いつもの場所、いつもの時間に雪村先生と話していた。話す内容はあまり変わらない。学校で何があったとか、美味しい物の話とかそんな感じだ。あかりちゃんとも上手くいっている事も話した。
「先生、その箱……」
「あっ、こ、これはですね……」
顔を真っ赤にして言う雪村先生を見て思わず笑ってしまった。
「プレゼントですか?」
「う、うん。気に入ってくれるか少し心配だけど、ね?」
そのプレゼントの中身はお世辞にも良いとは言えない大きなネクタイだ。プレゼントを受け取るその主もダサいと言っているのだから。そして、そのネクタイが最初で最後のプレゼントになるとは思わないだろう。
彼も、もう少し気付くのが早かったら……。
私にできる事はもう無い。やっぱり、無理だった。これ以上直すことはできなかった。やはり、逆らえないのだろうか。それが
「悲しそうな顔をしているね。何かあった?」
「いや、これからの事を思うと色々と……E組の生徒、どうですか?」
「全然、皆、下を向いてしまっているの。今の皆はE組だからって言うばかりで」
雪村先生は首を横に振って言った。
私に、彼の代わりができるのか少し不安になってきたのだ。
これまでに赤羽、竹林君、渚君、あかりちゃんそして雪村先生に関わった。その中で私の本当の目的を知るのは竹林君と渚君だけだ。まぁ、彼らに限って言いふらすことなどはしないだろうが……正直辛い。竹林君とはアニメやメイドの話で盛り上がった。渚君とは一緒に楽器吹いたり、勉強だってした。他にも色んな話をした。彼はソニックニンジャが好きだと言っていたな。
「教師の私が落ち込んでたら駄目だよね!こういう時は前を向かないと!」
バッと立ち上がって大きな声で雪村先生は自分に喝を入れた。
雪村先生の言う通りだ。私も落ち込んでいられない。私も、頑張らないと。残り一年、この一年は色んな事があるだろう。だが、私が前を向かなくては、A組は動かない。それはつまりE組が前を向く理由の一つが無くなると言う事だ。
「私も、頑張ります。やれる事はやります。雪村先生、ありがとうございました」
「ううん、私こそ。いつも話し相手になってくれてありがとう。それじゃあまたね」
「はい、“さようなら”」
私は、またとは言わなかった。自然と口から出てきてしまったのだ。さようならと。
帰り道、私は大きな雫を落としながら歩いていた。
赤髪の少年、この少年の名は赤羽業言う。業と書いて“カルマ”と呼ぶのだ。
彼は、学校で暴力事件を起こし、今は停学中だ。だが、ずっと家でゲームをしているのはつまらなく、久しぶりに家の外に出ていた。
この時間帯では、担任が家に訪れる。何度も来るのでインターホンで対応しているが、今日は珍しく来なかった。
自販機でイチゴ煮オレを買う。彼の好きな飲み物だ。実際はとても甘いらしい。
ストローをさし、一口飲みながら外の景色を見渡す。角を曲がると誰かとぶつかり、尻もちをつく。その反動でイチゴ煮オレは手元から離れ、地面に転がってしまった。まだ一口しか飲んでいないと言うのに。
それよりもだ。カルマは立ち上がり、ぶつかってしまった相手に声をかけた。
「大丈夫……っ!」
三つ編みでまとめられた髪が夕日によって照らされ、前髪で隠れていた目は風に揺らされて見えた。今にも零れ落ちそうな雫が瞳に溜まっていた。
カルマは動揺し、すぐに手をとり、立たせた。
「すいません……」
流れ落ちていく雫を手で擦って止めようとする。瞳の下は赤くなっていた。
少女はふとある一点を見つめるとカルマに深く頭を下げた。彼女が見ていたのは転がったイチゴ煮オレだろう。
「す、すいません!私とぶつかったからですよね……同じ物を」
「いいよ。理由は知らないけど、泣いている子にお金払わすような事はしないからさ。あと、目、あまり擦らない方が良いよ。じゃあね」
カルマは落ちていたイチゴ煮オレを拾うと、少女の前を去って行った。
少女のきていた制服は椚ヶ丘中学校の制服だ。先輩か、後輩かそれとも同級生か分からないが、また会いたいなと思い、近くにあったゴミ箱にイチゴ煮オレのパックを投げ捨てた。
カルマ君の台詞が少し迷子ですね。