窮屈な二度目の人生過ごしてます   作:海野

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第十九話 リストバンド

 テスト返却だ。これで全てが決まる。

 最初は英語。

 

「浅野、九十九点だ。おしかったな」

「ありがとうございます」

 

 うーん、いつものケアレスミスだ。直さないとなぁと思っているが、これがなかなかなのだ。

 九十九点、学年トップはE組の中村莉桜か。こっちの五英傑の英語さんは三位。

 次は国語。

 

「学年トップだ。よかったな」

 

 国語は百点。いやぁ、怖かった。国語の前の日なんて本の続きが気になりすぎてシリーズ物を全て読破してしまったからね。数学の次に得意な教科だったからよかったけど。

 次は社会。

 

「九十五点、二位か」

 

 これもケアレスミスだ。小テストだったら絶対に正解する所を間違えている。

 理科は二位。そして、数学はもちろん、百点で一位だ。

 

「3年A組浅野学さん、理事長先生がお呼びです。至急、理事長室へ来て下さい」

 

 くると思ったさ。E組に三つの教科のトップを取られたのだから。

 

「失礼します」

 

 この瞬間がとても嫌だ。

 絶対、この前の事で責めてくるんだろうなぁ。

 

「個人総合一位キープおめでとう……と言いたい所だが、なにやらE組と賭けをしていたそうじゃないか。そして、その賭けに君は負けた」

 

 別に私が吹っかけた訳じゃないのに……連帯責任という奴である。

 

「ありもしない私の秘密を暴こうとしたり……良く言えたものだね。同い年の賭けにも勝てない未熟者が」

 

 ありもしない、か。

 否定はしない。私は負けた。それが事実だからだ。

 手を握る力が強くなる。私は超人では無い。だから手を強く握ったって、血が出る事はない。だからこそ余計に腹が立ってくる。

 思い出した。私が中学生()()()頃の話だ。あの時の自分は平凡で、頭が良いのか悪いのかと言えば悪い方だ。テストの点数はいつも六十点か七十点。苦手な英語は四十点を取った事だってある。ちゃんと勉強しなかった自分が悪かったと後悔する。そんな悔しい思いをしてもなかなか変われないのが人間である。最近はなかったのに、中学三年生になってまた思い出してしまった。この心がぽっかりとあいた悔しさを。

 強く握りすぎた所為か掌に爪の跡が残っていた。

 

 

 三日後、期末テストの後はすぐに終業式だ。

 

「おお、やっと来たぜ。生徒会長サマがよ」

 

 何だかんだで、E組と顔を合わせるのは初めてだ。

 寺坂って初めて見た。生寺坂だよ。

 

「分かってる。賭けの話だろ?君達が望む物を手に入れられたんだからそれでいい」

 

 特別夏期講習、沖縄離陸リゾート二泊三日だっけ。

 彼らは暗殺しにいくんだろう。でも、その暗殺が最悪な結果になってしまう。ウィルスに感染してしまうはずだ。渚君か竹林君に何らかの形で忠告はできないだろうか……。

 

「えー……夏休みと言っても怠けずに……E組のようにならないよう」

 

 いつものE組いじりもウケが悪い。言った通りだ。次に後悔するのはお前らだって。

 教室に戻ると、自分たちから賭けの事を言いだした五英傑達は何故か開き直っていた。それの所為でクラスメイト達は怒っていた。

 

「うるさい。ちょっと黙っててくれないかな」

 

 物語通り動いているんだ。仕方がない。私がどれだけ勉強してもここで負けなければ、E組は変われないんだから。

 

 

 帰宅する前に渚君にメールを送る。

 二十日は過ぎてしまったが、彼の誕生日だ。時間があまりなくて渡せなかった。場所はいつものカフェだ。

 

「あっ、お帰りなさいませ、お嬢様!」

 

 彼女の名前は小川まこさん。ここでバイト中の大学生だ。

 

「マスター久しぶりです」

 

 ここの店に来るのは久しぶりだ。

 マスターはお辞儀をすると、ケーキを出してくれた。常連さんの好みは把握済みという訳だ。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様」

「えっ」

 

 渚君だ。最初の反応は皆これだ。

 私は渚君に手を振る。それに気付いた渚君は私の隣の席に座った。

 

「学さんもこういう所来るんだね……」

「うん。常連だから。マスターのケーキは美味しいよ。マスター、チーズケーキお願いします」

「承知しました」

 

 相変わらず、マスターは無口だ。

 

「学さん、僕に用って」

「そうそう、これを渡そうと思って」

 

 私が渚君に渡したのは綺麗に包装されたプレゼントだ。中身はリストバンド。男の子は何が欲しいのか分からなかった。竹林君ならアニメグッズだ。

 

「リストバンド!ありがとう、大切にするよ!」

「そう言ってもらえて嬉しいよ」

 

 森さんが入れてくれた紅茶を一口飲んだ。

 


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