ダンジョンにアーサー王がいるのは間違っているだろうか   作:ひゃっほー

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ロキ・ファミリア入団編
プロローグ 出会い


ここは迷宮都市オラリオ。神々が降臨する以前『古代』と呼ばれる時代から存在する世界有数の巨大都市。世界で唯一迷宮『ダンジョン』が存在する。広大な円形状の形をしており、堅牢な市壁に取り囲まれている。都市中央には天を衝く白亜の塔『バベル』がそびえ立っている。世界一の魔石製品輸出都市でもあるオラリオはダンジョンからの恩恵、魔石生産業による利益を得て、大陸の一国家より遥かに発展を遂げている。街並みは石造りの煉瓦で構成され中世ヨーロッパを彷彿とさせる。道には露店がズラリと店をかまえ、活気に満ち溢れていた。

 

「……ここは一体どこなんだろうか」

 

周りの光景をみて金髪の青年は美しい碧眼を辺りの観察へと使う。人が溢れかえる様子を伺いながら、エルフ、ドワーフ、獣人、小人など普通の人間ではない者達が多く入り混じっている事に気付く。

 

 

「……するとここは元いた世界ではないのかな?」

 

 

自分がここに来る前には存在していなかった人種達が闊歩する様子をみて一つの結論に思い至る。

 

 

「しかし、圧倒的に情報不足のようだ。困ったな……」

 

 

む〜〜っと顎に手を当てて困っていると、青年と同じ金髪を持った少女が話かけてきた。

 

 

「大丈夫、?」

 

 

「……いや、大丈夫ではないな、お嬢さん幾つか質問したい事があるのだけれどいいかい?」

 

 

金髪の少女はコクっと頷く。

 

 

「それはありがた……

 

ぐぅぅぅぅーっと盛大にお腹がなる。青年は頬を少し掻いた。

 

 

「お腹、空いてるの?」

 

 

「すまない、ここに来るまで何も食べていなかったもので」

 

 

「じゃあ、買いにいこ」

 

 

少女はそう言うとスタスタと一つの露店に駆けていく。青年は少女に着いて行く。店の店主が少女を見ると笑いながら言った。

 

 

「あらーアイズちゃん、今日も来たのかい!! おや? そっちの美青年はアイズちゃんの彼氏かい? 隅におけないね〜」

 

店主が軽く冗談を言いながら「はい、いつもの」っとアイズと呼ばれた少女に紙袋を渡した。おおよそ見ていたがトンデモない量の揚げ物が紙袋にしまわれていた。

 

 

「ありがと、あとこの人はさっき道で困っていたから助けた。お腹も空いてるみたい、じゃあ、また来る」

 

 

「はいよ〜〜」

 

 

 

店主に事情を説明したアイズは軽く挨拶をすませると少し離れたベンチに腰掛けた。青年もアイズの隣に腰かけて紙袋を興味深そうにみつめる。

 

 

「……はい、ジャガ丸くん小豆クリーム味」

 

 

アイズは紙袋から一つ取り出すと青年に渡した。

 

 

「すまないな、いつか代金はお返しするよ」

 

 

青年はアイズからジャガ丸くんとやらを受け取り一口かぶりついた。その様子を見ていたアイズは自分も同じように紙袋から取り出してその小さな口で食べ始めた。お腹が空いていれば何でも美味しくは感じるが青年はとても美味しそうにジャガ丸くんを頬張る。ジャガイモのしょっぱさと小豆クリームの甘さが絶妙に絡みあいお互いの良さを引き立てていた。

 

 

「美味しいな……そういえば、名前を聞いていなかったね。先程の店主はアイズと呼んでいたがそれで間違いないかい?」

 

 

青年は思い出したようにそう尋ねるとアイズはコクっと頷いて続けた。

 

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン。君は?」

 

 

アイズの問いにとても美しい笑顔で青年は答えた。

 

 

「僕はアーサー。アーサー・ペンドラゴンだよ、まあでもセイバーって呼ばれる事もあるから好きな方で呼んでくれても構わない」

 

 

「……ならアーサーって呼ぶ、私の事もアイズでいい、よ」

 

 

アーサーはもう一つアイズの手から渡されたジャガ丸くんを頬張りながらこの世界について質問する。

 

 

「アイズ、それで聞きたい事なんだけれど、ここは一体どこなのかな?」

 

 

聖杯戦争で英霊召喚された場合は聖杯によってその時代の情報が自動的にサーヴァントに与えられる。今回のようなケースには遭遇した事がなかったのでアーサーはとても困っていた。

 

 

「ここはオラリオ、世界で唯一ダンジョンがある都市」

 

 

「オラリオにダンジョン……やはり聞き覚えがないな、アイズは普段何をしているんだい? 腰のレイピアを見た感じ剣士のようだけれど」

 

 

「私は冒険者をやってる。ダンジョンに潜ってモンスターと戦う」

 

 

「なるほど、アイズは強いんだな」

 

 

アーサーの言葉にアイズがピクっと反応する。今までの雰囲気と変わってアイズから焦燥感が漂う。

 

 

「私は……強くない。もっともっと、強くならなくちゃいけないの……」

 

何処か焦ったようなアイズの表情にアーサーは不安な表情をする。

 

 

「アイズ、強くなる事は悪い事じゃない。でもただ強くなるだけでは駄目なんだ。いくら剣の技量が凄くても精神が強くなければ意味はないよ。僕は今日初めて君に会ったけれど君はまるで剣のようだと思った。鋭く、美しくそして今にも折れそうな剣。アイズには才能もあると思うし、努力もしていると思う。だから今はそんなに焦る必要はないよ。必ず君は強くなれる、僕が保証しよう」

 

 

アーサーはニコッと笑うと静かに聞いていたアイズの頭を撫でる。撫でられアイズは一瞬キョトンとした。アイズはLv5の第一級冒険者だ。最近自分のステータスの伸びが悪い事にとても焦っていた。アイズは自分の目的の為に強くならなくてはいけないと使命感に駆られて無茶なダンジョン探索を続けていたが、アーサーの言葉と笑顔によって少しモヤモヤが晴れたような気がした。根拠はない。でもアーサーの言葉が自然と心に響いたのだ。アイズは口元にほんの少し笑みを浮かべると小さく言った。

 

 

 

 

「……ありがと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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