このさばんなちほーにもシマウマ以外のフレンズは多く存在しているという。聞けばフレンズになる前は私と同じような四足歩行をしていた者もいるというから信じられない。いったい何がどうなったらフレンズになるのか、シマウマ自身もわからないと言うので完全にお手上げの状態だ。
しかし興味深いことを聞いた。わからないことがあれば図書館という場所を利用するらしい。その図書館の位置も詳しく知ることができた。ならばもうこのようなところになぞ用はない。さっさと図書館を目指すとしよう。
だが二足歩行にまだ慣れていないこともあってか体力の消耗が著しく、水分がほしくなる。歩けば歩くほど体が水分を欲する。そして何よりこのちほー……暑い。
「おい、シマウマ」
「はい? どうしました?」
近くに水場がないかを尋ねる。一刻も早く喉を潤したい。でないと暑さでイラついてこいつを食らってしまいそうになる。何より昼間にこんなに活発に動くことはめったに無かった。私の活動する時間は主に夜だ。できるなら早く夜になってもらいたいものだ、もしくは水場があれば……。
「水場ですか。たしかあの小高い丘の上にありましたねー」
シマウマが丘を指差す。ふむ、あの丘の上か。水にありつけるのであればありがたい。あれから水も一滴も口にしていない。
私は歩みを早める。ああ、本当に翼が恋しい。いったい何処へ消えたというのだ私の翼よ。これではもはやただの頑強なトカゲ同然ではないか……一刻も早く消えた翼の行方を知らなくては。
せかせかと勾配を上る。シマウマもあとに続く。私よりもまだまだ元気そうだ。その体力が羨ましいものだ。水さえ飲めれば体力も元に戻るはず。そうなったら翼も生えたりしてくるのだろうか。いや、杞憂だな。そんなファンタジーなことが起きるはずも無い。できれば起きてもらいたいものだが私としては。
そんな願い事をしつつ私達はとうとう丘の頂へとたどり着いた。シマウマの言ったとおり水場だ。これで喉を潤すことができる。早歩きで水場へと近づく。きらきらと光を反射して水が光っている。なんとも神秘的だ。
水面に顔を近づけてみる。顔が映り込む、だが私の顔ではない。私なのだが私ではない。これは人間のような顔だ。フレンズ化というものが現実味を帯びて私に突きつけられた。しかしその理由がさっぱりわからぬ以上考えても無駄だろう。今は水が優先だ。
水に口をつけ飲んでみる。うむ、生き返る。体中に水分がいきわたり力がみるみる溢れてくる。やはり水は無くてはならないものだ。一心不乱に水を飲む。
「食べっぷりもすごいですけど飲みっぷりもすごいですね……」
「ごきゅ……ごきゅ……仕方あるまい、此処へ来るまでに水など一滴も飲んでいなかったのだからな」
「わたしも飲みたくなっちゃいました……ごく……ごく」
私の隣に並んでシマウマも水を飲む。おそらくは多くのフレンズがこの水場を訪れているのだろう。この暑さの中水なしで生きていける気などまるでしない。この環境で水は貴重なものだ。飲み干したい欲求を抑えて口を水から離す。
「しかし今日は誰もいませんねえ。いつもは結構な数がここにいるはずなのに」
「珍しいことなのか? 水場にフレンズが少ないことは」
「いえ、少ない日もあるにはあるんですけど少なくても1人か2人はいますねー。誰もいなかったことは今日が初めてです」
あまり興味は無いが私がここを訪れた時に誰もいないということは何か引っかかる。だが特に気にすることでもなかろう。周りを気にせず水を口にできるのだからな。もう少しだけ飲んでいくとしようか。
再び私が口を近づけたとき、水場の中央に泡が出たのを見た。何かいる、水中に。身を引いたその瞬間、水柱が中央に立った!
「っ! 何者だ!」
「あなたこそ、何者ですの?」
水柱から現れたのはフレンズだった。シマウマとはまた違った姿をしており、全身が黒い毛皮に覆われている。体のところどころに模様がある。こやつ水竜の類の者か? そうだとしても私は負ける気はないがな。生前は奴にはよくお世話になったものだ。砂漠の水場に行くと毎度毎度邪魔をしてくる。あまりにも鬱陶しいと何発かブレスを手痛くお見舞いしてやったものだ。
「水を飲みに来ただけだが、邪魔立てするなら容赦はせん」
「こちらこそ、私の縄張りで暴れるのであれば容赦はしませんわ」
向こうから襲ってくる気配は無い。だが油断はできない、一触即発の状態が続く。そこにシマウマが割って入る。
「二人とも落ち着いてください! いきなり決闘に持ち込むのはよくないですよ!?」
私とそのフレンズは彼女を見る。そしてお互いの顔を見る。
「フン……命拾いしたな名も無きフレンズよ」
「あら、私にはカバというれっきとした名前がありますわよ?」
かば……また聞いたこともない生き物だ。水の中にいるということはやはり水竜なのか? 恐らくこのカバもフレンズになる前の姿があったのだろう。うーむしかしあんな馬鹿でかい奴がこんな小さくなるものなのだろうか。これも図書館で尋ねる必要があるな。ジャパリパークには謎が多すぎる。
「それで、あなたは一体何のフレンズなんですの?」
「風翔龍だ」
「生まれは何処ですの? 縄張りはお持ちですの?」
「此処に私の故郷は存在しない。そもそも私はここに住んでいたわけではない、気づいたらここにいたのだ。縄張りも無い」
返答にカバは少し驚いているようだ。そんなに私が珍しいのだろうか。続けてカバは尋ねる。
「特技はお持ちですの?」
「特技? 此処へ来る前は風の力を操っていたな。この姿になってからはまるで力を感じられなくなったが」
「それは災難ですわね……あら? その背中にあるものは武器ではなくて?」
唐突にカバが背中を見て言った。……背中? 言われるまで気づいていなかったな。確かに背中に何か背負っているような感覚がある。いったいいつの間に。
「おー、言われてみれば確かに背中に何かありますね、気づきませんでした」
背中のものを手にとって眺めてみる。カバは武器といっていたがこれが今の私の特技に当たる部分なのだろうか。陽にかざしてみる。鈍くきらきらと輝いている。よく見ると私の角に形がよく似ている。やはりこれは私の特技で間違いなさそうだ。しかし使い方がよくわからない。
(そういえば私を倒したあの人間の持っているものと形状が似ている気がするな)
私はあの時の人間と同じように短い柄のほうを持ち構えてみる。不思議だ、何故か手になじむ。持ち方はこれでいいようだ。ためしにぶんぶんと振り回してみる。ひゅんひゅんと武器が風を切る。今度は両手で持ち振ってみる。おお、両手のほうがなかなか威力が出そうだな。これからしばらくこの武器のお世話になりそうだ。だが相変わらず風の力を感じることはできない。まあこのことに関しては図書館で調べればわかるだろう。
「図書館を目指しているのだが何処に行けばいいかわかるか?」
「この丘から向こう見渡すとゲートがありますのわかります? あそこがさばんなちほーの出口ですわ」
カバの指差す方向をよく見ると確かに門のようなものがみえる。奥には鬱蒼とした木が生い茂っている。
「図書館へ行くのならゲートを抜けてじゃんぐるちほーへ向かうといいですわ、そこにもフレンズがたくさん住んでいますから尋ねればきっと先の道のりがわかると思いますわ。くれぐれも気をつけるんですのよ?」
フン――私にかかれば此処のフレンズ共など造作も無い。軽くねじ伏せてやれる。まあそれは向こうに明確な敵意があればなのだが。
「貴様はどうする? 私と共に来るのか?」
「ゲートまでなら行きますよー」
「そうか、わかった。くれぐれも私の足をひっぱるなよ?」
「それはこちらのせりふだと思いますけど」
「何 か 言 っ た か ?」
「いえ、何にも言ってませんよー」
「ふふっ、仲がいいんですのね」
シマウマが聞き捨てなら無いことをぼそりと言った気がしたがまあいいか。それに別にこやつと仲がよくなったわけではないのだが、まあ言われて悪い気はしないな。
カバに別れを告げ水場を後にする。後に私に襲い掛かる敵が待ち受けているとも知らずに――。
今回は主人公の特技が明確になりましたー。剣士スタイルですね。モンハンでもよく大剣使ってたので剣にしてみました。
次回はいよいよ戦闘です!