期末テスト当日。
A組の教室では私を除いて全員が殺意で溢れかえっていた。
吐き気がするくらい彼らは狂っていた。これが最善と言えるのだろうか。いや、違う。どんなに優れた殺し屋でもずっと殺気を出すなんて事はできない。彼らの持つ殺意は鈍らの刃だ。
一時間目は英語。
担当の先生の合図で全員が問題用紙を裏返し、ペンを手に取る。
ザッと問題を眺めたが、問題の数が多すぎる。長文問題も多い。これを五十分で解けというのはかなり難しい。だが、止まっていられる時間はない。早く問題を読み、誤字がないように正確に単語を並べていく。
手を止めることなく、書き続け、全ての問題が解き終わった。残り十分くらいだ。あとは見直しと自己採点で終わりだ。
テスト終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「ふぅ……」
テスト終了十分前に終わらせられたのはよかった。自己採点は一応満点だったが、実際のところは分からない。
一息ついて、十五分後にテスト開始。次は社会。地理と歴史、公民のごちゃまぜテストだ。これはかなり手こずるかもしれない。前世では社会は得意科目だった。自信はある。
理科、国語と続いていき、最後は数学。
これで全てが決まる。
ラスト前の問題まではいい。ここまでできたら次は見直しだ。最終問題を除いた問題は全問正解。そして、最終問題は式の途中で時間オーバーこれが私の筋書きだ。
よし、ここまでの問題は自己採点で全問正解。後は、この問題の長い式をタラタラと書くだけだ。
この問題が最後。この問題が最後。
時計の秒針がカチ、カチと動いていく音が聞こえる。あと五分ほどで試験終了だ。
「そこまで!」
先生の合図でペンを止めた。
一番後ろの席の人が解答用紙を回収して、全ての教科のテストが終わった。
休み明けの月曜日、各教科の先生からテストが返却された。
私の場合、国語、英語、理科、社会は百点だ。最後の数学で全てが決まる……と言いたい所だが、結果は知っている。私は意図的に最後の問題を解かなかったからだ。
数学科のテストは九十七点。総合点数は、四九七点だった。
学年順位が発表された。学年トップは赤羽カルマ、トップ50のほとんどはE組が独占していた。
「君達の勉強じゃ勝てなかった。それだけの事だ」
五英傑の四人は五番以内から外されていた。
「私が導く。だから君達も……私を支えてくれ」
すると、背後から寒気が襲った。いままで感じたことない嫌気だ。
私はE組の皆にはああ言った。
__時として敗北は、人の目を覚まさせる。だからどうか……正しい、敗北を。私の仲間に父親に。
だが、理事長はこんなもので終わらない。無理にでも勝利を掴もうとどんな事でもやるだろう。生徒達がどうなろうとも__。
先に『敗北』という言葉を知った五英傑達が言うと、他の皆も一緒に頭を下げて言った。
「どうぞ、E組に落として下さい。そっちの方が、僕達は成長できる気がします」
私は皆を代表して、言葉をまとめようと口を開いて、言葉を出そうとした時、一瞬の事だった。頬に痛みが走り、投げ飛ばされるように机の方に転がった。
理事長は何をしたのか分かっていないようだった。
唇と鼻の血管が切れ、血が出ていた。それを袖で擦るように振り払う。
「やっと、父親らしい貴方を見られた気がする」
蓮が肩を貸してくれた。
私は皆に連れられ、保健室へ向かった。その間、理事長が何を考えていたなど私が知る由も無い。