プロローグに続いての第一話です。
どうぞ、ごゆっくりと。
亀の如く云々とはいったい何だったんだ…(白目)
2022年 11月6日 18:30
ここは仮想空間、もっと言えばVRMMORPG『SAO(ソードアート・オンライン)』の中の世界、『浮遊城 アインクラッド』の一番下にある第一層のとある野原。
時間が時間なので、日は落ち、すでにフィールドは夜に包まれていた。
そして、その野原をとある一人の少年が一本のでっかい
しかし、どこか様子がおかしい。少年の走りはまるで何かから逃げているかのように全速力で走っていた。
(…なんで、こうなったんだろう…)
棒を担いで走る少年、黒井陽太はそんな思考にふけりながら、脚を止めないで走っていた。
~遡ること5時間と35分前~
11月6日 12時55分頃
「宿題は大丈夫?」
「うん、今日の分は全部済ませたよ」
「部屋の温度は?」
「ちゃんと暖房は入れたよ。あと空気清浄機も入れといたよ」
「そう。…陽ちゃん、別にゲームをやるのは良いけど、長時間のゲームのしすぎは駄目よ。ちゃんと、休憩とかも挟んでね」
「うん、分かったよ。お母さん」
「それと…、ネットは良い人もいるらしいけど、ずる賢くて、意地悪な人もいるらしいからね…。ちゃんと気を付けてね…」
「分かってるよ。心配性だね、母さんは」
「それはもう、心配で心配で…何か…嫌なことが起こりそうな気がするのよ」
「大丈夫だよ。あっ、もうそろそろ始まるよ。夕食の時間になったら切り上げるから」
「うん、5時半ぐらいには下に降りてきてね」
「うん、わかったよ」
陽太との最後の確認と約束をした母は、彼の部屋から出て、扉を閉めようとしたときに…、
「あっ、最後に一つだけ…。しっかり楽しんでね!陽ちゃん!」
「うん!」
パタンとドアが閉まり、トトトッと、階段の音がしたのを確認すると、手元に置いてあったヘルメット、『ナーヴギア』を頭に装着し、ベッドの上で仰向けになった。
そして、
13:00の表示になったと、同時に、
「リンク・スタート」
彼がそう言った瞬間、目の前に虹色が視界いっぱいに広がったと思ったら、視界が真っ暗になった。
ここは浮遊城アインクラッドの第一層、『はじまりの街』
そこには一人の少年が立っていた。見た目は165cmぐらい、顔立ちもごくごく普通である。
(結局、アバターは今の自分に近いものになってしまった…)
少年、黒井陽太改め、『ソル』は近くにあった噴水の水に反射した外見を見ながら、そう思った。
(しかし…ホントに…)
ソルはあたりを見渡しながら、
「すごい!」
少し、興奮した口調で言った。
そこには色んな人が立っていたり、歩いてたりしていた。この人たちもプレイヤーなんだと、改めて実感していた。
全員の始まりの地点でもあるため、街はとても賑わっている。武器を見ていたり、道具などを見ていたり、もうカップルになっている男女のペアもチラホラといる。
皆が皆、このゲームを楽しんでいるんだろうなと、十分に伝わってきた。
(さて、僕も『
先生との約束、『狩猟笛だけを使ってゲームをプレイする(ただし体術スキルは使ってもよい)』という約束のためにソルは早速、武器屋に行った。武器屋には色んな種類の武器が売っていた。片手剣に盾、斧、棍棒、槍などなど、ホントにゲームの名前通り、刃物系の武器しか売っていない。
武器屋はたくさんあるため、狩猟笛もいくつか売っているだろうと、予想したソル。
(これだけ武器屋さんがたくさんあるんだ。探せば簡単に見つかるはず!)
そう意気込んで武器屋の通りを駆け抜けていくソル。
1時間後
(おかしい…、なんで見つからないの!?)ゼェゼェ
あれから、何度も見回ったが、見つからない。1つも売られているところを見たことがない。
(先生が情報を間違えたのかなぁ?…いや、そんなはずない…)
先生が集めた情報によると、狩猟笛は『はじまりの街』で買うことができる武器だとあらかじめ聞いていた。どこかにある、それは間違いない。しかし見当たらない。
「ここじゃなくて、他のところにあるのかなぁ?とにかく、ほかのところにも行こう」
ソルが呟きながら、他の場所へ移動しようとしたら、
「おい、そこの若い兄ちゃン」
「?」
後ろから声がしたので振り返ってみると、フードを被った女性が立っていた。顔には髭のようなペイントが塗られている。
「えっと…、僕ですか?」
「そうダ。他に誰がいるっていうんだヨ」
「え、えと、…なにか?」
ものすごくキョドる陽太。実は身内以外の人との接触はあまりなかったため、若干のコミュ不足だったりする。
「お前、さっきから同じ所を何回も行ったり来たりするから、何やってんだと思ってナ」
「ええ~っと、実は…」
陽太はその女性に今の状況を話すと…
「お前、本気カ?」
こう言われてしまった…。少しだけ心に突き刺さったが、
「え…、は、はい」
オドオドしながら答えると、
「まっ、いっカ。とりあえず付いてきナ」
そう言って女性は歩き出した。とりあえず、女性に従ってはぐれないように付いてくるソル。しばらく歩くと…
「ここがお前の言ってた『狩猟笛』の店ダ」
っと言って目の前のボロボロの家を紹介される。どうやらこのボロボロの家が狩猟笛を扱っている店のようだ。
「じゃあナ」
そういって踵を返して歩いてきた道を戻る女性。
「あ、あの!ありがとうございました!」
ソルは女性に対して礼をした。すると、女性は振り返らずに手を上げてひらひらと手を振って行ってしまった。
「ここに、狩猟笛が売っているのか…。とりあえず、入ってみよう」
そう言いながら、ボロボロの家に入るソル。そして、それを見ていたさっきの女性。
「…珍しい奴もいるもんだナ。まさか、あの
チリンチリン…
ドアについてたベルが静かになる。
「ごめんくださーい」
すると奥から、
「おお、いらっしゃい。旅人さんよ」
一人の老人がでてきた。多分NPCだろう。
「ここで狩猟笛は売っていませんか?」
「おお、笛ね。ちょいっと待とれ」
ソルが確認をとると、老人がまた奥に行った。
しばらくすると、老人がよろよろと戻ってきた。
「これでいいかね、旅人さんよ?」
老人は布に覆われた全長180cmはあろう物を持ってきた。
「今ある中でのうちの最高傑作じゃ。」
そう言って、布を取ると、まさにでかい笛だった。ところどころに動物の骨らしきものがついており、また、青い毛皮が巻き付いている。
「これはこの街の外にいる青いイノシシの素材を使ってできた笛でな、音は比較的低めなので少し肺活量が多い人でないと取り扱いが難しい代物だ。しかし狩猟笛を扱いたいのなら、これぐらいのをマスターしないと、今後はきつくなるぞ」
「なるほど…持ってみてもいいですか?」
老人の了承を得ると、早速持ってみたソル。現実だと、こんなものは、まず絶対に持てない。しかし、ここはゲームの世界。少し重たいが、困るほどの重さではない。手に取ってみて、色んな動作を確認すると…
「おじさん、これください。何『コル』ですか?」
ちなみに、『コル』はここでのお金の単位である。
「おお、買ってくれるのかい!そうだのぅ、買ってくれたのは君が初めてだから、2000コルのところを半額の1000コルでどうだろうか?」
そうすると、購入の表示がでてきた。
すぐさまソルは所持金を確認すると、1500コルのお金を持っていた。買うことのできる金額だ。
そのまま[購入する]の表示を押すと、所持金の残金額が500コルになった。
「はい、まいどあり。いやぁ~、君が初めて笛を買ってくれた旅人だよ」
「そうなんですか?」
「まぁ、見てのとおり、店がボロくてね…。しかもこの街にはここしか笛が売ってないんだよ」
(そうか、だからあの武器屋の通りにはなかったのか…)
「あと、この街ではここでしか笛の強化や生産ができないから、何か新しい素材でも持ってきてくれたら、いつでも作ってやるぞ」
「わかりました。いろいろとありがとうございます」
そうして出ようとしたとき、
「待った」
いきなり老人に呼び止められた。ソルが振り向くと…
「いいか、狩猟笛は君が思っている以上に非常に、
真剣な表情で忠告する老人。内心ビクッとなりながらもソルは、
「はい、わかってます。でも
そう返して、店を出るソル。その後姿を見た老人はどことなく嬉しそうな顔をしていた。
16:30
場所は変わって、ここは街の『外』、つまり『圏外』である。ここではモンスターが出現するので、基本的には経験値や素材・資金稼ぎなどは、モンスターと戦うか、圏外での採取、またNPCからの『クエスト』をこなすしかない。
今ソルはどうしてるのかと言うと、
「ブウゥゥゥウウー!!……うん、予想していたよりも、使いにくいね、コレ」ゼェゼェ
今まさに、狩猟笛の使い方の練習の真っ最中である。かれこれ吹き始めてから2時間が経つが、いまだに思うように綺麗な音が出ずにいた。まだまだレベルが低い証拠である。しかし諦めずに、悪戦苦闘しながらも、遂に、
「スウゥゥゥウウ……、ボエェェェェエエ!!!……!!やった!これだ!この感覚でやればいいのか!」
やっとのことで、まともに吹けるようになったソル。確かに、低い音ではあるが、それでも綺麗な音には違いない。綺麗な笛を吹けたことに喜ぶ陽太であったが、
(でも、まだまだだ…。これをいつでも吹けるようにしなくちゃ!)
そう、意気込んでいると…
ガサ…ガサ…
後ろから何かの足音がしたので、振り返ると…
「フゥー、フゥー」
青い毛並みのイノシシがこっちに近づいてきた。このイノシシはおそらくモンスターだろうう、どうやらさっきの音に誘われたみたいだ、ソルはそう思うと同時に…
(今のうちに、戦闘とかも覚えたほうが良いかもしれない…)
そう思いながら、笛を構えるソル。イノシシもこっちの存在にやっと気づいたのか、見るなり、いきなり突進をしてきた。
「!…っふ!」
ギリギリのところで躱すソル。
(っく!笛が重たい!躱すのがギリギリになってしまった!)
体勢を立て直すと、またイノシシがこっちに突進をしてきた。
「…っ!はっ!」
慌ててまた躱すソル。
(これじゃぁ、まったく埒があかない!こうなったら…!)
また体勢を立て直すと、またまたイノシシが突進をしてきた。
しかし、ソルは今度は躱そうとはせずに、笛を横にして、前方に構えて、
そして、
ガッシイィィイン!!
イノシシの突進を受け止めるソル。イノシシも負けじと力ずくで押し出す。ソルはタイミングを見計らって、
(ここだ!)
笛を使ってイノシシの突進の方向を変えた。当然イノシシは目の前の目標を見失って、止まり、後ろを振り返った瞬間、
「っふん!」ブンッ
ドゴォ!
勢いよく横から来た大きな笛がイノシシの体を吹き飛ばす。これにはイノシシも横向きに倒れた。そのチャンスをソルは見逃さずに、
「はぁっ!!」ブンッ
ドガァ!
次は上から来た笛が、イノシシ目掛けて振り下ろされた。
ソルの初の戦闘であり、初の勝利でもあった。
「…や、やった…!」
喜ぶソルの目の前に、今回の経験値と手に入った素材の表示が出てきた。それを確認すると、ソルは座り込んだ。
(確かに勝ったけど、まだまだ笛を扱いきれていない…。実際に笛の重さで振り回されたところが何回かあった…。)
次の戦闘に生かすために反省を始めたソル。しかし、反省もすぐに終わり、
(まずは笛での戦い方を身につけるんだ!狩って、狩って、経験を積み重ねるんだ!)
そうして、次の目標を探し始めたソル。
それから1時間ぐらいが経とうとしていた。
(よし!今日はここまでにしておこう。それにだいぶ慣れてきた…!)
ソルもだいぶ慣れてきたようだった。レベルも4になり、笛の扱い方も慣れてきた。ここで、ソルが笛を使っていて分かったことがあった。それは、
・攻撃する際に、笛から色のついたオーラみたいな物がでてきたこと
・そのオーラの色は3種類あったこと
・オーラは同色含めて4回分まで貯めることができ、5回目以降は古いオーラ順から上書きされてしまうこと
この3つだった。他にもなにか新しい発見があるかもしれないが、時間が時間だったので、ひとまず、ログアウトしようとした。
(えっと…、指をかざして軽く上から下に、おお、メニューが出た…、そこからさらにログアウトを探して……)
あれ?ない…。
ソルは背筋がゾクゾクッとなるのを感じた。ログアウトボタンが見当たらない。そんなはずはない。ログアウトがなかったら、ゲームを終わることができない。もう一度探してみるも、やはり見当たらない。嫌な予感が冷や汗となって頬を伝う。
(…やっぱり、ない。どういうことなの?こんなことって…。それにさっきからもう嫌な予感しかしない…)
経験上、ソルもとい黒井陽太は自分自身のことをよく知っている。その中でも一つは、
自分の感じた嫌な予感は…
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン…
絶対に当たる。
街から響いたであろう鐘の音が、彼の頭を、脳内を叩きつけるような感触として伝わった。
瞬間、
彼の体は青白い光に包まれた。
いかがでしたか?
第一話はとりあえず、戦闘シーンの表現を入れてみました。
どうでしたか?分かりやすかったですか?伝わったか、ちょっと心配です(汗)
初戦闘ではクリティカルを出して倒しましたが、この狩猟笛には他の武器と違って、ある致命的な弱点、ゲーム(SAO)上必須な
では、次の話でお会いしましょう。
次回 「デスゲームなのに現実」