ダンジョンにアーサー王がいるのは間違っているだろうか 作:ひゃっほー
不壊属性【デュランダル】が付与された特殊装備を引き抜いたアイズは少し赤い顔でアーサーの方にフラフラと歩みよる。
「……アイズ、大丈夫かい? それより何をする気なのかな?」
アーサーは冷や汗を流しつつアイズのデスペレートを見ながら後ずさる。正直、模擬戦の時よりも遥かに上回る剣気を前にさしもの騎士王も緊張感を拭えない。
「アーサーはティオナにベタベタされて喜んでた……」
「いや、喜んでいたと言うより親睦を深めていたつもりなんだけどな」
アハハハハーっと乾いたように笑うアーサーに光のない虚ろな目を彷徨わせながらアイズは近づいて行く。
「フィン!! リヴェリア!! どうにかしてくれないか!?」
助けを求めるように団長と副団長を見るが苦笑いが返ってくるだけでアーサーの救援要請はスルーされる。
「……僕が止めるしかないか」
アーサーはアイズに向き直り構えを取る。アイズの間合いにアーサーが入った瞬間、アイズの身体がブレるように消えた。
ビュンっ!!
暴風の如く駆けたアイズは容赦なくアーサーに斬りかかる。酔ってリミッターが外れたのか模擬戦の時よりも数段速い。アーサーは紙一重でアイズの猛攻を躱し続ける。
「アイズ、話を聞いてくれないかな? アレは本当に喜んでいたわけ……
「言い訳は……聞かない」
アーサーの言葉はアイズの一閃で断ち切られる。金色の美しい髪が数本空中を舞った。
「やるなーアイズたん。アーサーに一撃掠らせるとはたいしたもんや!!」
「ロキ、そんな事を言っている場合ではないぞ」
呑気にこの戦闘を観戦しているロキに頭を痛めながらリヴェリアはため息を吐く。それにしても前回の時とは違い、標的はアーサー1人のようなので周りに被害が出なさそうな事に少し安心していた。だが、そんなリヴェリアの安心はアイズの一言で脆く崩れ去ったのだった。
「
アイズの魔法エアリアルのトリガーが美しい桜色の唇によって紡がれた。アイズを中心に風が巻き起こる。
「まずい!! リヴェリア、防御結界を頼む!!」
フィンの一言を皮切りに一斉に下がる幹部達。アーサーは荒れ狂う風を身に纏うアイズを本格的にたしなめる為に自らの武器を腰から引き抜いた。
「これは少し本気でやらないとまずいようだね」
アイズは魔法の力によって身体能力を向上させるとアーサーに肉薄した。アイズは見えない力によって加速したスピードをそのまま剣に伝えアーサーに愛剣を振り下ろす。金属同士がぶつかり合う音が食堂内に大きく反響した。
「また、私の前から皆んないなくなっちゃう……」
剣を打ち合いながらもアイズは悲しそうな表情でそう呟いていた。アーサーの聴力はスキルによって強化されている。アイズの小さな呟きも聞き漏らさない。
「……アイズ、僕は君を1人にしないよ、それにロキ・ファミリアの皆んなだってそうだ」
説得しながらもアイズの鋭い剣撃を受け流していくアーサー。エアリアルで強化されたアイズの攻撃とアルコールによって引き出された潜在能力の猛攻に耐えながら何とか説得を試みるアーサー。斬りはらいによってアイズを軽く弾き飛ばしたアーサーは剣を水平に構える。
「しょうがない、この手は使いたくなかったんだけど……」
何かを決心したようにアーサーは自身の魔法、
「リル・ラファーガ……!!」
暴風を纏った渾身の突きがアーサーを捉えた。凄まじい威力と速度を兼ね備えたアイズの大技は一直線にアーサーに向かう。
ギャンっ!!!!
金属擦れる音と共に周囲に風が拡散した。その風に煽られて幹部達は視界を一時的に覆い隠す。
ようやく視界が開けるとそこにはアイズの剣の先端を同じく剣の先端で受け止めているアーサーの姿だった。
「嘘だろ……」
目の前で起こっている現象にベート・ローガは驚きを隠せないでいた。アイズの必殺技リル・ラファーガを防いだ事はこの際どうでもいい。いや、そもそもLevel1がLevel5の攻撃を受け止めている事実がおかしいのだが、その防ぎ方が尋常ではない。何せアイズの突きに合わせて自らも同威力の突きを先端で合わせて相殺したからだ。
「凄〜い!! あんな防ぎかた初めてみた!!」
「団長が言ってた事が理解出来たわね……」
「ガハハハハっ!! 流石じゃの!!」
「全く、君と言う奴は」
幹部達面々も驚愕に満ち溢れている。そんな彼らを他所にアーサーは剣を引くとアイズにゆっくりと歩みよってその華奢な身体を自身の胸に引き込んだ。
ギュっ
「あの野郎!! 俺でも出来ねーことやりやがった!!」
「はいはい、空気読んでね」
興奮するベートを押さえ付けながらティオネははぁーっと溜息を吐く。幹部の全員も目の前の光景を生暖かい目で見守っている。
「アイズ、さっきも言ったけど僕はどこにも行かない。アイズのそばにいよう。だから何も心配することはないんだ」
絹のような金色の美しい髪を優しく撫でながら、柔らかい笑みを浮かべてアーサーはアイズに視線を落とす。気持ちよさそうにするアイズはしばらくアーサーの胸の中でその温もりを感じていた。
「本当……? アーサーがいなくなったら私は寂しい」
不安そうにアーサーを見上げるアイズ。アーサーは困ったように笑ってアイズから一度距離を取る。身体が離れた瞬間にアッと残念そうな声が聞こえたが今はそれを無視してアーサーはその場に膝まづいた。
「ならば、ここで誓おう。僕はこの約束を違える事はない。この騎士の誇りにかけてアイズ・ヴァレンシュタインに誓おう」
いつの間にか最初にあった頃の騎士甲冑に身を包んだアーサーは剣を抜き放ち正眼に構えてそう言った。
「アーサー、ありがと。私もアーサーの隣に並べるように頑張るから……並べたその時は私と……
アイズがそう言いかけてフッと倒れた。その身体を優しく受け止めたアーサーはそのままゆっくりとアイズをお姫様抱っこする。
「アイズたんは大丈夫なんか!?」
ロキが慌てた様子で近づいて来るが、アーサーは人差し指を口元にあててロキに静かにするよう目で訴える。
「相当疲れたのだろう、気持ち良さそうに眠っている」
アイズの顔を覗き込んだリヴェリアはクスッと笑ってロキにそう言った。
「アーサー、アイズを部屋まで運んでくれるかい? それとここの修理や掃除に関しては後日しっかりと話合わなくちゃね?」
イタズラっ子のようにフィンがそう言ってアーサーは苦笑いするしかなかった。
こうして慌ただしいアーサーの新人歓迎会は幕を下ろしたのであった。
ロキ・ファミリアの全員を会話に出すのは難しい。文才が欲しいです。感想、評価お待ちしておりますm(_ _)m