窮屈な二度目の人生過ごしてます   作:海野

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第四話 赤髪の少年

 今日は、新刊の発売日だ。私が好きな作家が二年ぶりに新作出す!と、昨日にニュースでやっていた為、隣町まで着ていた。

 椚ヶ丘には、もちろんの事、本屋もある。だが、二年ぶりの新作というニュースを見たファン達が朝から並び、買っていたのだろう。学校帰りに寄ってみたら商品棚はすっからかんだ。明日に入荷すると言われても無理だ。今すぐに読みたいのだ。だからわざわざ隣町まで行くのだ。

 

「書店は、ここかな?」

 

 携帯のマップ通りに来ると、書店を見つけた。かなり大きな書店だ。こういう所は在庫を多く仕入れている。人気作家の新作となればあるだろう。

 商品棚の前まで来ると、そこには真ん中に一冊だけぽつんと残っている本があった。間違い無い、これが新作だ!

 私は本を手に取ると、カウンターまで行き、ほくほくとした気分でお金を支払い、店を出た。

 腕時計を見ると、時計の針は丁度三時を指していた。おやつの時間か。そこら辺の店で何かを食べてから帰ろうと思った。

 目的の店まで地図とにらめっこしながら歩いていると、ボキ、ゴキという音が聞こえてきた。音の大きさ的にかなり近くだろ。

 最初は怖かったが、少し興味もあった。

 人目がつかないこの路地だろう。私は、少し顔を出して、覗き込むように見た。そこには赤髪の少年と体の大きな男が数人居た。男達が赤髪の少年を虐めているのかと思ったが、そうではなかった。一瞬の出来事だった。少年が男達の不意を衝き、男を殴った。彼の小さな体はこの細い路地と相性が良いらしく、男達の間をスルっと抜け、男の急所に攻撃し、彼らは倒れた。

 

「凄い……」

 

 ただそう思った。

 

「何が凄いの?」

 

 聞かれていたとは思わず、縮こまる。男達のように暴力を振られるのだろうと思った。だが、衝撃は来なく、ゆっくり目を開くと、彼はズボンのポケットに手を突っ込み、パック型の飲み物を飲んでいた。

 

「暴力は振らないよ。アイツらが勝手に吹っかけてきただけだから」

「売り言葉に買い言葉って奴?でも、喧嘩って危なくない?怪我したら痛くない?」

「質問ばっかりだね。全然、俺強いもん」

 

 彼は輝いていた。自分の事を一番と信じているその目が。だが、その自信は無謀だ。その内壁にぶつかるだろう。

 私は痛い事、辛い事は嫌だ。そう思っている人の方が多いと思う。痛い事、辛い事と言うのは一番の現実だと思う。私は現実から逃げている。喧嘩なんて一生しないし、できない。怪我したら泣いてしまう。痛いから。私が感じた痛みとは比べ物にならないくらい痛い思いをした人は大勢居るだろう。でも、私はこけただけで泣いてしまう、辛い事……勉強から逃げてしまう。そんな自分が嫌だ。だから、彼みたいになりたいと思った。『自分は強いから』そう言ってみたいと思った。

 

「私の名前は、浅野学。どうやったら貴方みたいに強くなれるの……?」

「初対面でそれ聞く?」

「私は聞きたいと思った。喧嘩じゃなくて、内面で。どうしたら簡単に折れない心が持てるの?」

「さぁ、人それぞれじゃないかな。十人十色って言うでしょ?それと同じ。弱い人も居れば強い人も居る。そうしないとみんな同じで偏っちゃうんじゃない?」

 

 そうとは考えた事は無かった。

 父は、いつも私に言う。“強者であり続けなさい”と。強者になって何が得られると言うのだ。下僕か?財産か?そんなのどうでもいいだろう。

 私は“弱い者になりたい”弱者だからこそ強者から見えないものが見える。弱者だからこそ強者には得られないものが得られる。

 

「強くなくていいじゃん。弱かったら弱かったらでさ」

 

 それだけ言い残すと彼は行ってしまった。

 三年後の彼からでは信じられない発言だ。だけど、少し元気を貰った。私は逃げているんじゃない。立ち向かっているんだ。強者では無く、弱者になりたいと抗っているんだ。それがいつか父に認められるようになるまで。

 

「ありがとう。“赤羽業君”」


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