この素晴らしい勇者に祝福を!   作:水甲

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101 反撃開始

ウォルバクさんと遭遇してから翌日のこと、あの時アクアさんが出した大量の水のせいで、崩壊寸前の外壁が更にダメージを受けてしまったため、アクアさんは壁の補修作業に参加することになった。

更にゆんゆんは思い詰めた表情をして部屋にこもっている。牡丹と須美の二人はそんなゆんゆんが心配で声をかけ続けていた。

そしてめぐみんもまた様子がおかしかった。

 

「お願いします。今日は大丈夫ですからやらしてください」

 

「いやでも、昨日のお前は本当におかしかったぞ?一体何があったんだ?」

 

「それは……その……」

 

ウォルバクさんと出会ってから、何だかめぐみんも思い詰めていた。本当に何かあったのか?

 

「なぁ、ウミ。ちょっと気になったんだけど、ウォルバクの奴、バーテックスを使ってないみたいなんだ」

 

カズマさんが気になっていたであることは僕も気になっていた。今までハンスやシルビアはバーテックスを兵士の代わりに使っていたはずだった。なのに今回はその姿形すら見ていない。一体どういうことなんだ?

 

「私の方も砦の隊長に確認してきたが、バーテックスを使ってくる様子はないみたいだ。もしかすると温存している可能性があるかもしれないな」

 

もしくは使う必要がなかったりするんじゃないのかな?それほどまでにこの砦を攻略できるという余裕のあらわれかもしれない

 

「まぁ、作戦については後で考えようぜ。今はゆっくり……」

 

カズマさんが何かを言いかけた瞬間、轟音が響いてきて、砦の中が激しく揺れた。僕とカズマさんとめぐみんの三人で外を見に行くが、すでにウォルバクさんの姿はなかった。

 

「厄介な手を使ってるな」

 

「えぇ、爆裂魔法を撃って、テレポートで帰還する……本当に厄介です」

 

めぐみんがそう呟いた。このままじゃ本当に落とされかねない。その前に何かしらの手を打たないと……

 

「あーっ!ちょっと、これはどういう事よ!さっき見たときよりもひどくなってるじゃない」

 

突然聞き覚えのある声が聞こえてきて、振り向くとそこには作業着姿に頭にタオルを巻いたアクアさんがいた。

 

「アクア、随分と懐かしい格好をしてるな」

 

懐かしい?僕が会ったときっていつもの格好だったし、あの作業着姿は見た時ないな。

 

「ねぇ、カズマさん。懐かしいって?」

 

「そういえばお前と会う前だったな。クエストを受ける前とかはバイトで食いつないでいたんだよ。俺の特典ってアクアだからすぐにクエストとかに行けなかったしな」

 

カズマさんは遠い目をしながらそんな事を言っていた。本当に色々と大変だったみたいだな。

すると今度は歌野さんがアクアさんと同じ格好をして出てきた。

 

「……歌野さんもですか?農業と関係ないと思うけど……」

 

「海くん、確かに農業と壁の補修は関係ないけどね。こういう作業は前にもやったことがあるからお手のもんさ」

 

「私達もゆんゆんちゃんと会う前はクエストとバイトの繰り返していたから……」

 

「さぁ、ウタノ、見せてみなさい。貴方の腕を」

 

「任せて!!」

 

とりあえず僕らは壁の補修作業を手伝いながらアクアさんと歌野さんの作業を見ていると、さっきまで崩壊寸前だった壁がアクアさんと歌野さんの作業を行った所だけすごくきれいになっていた。

 

「ウタノ、やるわね」

 

「いやいや、アクアさんこそ、水の女神だけあって乾かすの早いね。これは負けてられない」

 

二人がはりきって作業を進めたおかげで、ボロボロだった外壁が見違えるほどまで直ってきた

 

「ねぇ、カズマさん」

 

「あぁ、これはいけるな」

 

それからというものアクアさんと歌野さんのおかげで爆裂魔法を放たれても、直ぐ様補修し、さらには以前よりも頑強な外壁が出来ていた。その結果もあり、補給物資や援軍も送られてきて、最初この砦を訪れた時みたいな悲壮感はなく、もう戦勝ムードになっているほどだった。

 

そんな中、兵士の一人がウォルバクさんが来たとの声が聞こえてきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事なの!?」

 

正門の前に佇み、プルプルと体を震わせているウォルバクさんがいた。この中で唯一言葉をかわしたカズマさんと僕の二人が皆に見守られながら声をかけた。

 

「ど、どういう事とは?」

 

「もしかして外壁のことですか?」

 

「そうよ!崩壊寸前まで追い込んだはずなのに、何で私が来る前より頑強になってるのよ」

 

「それは……」

 

「アクアとウタノに言ってもらわないと……」

 

「またあの女の仕業なの!?」

 

ウォルバクさんは後ろにいるアクアさんの事を見ると、アクアさんは余裕ぶった態度で前に出てきた。

 

「あらあら、誰かと思えば………えっと何とかさんじゃないの」

 

「ウォルバクよ!どうやら貴方とはここで決着を着けないと……ってあれ?」

 

ウォルバクさんは遅れて出てきたダクネスさんとちょむすけを抱いためぐみんとゆんゆんに気がつき、動きを止めていた。と言うよりちょむすけの事を見ていないか?ちょむすけもウォルバクさんのことをじっと見つめていた。

 

「何でこの子がここに……まさか……私の半身に会えるなんてね……」

 

ウォルバクさんは懐かしむようにゆっくりと近づこうとするが、後ろにいた冒険者たちが身構えたため、それ以上は近づこうとしなかった。

 

「ちょむすけがあんたの半身?通りで神格が低いと思ったわ。どうやらあんたの力の大半はこの子に持ってかれているみたいね」

 

アクアさんがウォルバクさんとちょむすけを交互に見ながらそう告げた。というか本当にちょむすけは邪神だったのか

 

「そこの女神の言うとおりよ。その子は…………ちょっと待って、なんて言った?その子の名前?」

 

「ちょむすけです。素敵格好良い名前です」

 

「えぇ、最初はへんてこな名前だと思ってたんだけど、中々愛着が湧いていい名前よね」

 

「何で私の半身がそんな目にあってるのよ!!」

 

ウォルバクさんが分けわからないと言わんばかりに叫ぶ中、ちょむすけはめぐみんの腕の中から抜け出そうとし、ウォルバクさんに近寄ろうとしていた。

 

「おい、絶対に渡すんじゃねぇぞ!めぐみん、しっかり抑えとけ」

 

「ちょっと折角の感動の再開を邪魔する気!?」

 

「ちょむすけをどうするつもりかしらないが、なら、俺達と敵対しないと誓えるのか?そしてもうこの砦のことを諦められるのか?そうでなきゃ相手が力を増すようなことは見過ごせるわけ無いだろ。おっと、近づくなよ。こいつを解放してほしければ俺のいうことを聞くと誓うんだ。仮にも邪神ていうのなら、その自分の名前に懸けて、もう敵対しませんと誓ってもらおうか」

 

『うわぁ……』

 

僕以外の全員がドン引きしていた。カズマさんは悪辣な笑みを浮かべていた。カズマさんってこういう時、輝いて見えるのが不思議なくらいだ。

 

「……今日のところは引くけど、あまり調子に乗らないことね。外壁を破壊できないけど、膠着状態に陥っただけ、私たちはこの砦がある限り、これ以上は進行できない。でも、あなた達も森の中に陣取る私達に勝つことは難しいでしょう。こうなった以上、持久戦よ」

 

ウォルバクさんがそう言って、テレポートで去ろうとしたその時だった。

 

「あ、あの、私のこと覚えていますか?ゆ、ゆんゆんっていうのですけど……」

 

ずっと様子をうかがっていたゆんゆんがそんなことを言い出していた。もしかしてゆんゆんもウォルバクさんの事知っていたのか?

 

「……覚えているわ。確か、馬車の中で一緒に旅をしないって誘った子ね。一応聞くけどあなたのその名前もあだ名じゃないのよね」

 

「はい、本名です。あの時のことを私覚えています。たまに日記を読み返したりしているので……」

 

「そ、そう、そんな重く捉えなくていいのだけど……見る限り一緒に旅をしてくれる子、出来たみたいね」

 

ウォルバクさんは歌野さんと水都さんのことを見つめながらそう告げていた。その時の表情はどこか優しげであった。すると今度はめぐみんが前に出て、

 

「あの!私の事覚えていますか?めぐみんといって……」

 

「………覚えてないわ」

 

ウォルバクは困ったような微笑を浮かべながら、テレポートで消え去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砦の中に戻り、カズマさんがある作戦を立てた。それはウォルバクさんが行ったことをこっちでもやろうということだ。膠着状態に陥ったのであれば、今反撃するのが絶好のチャンスみたいだ。とりあえずその作戦参加者は潜伏スキルを扱えるカズマさん、テレポートを使えるゆんゆん、爆裂魔法を使えるめぐみん、その三人の護衛をするために僕と友奈が選ばれた。友海も行きたがっていたが、作戦後に襲ってくるであろう魔王軍をすぐに殲滅できるように砦に待機を命じられて少し残念そうだった。

 

さてここから反撃開始だ。

 

 

 


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