窮屈な二度目の人生過ごしてます   作:海野

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第二十六話 本気で

 中学校生活最後の行事は文化祭だ。

 椚ヶ丘中学校の文化祭は規模が大きいものでこの先の就職にも関わってくるほどだ。

 今日は有名の飲食店にスポンサー契約をしに行くのだ。

 

「椚ヶ丘の学園祭は全国的に有名だし、我が社の商品を使ってもらえば宣伝効果にも抜群だ」

「ありがとうございます」

 

 正直、こういうのは固いから嫌なんだけどなぁ。まぁ、これで飲み物と軽食はタダで提供してくれるからいいんだけどさ。

 A組の店はイベントカフェだ。父の伝手で知り合った友人のアイドルやお笑い芸人も無償で参加してくれるとの事だ。

 あかりちゃんは私の事を知っているんだろう。気を使っているのか、それともE組の皆にばれたくないのか話しかけてこない。恐らく、後者の方だろう。

 今も彼女とは連絡を取り合っている。もちろん、雪村あかりとしてだ。私はメールで学園祭の事を書いた。

 

『今度、うちの学校で学園祭がやるんだ。時間があったら来てね』

 

 数分後、短いメッセージが届いた。

 

『うん、分かった!楽しみにしているね!』

 

 彼女が真実を知った後、彼女は私にも話してくれるだろうか?

 

 

 文化祭当日。

 開始早々、A組の出店に多くの人が入って来た。

 うちの店は一回入場五百円。客席を半分に区切り、片方のステージが終わったら、仕切りを閉じて客を出す。すぐさま反対のステージで次が始まる。このステージで私もショーを披露する予定だ。

 ステージの裏に行き、ギターを確認する。ギターも格好いいが、私はピアノ派だ。

 

「じゃあ、二、三曲弾いてくるからその間に準備しておいてくれ」

 

 前世の私は女子にしては手が大きかった。小学生の時に男子に手がでかいと言われて初めて気付いたくらいだ。だが、今はそうでもない。ピアノのオクターブを弾く時はギリギリ届くぐらいだ。それに比べ、ギターは手が大きいとか短いとかそこまで左右されないからいい。練習すれば指もなれるからだ。

 三曲弾いたところで、ギターやドラムを用意した五英傑達も出てきた。ここからが本番だ。

 一日目はかなり良い滑り出しだった。

 二日目は一日目に出たアイドルではなく、他のアイドル達に出てもらい、売上を上げた。結果、三年A組は高校の三年生を差し置いて一位になった。そして、E組の彼らはというと、上位三位だ。

 文化祭が終わった後、あかりちゃんからメールが来た。

 

『文化祭凄かったね!学ちゃんのクラスも見たよ』

 

 文末にはいいねスタンプが押されていた。

 その後、私達五英傑は理事長室に呼ばれた。

 

「私達は努力の全てをつぎ込みました。勝利に満足しています」

「ほう……だいぶ接戦だったようだが」

「それだけE組に戦略があったという事。圧倒的大差をつけるのはほぼ無理かと」

 

 彼らは第二の刃を鍛え、そして失敗を学んだ。新たな敵と戦った。彼らは成長した。そんな彼らに大差をつけるのは難しいことだ。だが、この理事長は違った。

 

「相手は飲食店だ。悪い噂を広めるのは簡単だし、食中毒なら命取りに出来る。君は害する努力を怠ったんだ」

 

 この理事長はどうやら、どこまでも自分の教育を貫きたいらしい。その為にはE組を生贄にしなければならないと。

 

「強敵や手し……いや、仲間との縁に恵まれたからこそ強くなった」

 

 手下と言いかけたのは許してほしい。

 

「弱い敵に勝ったところで強者にはなれない。それが私の結論であり、それは、貴方の教える道と違う」

 

 この結論は小さい子でも分かることだ。ゲーム初心者以下の知識だ。

 すると、理事長は全く目が笑っていない笑顔で言った。

 

「浅野さん、三分ほど席をはずしてくれないか。友達の四人と話がしたい。何、ちょっとした雑談だ」

 

 私は外に出る。

 皆には苦しい思いをさせてしまう。だが、仕方がないと言えば仕方がない事だ。しばらくの間、耐えてもらなければ……その為にも私も最後までやらなければならないと。

 三分が経った後、四人が出てきた。四人は殺意で溢れていた。

 

「何を、したんですか」

 

 強めの口調で私は理事長に言う。

 

「ちょっと憎悪を煽ってあげただけだよ。君の言う『縁』なんて……二言三言囁くだけ崩壊する」

 

 理事長も今回は本気なようだ。

 私にはこの人を倒す事はできない。私が倒しても意味がない。だから、彼らに……E組に託すしかない。

 

 

 翌日の一時間目から理事長先生だ。

 理事長の教え方は確かに分かりやすい。いつもの数学教師よりだ。だが、速い。これでは誰もついてこれない。それをこの先生は限界を超えさせようとする。私にはとても理解できない。

 

「浅野さん、君は帰って自習でいい。皆を上に導くのは私がやっておくから」

 

 私は荷物をまとめ、教室を出た。

 E組に会うのは放課後が良いだろうと思い、一度家に帰った。

 

「学さん、今日は帰りが早いんですね」

「うん。ちょっとね」

 

 この時間帯は家政婦の佐々木さんが掃除をしている。

 部屋に行き、制服を脱いで部屋着に着替えた。

 参考書を広げて勉強を始めるのではなく、これからの流れを確かめるためにノートを開いた。

 最近は前に比べて記憶が穴だらけだ。それだけでなく、前世の事なのだが、友達や親の顔や名前が思い出せなくなった。親の名前はまだ憶えているが、漢字を書いてと言われたら書けないだろう。

 

「期末テストの数学の問題の答えだけ書いてある……」

 

 確か、とても難しい問題だったと言う事は憶えている。ちなみに答えはa³/2だ。

 今の学力で解けるかと言われたら分からないだろう。この問題は解いては駄目だ赤い鉛筆で大きく書かれていた。

 

 

 六時間目が始まる前の時間ぐらいに私は制服に着替え、学校に向かった。

 今年の十一月は寒い。私はマフラーに顔をうずめた。

 一時間経った頃に笑い声が聞こえてきた。E組だ。

 

「何か用かよ?」

 

 竹林君以外は死神の事件以来だ。そんな事もあって少し表情が固かった。

 

「君達に依頼がある。単刀直入に言う。()()怪物を君達に殺してほしい。もちろん、物理的に殺してほしいわけじゃない。殺してほしいのは、理事長の教育方針だ」

 

 竹林君に、渚君に言ってきた事。それがようやく果たされる。

 片岡メグさんが父親に振り向いて欲しいのではと言ってきた。そうだったのかもしれない。父に、認めて欲しかったのかもしれない。もう“親の顔”は思い出せないから。

 

「時として敗北は、人の目を覚まさせる。だからどうか……__正しい、敗北を。私の仲間に父親に」

 

 私は深く頭を下げた。今だけ、浅野学秀ではなく、浅野学として。

 

「え、他人の心配している場合?一位取るの君じゃなくて俺なんだけど」

 

 カルマ君は舌を出して挑発した。その後に磯貝が上手くまとめてくれた。

 

「余計な事、考えないでさ。本気で来なよ。それが一番楽しいよ」

 

 カルマ君は親指で首を切るようにして言った。

 

「面白い。ならば、私も本気でやらせてもらおうか」

 

 “本気で”

 残念ながら私は本気ではできなさそうだ。

 


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