ギニューの身体が消滅するのを傍目に見ながら、俺達はボロボロになって地面に倒れる悟空の容態を確認するためにすぐさま駆け寄った。
「お父さん!!」
「大丈夫か悟空!?」
「へ、へへ……ちょ、ちょっぴりまずいかもな……正直動けねぇ……せ、仙豆ももうねぇし……」
すぐに死ぬことはなさそうだけど、動けないほどに重症であることは間違いない。悟空が地球から持ってきた仙豆もさっきのギニュー特戦隊との戦闘でボロボロになってた俺と悟飯とベジータが食べたので最後らしいし、このままだとまずいぞ……。
「チア! いくらなんでもやり過ぎだろ!!」
「知るか。私にとっては見知らぬ塵だ。そもそも敵に手心を加える意味はないだろう」
そしてその当の本人はというと特に悪びれる事もなく何でもないようにそう口にした。
確かにさっきまで敵のギニューとかいう奴と身体が入れ替わっていたから攻撃をするのは理解できるが、それにしても普通ここまでやるか? しかも俺達が止めに入らなかったら間違いなく悟空の身体ごとトドメをさしてただろうし…………さすがに止めに入った俺達ごとやろうと思ってないよな……?
「チア……そっか、おめぇが宇宙船に忍び込んだっちゅーヤツか……」
「そういう貴様が孫悟空とやらか……聞いていたほどではないな」
「そういうおめぇは……き、気を感じねぇけど……強ぇな。お、オラ、なんとなく、わかっぞ……」
そういえばこの二人は初対面だったな。……というかそんなに身体をボロボロにされても怒らずに、相手の強さに心なしかワクワクしてる辺り悟空らしいというか何というか……。
「というかチアは何でその戦闘服着てるの?」
「どこぞの塵屑に服をボロボロにされたからな。そこの宇宙船で調達しただけだ」
「そ、そっか……ギニューのヤツが最初からボロボロだったのはおめぇと戦ってたからなんだな……」
ギニューにケガ負わせたって……あのベジータだってその部下のリクーム相手に手も足も出なかったってのに、さすがにそれはないだろ……いや、でもチアのヤツ、慣れていない悟空の身体の状態とはいえあのギニューを圧倒した上で、身体が戻った後も一瞬で消し飛ばしてたからなくはないのか……? だとしたらどれだけの実力を隠してるんだ……?
……いやいや、今気にしないといけない事はチアの事じゃない。今一番気にしないといけないのは……
「――――無様な姿だな、カカロット。今の貴様なら簡単に殺せそうだぜ」
「ベジータ……」
いつの間にかもう一人いた特戦隊員を倒していたベジータが悠々とこちらへと近付いてきていた。
そうだ、今一番気にしないといけないのはベジータだ。
悟空がボロボロの今、俺達の中でベジータに真っ向から対抗できる可能性があるのが、実力が未知数のチアくらいしかいない。しかも今の口ぶりからしたらすぐにでも悟空を殺してもおかしくない。
願いの叶え方はわからないものの、ドラゴンボールも全て揃っている現状でベジータが俺達を生かしておく保障は全くないんだ。
「ま、まさかお前、ここで用済みとか言って俺達を始末するつもりじゃ……!?」
「ふん、安心しろ。今殺す気はない。不本意だがその傷を治療してやるからカカロットを連れて付いてこい」
「へ……?」
その予想外の言葉に変な声が出た。あのベジータが悟空を治療するって聞こえたけど、聞き間違いか? そう思った俺の呆けたような顔を見たからなのか、ベジータが面倒臭そうに説明を付け加える。
「フリーザとの戦いが控えている今、戦力は多いに越したことはない。貴様らは微力だが、カカロットの戦闘力やカカロットのガキの底力も必要になってくるだろう。……そこのクソガキもそれまでは見逃してやる」
最後にチアを一瞥しながらフリーザの乗ってきた大型宇宙船の中へと向かうベジータに、戸惑いながらも後を追うべく悟飯と一緒に悟空を運ぼうとした時、ふと疑問が過ぎった。
「あれ……? 何でベジータがチアの事を知ってるんだ……?」
「え……あ、そういえば……」
「お、おめぇたちと一緒に会ったんじゃねぇのか……?」
「た、多分会ってないと思うけど……チア?」
「答えるつもりはない」
悟飯の問いかけを一蹴して会話を終了させたチアに、そんな言い方ないだろうと口を出そうとするが……
「おい、時間がないんだ、早くしろガキども!!」
先を行くベジータに急かされて、俺達はチアへの追及を後回しにして悟空を連れて宇宙船の中へと足を踏み入れた。
(★)
私は今、この星を蝕んだ巨悪と対峙していた。
願い玉の使用方法を知るために最長老様の居住まで来たフリーザに対し、最長老様の死によって願い玉が消滅する事を伝え、そして戦闘時の最長老様への巻き添えを考慮して戦場を変える事を承諾させ、少しでも時間を稼ぐ事に成功した。
あとは少しでも戦いを長引かせてフリーザをこの場に足止めする。それこそが私の役割だ。
「驚いた……戦闘力からしてギニュー隊長に匹敵していたことにもですが、実際に私相手にここまで渡り合えるとは……」
「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」
遊び感覚で傷もついていないフリーザに対し、こちらは生傷が絶えず息も絶え絶えという状況ではあったが、しかし何とか戦いという形にはなっていた。
最長老様に潜在能力を引き出していただいてなければここまで持ちこたえる事すらできなかった。おそらくは遊ぶように甚振られて地に臥せ、戦えない状態に陥っていた事だろう。
「本当にお強い……改めて私の部下になりませんか?」
「くどい!!」
「理解できませんね。この星にいたところで、最早滅びゆくだけでしょうに……」
「その滅びを齎した貴様が何を言う!!」
ナメック星人の無念を抱く私の叫びに、フリーザはただ、ふふふ……と笑みを含ませるだけであった。その様子はまるで、「それがどうした?」「その程度の事に怒っているのか?」などと大した事ではないだろうと言わんばかりであった。
「では、ドラゴンボールの願いの叶え方を教える気もまだないと……」
「貴様のような邪悪には教えるわけにはいかない。それに…………最早、聞く意味もなくなるだろう」
「何? それはどういう――――」
私の含みを持たせたその言葉に、フリーザが今までにない反応をした
――――その瞬間、空が暗くなった。
「――――!? な、何だ!? 空が、暗く……!? この星に夜はなかったはず……!? 貴様、何を知っている!?」
「さてな。だが、今頃はデンデと合流をした地球人が合言葉を聞いて願いを叶えている頃だろうさ」
「な……!? まさか……あの時擦れ違ったガキか……!!」
ナメック星の気候にここまで空が暗くなるという現象は存在しない。この星で空が暗くなる要因としてはただ一つだけである。
願い玉による『夢の神』ポルンガの顕現。
……どうやらデンデは無事彼らの元まで辿り着けたようだ。時間稼ぎとしての役割は最低限上手く行ったようで胸を撫で下ろす。
「貴様は単なる時間稼ぎに過ぎなかったと……!? く……急いで宇宙船まで戻らなければ……!!」
「行かせん! 今度はこちらに付き合ってもらうぞ!!」
勝てずともヤツをこの場で足止めする程度ならば今の私であればできる!
その間に、願いを叶えて早急にデンデを連れてこの星を離れてくれるのを祈るしかない。
懸念があるとすればあのサイヤ人と邪悪な子供だが……私に気にする余裕がない以上、地球人たちに期待するしかない。
今は命を賭してフリーザをこの場所に少しでも長く留めなければ……!
「……仕方ありません。本来であれば使うつもりはなかったのですが、あなたに後ろから邪魔をされるのも鬱陶しいですからね」
怒りが収まったわけではない。むしろその内で轟々と燃え盛っているのだろう。先程までのお遊びとは違う、真剣さがその表情から漏れ出していた。
つまり、ここからが本番である。
「あなたの実力を称えて、特別にその身に教えてさしあげましょう。この私の、本当の力というものを……!!」
(★)
お父さんをメディカルポッドという医療機器の中に入れた後、ないよりはましだとベジータから着替えるように渡されたフリーザ軍の戦闘服に着替え終わった時の事だった。
「……おい、あのクソガキはどこにいった?」
「え? クソガキってチアの事か? どこってそこに……」
「あれ? いない?」
ベジータに言われてチアがその場にいない事に気付く。お父さんをメディカルポッドに入れた時にはいたはずなのに……チアは既に戦闘服を着ていたから着替える必要がないっていうのはわかるけど、どこにいったんだろう?
「……まさか!?」
すると何かに気付いたのかベジータが血相を変えて部屋を飛び出していった。
「あ、どうしたんだよベジータ!?」
「お、追いかけますか?」
クリリンさんと一緒にベジータの後を追いかけると、辿り着いた場所は先程までいた宇宙船のすぐそば。お父さんがボロボロになった辺りだった。
そこでベジータは焦ったように何かを探す素振りを見せている。
「見当たらない……! 貴様ら、ドラゴンボールをどこにやった!?」
「え? どこにってそこに……ってあれ!?」
「な、なくなってる!?」
怒鳴りつけるようにこちらに問い詰めてきたベジータに答えようとするが、あったはずのドラゴンボールがなくなっているのを見て僕たちも驚きを隠せなかった。
確かにここにあったはずだ。地面に隠されていたドラゴンボールを掘り出して、ここで神龍を呼び出そうとして、そのまま置いていたはずなのに、どうして……!?
一体誰が……と僕たちも困惑しているけども、ベジータは誰が犯人なのかわかっているような口ぶりでこちらを責めてきたんだ。
「き、貴様ら、この俺を謀りやがったな!!」
「ち、違う! 俺達じゃない!」
「何が違う!! あのクソガキは貴様らの仲間だろうが!! 状況的に考えてあのクソガキ以外に持ち出せるヤツはいない!!」
「え、チア……!?」
「た、確かにそうだけど……」
言われて僕はようやく気付いた。チアであればここにあったドラゴンボールを僕たちに気付かれる事なく持ち出す事が可能だって事に。
「ま、まさかチアは俺達のとは別の、自分自身の叶えたい願いを叶えるつもりじゃ……!?」
「何だとっ!?」
「で、でも合言葉がわからないから持って行っても願いは叶えられないはずじゃ……!?」
そうだ、神龍を呼び出す合言葉がわからない以上、持ち出した所で願いを叶える事はできないはず……
「あのクソガキがぁ……今度こそぶっ殺してやるっ!!」
そんな僕の考えを聞く事もなく、ドラゴンボールを奪っていったチアを探すべく、怒り狂ったベジータが凄まじい速さで空へと飛び出した。
「こ、このままじゃチアが危ないですよ! 僕たちもチアを探しましょう!」
ベジータにひどい目に遭わされるかもしれないチアを身を案じてクリリンさんにそう提案したが、
「……いや、今はチアを探すべきじゃない」
「え……!? で、でもすごく怒ったベジータがチアを追ってるんですよ!? 放っておくわけには……」
「いくらベジータとはいえ気配を完全に消して高速移動ができるチアをそう簡単に見つけられるとは思えない。逆に言えばこれは俺達の願いを叶えるチャンスだ」
チャンス? むしろベジータと敵対しかねないピンチじゃないのかと僕は思ってたんだけど、それが顔に出てたのか、「落ち着け」と僕をなだめつつクリリンさんは説明を続ける。
「まずはちょっと最長老さんのとこまでひとっ飛びして合言葉を聞きにいくべきだ。チアも合言葉がわからない以上、ドラゴンボールを使えない。けど俺達はレーダーでその場所がすぐにわかるんだ。そこからさらに合言葉さえわかれば、ベジータを出し抜いて俺達の願いを叶えることだってできる!」
そ、そうか! ドラゴンレーダーがあればすぐにドラゴンボールの場所がわかるんだ! 混乱してたせいで頭から抜けていた……。
「チアに関しては……ベジータに見つからないことを祈るしかないな」
そうして僕たちはチアの無事を祈りながら全速力で最長老様の所に戻っていたんだけど、その途中でデンデがこちらに向かって飛んできているのを偶然見つけた。
最初は僕たちの格好がフリーザたちと同じ戦闘服だったせいで怖がられたけど、すぐに僕たちだってわかってくれたおかげで何とか合流できた。
「合言葉が違うのかドラゴンボールが使えなくて、今から最長老さんの所まで行こうかと思ってたんだ」
「僕もそのために最長老様に言われて来たんです。ナメック星の願い玉はナメック語じゃないと起動できないんですよ」
「ナメック語……そうか、やっぱりナメック星人の言葉じゃないとダメだったのか」
デンデの方からこっちに向かって来てくれたことで時間がだいぶ短縮できた。まだチアがベジータに見つかっていなければいいけど……そう考えながら僕はドラゴンレーダーを起動させる。
「クリリンさん、ドラゴンボールはあっちの方に七つ全部固まってます!」
「よし! じゃあ急いで向かおう! チアからどうやってドラゴンボールを取り返すか問題だけど、急がなきゃな」
「え? チアさんとは仲間じゃないんですか?」
「えっと……その辺りは後で説明するね」
デンデを抱えたクリリンさんと一緒にレーダーが指し示した場所へと飛び立った――――
――――その瞬間、空が暗くなった。
「――――え!? 空が暗く……!?」
「この星に夜はないはずじゃ……?」
「この急に夜みたいに暗くなる現象…………ま、まさか!?」
そして僕が指差していた方向に、巨大な光の柱が立ち昇るのが見えた。
(★)
孫悟空はメディカルポッドに入れられ、ベジータは悟飯とクリリンを連れて戦闘服に着替えさせている。さらにフリーザはどこかに向かって以降未だに戻ってくる気配はない。
これは、チャンスである。
奴らは来たるべきフリーザとの戦いを注視しているが、私は違う。
私にとって何より重要なのはこの病魔を晴らすこと。そのためだけに私はこの星まで来てやったのだから。
不用意にもそのまま置きっぱなしにされているドラゴンボールを手に入れた私は、その場から離れた。ドラゴンボールと私の失踪に気付かれたとしてもすぐに邪魔されないように、だ。
そしてある程度離れた場所で、ドラゴンボールを地に下ろす。周囲に人影はなく、邪魔する者はいない。
ついにドラゴンボールを手に入れた……! これで願いが叶えられる……!
その願いを叶えるための最後の一欠片、肝心のナメック語なのだが……これに関してはそもそも問題ではなかった。
「――――タッカラプト ポッポルンガ プピリットパロ!」
私は聞いた事もなかったナメック語を
理解できるようになったのは最長老に潜在能力を引き出させてからだが、思考すればナメック語に訳する事ができるようになっていた。
今はまだ拙い故に翻訳に集中しなければならないが、それでもドラゴンボールで願いを叶えるだけなら問題にはならなかった。
ブルマから教わっていた合言葉のナメック語訳を口にすると、夜の存在しないこのナメック星での空が暗くなった。そして輝きを放つ七つのドラゴンボールから光の柱が立ち昇る。
その光の柱の正体は、龍のような下半身に人のような上半身を持つ巨体の魔神――――『夢の神』ポルンガだ。
地球のドラゴンボールで出てくる神龍はその名の通り龍の姿をしていると聞いたが、ナメック星のドラゴンボールでは違うようだ。
……何故私がポルンガの名前を知っているのかはわからないが、知っていて問題になるわけでもない。一先ずおいておこう。
そして現れた光の魔人ポルンガがその口を開いた。
『さあ、願いを言え。どんな願いでも三つまでなら可能な限り叶えてやろう』
聞いていた話では叶えられる願いは一つだけだったが、問題ない。三つだろうが一つだろうが、私の願いは叶うのだから。
ああ、ようやくだ。これでこの忌まわしい病魔ともおさらばできる。
「では……私のこの身に宿る忌々しい病魔を一つ残らず消し去れ!!」
……………………………
……………………………
……………………………?
願いを口にしたが、待てども待てどもポルンガは一向に反応しない。
「……おい、早く私の願いを叶えろ。今言っただろうが」
『願いはナメック語で言うがいい』
……願い事もナメック語でないとダメなのか? くっ、普通にナメック語以外も話せるくせに、融通の利かない道具め。
「では――――」
改めて願いを口にしようと、頭の中でナメック語に変換している最中、それに気付いた私はその場から咄嗟に飛び上がるとほぼ同時に、私が今まで立っていた場所に何かが飛来しその衝撃で土煙が爆発的に舞い上がった。もう少しでも回避が遅れていれば、上がっていたのは土煙ではなく私の血肉になっていただろう。
「――――願いを叶えるのは、このベジータ様だっ!!」
その叫びとともに土煙を内側から裂くかのように、強力なエネルギー波が飛び上がった私に向かって放たれた。
そのエネルギー波をバリアーで防ぎ切り、気弾をお返しとばかりに撃ち出す。
ドラゴンボールへの被害を考慮したせいか、気弾を躱したベジータはこちらへと追撃に向かってくる。
「――――邪魔をするな、塵が」
願いを叶えようにもベジータが邪魔だ。まずはこの塵を排除する……!
チアがナメック語を理解できるようになった理由に関しては、少し……そこそこ先にはなりますが今後の物語で描写していきますのでお待ちいただければと思います…………独自解釈ではありますが。