ダンジョンにアーサー王がいるのは間違っているだろうか   作:ひゃっほー

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7話 ダンジョン遠征

ある日、アーサーはフィンの執務室に呼び出しを受けていた。あの歓迎会から一週間程時間が過ぎ、アーサーがロキ・ファミリアに順応し始めた頃だった。

 

 

コンコンっ

 

 

「入ってくれ」

 

 

執務室の中からファンの許可をもらってアーサーが中に入ると、そこには団長のフィン、副団長のリヴェリア、古参メンバーのガレスがアーサーを待ち構えていた。3人ともこのロキ・ファミリアでトップの冒険者達だ。

 

 

「さて、僕に話って何かな?」

 

 

「今度、深層まで行く遠征を行うんだけど、君にも参加してもらいたいんだ」

 

フィンから告げられたのは遠征メンバーにアーサーも選ばれたというものだった。正直もっと重大な何かだと思っていたアーサーは拍子抜けした気持ちを隠しながらフィンに答える。

 

 

「なるほど、了解したよ、最近はダンジョンに潜っていたんだけどどうにも手応えのある敵がいなくてね」

 

 

この一週間アーサーはダンジョンに潜っていた。初日はリヴェリアからダンジョンについてアレコレと教えてもらい、フィンの判断でアーサーの実力なら上層はソロでも平気という事でモンスターとの戦闘を経験している。それに加えて早朝はアイズの訓練に付き合い、途中からティオナやベート、たまにフィンの訓練相手も勤めている。中々に忙しい日々をアーサーは過ごしていた。

 

 

「ところでアーサー、ダンジョンはどこまで降りたんだ?」

 

唐突にリヴェリアから質問を受けてアーサーはニコッと笑った。

 

 

「十階層だよ」

 

 

「嘘だな」

 

 

「……十三階層です」

 

 

アーサーの言葉を聞いてリヴェリアは頭を抱えると、ニコニコと笑うアーサーの頭を叩く。

 

 

「この馬鹿者が、フィンも私もこの一週間は上層で慣らせと言っただろう、いくら実力があるとはいえ心配をかけるな」

 

 

「悪かったよ、モンスターを倒しているうちにどんどん下に進んでしまったんだ」

 

困ったように頭を摩りながらリヴェリアの翡翠の目を見てアーサーが言い訳をする。

 

 

「まあまあリヴェリア、お説教はそこまでにして。兎に角遠征の件よろしく頼むよ」

 

 

「何かあればワシらに聞くといい」

 

 

「ありがとうガレス、では僕はこれで失礼するよ。このあとアイズの稽古に付き合わないといけないんだ」

 

 

アーサーはフィン達の話が終わったのを確認してから執務室を静かに出ていった。アーサーが出て行ったのを見送ったフィン達はその後ろ姿を見つめる。

 

 

「彼、本当に一週間前に入団したとは思えないね」

 

 

「確かにな、アイズ達も彼が来てから少し変わった気がする」

 

 

「調理場にもよく出入りしているようじゃ」

 

 

3人はアーサーの順応の早さに舌を巻くのであった。

 

 

 

♦︎♢♦︎♢

 

 

訓練場の中木剣を打ち合う音が木霊する。凄まじい速度で行われる攻防はどうにも視線を吸い寄せられてしまうようだ。当の本人達は気にした様子もなく訓練を続けている。

 

「アイズ、君の剣は早いし、鋭いけど力が十全に伝わっていない。もっと足から頭の天辺まで意識するんだ。自身の身体を自身の意思で完璧に制御するようにね」

 

「……わかった」

 

 

アーサーと打ち合いながらアイズはアドバイスを貰っている。この一週間ほぼ毎日アーサーに剣の稽古をつけて貰っているアイズだが、自分でもわかるくらいに動きが良くなっているのを感じていた。

 

「そういえば、フィン達に呼ばれてたよね?」

 

アイズの連撃を受け流しつつアイズの質問に答える。

 

 

「ああ、僕が次の遠征に参加する件だね。その事を言われてたんだ……よ!!」

 

 

言葉が終わると同時にアイズを後方に弾き飛ばす。

 

 

ザザザザっ!!

 

 

アーサーの一撃に10m程押し込まれたアイズはもう一度剣を構え直した。

 

 

「どうして、そんなに力を入れているようには見えないのに押し込まれる」

 

 

「確かにそんなに力は入れていないね。それでも力をしっかりと伝える事が出来るのは何故だと思う?」

 

 

アイズの問いにすぐには答えないアーサー。何でもかんでも教えればいいと言うわけではない。

 

 

「少しだけ見えたけど、しなり……かな?」

 

 

「おお、正解だアイズ。剣を振る瞬間に関節のしなりを利用して溜と速度を生み出している。前の模擬戦でアイズのガードをすり抜けたのもこの技術の応用だね。男性より女性の方が関節の稼動域も柔軟性も高いからアイズもすぐ覚えられる思うよ?」

 

 

「……やってみる」

 

 

すると訓練場に女性の声が響いた。

 

 

「アイズさーーん!!」

 

 

アーサーもアイズも声のした方に視線を向けると茶髪の髪を揺らしながら走ってくるエルフの姿が見えた。

 

 

「レフィーヤ、どうしたの?」

 

 

レフィーヤ・ウィリディス、Level3の冒険者で、リヴェリアと同じエルフだ。魔法が得意で後衛の期待のホープ。そしてエルフの使う魔法なら仕組みを理解していれば使用出来る破格の性能を持つ少女。そのスキルから千の妖精【サウザンド・エルフ】の二つなで呼ばれる。

 

 

「アイズさん、私も遠征メンバーに選ばれたのでその報告を……なんで貴方がいるんですか?」

 

レフィーヤの鋭い視線の先には軽装に身を包むアーサーが爽やかに笑っていた。

 

 

「アイズの訓練に付き合っていたんだけど、駄目だったかな?」

 

申し訳なさそうにレフィーヤに尋ねるが、不機嫌なレフィーヤはそうですかと言うだけで話をアイズへシフトチェンジする。

 

 

「あ!! それで私も遠征メンバーに選ばれたのでその準備をアイズさんに聞こうと思って」

 

 

アイズは無言でアーサーを見る。その視線に気付いたアーサーはニコッと笑って言った。

 

 

「僕の事は気にしなくていいから行っておいで」

 

 

「……わかった」

 

 

二人はそのまま訓練場を出て行った。レフィーヤの登場で訓練は終わってしまい、手持ち無沙汰になったアーサーは何をしようかと考えていた。すると、訓練場の横を歩いている美しいエルフがアーサーの視界を捉えた。

 

 

「リヴェリア…… 少しいいかな?」

 

 

アーサーの声にリヴェリアはスッと立ち止まるとこちらに近づいて来る。

 

 

「アーサーか、そう言えばここの所毎日アイズに稽古をつけているらしいな。訓練はもういいのか?」

 

 

「ああ、丁度終わったところだよ」

 

 

「そうか、それで何のようだ?」

 

 

「遠征の事について少々聞きたい事があってね、それと武器の整備をしたいんだけど、紹介してもらえるかな?」

 

アーサーの要件はごもっともで、大遠征ともなれば其れなりに大掛かりな準備を伴う。アーサーには例の宝剣があるとはいえ、本当の意味で使うには色々と制約が多い。それに準備を怠っていいと言うわけではない。

 

 

「なるほど、ならばこれから出かけるぞ、とりあえず支度が出来たら私の部屋に来い」

 

 

リヴェリアはそれだけ言うとその場をそそくさ立ち去ってしまった。アーサーは仕方なく準備をするために自室に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




レフィーヤを嫌な感じにしてしまった。本当はいい子なのに。これからアーサーと仲良くして行くつもりなのでよろしくお願いします。

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