可能性がある限り、彼らの攻略は終わらない   作:ぺんたこー

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2022年11月19日 ゲームは始まったばかり


疑う前に信じてみるのもいいかもしれない

「で、今日は何するの?」

前を歩く女性プレイヤーに言う。

「金稼ぎ」

お金なら昨日までずっと狩りをして貯めたものがある。それでも足りないくらいというと、どれだけ高いものを買う気なのだろう。

「何買うの?」

「コンビ組んでたとはいえ俺はほぼ何もせずに後ろで見ていただけだ。たこがピンチになったらちょこっと戦っただけだしさぁ」

そう、コンビを組んで戦っていたのだからコルは分配されるはずだ。それなのになぜ金稼ぎをするのか。

「実質全部たこの金じゃん?」

そう来たか。何もしていないのに金をもらうのは不公平だと言いたいのか。

「そんなこと気にするなよ。俺がやばかったらすぐ出て来てくれただろ?」

「まぁ、次の実験もしたいしさ」

実験!?まさかここで出てくるとは…しかし何をしようとしているのかさっぱり見当がつかない。黙々と前へ進むゼルドアの背中を追いかける。

「着いたぞ」

またもや急に足を止めるので、今度は背中にぶつかってしまった。鋭く睨まれたが笑ってごまかす。

「ここは……」

目の前には小屋があり、アイテム屋の看板がぶら下がっている。これはどこからどう見ても……

「アイテム屋だ」

 

「いらっしゃいませー」

店内に入ると女性NPC店員の高い声が耳に届いた。店内はそれほど広くなく、2人で入っても狭い。

「なぁゼル。ここでなにするんだ?」

金稼ぎならモンスターを狩りに圏外へ行くのが普通なのに、全く逆の金を消費するアイテム屋へ来ている。疑問が深まりすぎてもう理解が追いつかない。

「ちょっと待っとけ、すぐ終わる」

あれ?普通に買い物に来ただけなのか?でも来る途中で次の実験をするって言ってたし……

「たこもなんか買っといたらどうだ?回復ポーションとかまだ買ってないだろ?」

そういえばそうだ。あの日ポーション目当てで宿屋を出たのになぜかレベル上げに連れていかれたのだ。

アイテム屋には実に多くのアイテムが売っていて、回復系やトラップ系、向こうでも見かける日用品や何に使うのかわからないものなどがある。さすがに100円ショップには勝てないと思うがそれでもすごい量だ。

中でもわけがわからないのは、店員の斜め前に山のように積まれているものだ。手にとってみるとどうやら布のようだがこんなものいつ使うのだろうか。とりあえず回復ポーションをいくつか買っておく。会計を済ませると後ろにはゼルが並んでいた。

「これをくれ、10000コル分」

そう言いながら指差したのは、レジカウンターに置かれている布の山だった。俺は心の中で叫ぶしかなかったがゼルは慣れた手つきで会計を済ませる。

「さっ、行こうぜ」

いや、どこに?もう少し詳しく言って欲しい。言っても無だだろうが。

 

 えーっとここは………

宿屋ですね。はい、しかも俺が引きこもってたところ

「よし、じゃぁ始めるか!」

「いや、だから何を?」

今度は口に出てしまった。しかしそろそろ説明してもらわないとやってられない。

「ちょっとした内職だよ」

 え?ないしょく?それってあのお家でお仕事するやつ?造花作ったり、ラベルシールはったりするやつ?

「何をするの?」

「下着作る」

 え?

 いやいや

 いまなんて?

「よし、やるか!」

「ちょっと待てー!」

「なんだよ」

「なんだよ、じゃねーよ!なんでそうなるんだよ!っていうかどーやってした……服なんか作るんだよ!ここは現実じゃねーんだぞ?向こうでできてもこっちではできねーよ!!」

 言ってしまった。俺の悪い癖だ。一度つっこむとついつい次の言葉が出てきてしまう。これだからリアルでは友達が少なかったのかな…

「あ、その………ごめん」

 ゼルはだまってこちらに視線を向けている。数秒の沈黙の後ゼルドアがぷっと吹き、続いて我慢していた笑いを解放して大爆笑し始めた。いや、そんなに笑う?どこが面白かったの?

 たっぷり数十秒も笑ってからふーっと一息つくと笑顔で喋りだす。

「いや〜久しぶりに聞いたら面白すぎて、たこの愚痴聞くのほんっと久々だわ〜」

 たぶん今の俺の顔を鏡で見たらリアクションに困るくらいぼーっとしているだろう。そんな俺の顔をスルーしてゼルが説明を始める。

「今回は、ショップで買った物を加工してそれを売って儲ける。って実験なんだけど、よく考えたらこりゃたこには手伝えないな」

「俺だって手先は器用な方だぞ」

「リアルとここじゃ違うって言ったのはどっちだよ」

 そういえばそうだ、ここは仮想の世界であり現実ではない。数字がほぼ全てを決めてしまう世界なのだ。

「でも、リアルでは不器用だぞ?むしろこっちの方が器用だと思う。裁縫に限るがな。」

「裁縫に限るって……まさか!」

 やっと気がついた。ゼルは裁縫スキルを上げているんだ。おそらく戦闘用スキルと同等かそれ以上に。でもどうしてそんなことまでして金を稼ぎたいのだろう。ゼルのレベルなら第一階層のモンスターなんて何匹来たって無双できるはずだ。そんな考えをしていると分かっているようにゼルはつぶやく。

「圏外に出ずにお金が稼げたら、みんな少しでも希望を持ってくれると思うんだ。まだ怖くて建物からも出て来れない人たちがたくさんいる。たこもちょっと前までそうだったしな。」

 にししっと笑うゼルドアを見て妙に胸が締め付けられる気がする。

「まぁ、なんだ。ゲームをクリアして英雄になるのもいいかなって。でも、死にたくはないからさ、安全な攻略法を探してるんだ。もしかしたら無敵コマンドがあるかもしれない。もしかしたら裏ボスがいるかもしれない。隠しルートが、チート級アイテムが……逃げ道があるかもしれない!」

 全ての可能性を信じて出た言葉は強い熱を持ち、俺の心の中にとけ込んだ。そうだ、決して諦めてはいけない。少しずつでいいから俺たちも攻略をしていこうと強く心に誓った。

 

 結局、もうけは200コル程度だった。まぁまぁ集まったじゃないかって?これを聞いたら驚くぞ。あの日、アイテム屋に布を買いに行った日から2週間、ほぼ全ての時間をつぎ込んでこれだ。まぁ、裁縫スキルが高かったのはゼルだけだったし、布自体もそこまで高くなかったし、何よりゼルのスキル熟練度が低すぎた。この2週間で150くらいになったらしいが正直がっかりだ。でも、スキルを取ったばかりでもこれだけ稼げるってことは熟練度と素材のレア度が上がるに連れてもうけも上がっていくのではないだろうか。

 もうすぐ第一層ボス攻略会議が行われるらしいので見に行ってみようとゼルに言われた。行きたくないがあの笑顔を見せられたら行かざるをえない。

 まだまだゲームは序盤。俺とゼルドアの攻略は終わらない。




こんにちはぺんたこーです。
二人ともがんばってますね。もうすぐ一ヶ月、第一層が攻略されるころです。
今回のネタ「買って加工して売る」はモンスターハンター4の解毒薬と角笛を半額で買って、調合して解毒笛にして売り払う。という裏技が元です。
次はついにアルゴ姉さんと関わっていくかもですよ!
ではまた次のあとがきで。

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