よろしこ
意識が遠のいていく
暗く、黒く、底へと沈んでゆく
(ああ、俺死ぬのか・・・・)
すぐそこで誰かが叫んでいるが、それを認識することもできない
意外と受け入れられるものなんだな、と、そのときふっと思った
頭がぼーっとしてくる、そのうちに何もかもが認識できなくなっていく
けれどひとつだけ意識の途切れる間際まで《本物》という言葉がひどく脳裏に浮かんでいた
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「比企谷八幡さんですね。ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先ほど不幸にもなくなりました。………」
目の前で白髪の美少女が何か説明してる
普段はきょどるのになんか落ち着いてる俺、死んだからかな?なんかそれっぽい事言ってるし
「そして比企谷はt「あのっ!」・・・・質問は話をした後にお願いします」
お、おおう・・・いや、そりゃそうだよな
やっぱりテンパってるな俺
「気を取り直して・・・。あなたには二つの選択肢があります。ひとつは新たな人生を再び歩むこと。二つ目は天国へ行っておじいさんみたいな暮らしを永遠に送る事…」
俺って天国行けるんだ
そんなに徳を積んだ覚えはないんだが・・・
そんな事を考えているとは露知らず目の前の女神さん(戸塚にはかなわない)が続ける
「…と、本来ならこの二つの選択肢しかないのですが、なんと今なら・・・」
「今なら・・・?」
「今なら、元いた世界とは別の異世界へ行く選択肢もあるのです!」
あるのです!とかマジかわいいな・・・
てか元いた世界とは別の異世界てなんか変な言葉だな、頭痛が痛い的な
「では、どうなさいますか?異世界?やっぱり転生してチーレム作っちゃいます?」
「(ノリノリだなこの子・・・)あー・・・でも言語的な問題とかありますし、そもそも自分文化部系の人間なんで・・・」
「そこは問題ありません!前者は神々による親切サポートによってその世界における言語をすべてマスターできますし、後者の場合も高い能力値や武器を選べばある程度はカバーできますよ」
「チーレム作っちゃう?ってそういうことですか」
「察しがよくて助かります、ふふっ」
「・・・・察しついでに聞きたいんですけど、その神々のサポートとやらに副作用とかないんですかね、言語を強制的に把握させるって相当脳に負荷がかかると思うんですが」
「・・・・・・そういえばさっき何か質問をしたがっていましたね?お聞きしますよ?」
こいつ・・・
まあいいか、こいつら神だし
夏休みの合宿で新世界の神になった俺に抜かりはない※なってません
「あー・・・まぁなんといいますか・・・・。あいつらは大丈夫・・というか、無事ですか?」
俺が何か伺うように躊躇うようにその女神に尋ねると、彼女は微笑みながら言う
「無事ですよ。おなたのおかげで、彼女たちは無事です。・・・優しい人、あなただからこの異世界への選択肢を与えられているのです。どうか、異世界へ行き救ってはくださいませんか?」
なにこの子、人の優しさに漬け込んでくるんですけど
くっ・・さっきも露骨に話を逸らしたりなかなか大胆なんだがかわいいので許せてしまう・・・
「・・・そうですか、なら、死んだ甲斐があるってものですね。死んだので甲斐も糞もないんですが」
「そうですね、しかしその甲斐は異世界でなら活用できるかもしれませんよ?ちなみにその異世界を脅かす魔王と呼ばれる存在を倒した暁には、なんでもひとつ願いをかなえて差し上げます。どうです?行く気になりましたか?」
「ものに釣られるのもなんですけど、死んだ甲斐が無駄にならないなら・・そうですね引き受けますよ」
新たな人生を歩むことになるのなら記憶は引き継げない
俺はそれがどうしても嫌だった
死の間際、朧気ながらも届いた彼女らの声と本物という言葉が自分の中を反芻する
声はしていたが、どうしてもその身が無事であったか確認してしまう程に彼女らを気にかけずにはいられなかった
さらに本物という言葉、これを指すものが何であるのかも分かっていない
彼女らと過ごし、さまざまな物に触れ、経験し、やっとその言葉までたどり着いたのだ
それを忘れ、新たな人生を送ることを俺は選べなかった
「そうですか、ありがとうございます!それでは異世界へ行くための特典を何かひとつお選びください。神器についてはこちらを参照してください」
「ありがとうございます。・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、あのひとついいですか?」
「はい?何か不明な点でもございましたか?」
「いや、なんか死後の異世界行きって自分が始めてじゃないのかなって思いまして…」
「・・・よくお気づきになりましたね。やはり察しがよろしいのですね。そうですよ、それがどうかなさいましたか?」
「あぁそうですか、なんか手際いいし、神器もいくつか見当たらないものがあったもので・・・。ちなみに持っていった神器を向こうで俺が扱う事ってできるんですかね」
「それは神器によりますかね。たとえば聖剣グラムはその特性を保持者本人にしか扱えませんけど、聖鎧アイギスは自我を持ちそのアイギズ本人の了承を得れば誰でも使用可能です」
「転生者が死んだ場合は?」
「基本的にその世界に放置されますが、さまざまな方法を用いて回収を試みていますよ。ただ、難航しているようですけれど・・・」
「なるほどな・・・なら自分は『いかなる神器も扱える力』を特典にします」
「そうですか、承りました。・・・・・それでは準備いたしますね。願わくばあまたの勇者候補の中からあなたが魔王を打ち倒す事を祈っています・・優しい人」
そう言うと俺の足元に魔方陣が展開される
すげぇ、まじもんの魔法じゃねぇか
なんかいまさらだけど、俺死んだんだな・・・
若干テンパってたり図々し…大胆な女神の売込みとかあって実感を得る暇すらなかったが
本当に今更、いろいろこみ上げてくる
まぁ平気か、なんか俺の周り光ってるしばれねぇだろ
本物を、あの世界で見つける事のできなかったものを俺は異世界で見つける事ができるだろうかとか
てかあいつらの前で本物云々言ったのに結局何もできずじまいでめっちゃ恥ずかしいとか
戸塚かわいいとか
小町は平気だろうかとか
平塚先生は結婚できたのだろうかとか
あと戸塚かわいいだとか
ほんとにいろいろ、こみ上げてくる
願いか・・・
ひとつ願いがかなうならあいつらに何かしてあげたいな
そんな事を考え彼女らの事を想起していくうちに、やがて光が俺を包みこみ・・・・・・・・・・
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「がんばってくださいね、優しい人」
彼がいなくなった部屋で彼女か静かにつぶやく
誰もいないその空間にその声が通り過ぎてゆく
「・・・・・さて、私も仕事に取り掛かりますか」
そう言うと白髪の美少女は光を放ち別の姿へと変身し、下界へ降りていった
その足元に二つのシリコンを落としながら・・・・・
以上です
このすば一期の8話からなので次回からじゃんじゃんキャラを出していきます