窮屈な二度目の人生過ごしてます   作:海野

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第二十一話 パルプンテ

 二学期早々、私とE組にとっては最悪、A組いや、理事長にとっては嬉しい日だろう。

 

「今日から三年A組に一人、仲間が加わります。昨日まで彼はE組にいました。竹林孝太郎君です!」

 

 竹林君は用意された文章をそのまま読んだ。その文章はE組にとって最悪なもの。そして、偽物だ。

 竹林君の家の事情は知っている。親の鎖がとても痛いのは良く分かる。だから無理には言えない。だけど、それでいいのか……君は、家族の信頼を得るのと同時に大切な友達という繋がりを失ってしまうんだよ。

 

 

 次の日、竹林君は知るだろうね。A組の姿を。

 一時間目は数学だ。相変わらずこの先生の教え方は効率が悪すぎる。思わずため息を吐いてしまう。

 私はちらっと後ろの席の竹林君を見た。彼も呆然としているようだ。

 一日の授業が終わり、下校時刻となった。

 

「どうだい、竹林君。クラスにはなじんだ?」

「ま、まあ……」

 

 私は窓から外を見る。良い人達だ。A組に行ってしまった彼を心配して様子を見に来ている。あんなに良い友人はできないものだ。

 

「竹林君、君はこれでいいのか?」

「どういう事かな」

「……いや、何でも無い。理事長が呼んでいる。理事長室に行こう」

 

 竹林君、気付いてくれ。

 

 

 理事長室に入るが、今は留守のようだ。呼びだしておいてそれはないだろう。

 竹林君は理事長室を見渡していた。

 

「あっ、そこら辺の物に触れない方がいいよ」

 

 前に理事長の私物を壊して問答無用でE組送りにされた人がいたらしいからね。

 しばらくすると、理事長が笑顔で戻って来た。この笑顔はやっぱり苦手だ。

 明日はこの学校の創立記念日だ。創立記念日なら休みにしてくれないかと思うんだが。ああ、でもそうしたら夏休みか冬休みのどちらかが一日減ってしまう可能性があるから駄目だな。

 

「浅野さん、原稿はできているかな?」

「はい」

 

 私は先日、理事長に言われた通りの原稿を作った。自分で作って言うのも何だが、酷いものだ。ありもしない事を並べたデタラメな文章だ。

 

「君はまだ弱者を抜け切れていない。これはそのステップの儀式だよ。強者になるんだ。竹林君。強くなくてはご家族が見てくれないぞ」

 

 理事長の洗脳教育。私は何年も受けてきた。もちろん、実際に洗脳にかかった事は無い。

 

「やります……」

 

 竹林君と別れた後、私は下駄箱に行き、誰も見ていないか確認し、竹林君の下駄箱にそっと紙切れを忍ばせた。

 

 

 集会で竹林君が舞台に立った。

 私は舞台裏でそっと彼を見ていた。

 

「僕のやりたい事を聞いてください。僕のいたE組は、弱い人たちの集まりです。学力という強さがなかった為に本校舎の皆さんから差別待遇を受けています。でも僕はそんなE組が、メイド喫茶の次ぐらいに居心地良いです」

 

 私は口元が緩んだ。

 彼らしい答えだと。

 

「僕は嘘を吐いていました。強くなりたくて、認められたくて」

 

 自分に嘘を吐き続けたらもう戻れない。私だってそうだ。時々本音を言わないと心が折れそうになって、自分を見失いそうになる。

 

「でも、もうしばらく弱者でいい」

 

 そうだ。強者じゃなくていい。弱くていいんだ。絶対に折れない心と、大切な繋がりを持つ友人がいれば。

 竹林君は理事長の部屋からくすねてきた表彰盾を取り出し、木のナイフでそれを割った。

 

「浅野さんが言うには過去これと同じ事をした生徒がいたとか。前例から合理的に考えれば、E組行きですね、僕も」

 

 竹林君は良い顔をして舞台から去った。

 すれ違いざま、私は竹林君に言った。

 

「君はとても良い選択をしたと思うよ」

「そう言う君こそ、わざわざ理事長の部屋に忍びこめるルートが書かれた紙を僕の下駄箱に入れておくなんてね」

「さぁ、何の事か」

 

 竹林君の騒動から数日が経った頃、私は竹林君に呼ばれた。その待ち合わせ場所はメイド喫茶白黒だ。

 

「魔法をかけまーす!どうなるか分からないよーパルプンテ!」

「お、お姉さん!ドラクエ知っているんですか!」

「もっちろんでーす!私は8が好きです!」

「そうですかー確かに8のストーリーはとてもよかった。まさか主人公が!でも私は7も好きですよ。何と言っても内容がいいです。過去の時代で起きる悲しい出来事が……」

 

 パルプンテをかけられたポテトを食べながらドラクエの話を膨らませていく。

 まさかドラクエ好きがいるとは……ドラクエを知っていてもやっている人が周りにいないからなぁ。

 ちなみにパルプンテは何が起こるか全く分からない呪文の事だ。

 それにしてもポテトの塩加減が上手い。これはパルプンテ成功だな。

 

「おっと、竹林君ごめんよ。ゆりりん、また今度ー!」

 

 さっきのお姉さんのあだ名はゆりりんと名札に書いてあった。やっぱりメイド喫茶はいいね。

 

「で、竹林君、わざわざ私を呼び出したのは前の事?」

「うん。君には助けられたからね」

「いやいや、私は何もしていないよ。それにしても美味いな。あのー!コーラお願いしまーす」

 

 すぐにコーラは届き、メイドさんと一緒に魔法をかけた。今日はついているようだ。また魔法が成功した。

 

「E組はどうだい?」

「ああ、楽しいよ」

 

 彼は親の信頼よりも友達の繋がりを選んだ。これ以上、大切なものはないだろう。

 本当、何が起きるか分からないね……。

 

 

 




 ドラクエネタぶっこみました。
 ドラクエをやった事がある人はパルプンテを一度は使った事があるのではないでしょうか。
 11、やりたい。でもお金がない事を私は知っている……。

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