通算UAが23000人を超えました!まだまだいけるぜ!メルツェェェェル!!
少し、サブタイトルを変更しました。
早速どうぞ、ごゆっくりと
~第61層・セルムブルグ~
そこは辺り一面大きな湖に囲まれた島。割合としては湖7、島3ぐらいの
そこに一軒の家では少しだけ特別なことがあったそうな。
中には二人の男女がくつろいでいた。外は夜なので、もう御夕飯も済ませたのだろう。
家は綺麗に整っておりこじゃれた椅子や机などの家具が置いてある。そのことから女性が所有している家である。
微かな花の香りと紅茶の香りが混ざり合い、ちょうどいいくらいに空気に溶けている。はっきり言って落ち着く空間だ。二人もそれを味わっているのだろう。
「S級食材なんて二年も経つのに初めて食べたわ~。今まで頑張って生き残ってて良かった~」
栗色の長髪で可憐な少女、アスナは上機嫌そうに言う。
「そうだな」
黒い私服の少年、キリトもそれを聞いて共感するように言う。すると、アスナは少しどこかしんみりした声で話をする。
「……不思議ねぇ。なんだか…この世界で生まれて、今までずっと暮らしてきたような、そんな気がする……」
キリトも一口、紅茶を飲んで共感する。
「俺も最近、
キリトもしんみりとした雰囲気が出る。
二人がそんな感覚に陥るのも無理はない。なんせ、事実だからだ。このデスゲーム、『SAO』に監禁されてから、あと少しで二年が経つのだ。
最初こそ、皆で力を合わせて、絶対に勝とう、脱出しよう、と死に物狂いでやっていたものの、約二年の歳月も経ってしまえば、人間はいま目の前にあることを楽しむ。要は『余裕が生まれる』っということだ。たとえ、監禁されていようとも、ある程度の自由が許されているのなら、皆はその自由を謳歌する。工夫をして退屈、置かれている身の惨状から目を背ける。まさに少年の言う通り、数多くの、いやもう9割の人たちはそんな状態になっている。
二人もそこに片足を突っ込んでいるような状態になっているのだ。
「今、最前線で戦っているプレイヤーなんて500人もいないでしょ?……皆、
少しだけ空気が重くなる。しかし、アスナは声を明るくして言う。
「でも、私は帰りたい。」
「!」
キリトは少し驚く。女性は自信満々な表情で言う。
「だって、
その表情と声にキリトは微笑み、ポツリと呟く。
「……そうだな。俺達が頑張らなきゃサポートしてくれる職人クラスに申し訳がたたないもんな」
そう言って、キリトはまた一口、紅茶を口に含む。
「……あっ、あぁ…やめて」
すると突然、アスナがこんなことを言ってきたのだ。
「?なんだよ?」
突然のことにキリトも怪訝そうに聞いた。
「今までそういう顔した人から何度か『結婚』を申し込まれたわ」
「っ!!??」
今のアスナの発現に思いっきり動揺するキリト。そんな驚嘆と焦りが入り混じったような顔を見たアスナはクスクスと笑う。
「その様子じゃぁ、他に仲のいい子とかいないでしょう?」クスクス
「…っ!いいんだよ、ソロなんだから!それに俺には――」
「『ソルがいる』って言うのは無しよ。ああいう人は大抵誰とでも仲良くなれるタイプだから、当然ノーカンよ♪」
「うっ……」グイッ
「ふふふ…」
キリトはアスナの指摘に完全に黙ってしまった。さきほどの指摘は図星なのだろう。それを誤魔化すかのように一気に紅茶を飲み干す。
アスナはそんな反応を見て楽しみながら紅茶を一口。
そして、真剣な眼差しになる。攻略組の時の顔だ。キリトもその表情を見るなや、真剣な眼差しになる。
「キリト君はギルドに入る気はないの?」
「……え?」
「ベータ出身者が集団に馴染まないのは分かってる……でもね――」
一呼吸置いてアスナは続ける
「――70層を超えたあたりから、モンスターのアルゴリズムに
「………」コクリ
アスナの言葉にキリトは無言で頷く。
今までの、70層前までは例えモンスターが強くても、とある一定の周期での攻撃パターン、隙などがあった。例え行動性がランダムでも、しっかりと攻撃への予備動作があった。
しかし、70層を超えたあたりから、モンスターの行動パターンが露骨に読み取りにくくなったのだ。無造作ではなく、しっかりとした、プレイヤーからしてみれば質の悪い攻撃を仕掛けてくるようになったのだ。
「……ソロだと想定外の事態に対処できないことがあるわ。いつでも緊急脱出できるわけではないのよ」
「安全マージンは十分とってるよ。それに、パーティーメンバーは俺の場合、助けよりも邪魔になることの方が多いし、ソル以外はな」
キリトはそう言う。こんなに可愛い童顔な顔をして、全く可愛くないことを言う。
そんな発言に――
「あら」
ヒュンッ……!
「!?」
キリトの目の前に食事用のナイフを突き出すアスナ。
「………」ドドドドドドドド
無言の威圧とは正にこのことを指すのだろう。
「わ、分かったよ。アスナも例外だ」
キリトが冷や汗を掻きながら言う。さっきのナイフの動きのキレは人を殺せるんじゃないかぐらいのナイフ裁きだとキリトは思った。
「そっ」
アスナもそれで納得したのかナイフを引っ込める。それに安堵するキリト。第三者が見れば、脅迫と言っても可笑しくなかっただろう。
そしていきなり、
「なら、久しぶりに私とコンビを組みなさい」
「なっ!?」
その発言にキリトは二度目の驚嘆の顔を見せる。アスナはナイフをペン回し感覚で手の上で回しながらこう言ってきた。
「今週のラッキーカラー、『黒』だし」
もはやその理由がすごい無茶苦茶だった。
「なんだそりゃ!?んなこと言ったって、アスナ、ギルドはどうするんだよ!?」
「うちはレベル上げノルマとか無いし」
「じゃ、じゃぁあの護衛は?」
キリトの言う護衛とは第50層、アルゲードでソルと会う少し前のこと。キリトはエギルの店で偶々、アスナに会った。その時にアスナの傍にいた護衛『クラディール』のことだ。長身で痩せた少し不気味な男。しかも、キリトがベータ出身者だと分かったとたんに『ビーター』だの『こんな奴に劣っている訳がない』など、難癖をつけてきて、危うくひと悶着が起きる所だったが、アスナの割り込みがあったのと、周囲に目立ったおかげでなんとかなったのだ。
当然のことだが、キリトはそんな彼に対して苦手意識を持っていた。
そんなキリトの発言に、
「置いてくるし」
アスナはまるで彼を置き物のように言ってきた。
「………」
キリトもこれ以上言っても無駄と悟ったか、それとも断る理由が見つからなかったのか、すっかりと黙ってしまった。また誤魔化すように紅茶を一口と―――
「……っあ」
カップの中には紅茶はなかった。それを見通していたかのようにアスナは紅茶の入ったポットを持っていた。
キリトはそれに甘えて、カップを差し出し、アスナは紅茶を入れる。
キリトがカップを受け取った時にはアスナは既にコンソロールを操作して
ピコン!
キリトにパーティー申請を出していた。
それに対し、キリトは紅茶を飲み、ささやかかつ、最後の抵抗を口にした。
「最前線は危ないぞ」
キィィィン!!!!!
「ぃッ!?!?!?」
眼前に突きつけられるは光を纏ったナイフ!しかも風圧が発生するほどの速さ!
恐ろしく速いソードスキル。作者でなきゃ描写するのも見逃しちゃうね。
「ワ、ワカッタ……」ポチッ・・・
(ささやかな)抵抗も虚しくキリトは『〇』を押す。
おお、勇者キリトよ。屈してしまうとは情けない。
「ふふ~ん♪」
その後のアスナの笑顔が怖いと思ったキリトであった。
「あっ、あと一つ聞いてもいいかな?」
「ナ、ナンデショウカ?」
アスナは咄嗟に思い出したように言ってきた。キリトは、まぁ、ロボット気分になっていた。
アスナの質問はほんの些細な興味であった。
「ソル君のこと、どう思っているの?」
「……え?」
想定外の質問だったのか、キリトは反応に少し遅れる。
「ソル君のことよ、さっきの発言だと、……なんかだいぶ仲良さそうだったみたいだし。……」
「別に良いけど……(どうしたんだ、急に?)」
キリトは内心疑問に思いながらも、アスナに話すことにした。別に本人がいるわけでもないし、知り合いになら話してしまっても構わないだろう。っと、キリトはそう考える。
一方のアスナはと言うと…
(なんでこんなに執着しているのかしら…?まさか…まさか
っと、内心では乙女チックと嫉妬心が段々と渦巻いている、言った本人がなんか急に混乱している。ほんの些細な疑問がここまで本人を変えてしまうものだろうか?
まぁ、そんなことは置いといて、キリトは考え込みながら言う。
「そうだな、ソルかのことか……まぁ、たまに会って組むときとかあるけどバフ要員として結構助けられているよ。おかげで多少無茶してもゴリ押しでなんとかなる。まぁ、その度にソルに怒られるけど」
「当り前じゃない!?何サラッと危ないことしてんのよ!?」
「うぐっ!ま、まぁそっちの話は置いといて、……まぁ、あとはそうだな~、意外とソルはああ見えても人の心を読むからな~」
「え!?彼そんなこともできるの!?」
アスナは驚く。それを尻目にキリトは続ける。
「心を読むって言うより、人間観察って言った方がしっくりくるな。あいつはそれがとっても上手なんだ。どのタイミングでどんなバフをすればいいのか、状況判断が優れているんだ。だから最前線でも色んな対応ができるんだ。実際にあいつのおかげで何度もレイドやギルドが態勢を持ち直したか……。俺には真似できない」
「そう言われてみれば…そうね。ソル君がいなかったらとても危険な状況がいくつもあった……。もちろん、キリト君もいなかったらそれこそ攻略組のメンバーは今の半分もいなかったわ」
そう言って、アスナは紅茶を飲む。キリトもひと段落して紅茶を飲もうとした時だった。今度はキリトの方からフッとでた疑問に思ったことをアスナに聞いてみた。
「……あ、そういえばアスナ。ソルにもギルドの勧誘はしたのか?」
「え?」
突然の質問にアスナはワンテンポ遅れて反応する。
「だからソルにもギルドの勧誘はしたのか?って。ソルは唯一のバフ要員だぜ。他のギルドからは喉から手が出るほどの要員だろ?それなのにあいつは今もギルドに所属していないし、正直、
キリトの口から出たギルド、『血盟騎士団』、通称『KoB』は、他の人から最強と謳われているギルドの団長、ヒースクリフが声をかけてできたギルド。元々は小規模ギルドだったが、今では攻略組のトップを務めるギルドの内の一つとなっているのだ。
キリトの質問に、その最強が率いるギルドの副団長を務めているアスナは、カップを置き、何やら悩んだような顔をしながら、キリトの質問に返す。
「う~ん……それがなんだけどね…、結構前からその話があったのよ。ソルを血盟騎士団に入れないかって話。最前線でも彼は色んなところで役に立つ。聞こえは悪いと思うけど、彼は色んなところで使える。だから彼を正式な一員として引き入れようとしたの。実際に、
「?なんか含みのある言い方だな…。誰か反対でもしたのか?」
キリトがそう言うと、アスナは如何にも困惑と疑問を漂わせるような顔をしながら言った。
「その反対をしたのが、
「………え!?」
キリトは酷く驚いた顔をしたのだった。
「あのヒースクリフがか!?」
「そうなのよ。……しかも反対したのが団長さんだけ。そのことによって、ソル君の案件は思いっきり空中で分解してしまったの。だから保留なんて言えない、完全に却下みたいなものなの」
「……理由は一体…?」
「それが分からないのよ。聞きたいのに肝心な時にいないし、いる時と言ったら攻略中の時だけだし……、暇な時なんてホントに稀なのよ」
「副団長のお前にもか?」
「ええ、そうよ。よほど、ソル君を嫌っているのか、はたまた他の事情があるのか…」
「……………」
アスナの結構意外な答えにキリトは完全に黙ってしまった。何はともあれほんの些細な疑問がまさかここまで発展するとは思わなかったのであろう。当然、アスナも気まずそうに黙りこくってしまう。
どれくらい経ったのだろうか?
それすら分からないが、沈黙を破ったのは、
「まぁ、どんなことがあろうと――」
「!」
「俺は
キリトだった。
キリトはそう言って、目を閉じて、過去を振り返る。まだ2年くらいの付き合いだが、その内容はとても濃いものだった。
第1層の会議の時、
黒猫団の件の時、
そして、各層のボス攻略の時、
挫けそうな時はいくらでもあった。
でも、そんな時に、いつも横にいた者たちの一人がソルだった。
ソルはβテスターでもなければキリトのようなゲーム廃人でもない。初心者であり、1層の時にボス戦前にアスナと揃って、「スイッチって何?」って聞いてきたのは今では笑える思い出だ。
そんなキリトもソルと出会ってすぐはやはり距離をとっていた。
βテスターとビギナー。
当初はその壁が存在していた。βテスターからしてみればビギナーは自分たちよりも上手くないし、足を引っ張る存在、ビギナーからしてみればβテスターは金や経験値を効率よく稼げるポイントを独り占めしているといった偏見や嫉妬の存在と言ったように、全員が全員ではないが大半はそういう思い込みをしていた。
なので、ボス攻略戦でもそういった理由で嫌悪感漂う雰囲気になっていたのだ。
しかし、ソルやエギル、アスナといった、βテスタービギナー関係ないく皆でクリアしようとする者たちの存在や、どんどん階層が開放されていくうちに人々の中でどんどん差別感が薄らいでいった。
理由は簡単だ。「βテスター・ビギナー云々で争いごとをしている場合ではない」っと、気づいてくれる人たちがどんどん増えてくれたからだ。
βテスターでも死んでしまう人は少なくはないし、ビギナーから強い人たちが出てくることも多い。
そんなわけで、今ではもうβテスター・ビギナーでの差別を持つ人はほとんどいなくなった。ただ悲しいことにまだ一部の人たちはそんな差別感にとらわれているのが事実だが。
話を戻そう。そんなキリトもソルやアスナや他の人と出会ったことによっていつの間にか、仲間として、親友として見る目が変わってきたのだった。
この変化は本人ですら驚くくらいに劇的にしかし、目立たずに変わっていたのだから。
「なんか、ちょっと羨ましいわ」
アスナの口からポロっとそんな言葉がでてきた。
「?何が羨ましいんだ?」
「だって、キリト君にこんなにも信頼されてて……ソル君って意外と男からも
アスナのその発言にキリトが危うく吹きかける。
「お、おいおい!言っとくがアイツとはそんな関係じゃないからな!」
「あら、別に変な意味じゃないわ。カリスマ的な意味であって、
「お願いだ、やめてくれ!!?本当にそっち側じゃないんだ!?だいたいアスナが変に誤解するような――!!!」
ワーワーギャーギャーウフフアーッ!
この後、キリトの
一方、50層アルゲードのとある店にて、
「―――っ!?」ザワワッ!?
「ん?どうしたんだソル?」
「いえ、ただ何となく背中に悪寒がして…」
「大丈夫か?もしかしたら疲れがどっと出たとか?」
「いえ、大丈夫なんですけど…」
「けど?」
「『僕はいたって
「なんだそりゃ」
「お~い!酒をどんどん持ってこ~イ!」ヒック!
「アルゴさん…酔ってませんか?」
「ああ、どうやらハメ外しすぎたようだな……全く」
「今日はもう御開きでいいですかね?明日もちょっと探索とレベル上げをしたいので」
「ああ、良いってことよ。それに今日はとてもうまい料理を御馳走になったしな。ありがとよ」
「はい、お粗末様でした。……アルゴさんはどうしますか?」
「ヒクッ!……ムニャムニャ…ZZZ」
ソルが指摘した
「さっきまであんなに騒いでたのにもう寝てるぜ……。仕方ない毛布でも掛けて寝かしとくか」
そう言って、エギルはアルゴに毛布を掛ける。それを見てソルは立ち上がる。
「アルゴさんをお願いしますね。それでは今日はおやすみなさい」
「おお、おやすみ。また来てくれよ」
エギルの店からでるソル。もう外は既に暗くなっていた。街灯と
帰路を歩くソルは不意に上を見上げる。
疑似的な星だが、綺麗だと心の中でつぶやくソルは独り思う。
(ここに来て、もう少しで2年…か……。他の皆は段々と仮想世界に慣れ始めてしまっている……。エギルさんやアルゴさんも……多分キリト君やアスナさんもこの世界に慣れてきている……)
およそ2年前、10000人のプレイヤーを絶望に落としたこの仮想世界。それも徐々に皆、喜怒哀楽が豊かになっている。
確かに、今でも脱出を目指している人はたくさんいる筈だ。いや全員帰りたがっているはずだ。
(笑ったり、泣いたり、怒ったり、楽しんだりしている光景は何よりも…何よりも…良いことの…筈なのに……―――)
―――未だにこの世界を恐ろしいと思ってしまっているのは僕だけなのか?
不意にソルの脳裏を横切るさまざまな思い出。
初めてのボス戦。
黒猫団の悲劇。
クリスマスイベントでの友人との衝突。
チーズケーキを求めて森の奥深くへ。
オレンジギルドを退治に花の園へ。
雪山でついでにドラゴンを退治したこと。
3人だけのS級食材パーティー。
そして、ケイオスちゃんとの約束。
(これらの思い出は全て大切なもの……でも)
目を瞑れば、そこには母、祖父母や親せきの叔母と姉妹、そして先生。
(僕は帰らなきゃいけないんだ……絶対に……生きて帰らなきゃ)
ソルは再び前を向き、歩き始める。
そして次の日。まさかあんなことが起きるなんて、誰もが予想しなかったのだろう。
さていかがでしたか?
たぶん今年最後の投稿です。残すところあと5日!新年を迎えるために大掃除をしなければなりませんね(笑)自分、部屋が散らかっているので(泣)
年越しでもソルの闘いは終わらない!
それでは次回予告です!
ソル「――っ!?悲鳴が!?」
キリト「あのバカ野郎…!」
アスナ「駄目えええええええええ!!??!!??」
74層で一体何が!?3人に待ち構えている者は一体!?
次回「煌きは星の如く、交わりは渾沌の如く」