過酷な第十三話です。
大変遅くなってしまい申し訳ございません!!
それではどうぞ、ごゆっくりと。
「どうした?まさか、もう忘れてしまったのか?私のことを」
「……忘れろって言われる方が無理ですよ…。今朝ぶりですね…」
ここは、第50層の街『アルゲード』の人気のない裏路地。そこでソルは、今一番、会いたくない人物に遭遇していた。
「あら?『アイツ』には随分と物腰柔らかい口調なのに、私には冷たいな」
「君も今朝の出来事を忘れましたか?僕を殺しかけて、そんな人と仲良くなんてできませんよ。それに…」
ソルはフード越しから鋭い口調で言う。
「『アイツ』とはクロちゃんのことで間違いないでしょうか?」
黒い少女は目を細めて言う。
「ほう、『アイツ』は自分のことをそう言っているのか。…まぁ、お前が言っていることは間違っていないな…ふむ、『クロ』か…」
少しすると、黒い少女は何やら思いついたようにニヤリとする。
「なら、アイツが『クロ』なら私は、『シロ』とでも名乗っておこうか」
「…『シロ』…」
「驚いたか?まぁ、私も正直驚いているよ。『アイツ』いや、『クロ』も相当なもの好きだな……でも」
シロはソルを見つめる。
「今から
「!?」ブオッ!
バギイィィイン!!!!
まさに、一瞬の出来事である。シロがソルへ尋常じゃない速さで接近し、
「へぇ、今のを防ぐなんてね…、お前、結構
「ぐぅぬぬぬっ…!!(は、速い上に、お、
ソルが驚いたのは、シロの『筋力値』だ。
SAOでは主に大まかに『筋力値』と『俊敏値』に分かれていて、レベルアップなどをした際に貰える、ポイントを使い、どちらかに振り分けることができるのだ。速さ・回避を重視するなら『俊敏値』に、攻撃・防御を重視するなら『筋力値』にと、振り分けは各プレイヤーさまざまである。ソルは武器の都合上、そのためやや筋力値が高い、『バランス型』になっている。
そんな、ソルでも『重すぎる』と感じてしまうほどの攻撃。別に、シロのことを甘く見ていたわけでも、ソルが油断していたわけでもない。
「遅い」シュバッ!!
「なっ!?(ガードが間に合わな――)」
ドゴォ!
少女の目にも止まらぬ打撃が、ソルの横腹に直撃する。ソルはガードが間に合わず、吹き飛ばされてしまい、壁に激突する。
「が、ガハァッ!!??」
痛みは来ないが、それでも尋常じゃない衝撃に声が漏れるソル。HPバーが一気にイエローまでに突入する。シロの筋力値に再度驚くソルだった。
しかし、何よりも驚いたのが…
(『障壁』が
そう、紫の障壁が発生しなかったのだ。ここは『圏内』だ。『決闘』以外での攻撃は全て障壁に阻まれる。しかし、発生しなかったのだ。もちろん、シロに『決闘』を申し込んだ覚えも、申し込まれた覚えもないのに、HPバーが減少する。
「ふふっ…、言ったでしょう?私にはお前を終わらせる『力』があるって」
「…くっ…!(今は、それどころじゃ、ないのに……!)」ハァ・・・ハァ・・・
よろよろしながらも、立ち上がるソル。ソルはあくまで、目の前にいる少女と対決しに来ているわけではないと言う自覚を持っている。
「どうしたの?はやく攻撃してきなさいよ?それとも、さっきのでビビったのかしら?」
シロはソルに対して挑発的な言葉を放つ。その顔は、如何にも相手を馬鹿にしているような不敵な笑みをした顔だ。
しかしソルは…
「い、今は…君を…相手にしている、時じゃないんだ…!!」
ソルはバッサリと切り捨てる。今の目的は、どこかに行ってしまったもう一人の少女、クロを探さなければいけないことだ。それを忘れてはいけない。
シロはさらに面白げな表情で言う。
「ふ~ん。…まさか、
「………………」
「どうやら、図星のようだな。そんなにアイツのことが気に入ったのかい?」
「……君には関係ないよ」
「またしても図星だな。ふふっ、まるでアイツみたいだな。ろくに何もできないくせして、それでもいっちょ前に誰かのために頑張ろうとする。分かりやすいほどの泣き虫で、肝心な時に役立たずで、無能な存在だ」
「それは違うよ」
「違わなくない。ただ見ているだけのことしかできない、愚か者だ。そんな奴に生きる価値なんてない。そういう奴を見ているだけで怒りが、憎しみが、殺意が、……ふつふつと沸いてくる……!」
シロは口調を強くする。
「だから…!お前が…!お前が!憎い!!殺したいぐらい憎い!!どうせ、
「……?」
ソルは違和感を覚える。先ほどまで
(『お前も同じ』…?どういうこと?)
「…!ふんっ!私としたことが、少し熱くなり過ぎたわ。まぁいいわ、どうせ…」
シロがそう言うと、彼女の手に持っていた白く大きな武器を振りかざす。
「お前は、ここで終わるから…」
ビュンッ!!!
「っ!」ッバ!!
ドゴオォォオオン!!
剛速球並みに迫ってきた打撃を、ソルは間一髪のところで避け、一気に距離をとる。
「…っち。ちょこまかと…。ゴキブリか何かか、お前?」
「君もよく、そんな重たい武器をブンブンと振り回せるよね…。どれだけのレベルなの?」
「レベルなんて関係ない。お前に対する『殺意』が私を強くする」
「……なんで、僕を殺そうとするの?僕には君に恨みを買うようなことは――」
「お前の『存在』がすべての理由だ」
「…答えになっていないよ。少なくとも、僕には全然分からない」
「分からなくていい。分からないまま終わってしまえ…!」ッバ!!
「っく!(駄目だ。会話に持ち込めない!)」グォッ!!
またもや目にも止まらぬ速さの一撃がソルに襲い掛かる。ソルは未だにシロの動きを見切れていないため、受け止めるしか選択肢がない。
ガギギギギイィィィイン!!
2度目の重く、低い金属音のような音が鳴り響く。
その時、
バキンッ
「そんな!?!?ふ、笛が!?」
ソルの笛、ブロンズクレイ・ホルンが砕けた。そのことによって、明らかに動揺をしてしまうソル。無理もない、ソルの所持している武器の中でも1番の打点力をもつ武器がたったの2発で耐久値が限界に達し、砕けてしまったのだ。
「終わってしまえ!!」ブゥン!!
「っつぅ!!」
振り上げられる笛を掻い潜るように回避しようとするソルだったが、
「逃げられると思うなぁ!!!」スゥ・・・
シロは武器のとある部分を口で
バアアアアアアアン
「グハァッ!!??」
「ぐう、ううぅぅ…」
身体から空気が抜けるような感覚に襲われ、身体の自由が利かなくなる。だが、同時にソルはあることに気づく。
(【高音衝撃波】…!?ま…、まさか…!あの…白い、武器は――)
ソルは今までの経験上で、その武器がどんな武器か感づいた、いや、感づいてしまった。その武器は――
(アレは…間違いなく…『狩猟笛』だ…!!僕…以外にも…使っている人が…いたのか…!)
シロの使っている武器は、『狩猟笛』。ソルは多分この約1年と半年で一番二番ぐらいに驚いた事実であった。
「…
そう言いながらシロは、身動きの取れないソルに近づいて、
「どうせ、虫の息だ」ッガ!
「くふぅっ…」
ソルの首を片手で絞め上げ始める。ソルの身体は地面に足がつかないほどに持ち上げられる。しかも、徐々にHPバーも減っていく。
「くぅぁぁぁぁっ……!!」ガシッ・・・
ソルはシロの腕をつかみ、必死に抵抗をするが、シロは涼しい顔でソルを眺めていた。
ソルは、振り絞るようにして言う。
「や、やめて…放して…!!!」
「ふふっ、やだね」
しかし、シロはソルの要求をバッサリと切り捨てる。その間にもHPバーは減少する。
「は、放、して…!」
「やだねったら。そのまま絶望して、終わるといいわ。フフフ…」
そして、HPバーがとうとう、尽きようとした
その時、
バサッ……
「…ぇ?」
「…は、放…し、て…」
不意にフードが取れて、ソルの顔が露になる。
「ひっ!?!?!!??!?!?」ゾワッ
瞬間、シロは先ほどまでとはまるで別人と思えるぐらい、怯えきった表情になった。
「あ、あぁ…あぁぁぁああっ!!」
しまいには身体が震えだし、ソルの首を掴んでいた手の力が弱まる。
「カハッ!ゲホッ、ゲホッ!!」
ソルはそのまま尻もちをつき、咳き込む。HPバーも見えるか見えないかになるぐらいまでのギリギリの状態だった。
「そ、そんな…あぁ、そ、そんな………な、なんで!?」
「ゼェ…ハァ…ゼェ…ハァ…」
「なんで…あ、
「ハァ…ハァ…(急に…どうし…たんだ…?様子が…)」
「わ、わたし…わたし……な、なんて…こ…ことを……!!」
シロはだんだんと息遣いを荒くする。
「こんな…こんな、筈じゃぁ……ぁぁあ!!」
「……ど…どうし――」
「ヒィィイ!!!???」
ソルは息が絶え絶えになりながらもシロに声をかけるが、もはや、まともな受け答えができない状態になっているのがソルにでも分かる。
「お、落ち着い――」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
まるでロボットのようにひたすら謝罪をし続けるシロを見て、ソルは異常な光景に思わず絶句してしまう。
そして、
「アアアアァァアァアァアァアアァァアアァァアァァァアアアアァァ!!??!?!???!???!??!?」
ヒュンッ!!
少女は
「………ハァ…一体…ハァ…何が?……ハァ」
しばらくすると、また肩を上下に動かしながら呼吸をし始めるソル。先ほどまでの出来事をまだ理解しきれていなかった。
(なんで…急に、僕に…謝って……?…殺しに来た筈じゃぁ…?そもそも…僕は
次から次へと、答えの見つからない疑問が生じる。ソルは頭を捻って考え出そうとするが…
(…いけない。早く、クロちゃんを…探さないと…!)
そう考えて、ソルはなんとか立ち上がろうとする。
しかし、彼も緊張の糸が切れたのか、はたまた、先ほどの数発の凄まじい衝撃に耐え切れなかったのか、
「あっ――」
ドサッ……
そのまま、気を失ってしまった。
(…ん?ここは…?)
どのくらい経ったのだろうか、ソルが目を覚ますと、
そこはソルがいた路地裏だ。どうやら気絶をしていたらしい。
すると、
「あっ!やっと目が覚めたんだね!『そるおにいちゃん』!!」
「!」
どこか落ち着くような聞き覚えのある声。その主は…
「く、クロちゃん!?クロちゃんなの!?!?」
「うん!」
白き少女、クロだった。クロはソルが目覚めた時が付くと、すぐに抱き着いた。確かにソルも無事なクロに再会できて安心と嬉しさを感じた。しかし、
「クロちゃん!!」
「!?」ビクッ
ソルの怒鳴り声が響く。思わず、クロもびくりと体を震わせる。
「今までどこにいたの!?心配してずっと探してたんだよ!?」
ソルも強く抱きしめ、クロを叱る。当然だ。急にいなくなったのだから。
「ご、ごめんなさい……」
怒られたショックなのか、シロは俯いて、涙声で謝ってきた。
「もう、勝手にどこにも行かないでね…。僕も心配になるから…」
「ごめんなさい」
「…もういいよ。僕も怒ってないから…」
ソルは優しくクロに声をかける。しかし、クロは首を横に振る。
「ううん、違うの」
「…っえ?何が?」
「………」
「く、クロちゃん?」
急に黙り込んでしまったシロ。シロの突然の沈黙にソルは困惑し始める。
「と、とりあえず宿に帰ろう?話はそこで――」
---違うの---
シロの言葉と同時に、
世界は、
黒くなった。
「…………………え?」
ソルは突然の出来事に固まる。しかし、シロは続ける。
---ずっと…そるおにいちゃんに隠していたことがあったの……。出会ってすぐに、
「……い、言わなきゃいけないこと…?」
---はい。でも…もう言えないの…---
「…言えない?なんで……?」
シロの矛盾している発言にソルは戸惑いを隠せない。シロは俯きながら言う。
---
その言葉に、ソルはすぐに勘付く。
「『シロ』のこと?」
---……---
クロは首をゆっくり盾に振る。
---あの子は…シロちゃんは…本当はわたしがいないとダメなの。そして、わたしもシロちゃんがいないとダメなの---
「?」
---わたしたちは…お互いに欠けてちゃ…ダメなの…だからね、行かないといけないの…---
そう言って、クロはソルから離れていく。どんどんと遠くへ行っていく。
「クロちゃん!?」
---ごめんなさい、そるおにいちゃん。もう、行かないと……。短い、たったの1日だけだったけど…楽しかったよ…---
ソルはクロを追うように走り出すが、距離は縮まらず、さらに距離ができていく。
「ま、待って!一体どこに行くの!?」
---シロのもとに行くの。もうこれ以上はそるおにいちゃんを巻き込みたくないのです。でも---
クロは今までとは想像ができないぐらい真剣な顔をしてソルに言う。
---でももし、わたしたちのことを知りたいのなら…この層の、50層のボス部屋に来てください…。そこにとある
「50層のボス部屋に…?」
---それでは…---
「!待って!!クロちゃん!!!クロちゃん!!!」
ソルはあらん限りの声で叫びながら手を伸ばす。しかし、クロはどんどん小さくなり、
やがて、光はソルを黒い世界を包んだ。
「待って!!」ガバッ
ソルが手を伸ばした先は、天井。
「っ!ここは?」
どうやら寝ていたことに気づいたらしく、起きあがり、キョロキョロと周囲を見渡す。
「ここは…僕が使っている宿…?」
どうやら自分の使っている部屋だった。よく見ると、見覚えのあるテーブルや椅子、キッチンがある。
(い、今さっきのは夢…?…でも……)
先ほどの出来事に考え始めようとするソル。ふと、あることに気づく。
「…メッセージだ…。送り主は…エギルさんからだ」
メッセージが何件も送られてきている。どれもエギルからだ。内容は、どうやら安否の確認らしい。外はすでに日が落ちかけ夜になろうとしていた。
エギルの店に来たのはお昼前辺りだ。そこからクロがいなくなり、追跡し、シロとの遭遇、更に瀕死寸前までのダメージを負い、気絶してしまってから今に至るまでにだいぶ時間が掛かってしまったようだ。多分、心配して何度も送ってきてくれたのだろう。
ソルはエギルに無事のメッセージを送る。
(これで良し。…あとは……)
クロとシロの件だ。ソルは深く考え込む。
『でももし、わたしたちのことを知りたかったら…この層の、50層のボス部屋に来てください…』
(……クロちゃん…シロ…一体、君たちは…『何者』なの…?)
ソルの今、一番求めている答え、それは2人の正体だった。シロに関しては、会った時から、尋常ではない者だと感じていたが、クロもまた然りだった。クロも色んな疑問点を残していたからだ。
(クロちゃんが教えてくれた場所に『答え』はある。でも………)
多分、クロの言われた通りの場所に行けば答えは見つかるかもしれない。しかし、それは望まない、後悔する答えなのかもしれない。
その可能性に、ソルはなかなか答えを出せずにいた。
(どうすれば…いいのだろう…?僕は……僕は……)
悩んでいる中、ふと、ある人の
---陽太、どんな時でも、いつか『選択』を迫られる時が来る。そんなもん人生の中では何十回、何百回、何千回もある。その大多数が『苦渋の決断』だ。もちろんどっちかを選んだとしても決していい方向になるわけではない。それは俺も例外ではない。そんな時に、お前はどっちを選ぶ?
…もし、どうしても迷うのなら、その時は――
――『考えずに突っ込め。思いっきり暴れて滅茶苦茶にしてしまえ。』。それが一番スッキリする『選択』だ。別に2つ3つの中からどれらか1つを
(…そうだ。別に選ばなくたって良いんだ…!自分の満足できる『結果』を探せばいいんだ!)
ソルは立ち上がる。その目には固い決意がこもっていたのだ。
(今、僕のやるべきことはたった一つ――
――クロちゃんを連れて帰ることだ…!!)
フード付きローブを着た少年は笛を担いで宿を出る。すでに外は夜になっている。外出している人もそれぞれの宿に戻り始めたのか、少なくなってきた。
そんな中、笛を担いだ少年は『迷宮区』へ入り、とある場所へと目指す。
自分の決意、選択と共に、少年は迷宮区に姿を消した。
いかがでしたか?
前書きにも書いた通りですが、更新が遅くなってしまい、本当に申し訳ありませんでした。
今後とも、こんな形で間が空いてしまうかもしれませんが、それでも読んでもらえるならとてもうれしいです。
さて、次回ですが、ついにクロとシロの正体が明かされる!?鍵になるのはなんと『狩猟笛』!?はたして、ソルに待ち受けているものとは?そして、とあることを知った時、ソルはどうするのか?
今日はとりあえず、ここまでとさせていただきます。
では、次のお話でお会いしましょう。
次回 『魂の混沌 正体と真実』