ヤミを祓うは七つ球   作:ナマクラ

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第五話 襲撃!ギニュー特戦隊!

「ふふふ……これでフリーザ様は永遠の命を手に入れられる。大層お喜びになられるだろう」

 

 フリーザ様からの命令により侵攻中だった星から一時的に引き上げてこのナメック星に到着した我々ギニュー特戦隊は、到着直後に新たな命令をフリーザ様より拝命した。

 

 

 その内容は、ドラゴンボールの回収と裏切り者のベジータの始末である。

 

 

 ドラゴンボールとは何かとも思ったが、七つ集めればどんな願いも叶う道具らしく、フリーザ様は不老不死を願われるそうだ。

 そのドラゴンボール回収任務の過程で、フリーザ様に反逆しドラゴンボールを奪っていったサイヤ人のベジータや邪魔をしてきた異星人の子供も始末しろとの事である。

 

 

 そして幸先の良い事にスカウターで捕捉したベジータを追ってみれば、そこには邪魔者だという異星人の子供とともにドラゴンボールが全て揃っていたではないか。

 

 

 つまりこれで我々がフリーザ様より仰せ付かった任務は完了というわけである。

 

 

 なのでベジータ達の相手は部下に任せて俺はフリーザ様の元へドラゴンボールを届けている最中というわけだ。

 俺自身が始末してもよかったのだが、部下たちが前の任務でもいいトコ取りだったじゃないですかと不満を募らせたために戦果を譲ったわけだ。

 

 確かにこの所俺は美味しいとこを取っていたかもしれん。適度に部下に花を持たせるのもリーダーとしての役目である以上気を付けなければ……この任務が終わった後にでもパフェでも奢ってやるか。

 

 

 

 

――――そんなことを考えていた時だった。身体に衝撃を受けたのは――――

 

 

 

 

「――――な、にぃ……っ!?」

 

 気付いた時には戦闘服を破壊してエネルギー弾が肉体に着弾していた。襲撃を受けたのだと気付いた時にはすでにその衝撃によって制御を失ったドラゴンボールごと俺は重力と慣性に従って地面へと墜落していた。

 

「ガハッ…………ば、馬鹿な……この俺が、攻撃を受けるまで襲撃に気付かなかっただと……!?」

 

 痛みを堪えながら体を起こし、襲撃者の姿を探す。周囲に遮蔽物がないこの場所において、その存在を発見するのは容易であった。

 

「――――ちょうどここに七つすべて揃っているではないか。褒めてやるぞ塵屑」

 

 そう言いながら大地へと降り立ったのは、色の抜けたような薄い黄緑の髪をした目付きの悪いガキであった。

 

 目の前にいながら、スカウターを使用してもその数値は『反応なし』という有り得ないもの。これではこの俺に一撃を加えるどころか空を飛ぶことすら覚束ない……いや、そもそもそこにいるにも関わらず反応がしない時点で明らかに異常だ。

 

「こちらとしても時間が惜しい。さっさとそのドラゴンボールを置いて消えろ」

 

 そう手から黒いエネルギー弾を浮かべながらこちらを脅してくる。その間もスカウターは起動したままだが、その数値に変化はない。おそらくは予想通り、コイツは外部への戦闘力を欺く能力を持っているのだろう。

 

 今までに出会った中に戦闘力を抑える能力を持つ者はいたが、戦闘力を欺く能力を持つ者は初めてだ。

 

 不意打ちによるダメージから考えてもその戦闘力は相当なものである。少なくとも格下などではない。その上不意討ちによるこの負傷も重なれば……成程、確かにこのままでは勝ち目は薄い。ここまでの強敵は、いつぶりだろうか。

 

 さらに言えば、その体躯からしておそらくはまだ成長段階であるのだろう。グルドのように成人になっても体躯が小さい場合もあるが、その予測される戦闘力とそれを隠す能力は脅威としか言いようがない。

 

「く……くくく……」

 

 想定外の強敵の登場に思わず笑みが浮かんでしまった。当然、いきなり笑い出した俺を見てガキは訝しむ。

 

「何が可笑しい……気でも狂ったか、塵屑?」

 

 確かに気が狂ったように見えるのかもしれん。何せヤツからみて俺が笑う要素など何もない状況だというのにいきなり前触れもなく笑い出したのだ。もし立場が逆なら俺も相手の気が触れたのかと疑うだろう。

 

 だが俺は気が狂ったわけではないし、負けを認めたわけでもない。

 

「何……、貴様は確かに強いのだろう。もしかすれば、この俺をも容易に倒せる程の実力を持った戦士なのかもしれん……」

 

 

 

 そう、このままでは、だ。

 

 

 

 顔に装着したスカウターを取り外してその辺りに放り投げながら、俺はこのガキにその答えを見せてやることにした。

 

「――――ならば、その身体、いただくぞ」

「何―――――」

 

 

 

 

「――――チェーーーーーンジ!!」

 

 

 

 

 相手が疑問を抱いた事による間隙を縫って俺の必殺技、『ボディチェンジ』が発動した。

 

 体から放たれた光線はヤツに直撃し、そして互いの精神を入れ替わる。

 

 

 そう、ボディチェンジとは自分と相手の身体を入れ替える技。より強い戦士の肉体に変わり続ける事によって俺はさらに強くなるのだ!

 

 

 

 

 そして――――――

 

 

(★)

 

 

 

 

――――――渇萎枯溺潰病殺砕沈堕干苦磔腐壊破痛傷裂切刺穿消吐燃餓呪咒恨患溢凍斬惨焼糞縊禍穢瘴痺絞毒墜爆憤燃拷狂窒爛鬱弱溶滅滅滅滅亡亡亡亡死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■              ――――――

 

 

 

 

(★)

 

 

「――――はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!」

 

 

 息が荒くなる。体ではなく心が空気を求める。そしてその空気の味に心が歓喜する。

 

 

 精神に引かれて心臓が早鐘を打つ。その規則正しさに精神が落ち着き始める。

 

 

 精神的な昂ぶりが治まり始めるとともに先程受けた負傷の痛みが蘇る。その痛みに心底安堵する。

 

 

 何故、あの地獄から逃れられたのかわからなかった。おそらくはあの地獄から逃れようと無意識に再度ボディチェンジを発動させたのだと予想はできるが、今はただ奇跡的にその地獄から脱する事ができた事を喜びたかった。

 

 

 上手く言い表す言葉が出てこないためにアレを地獄と評したが、アレに比べれば地獄すらも生温いのかもしれない。 

 

 あの世界に身を置き続ける事など常人には出来るはずがない。もしもあの世界を日常のように過ごせる者がいるとすればそれはきっと、紛う事なき化け物だ。

 

 

 

 そして目の前に視線を向ければ、そんな化け物の化けの皮の剥がれた姿がそこにあった。

 

 

 

 頭蓋が内側から押し上げられたのか、二倍以上に歪に膨張をしていく頭部。

 

 

 青白くも瑞々しかったその肌が黒くくすみ、ミイラのように目に見えて萎れていた。

 

 

 口から吐き出される血は、液体とは思えないほどに粘ついており、そして明らかな腐臭をまき散らしていた。

 

 

 自重にすら耐えきれずに足の骨が圧し折れて肉を突き破り、その状態で無理に立っているせいでさらに骨が折れ、ついにはその身体を支える事が出来ずに地面に倒れさらに骨が折れた。

 

 

 目に見える範囲だけでもそれだけの異常を身体中に抱えながらも、こちらを睨み付けてくるヤツはまさしく化物と称するに相応しい姿であった。

 

 

「ぎ、ざまぁ……! 何を、したぁ……!?」

 

 血反吐だけでなく怨嗟に塗れたその言葉に答える事無く、俺はただ怖れ慄いていた。

 

「何だ貴様は……その身体は!? 何故生きていられる!? 何なのだ貴様は!? 何故あの死んだ方がマシだと思える責め苦に耐えられる!?」

 

 時間にしてみればほんの一瞬の出来事なのだろうが、実際にあの地獄に身を投じた俺には信じられなかったのだ。

 

 

 

 あれほどの地獄の只中にいながら、何故こちらに意識を向けられるのだ……!?

 

 

 

 思い出したくもないが、ボディチェンジが発動して身体が入れ替わった瞬間、俺のその視界は極彩色へと弾けた。

 

 

 身体中から激痛が走り、激痛が別の激痛を呼び、複数の激痛が合わさって新たな激痛を生み、それらを処理する脳すらもその無尽とも言える激痛の波に狂い果て、遂には思考する事すら困難になる。

 少しでも楽になろうと本能的に息を吸おうとすれば腐った肺が空気すらも腐らせたかのように更なる苦痛が襲ってくる。

 

 

 その痛みはまるで、身体を灼熱で焼かれるかのような――――身体中を刃物で串刺しにされるかのような――――内側から膨張して張り裂けそうになるかのような――――酸に溶かされていくかのような――――身体をミキサーにかけられるかのような――――全身を氷漬けにされたかのような――――外部から圧し潰されるかのような――――身体の端から削り落とされていくかのような――――全身を捩じりきられるかのような――――毒が全身を侵していくような――――力尽くで引き千切られるような――――そんな全てを例える事など出来ないほどに尽きる事のない数多の痛みが途切れることなく、誤魔化す事も出来ずに襲い掛かってくる。

 

 

 それこそ余計な思考など出来ないほどに。他の事になど構う余裕など生まれる余地のないほどに。

 

 

 いや、そもそも最早死んでいてもおかしくはない……むしろ、死んでいなければおかしい程の地獄で何故意識を保っていられる……!?

 

「何故……? 決まっているだろうが……生きたいからに、決まっている……! 優秀な私が短命で……、無能な貴様ら塵共は何食わぬ顔でのうのうと長生きをする……そんな世界は間違っているだろうがぁ……! それを、正しい形に戻すのだ……! ただ……それだけの事だろうがぁっ……!」

 

 掠れる声で、しかし魂にまで届くような悍ましさを内包したその言葉を血反吐とともに吐き捨てながら、症状を精神のみで抑えつつ既に立ち上がろうとしているヤツの姿を目の当たりにして、体が恐怖に震える。

 

 この俺が恐怖に慄く事などそう多くはないが、今回はその中でも例外である。例えばフリーザ様に初めて謁見した時にもあまりの強大さに身体が震えたが、しかし今回の場合とは種類が違う。

 

 フリーザ様には恐怖だけでなく大いなる敬意を抱いたが、コイツには敬意など一片も抱く事などない。ただただ根源的な恐怖が強烈なまでの嫌悪感と共に心の奥底からあふれ出してくる。

 

 

 

――――コイツは、生きていてはいけない。

 

 

 

 敵味方関係なく、コイツだけは何としてもここで殺さなければならない。そんな使命感すら抱いていた。

 

「貴様は……貴様だけは生かしておくわけにはいかん! 今ここで消えろ!」

 

 渾身のファイティングポーズを決める事で恐怖感や嫌悪感を振り切り闘争心を奮い立たせた俺は、未だに立ち直り切れていない目の前のヤツへと一撃を食らわせる。

 

「がはっ……! この……!」

 

 その戦闘力は驚異である。その精神力は異常である。だが、しかしその身体が本来戦闘に耐えられるものではない事は実際に体感している。

 

 故にこそ相手は近接戦闘経験が圧倒的に足りていない。しかもその身体は酷く脆く、今現在まだ立ち直り切れていないヤツに俺の攻撃を防ぐ術はない。

 

 しかしこの相手に戦闘経験を少しでも与えればそこから爆発的に強くなる。ヤツの意志の強さとその推定できる戦闘力を鑑みればフリーザ様に仇なす可能性が十分にあり得る。

 

 故にこのギニュー、容赦はせん!

 

 近接戦闘でその脆すぎる体を破壊する。肉を叩いているはずなのに、その感触はまるで果実を潰したようなもので、しかも叩くたびに腐臭をまき散らすその異常さに、嫌悪感がさらに高まっていく。

 

「げふ……! このぉ……、塵屑がぁ!!」

「トドメだ! ミルキーキャノン!!」

 

 その嫌悪感から、つい最後の一撃をエネルギー弾による爆破を選択してしまった。だがすでにボロボロにされたその身体ではさすがのヤツも避ける事も出来ずにまともに食らい、爆風に吹き飛ばされた勢いで海に落ちてそのまま海底へと沈んでいった。

 

「ハァ……ハァ……恐ろしい化け物だった。もし生かしていれば今後フリーザ様に仇なす存在になっていただろう。……死体を確認したい所だが、これ以上フリーザ様を待たせるわけにもいかん。急がねば」

 

 ヤツを始末できた事に心底安堵した俺は、先程放り捨てたスカウターを装着し直し、再びドラゴンボールを浮かばせてからフリーザ様の元へと急ぐ。

 

 死体の確認については、ドラゴンボールによってフリーザ様が不老不死を手に入れられてから進言してすればいい。それからでも遅くはない。

 

 

 

 

――――そう、俺は思っていた。

 

 




次回予告

 やめて! 渾身の気功波で孫君の身体を焼き払われたら、ボディチェンジで身体が入れ替わっているギニューの精神まで燃え尽きちゃう!
 お願い、死なないでギニュー! あんたが今ここで倒れたら特戦隊員との約束はどうなっちゃうの? 戦闘力はまだ残ってる。ここを耐えれば、チアに勝てるんだから!
 次回、『ギニュー死す』。デュエル、スタンバイ!

(※次回予告は実際の内容と必ずしも一致するわけではありませんのでご了承ください。)

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