなサイズではなく今のこのサイズだったら思いっきり抱きしめていたんだろうか?それに若葉ちゃんは私が海くんを殺すって言った瞬間、とても悲しそうな顔をしてくれたけど、大丈夫だよ。もしもの時は罪を背負うのは私だけだから……
海SIDE
屋敷に戻り、僕らは演劇をやる場所をどこにするか話し合っていた。
「それにしてもまさか演劇をやる場所考えずに大道具を作っていたのか。海はしっかりそこら辺考えていると思っていたんだが……」
「いや、帰ってくるまでには作り上げようと頑張ってたから………」
やる場所までは考えてなかった。ダクネスさんには大道具を見せたけど、大きすぎて孤児院の中に入らないみたいだし……外でやるという手も考えたけど、雨が降ったときのことを考えたら、やっぱり中のほうがいい。でも場所が……
「ねぇねぇ、演劇をやる場所を探してるのよね」
するとゼル帝を可愛がるのに忙しかったアクアさんがある提案をしてきた。
「せっかくやるんだから、あそこでやらない?アクシズ教の教会で」
物凄いドヤ顔で言ってるけど、大丈夫なのか?
「アクア、それは止めたほうがいいのでは?クリスが言っている孤児院はエリス教の孤児院ですよ。それにあそこにはセシリーがいます。あの人、幼い子が好きみたいで……」
「それは本当にやばいな。下手すれば演劇どころじゃなくなるな」
「何でよ!?大丈夫よ。セシリーなら私の方で言っておけば………」
「ウミ、私の方でエリス教の教会に伝えておく。理由が理由だからきっと大丈夫だろう」
「ありがとうございます。ダクネスさん」
「なんでよぉぉぉぉぉーーーーー!!?」
アクアさんの叫びが屋敷内に響く中、友海と牡丹の二人が出かける準備をしているのに気がついた。
「どこか行くのか?」
「あっ、パパ。園子お姉ちゃんと須美お姉ちゃんと一緒にクエストに行ってくるね」
「そっか、気をつけろ。牡丹、友海のこと頼んだぞ」
「はい、分かりました」
僕らは友海と牡丹を見送ろうとした時だった。突然友海がなにもない所でころんだ
「友海!?大丈夫か?」
「いたた、うん、大丈夫だよ。何だか急に足に力が………」
友海の足を見て、怪我がないかと確認しようとした瞬間、その場にいた全員が驚いていた。
「えっ?何で……?」
「おい、何だよこれ………」
「あ、足が……それに牡丹も手が……」
「アクア!!」
「ちょっと待ってなさい」
「これは………うっ」
「パパ……私たち……」
友海と牡丹の二人は突然苦しみだし、そのまま倒れ込んでしまった。二人の体は所々すけ始めている。これは一体何が起きているんだ?
「この子達は病気じゃないわ」
「おい、それって……」
「どうしてこんな事が……」
「友海、お前を助けるからな」
次回『選択した決断』
「小僧、貴様が選んだ未来。どうなるかは楽しみにしておくぞ」