いつの間にか小学三年生になっていた。幼稚園生の時に小三の問題集をやっていたのが昨日のようだ。
学校の話をするのもいいが、学校では授業、本を読む、授業、本を読むの繰り返しだ。友達というのを作るのがめんどくさいというのもあるが、家に帰ったらすぐに勉強をしないといけないので、放課後は遊べないのだ。だからと言って悲しいという訳でもない。むしろ最近は家が天国だ。いや、正確にいえば自分の部屋だ。
お金は自己管理、と言う事は欲しい物は何でも買っていいのだ。私が最初に買ったものはパソコンだ。もちろん、デスクトップだ。そして、二つ目に買ったものは小型冷蔵庫だ。ここには飲み物を入れる。リビングに下りた時、たまに父が居る事がある。私は父と顔を会わせたくないのだ。その為、下に行く回数を減らすために冷蔵庫、そして電気ケトルもあれば完璧だ。最後にこれはパソコンの次に重要な物だ。それは、テレビだ。私はアニメが大好きだ。だが、二年前まではテレビは下にしか無く、それにアニメを録画してはいけない。テレビが示す番組はいつもニュースだけだ。
「流石にニュースばっかりは無理だわ。死ぬ」
そう思った私は、すぐにテレビを買おうと決めた。だが、ここで色んな問題が出てくる。もし、父が私の部屋に入ってきたら?そこで録画一覧を見たらどうする?答えは没収だ。それは何としても阻止しなくてはならない。そこで私はある作戦を思いついた。まず、大量のDVDを購入。私が見ているのは深夜アニメだ。学校が終わったらすぐに帰宅し、アニメをDVDにダビングするのだ。父が家を出るのは私とほぼ同じ時刻。帰ってくるのは九時過ぎだ。DVDにダビングしたらすぐにアニメを消す。これでばれずに済む。
ん?ダビングしたDVDはどこに隠すのかって、それは私の洋服タンスの中だ。ニュース以外の番組を見る事にうるさいのは父だけだ。父が絶対に見れない場所に置いておけば万事解決という訳だ。
「我ながら良い作戦だと自負しているよ。さてと、早速新アニメを見ようかな」
アニメを見れる時間は父が帰ってくるまで。この時間を有効に使わなくては。
それにしても、このアニメの色遣いは良いな。異世界を舞台にしたストーリーだが、キャラの設定と共に悪くない……このアニメはこれからも見続けよう。
そんな調子でアニメを見ていると夕飯の時間になった。私はアニメを見るのを止め、下へ下りた。
この時間帯は父は居ないのでとても気分が良い。朝食を食べているだけで胃が痛くなってくるのだ。
リビングに行くと、いつもは仕事が忙しくて一緒にいる時間が少ない母が居た。
「お母さん、帰ってたんだ」
「言うのが遅れてごめんね」
母は父とは違い、親しみやすい。どうしたらこの二人が結婚したのか謎だ。幼い頃に母に聞いた話では高校で出会ったらしい。
「お父さんとは上手くいってる?」
「ぜんぜん」
「そっか、ごめんね。私が長く家に居られないから」
「そ、そんなこと無いよ!」
母は本当に優しい。会うたびに『ごめんね』と言ってくる。母が長く家を空けてしまうのも仕方が無い。母は海外の会社のデザイナーをしていて、ほとんどは海外だ。それは私が幼稚園に入学してからだ。
ずっと一人だった私の事を思ってか、よく手紙と服が送られてくる。勉強ばっかで女の子らしい事ができていないんじゃないかと思った母の配慮だ。まぁ、前世も言うほどお洒落はしていなかったが……。
「学は優しいね。私もできるだけ一緒にいれるようにするよ」
「うん、ありがとうお母さん」
この瞬間が何よりも嬉しいんだ。