窮屈な二度目の人生過ごしてます   作:海野

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第五話 蓮

 とうとうやってきた椚ヶ丘中学校入学式。

 体育館で長々と校長の話を聞いた後、新入生代表挨拶が行われた。代表は誰かと?そんなの聞くまででもないだろう……私だ。

 座っていたパイプ椅子から立ち上がり、直角に曲がり、マイクの前に立ち、喋る。長い文を読み終えると、一礼して席に戻った。そして、最後に理事長の挨拶だ。彼の言う事は全て綺麗事だ。これから始まる洗脳教育は絶対に受けたくないな。

 

「新入生は、児童玄関前に張られたクラスを見て、自分のクラスに移動してください」

 

 私のクラスは、A組だ。

 この椚ヶ丘中学校には成績の良い方からA、B、C、Dと並ぶ。一、二年生はD組までだが、三年生にはもう一つクラスがある。それが、E組。通称、エンドのE組。成績が悪化した生徒、校則違反者は特別強化クラスに入る事となるが、それは名ばかりだ。その実態は“差別”一部の生徒を差別する事で、E組のようにはなりたくないと、優越感と緊張感を持たせ、学業に効率化させるのが狙いだ。

 私の正直な気持ちを言うと、差別をする奴らは馬鹿だと思う。そいつらの方が頭悪いんじゃないの?って言いたくなる。それに、どれだけ成績が良くたって、それじゃあ人間性疑うよねって話。

 そんな事を思いながら教室に入ると、ダサい髪型をした男がやってきた。

 

「君が浅野学さんだね。僕の名前は、榊原蓮と言う」

「あっ、そう」

 

 彼の自己紹介に私は素っ気なく答え、席に座った。

 榊原蓮、彼のようなタイプは嫌いだ。あっ、前原君は別に嫌いでは無いよ。バレンタインの話は良かったね。さりげなく告白してるよね。キュンキュンするよね!

 

「理事長の一人娘かー小さい頃から教育を受けているんだろ?羨ましいよ」

 

 理事長の一人娘。そう聞いて私は腹が立った。とても、とても。彼を睨んでいた。その言葉を取り消せと。

 

「す、すまない。そう呼ばれるのは好きではないんだ」

「そ、そうかい。それはすまなかった」

 

 自分が何をしているか気付き、彼に謝った。

 あんな肩書きは嫌いだ。

 

 

 

 担任は簡単にこれからの事を話して終わった。この学校は授業第一だ。友達紹介は授業内ではやらないんだろう。まぁ、最近の中学生はコミニケーション能力が高い。一ヶ月も経てば仲良しになっている事だろう。

 私は、鞄を肩にかけ、教室を出ようとすると、榊原がまた話しかけてきた。腹立つ。この男、回し蹴りをしてやろか。

 

「君の事を何と呼べばいいかな?」

「何でもいい」

「じゃあ、学さんと呼ぶよ。僕の事は気軽に蓮と読んでくれ」

「はいはい」

 

 全く相手にしていないが、彼は色んな事を喋り出す。そろそろ一人になって本を読みたい。丁度いい所なんだ。主人公が犯人を暴くシーン。読みながら犯人を探していたが、本当に合っているのか確かめたいのにこいつは……。

 

「私、こっちだから」

 

 早歩きで榊原から離れる。

 

「学さん、また明日!」

 

 大きな声で言う榊原。

 

「……ああ、また明日。“蓮”」

 

 私は彼の名を呼ぶと、手を挙げ、振り返した。


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