とうとうやってきた椚ヶ丘中学校入学式。
体育館で長々と校長の話を聞いた後、新入生代表挨拶が行われた。代表は誰かと?そんなの聞くまででもないだろう……私だ。
座っていたパイプ椅子から立ち上がり、直角に曲がり、マイクの前に立ち、喋る。長い文を読み終えると、一礼して席に戻った。そして、最後に理事長の挨拶だ。彼の言う事は全て綺麗事だ。これから始まる洗脳教育は絶対に受けたくないな。
「新入生は、児童玄関前に張られたクラスを見て、自分のクラスに移動してください」
私のクラスは、A組だ。
この椚ヶ丘中学校には成績の良い方からA、B、C、Dと並ぶ。一、二年生はD組までだが、三年生にはもう一つクラスがある。それが、E組。通称、エンドのE組。成績が悪化した生徒、校則違反者は特別強化クラスに入る事となるが、それは名ばかりだ。その実態は“差別”一部の生徒を差別する事で、E組のようにはなりたくないと、優越感と緊張感を持たせ、学業に効率化させるのが狙いだ。
私の正直な気持ちを言うと、差別をする奴らは馬鹿だと思う。そいつらの方が頭悪いんじゃないの?って言いたくなる。それに、どれだけ成績が良くたって、それじゃあ人間性疑うよねって話。
そんな事を思いながら教室に入ると、ダサい髪型をした男がやってきた。
「君が浅野学さんだね。僕の名前は、榊原蓮と言う」
「あっ、そう」
彼の自己紹介に私は素っ気なく答え、席に座った。
榊原蓮、彼のようなタイプは嫌いだ。あっ、前原君は別に嫌いでは無いよ。バレンタインの話は良かったね。さりげなく告白してるよね。キュンキュンするよね!
「理事長の一人娘かー小さい頃から教育を受けているんだろ?羨ましいよ」
理事長の一人娘。そう聞いて私は腹が立った。とても、とても。彼を睨んでいた。その言葉を取り消せと。
「す、すまない。そう呼ばれるのは好きではないんだ」
「そ、そうかい。それはすまなかった」
自分が何をしているか気付き、彼に謝った。
あんな肩書きは嫌いだ。
担任は簡単にこれからの事を話して終わった。この学校は授業第一だ。友達紹介は授業内ではやらないんだろう。まぁ、最近の中学生はコミニケーション能力が高い。一ヶ月も経てば仲良しになっている事だろう。
私は、鞄を肩にかけ、教室を出ようとすると、榊原がまた話しかけてきた。腹立つ。この男、回し蹴りをしてやろか。
「君の事を何と呼べばいいかな?」
「何でもいい」
「じゃあ、学さんと呼ぶよ。僕の事は気軽に蓮と読んでくれ」
「はいはい」
全く相手にしていないが、彼は色んな事を喋り出す。そろそろ一人になって本を読みたい。丁度いい所なんだ。主人公が犯人を暴くシーン。読みながら犯人を探していたが、本当に合っているのか確かめたいのにこいつは……。
「私、こっちだから」
早歩きで榊原から離れる。
「学さん、また明日!」
大きな声で言う榊原。
「……ああ、また明日。“蓮”」
私は彼の名を呼ぶと、手を挙げ、振り返した。