窮屈な二度目の人生過ごしてます   作:海野

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第十二話 復讐なんて

 二月になり、どんどん時間は過ぎていく。私は焦っていた。

 私は思い切って今日、雪村先生の妹、雪村あかりちゃんに会ってみることにした。

 雪村先生があかりちゃんに私の事を話したらしく、すると、本人から会ってみたいとの事だった。丁度よかったので二つ返事で了解した。

 待ち合わせ場所は、私が決めていいと言われたのであそこの店にした。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「へっ?あ、あの……」

 

 この店にまさかメイドがいるとは知らずに来た人が慌てるのは普通だ。

 困っているあかりちゃんを見つけ、接客をしているメイドさんに言う。

 

「清水さん、その子は私と待ち合わせをしていた子なんだ」

「そうでしたか。それでは」

 

 清水さんが下がるとあかりちゃんは周りをきょろきょろしながら私の方へ来た。

 

「初めまして、浅野学って言います」

「あっ、どうも初めまして、雪村あかりです」

 

 どうぞと言うと、あかりちゃんは席に着いた。

 私はベルを鳴らし、注文をする。

 

「あかりちゃん、紅茶はいける?」

「は、はい」

「敬語じゃなくていいよ。同い年でしょ?」

「あっ、うん。分かったよ」

 

 敬語を外した方が可愛いなぁ。原作より表情が柔らかだ。これが演技をしていないあかりちゃんか。

 原作キャラとは結構接点持ち過ぎているよなぁ……まぁ、これは必要な事だし、しょうがないか。

 

「あかりちゃんってテレビ出てるんだよね?」

「まぁね。でも、今は休業中なんだ」

 

 確か、“磨瀬榛名”って名前だったか。彼女の出ていたドラマや映画は見た。凄い演技だ。天才子役と言われる意味が分かる。

 

「凄いよね。私だったらあんなことできないや」

「そ、そんなこと無いよ。ただ言われた事をやっているだけだもん」

「そうなんだ。あっ、お姉さんとはよく話したりするの?」

「うん。でも、最近は仕事が忙しくて会えていないけどね」

 

 研究室の方か。

 あかりちゃんの復讐は止められないだろう。だが、少しでも悲しみを減らすことができるのならば……。

 遠まわしであるが、やってみるか。

 

「あかりちゃんって本とか読む?」

「最近は少しかな。でも、難しい字が多くてさ……」

「確かにね。私が読んでいる本はふりがな付いてて読みやすくてさ」

「どんな話なの?」

 

 よし、ひっかかった。

 

「とても悲しい話。姉の仇を討つために周りに悟られないように演じて、自分の事を隠して復讐する話なんだ」

「演じて?」

「うん。その子はさ、たった一人の姉の為にある人を殺そうとするんだ。お姉さんはそんな事を望んでいないのに」

 

 お姉さんの__雪村先生の最後の望みは、E組の生徒に光を見せる事。それを死神に頼む訳だ。だが、あかりちゃんは死神が雪村先生を殺したと勘違いしてしまうんだ。

 復讐なんて誰も望まない。復讐をした所でその人が喜ぶ訳でも生き返る訳でもないのに……。

 

「その子は、どうなったの?」

「真実を言われたんだ。殺そうとした相手は実は姉の最後の頼みを叶えようとしていたんだ。君のお姉さんと約束したんだと。で、その子は演じる必要が無くなり、本当の自分で生きていくんだ。

 復讐なんて誰も望まないんだ。

 私だったらそんな事、絶対にしない。そんな事をしても死んでしまった人は生き返らないからね」

 

 絶対に……。

 その時、兄の遺影を抱えながら泣く母を思い出した。

 いじめた奴らを絶対に許しはしない。でも、復讐なんてあの正義感の強い兄が許すはずが無いし、兄もそんな事を望まない。兄はずっと耐えていた。なら、私も耐えよう。兄の死を受け入れ、生きていくことを。私は、そう思いながら母の背中をさすっていたんだ。

 それから色んな話をして別れた。もちろん、連絡先を交換してだ。

 もう時間が無い。あと一ヶ月……月が欠けるまで。


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