窮屈な二度目の人生過ごしてます   作:海野

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第二十五話 幼い私

 目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。

 部屋の窓に太陽の光が入っていた。つまり朝。学校に行かないとなと思い、体を動かそうとするが、力が入らなかった。

 声も上手く出せない。寝ている時間が長かった所為だろうか。

 ドアが開いた。入って来たのは家にいるはずがない母だった。

 

「目を覚ましたのね。貴女のことだから学校のことを心配しているのかもしれないけど、今日は休むって連絡入れといておいたからゆっくり休みなさい」

 

 そうだ。私、死神に捕まっていたんだ。そして、死神のことを……本当の名前を思い出した。世間って狭いなぁ。こんなにも近くにいるものなんだと実感した。

 彼は、今頃悪い奴に目をつけられているのだろう。

 

「りんご、剥いたから置いておくわね。無理しないで良いからね」

 

 母は優しい。父は……どうなんだろうか。

 また眠たくなってきた。今日だけはいいだろう。私はそのまま意識を手放した。

 

 

 ああ、またここか。真っ暗なこの場所。私の目の前には幼い私。

 

「家族に心配かけたのね」

 

 その通りだ。母に迷惑をかけてしまった。前に帰って来た時に大切なプレゼンがあるから頑張ると張り切っていたのに。

 

「そうそう、貴女のお父さんも心配していたわよ。警察に連絡して、ずっとリビングで連絡を待っていたのよ」

「父さんが?ありえない」

「貴女がそう思い込んでいるだけじゃないの?」

 

 父とは親子での会話をしたことがない。するといえば勉強の話だけだ。成績、成績それだけだ。

 親子の会話といえば、友達のことを話したり、あれ欲しいってねだったりするんだろう。

 

「というか、私、そんな喋り方しないんだけど」

「いいじゃない。私はこっちの方がしっくりくるのよ」

 

 私としては違和感ありまくりだ。一応自分でもあるし……。

 

「それもあるんだけど、ここ、どこなの?真っ暗な場所……」

「さぁね、私にも分からないわ」

「分からないって、私の心の中とかそういうのじゃないの?」

「何その厨二設定。そんなわけないじゃない」

 

 厨二設定って……これ本当に私だよね?

 二次元ではよくある“心の中”それでもないのならここは一体どこなんだろう。

 

「そろそろ時間ね」

「時間って、どういう……」

 

 どんどん視界が狭くなっていく。幼い私が何か言っていたが、聞こえなかった。

 

 

 次の日、学校に行くと同じクラスの子に心配された。別に仲が良い訳ではないのだが……。

 最近、E組といろいろあったが、もう十月。中学三年生の私達にはやるべき事がある。それは、進路だ。

 本校舎の生徒の大半はそのまま高校に進む。大半と言っても、この椚ヶ丘中学校は全国でも有名な私立中学だ。そこからエスカレーター式で行ける椚ヶ丘高校に行かない人はいないと言ってもいいだろう。

 私は紙に椚ヶ丘高校の項目に丸をつけた。

 

 

「どうぞ」

「ありがとうごさいます」

 

 私はいつもの店で紅茶を飲み、ケーキを食べていた。

 店の入り口のドアが開く音がした。客が来たようだ。その客はカウンター席の私の隣に座った。

 

「久しぶり、でもないかな?」

「そうだね。あの時は驚いたよ」

「ははっは、それは私もだよ。竹林君」

 

 彼と会うのは、死神に捕まった時だ。あの時の私は三年A組の浅野学としてだ。

 正直言うと、死神が私を攫った理由は分からない。私と彼が会ったのはもう四年くらい前だ。彼が死神を名乗るだけある。私が言ったのは“浅野学”という名前だけ。それだけでよく調べたものだ。

 学校に行った翌日、防衛省から説明があった。

 

「地球が爆破ですか……」

「信じられないかもしれないが、事実だ。君も見たと思うが、あの黄色いタコは月を破壊した本人だ。そして、E組の生徒達は四月から奴を殺すために暗殺をしている」

 

 知っていた話だ。驚いた反応を取ったが、自分でも少し不自然だったと思う。変に思われていなければいいのだが。

 防衛省からは口止め料として多くの札束が用意されたが、私は断った。

 

「私がそれを言っても何のメリットもありませんから。それに、薄々感じていました。父が何かを隠している事くらいは」

 

 その後、死神について知っている事を話した。それからは特に連絡はない。E組からもだ。私が心配しているのはそこではない。この後に死神が出てくる。しかもラスボスとしてE組の前に立ちはだかるのだ。私はこの物語で重要な部分に関わってしまった。この後の話に影響が出なければいいが。

 

 

 

 

 

 


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