窮屈な二度目の人生過ごしてます   作:海野

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第二十二話 ウソつき

 またこの季節がやって来た。そう、体育祭だ。

 体育祭の前に、ある情報……ではなく、理事長から呼び出され、E組にまた違反をしている生徒がいるからどうにかしろと言われた。

 学校から少し離れた喫茶店に来た。

 

「おや、バイトしている生徒がいるぞ。いーけないんだなぁー磯貝君」

「これで二度目の重大校則違反、見損なったよ。磯貝君」

 

 磯貝悠馬。彼がE組に落とされた理由は、バイトだ。

 椚ヶ丘中学校ではバイトは校則違反と生徒手帳に書いてある。どんな理由があろうとも絶対に許してくれないのがここの理事長だ。

 

「浅野……この事は黙っててくれないかな。今月いっぱいで必要なお金は稼げるからさ」

「そうだね。私も出来ればチャンスをあげたい」

 

 平等じゃない。

 誰だって親を選べないように、産まれる場所だって、環境も選べない。

 もし、私が磯貝君と反対だったら……何か変わっていただろうか。

 

「では、条件を一つだそう。闘志を示せたら……今回の事は見なかった事にしよう」

 

 体育祭の棒倒しだ。

 だが、それは男子が出る種目だ。女子である私は出れないのだ。

 これ以外良い見せ場がないのだ。A組とE組の対決は他のクラスが見て、圧倒的な差でA組が勝ったと見せびらかしてこそ意味があるのだ。

 

「でも、男子の差は公平ではないからね。だから、君らが私達に挑戦状を叩きつけてきた事にすればいい。それもまた勇気ある行動として称賛される。体育祭、楽しみにしているよ」

 

 私は出れないからなぁ……でも私が欠けては今のE組には勝てないからね。ここは助っ人を呼ぶか。

 

 

 翌日の放課後。

 教室に五英傑と、昨日に呼んだ助っ人達が集まっていた。

 助っ人は外国人だ。

 アメリカ、フランス、韓国、ブラジルから呼んだ知り合いだ。全員十五歳だから違反ではない。こうでもしないとE組にすぐ負けちゃうだろうしね。接戦で負けたらいいくらだ。

 ここから演劇の時間だ。

 

「今回の棒倒しは棒を倒す事が目標じゃない。これを通してE組の皆に反省してほしいんだ」

 

 二年半続けてきたんだ。ここで終わりにさせない。壊れないように、レールを引こう。

 

 

 当日、調子は良いようだ。これなら総合優勝は確実だが、本音はそっちではない。E組との棒倒しだ。

 別に男子に生まれ変わりたかったわけではないが、簡単に倒れないかが心配だ。その保険として、少しだけ陣形を変えた。

 何年か前に棒倒しの話を憶えている範囲で全てノートに書きだしてよかった。E組の策が通じるように、私が棒を守っていなくても大丈夫なように……。

 少し線路変更しても良い。最後、結果が同じになればいいんだ。

 

「その事に気付くのが少し遅かったんだよね」

 

 竹林君の件だ。私が竹林君と深く関わってしまい、原作以上に私にとっては大切な友人になってしまった。だから私は理事長室に忍びこめるルートを手紙に書いて、下駄箱に入れた。結果、彼だけでなく、共犯()がいる事で少し線路変更してしまったが、原作通り、彼はE組に戻った。

 

「上手くやってくれよ……」

 

 E組は原作通りの動きでくる。だから陣形さえ憶えていたら再現するのは簡単だ。パソコンのシュミレーションで何パターンも挑戦し、接戦だったが、A組が負けるというシナリオを作りだした。

 今回はA組もE組も私のチェス盤の上だ。シナリオ通り動いてくれよ。

 少し、ヒヤヒヤする場面もあったが、棒倒しの勝者は、E組だった。私的にはとても満足な結果だ。だが、あの人は喜ばない。

 

「試合に負けては何の意味もない。君はリーダー失格だな」

 

 そうだ。私はリーダー失格……いや、私は誰かの上に立つ資格など持っていない。元々、リーダーという柄でもないし。

 

「そりゃ違うだろ。理事長サンよ」

 

 ケヴィンが弁解をしてくれているが、それ無効化だ。何故なら、この人は、“敗北”という言葉を何よりも理解しているからだ。

 理事長は大男四人をボコボコにしてしまった。

 

「ねぇ、浅野さん。負けたと言うのに君は……死ぬ()()()()悔しがってないのかな?」

 

 自分の父親が何よりも怖いと思っていた。だが、今までの怖さとは違う怖さだ。ふと、父親が化け物のように見えた。

 

 

 駆けつけた救護班に理事長室までと言う。

 児童玄関前にいたE組に話しかけられた。

 

「おい、浅野。二言は無いよな?磯貝のバイトの事は黙ってるって」

「私は、嘘は吐かない」

 

 そう吐き捨て、E組から離れた。

 蓮達が下を俯きながら歩いていた私に駆け寄って来た。どうやら慰めてくれているようだ。彼らだって悪い人では無い。だが、あの人の教育法は間違っている。

 

「今夜は皆で高級ディナーで打ち上げしようじゃないか」

「……すまない。私は抜けさせてもらう」

 

 私は自分の荷物を手に持ち、蓮達から逃げるように学校を出て行った。

 学校が見えなくなると、私は走り出した。家に着くと、階段を駆け上がり、自分の部屋に閉じこもった。

 

「はぁはぁ……」

 

 息が切れ、酸素を取り入れようとする。それと同時に目頭が熱かった。

 息が整うと、今度は何故か、笑いが止まらなかった。急に笑いは止まり、力が抜けたようにしゃがみこんだ。

 

「何が、嘘は吐かないだよ……」

 

 私は、ウソつきなのに。


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