窮屈な二度目の人生過ごしてます   作:海野

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第十話 錆びたレール

 二年生の秋。体育際も終わり、中間テストが近付いていた。

 私は、二年になって少し忙しくなった。その所為で渚君の勉強を見れる時間が無くなってきていた。

 私は悩んでいた。私が彼を手伝えば、E組に行く事を阻止できる。だが、それは彼の為にはならない。彼はE組に行く事によって友達の事、勉強の事、家の事情の問題を解決できた。このままいけば彼はE組行きだろう。

 下校前に買った水を一口飲んだ。

 

「何しているんですか?」

 

 優しい声で話しかけられた。顔を上げると、目の前には女性が立っていた。確か、彼女の名は……。

 

「私の名前は、雪村あぐりって言います」

 

 この物語で重要な役割を持つ人物。彼女が死ぬ事が分かっているのにそれは止められないと思うと心苦しい。

 

「貴女は、浅野学さんですよね?」

「はい、そうですけど……」

「やっぱり!学校でよく名前を聞くので、どんな人かなと気になっていたんです」

 

 まぁ、生徒会だし、理事長の娘っていう肩書きがあるし、先生からは注目の的だし。

 

「お隣いいですか?」

「どうぞ」

 

 鞄をどけ、自分の隣を空けた。

 雪村先生は、E組の教師をしている先生だ。廊下では色んな本や、資料を抱えては走っている姿をよく見る。つまり、生徒の為に出来る事をしてあげたいという気持ちが分かる。それなのに本校舎の教師と言えばクソばっかりだ。

 

「雪村先生は、E組の教師なんですよね」

「はい。でも、教師って難しいですね。私の教え方じゃあ全然駄目で……」

「教え方はどうでもいいんです。誰かの為に教えてあげたいという気持ちが大切なんです。それが本当の教師というものなんです」

 

 本校舎の教師は、教科書に書かれた事を一時間ずっと喋っているだけだ。本当にそれだけ。それだけでなく、一部の生徒を蔑むなど言語道断。人間として最低だ。

 

「ふふっ。聞いてた感じとは違うんですね」

「よく言われます」

 

 竹林君と渚君にも言われた事だ。

 

「雪村先生、もし、この先の出来事を知っていると言ったらどうしますか?」

「えっ!?えーっと、残念じゃないかな……」

 

 残念?どういう事だろう。未来を知っていた方が得と考える人の方が多いと思うのに。

 

「だって、その先の事を知っていたら楽しみが減らないですか?」

 

 楽しみか……。

 雪村先生の言う事を分かりやすく言えば、地域ごとにアニメの放送時間は違う。自分の地域でやったアニメが他の地域では一話先にやっていたから気になって見るが、次の週にそのアニメがやった時、知っている内容だったからつまらなくなると言う事だ。

 

「確かにそうですね」

 

 他にも色んな事を話した。勉強の事、中学生の妹の事。

 

「あっ、そろそろ時間!柳沢さんに怒られちゃう!じゃあ、浅野さんまた!」

 

 時計を見ると、慌てて鞄を持って走り去って行った。

 そうか、もう秋なんだ。二人の分岐点が近くなってきた。

 三日月になるまで、もう六カ月しかないのか……。

 笑顔を見せながら色んな話をした雪村先生は居なくなってしまう。そう思うととても悲しい。何故、あんな優しい人が居なくなってしまうのだろう。

 物語は残酷だ。渚君や竹林君は物語通りに道を進んでいく。まるで、決められたレールの上を走っているかのように。そんな中、一人だけ脱線しているのがこの私だ。決められたレールから脱線した私は自分でレールを作りながら走らなくてはならない。その途中で錆びたレールを作り直す事はできないだろうか?

 できる。私は自分の作ったレールを走っているのだから誰かの道を変える事はできるはずだ。

 彼女の走る先に待つのは錆びてしまったレールだけ。そのレールを作り直すんだ。

 私の未来の楽しみと引き換えに誰かの命が救われるのならそれでいいじゃないか。

 作戦決行は、三日月になる日。どうやって助けるか……それは、今日から考えよう。




 アニメに例えましたが、分かりにくいですね。すいません。
 私の地域は東京より遅いので、東京の人が羨ましいです。

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