窮屈な二度目の人生過ごしてます   作:海野

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 お久しぶりです。
 今回は少し長めです。


第二十四話 本物

 暗い。何も見えない。

 どこだろうと思い、ゴールの見えない道を歩いた。

 歩いていると、いつのまにか景色が変わった。そこは私の部屋だった。そして、勉強机に向き合って座っている少女は幼い頃の私だ。

 

「絵?」

 

 絵を描いているようだった。そう言えばよく描いていたなと思いだす。

 幼い私に私の姿は見えていないようだった。

 私は覗きこむように絵を見た。スケッチブックには物語に出てくるキャラクター達が描かれていた。E組の皆、暗殺者達、五英傑……できるだけ多くのキャラを描いているようだった。だが、その絵には不自然な点があった。

 

「私がいない……」

 

 私がいた場所には知らない少年が立っていた。いや、知っている。彼の名前は……。

 

「浅野、学秀……」

 

 その名を口にした途端、景色がどんどんと遠のいて行った。気が付くと目の前にはさっきの幼い私が立っていた。

 

「不自然何かじゃないよ。これが現実よ」

「現実……?何言って、私は……」

「貴女は、浅野学秀じゃないわ。貴女は、中島海里でしょ?あそこは貴女の場所じゃない」

 

 私はその先を聞きたくなくて耳を塞いだ。そんな事、無意味って分かっているのに。

 

「この世界に貴女の居場所は存在しないのよ」

 

 この場所から逃げたくて、その言葉が偽物だと信じたくて、私は走った。何も無い空間をただ走った。だが、その言葉は耳にこびりついて離れない。何度も何度言い聞かせるかのように私の頭の中で再生された。

 

「が……さ……!」

 

 誰かの声が聞こえた。

 私はその声に向かって走った。すると、光が見えてきた。光に近付いていくと声がクリアになっていった。

 暗い場所がどんどん光に包まれていく。眩しくて目を閉じた。

 

「学さん!」

 

 渚君の声で私は目が覚めた。

 頭が痛い。

 私のすぐ隣には鞄が置かれていた。無事で何よりだ。

 周りを見渡すと、E組の生徒たちと、もう一人、E組の担任の超生物、殺せんせーがいた。

 

「すいません、浅野さん。私達の事情に関係の無い貴女を巻き込んでしまった」

「いや、別に……それよりもこの状況を何とか打開する方が先です」

 

 冷静になれ。怯えてる暇なんてない。自分に言い聞かせて手の震えを止めようとする。

 正直怖い。手汗はゲームでラスボスと戦うよりびっしょりだ。

 落ち着いて深呼吸。

 私の腕には手を縛っていた何かの跡が残っている。殺せんせーが外してくれたのだろう。

 

「君達の事だ。もう策を思いついているんだろ?」

「あ、ああ。だが……」

 

 磯貝君が話すには、超体育着は迷彩効果に優れている為、壁の色に同化して隠れるらしい。殺せんせーは保護色になれるので大丈夫だが、もちろん、私はそんな事ができないため、できない。

 

「どうすりゃあ……」

 

 悩んだ結果、一応、染料を服にかけて、正確に見えない一番安全な場所に立ち、私の姿を隠せるように私の前に一人が立つという事になった。

 安全な場所というのは監視カメラの真下だ。そして、私の前に立っているのは、赤羽君である。

 女子は肩車の二段、三段目の上に乗ることになったため、女子では無理という事になり、体格のある男子は一段目で土台になることになった。そして、余ったと言うか、面白半分というか、そんな感じで赤羽君になってしまったのだ。配置を決めている時、何人かはニヤニヤしていたからだ。

 赤羽君はキャラクターの中でも一位二位を争う人気キャラで性格はともかく、顔は凄くイケメンだ。思わず下を向いてしまう。

 中央に置いた首輪が爆発した。死神を欺けたという事だ。

 しばらくすると、檻の先から水に何かが落ちる音が聞こえた。

 急がず、一人ずつ慎重に下りる。赤羽君は私の前からすぐにどいた。耳が少し赤かった。やはり彼も緊張することがあるんだ。私も心臓がまだバクバク鳴っている。

 死神と烏間先生の戦いを殺せんせーは実況したが、下手くそだった。

 殺せんせーは服からトマトジュースを取り出し、飲むと、一本の触手を檻の隙間を通した。恐らく、死神の技を偽造するんだろう。

 死神を倒した後、端末を持った烏間先生が檻の前で唸っていた。殺せんせーだけを閉じ込めて、殺せないか……とでも悩んでいるんだろう。

 無事、檻から出られた私達は気を失った死神を目の前にして立っていた。

 

「ああ……貴方だったのか」

 

 私はしゃがみ、死神の頬に手を当てる。

 どこかで気がついてもよかったはずだ。ヒントだってあった。

 

__誰かに見てもらえるだけでとても幸せな事じゃないのかな。

 

 彼はずっと言っていた。でも、私はそれに気付いてあげられていなかった。無責任な言葉を言ってしまったからだ。

 

「何が、私は貴方を見ていますだよ……何も、見えていないじゃないか」

 

 私は疲れていたのか、糸が切れるように横に倒れた。その時、温かい手が受け止めてくれた。

 あたたかい……。

 

 

 E組で起こった事件は解決し、英語教師であるビッチ先生も次の日から学校に来るそうだ。

 

「それにしても、死神が浅野さんを……」

「彼女には全て話さないとな」

 

 その学はカルマの腕の中で眠っていた。長い髪は解け、カルマの肩にかかっていた。

 彼女は怯えるどころか前を向き、どうすればいいか声に出していた。流石だなと納得する生徒が多かったが、一人を除いてはそうは思っていなかった。

 

「さて、浅野さんを家まで届けないといけませんね」

「せんせー、俺も連れていくよ」

 

 カルマは学を背負って、地下から抜け出した。

 

 

 街灯の明かりだけが暗い夜道を照らしていた。

 二人は無言だった。

 カルマは空に浮かんでいる三日月を見上げて言った。

 

「俺、実は浅野さんと前に会っているんだ。俺がまだ停学中の時」

 

 殺せんせーは何も言わず、相槌を打った。

 

「泣いてた。何で泣いてたか知らないけどさ、髪が、綺麗だなって思ったんだ。その時は誰か分からなかったけど、学校から帰っている時にまた会ったんだ。あの髪を憶えていたから。でも相手は知らないみたいだった。それに名前まで変えてさ」

 

 名前を変えた学の名前は諸星学といっていた。ご丁寧に浅野学とはよく間違えられると付け加えて。

 

「夏祭りの時も会ったんだ。諸星学で。気になったから聞いたんだ。ぶつかったのは君かなって。彼女は違うって言った。A組でリーダーとして生徒を率いている浅野学と、E組のことを悪く言わない諸星学とどっちが“本物”なのかなって」

 

 学はカルマの背中で寝息を立てていた。

 カルマの話を殺せんせーは黙って頷いていると浅野と書かれた表札の家の前に来た。インターホンを押すと学の母と思われる人と椚ヶ丘中の理事長である浅野學峯が出てきた。あの理事長も娘の行方が分からないことに慌てていたのか髪が乱れていた。

 

「すいません、浅野さんを巻き込んでしまってしまいました」

「そうですか……この話はまた後日、防衛省の方も交えて」

 

 はいと殺せんせーは言った。

 カルマは背負っていた学を下ろすと、学の母、結が学を抱きかかえ、泣いていた。

 

「赤羽君だね。娘のこと、ありがとう」

「いえ……」

 

 その時の顔は理事長では無く、一人の親として。

 二人は家族の時間を邪魔する訳にはいかないとそっと立ち去った。

 殺せんせーは駅の近くで別れ、カルマは家に帰る為、駅の改札を抜けた。

 ホームには一人の少年が立っていた。水色の髪をした少年だ。

 

「渚君、まだ帰ってなかったの?」

「ちょっと気になってさ」

 

 学のことだろうとカルマは考えた。

 渚と浅野学は知り合いのようだった。渚だけでなく、竹林もだ。死神が現れ、学の写真が映し出された時、一番最初に二人が声を出したからだ。

 電車が止まり、扉が開くと、二人は歩き出した。それから、一人が電車から降りるまで一言も話さなかった。

 




 

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