ダンジョンにアーサー王がいるのは間違っているだろうか 作:ひゃっほー
アーサーは現在訓練場でロキ・ファミリアの団長フィン・ディムナと向かいあっていた。フィンはオラリオでも数少ないLv6の第一級冒険者だ。
「そんじゃ始めるでー!!」
ロキの声が訓練場に木霊し、空気を震わせる。
「始め!!」
ロキの合図と同時にフィンは駆けた。Lv6の身体能力を惜しげも無く使った疾走は一瞬でアーサーの間合いに踏み込む。悠然として中段に木剣を構えるアーサーはフィンの踏み込みとスピードに感嘆した。そんなアーサーの心境とは裏腹にフィンの木槍がアーサーの喉元を抉るように突き放たれる。だが、フィンの攻撃はアーサーの碧眼が容易に捉えていた。フィンの一撃を簡単に切り上げで撥ねのけるとアーサーの右腕が霞み、フィンの反応速度を上回る袈裟斬りを放つ。
(見えないっ!!)
フィンは全神経を集中させ、感を頼りにアーサーの鋭い攻撃をガードする。木がぶつかり合う音が訓練場に響きわたり、フィンの身体は大きく後ろに弾き飛ばされた。
「今度はこちらから行くよ」
態勢の整わないフィンに間髪入れずアーサーは地面を抉る踏み込みでフィンに肉薄した。最初のフィンの踏み込みより遥かに早い。空気を裂く音がフィンの耳に届いた時、既にアーサーの木剣がフィンの眼前に迫っていた。ギリギリのタイミングで剣線の軌道に木槍を割り込ませたフィンはアーサーの攻撃を利用して半回転すると、そのまま全力の横薙ぎをアーサーに叩き込む。アーサーは焦る様子もなくフィンの一閃を受け流すと再び高速で移動してフィンの死角に回り込んだ。そのまま攻撃直後に硬直し、隙だらけのフィンに手加減した一撃を当てる。攻撃を食らったフィンはそのままゴロゴロと地面を転がる他なかった。
「流石だね。攻撃の当たる瞬間に咄嗟に後ろに飛んでダメージを最小限に止めるとは」
アーサーは驚いたように言った。フィンは直ぐに立ち上がると木槍を構え直した。
「ロキからは本気でやれって言われていたけど、ここまで強いとは想像していなかったよ」
フィンは苦笑いを浮かべつつアーサーの実力が別次元である事を指摘する。
「そう言ってもらえるとありがたい。今までの修練が無駄ではない事を教えてくれるからね。それとフィン、さっきからアイズがとんでもない剣気を僕に送ってくるんだが、何とかしてくれないかい?」
アーサーの言葉にフィンはアイズの方をチラッと見る。そこにはただならぬオーラを放つ1人の剣士がジッとアーサーを見つめていた。
「……あはは、多分君と僕の戦闘を見て火がついてしまったんだろうね……そこで提案なんだけどいいかい?」
フィンは思いついたように言った。
「一応聞いておこうかな」
「アイズも入れて一対ニにしよう。どうやら君は僕一人の手に負える相手ではないみたいだ。一合剣を交わしただけでわかる。流石に僕も卑怯だとは思うんだけど、どうやら僕にも火がついてしまったらしい。何が何でも君に勝ってみたい!!」
フィンの提案にアーサーは一瞬驚いたような表情をしたが笑みを浮かべてその提案を受け入れた。
「いいだろう。僕も君達と戦ってみたい。それとアイズには少し教えたい事もある」
「という事だアイズ。君も勿論やるよね?」
フィンの提案を聞いていたアイズはアーサーと同じ木剣を持ってフィンの横に並ぶ。
「……お願いしま、す」
アイズは木剣を構える。フィンとアイズは同時にアーサーに飛び込んだ。フィンは木槍を高速で突き出す連続攻撃。アイズは一拍タイミングをずらしアーサーの背後に移動して右肩辺りに本気の一撃を叩き込んだ。
アーサーはまずフィンの連続攻撃を紙一重で全て躱す。まるで何も突いていないような感覚に戸惑いつつ、フィンは分かっていたように次の一手を繰り出す。その間にアーサーは背後から迫るアイズの一撃を半歩ズレて躱すとアイズのガラ空きの身体に木剣の柄で突きを放つ。鳩尾辺りを攻撃されたアイズは肺から空気を吐き出した。そのまま後ろに後ずさってから地面に膝を着く。
そのままクルッと回転して木槍を薙ぎはらうフィンの攻撃をアイズのいる方向に受け流す。勢いをそのままにフィンの攻撃はアイズに向かってしまう。フィンは無理矢理身体を捩ってアイズに向かう木槍の軌道を僅かに逸らす。木槍がアイズの頬を軽く掠めて地面に突き刺さった。
「今の連携は中々だったよ、でも二人で戦う場合はお互いの攻撃を利用される危険性がある。それをふまえた上でどれだけ上手く相手が嫌な連携を繰り出せるかが肝だ」
アーサーは後ろの二人にそう言って木剣を構え直す。
「さあ、こんなものではないだろう? 二人の力思う存分ぶつけてきてくれ!!」
フィンもアイズも第一級冒険者としての誇りがある。常に憧れられる存在であり恐れられる存在。方や【勇者】方や【剣姫】だが今二人はそんなプライドを脱ぎ捨て、ただの戦士としてアーサーに挑んでいる。
アーサーの言葉に再度二人は立ち向かって行った。
♦︎♢♦︎♢
結果的に言うおう。模擬戦はアーサーの圧勝に終わった。フィンとアイズは荒い息を吐きながら訓練場の床に倒れ伏していた。
「フィン、アイズ君たちはとても強かったよ。僕はもうこれ以上強くはなれないけれど、これから二人にはまだまだ伸びしろがある。いつか必ず僕を越えていけると信じているよ」
アーサーは二人に手を差し出して満面の笑みでそう言った。フィンとアイズはその手を取って起き上がる。
「アーサー、君の強さは規格外だ。だけど君の期待に応えられるようがんばるよ。それと入団試験は合格だ。これからよろしく頼むね」
フィンはそう言って訓練所を後にした。その一方でアイズは全く浮かない顔していた。
「……どうしたら、そんなに強くなれるの?」
「うーん……そうだね。アイズ、君には絶対に譲れないモノはあるかい?」
アーサーの言葉にアイズはハテナをうかべる。
「君にそれが見つかった時、必ず君は強くなれる。ベンチでも言った通りただ強くなればいいって訳じゃない。その想いが君の剣に宿った時、必ず君は成長して本当の意味での強さを手に入れられる。僕もそれを探すのに協力するし、君の鍛錬に付き合ってもいい。だからアイズ、強くなれ……!!」
アーサーはこれまでにない程の美しい笑顔でアイズにそう言うと金色の長髪を優しくあやすように撫でた。アイズはそんなアーサーの笑顔を見て顔を真っ赤にすると恥ずかしそうに俯く。
「……譲れないモノ、見つかった」
アイズは微かな声でそう言うと訓練場を後にした。
「何て言ったのかな? でも、もう心配はなさそうだね」
アイズの背中を見送って微笑ましそうにアーサーが呟く。するとロキがアーサーに近寄って来た。
「アーサー、入団おめでとさん。そんじゃ恩恵与えるからウチの部屋戻るでー。それと……アイズたんに手出したらホンマしばき倒すからな!! なーに頭撫で撫でしとるんや!! ウチでも触らしてくれんのに!!」
ロキの言葉にアーサーは苦笑いを浮かべて頭を掻く。
「気をつけるよ」
「はよ行くでー!!」
アーサーはロキの後を着いて行った。