ヤミを祓うは七つ球   作:ナマクラ

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難しいのはわかっていましたが、逆十字感が上手く出せない……要精進

今回はちょっと短めです。


第四話 力を求めて

「――――げほっ、ごほっ……! はぁ、はぁっ……! くそ……失敗した……!!」

 

 ここまで距離を離せば大丈夫だろうと、海中から陸地へと移動する。その際に大地にボトボトと腹部から漏れる血液が黒く斑点を作り出すが、どうでもいい。

 

 そんなことよりも先程の一件が失敗に終わった事が痛い。

 

 ベジータとの交渉がうまくいかなかったのはまあいいとしよう。変に煽り過ぎた結果だ。そもそもとして塵の要望に応えるつもりがない事に気付かれて乗ってこない可能性は十分にあった。

 

 だが、その後の不意討ちからの目隠しによるドラゴンボールの奪取に失敗したのが想定外であった。

 

 まさかベジータがああも簡単に特攻染みた捨て身の行動に出るとは予想外だった。それこそが最適解であるのは確かだったが、あそこまで躊躇なく選択するとは……少しでも躊躇すれば逃げられていたというのに……

 

「――――げぼぁっ!」

 

 そこまで考えて、腹の底からせり上がってきた黒いゲル状の腐った血液を口から吐き出す。吐き出しても吐き出してもキリがない。着ている服が傷口である腹部だけでなく前半分が既に黒とも赤とも何とも言えない色に染まってしまっている。

 

 こうなるのも当然だ。腹部が肉・内臓問わず先程のベジータの蹴り一発でグチャグチャになっているのだ。さらに言えば最後のギャリック砲とかいう気功波はバリアーで大体は受け流せたものの、その余波が容赦なく身体を襲ってきたために全身所々が傷だらけである。

 

 最適のタイミングでの回避とエネルギー波による威力減衰などの最善手を打てたというにも関わらず虚しくこれほどのダメージを負ってしまった。この柔すぎる体が忌まわしい……!

 

 このままでは思考を纏めるのにもままならないので、まずは口内と食道に溜まっていく腐り切った血反吐を全て吐き出し、懐の袋から取り出した仙豆をのどの奥に無理矢理押し込み、飲み込む。

 

 するとミンチのようになっていた腹部や所々焼け焦げていた肉体が元通りに回復する。

 

「はぁ……はぁ……よし、これでマシになったな……げほっ!ごほっ!」

 

 しかし肉体が元通りになるだけである以上、軽い吐血は止まらない。当然だ。それが今の私の通常通り(、、、、)なのだから。

 

 崩れそうになる肉体を精神力だけで留め、何とか活動できる状態を維持する。激痛は身体を駆け巡り、更なる痛みを呼び起こすが、そんな物は日常茶飯事(、、、、、)だ。問題ない。

 

 それよりも次に打つべき手を考えるべきだ……が。

 

「まずは……この付近に気配はないな……」

 

 ベジータの気配は今いる場所とは別の方角に移動している。おそらくは私を追いかけるよりも先程の戦闘が切っ掛けでフリーザに居場所を感付かれる可能性を怖れたのだろう。

 

 フリーザも変わらず移動していない。悟飯、クリリンも依然として不明……敵対し得る連中は近辺には存在しないようだ。

 

 続いて周囲を見渡す。ボロボロに破壊された建物にその辺りに大量の死体()が散らばっている。どうやらここはナメック星人の集落だった場所のようだ。ここを襲撃したのがフリーザなのかベジータなのかはわからないが。

 

「まあ、雨風は防げるか……」

 

 足元に転がる死体()に躓かないように気を付けながら比較的壊れていない家の中へと足を踏み入れて、何か使える物がないか家探しを始める。

 

「飲み水は……水がめにあるな。他には……お、服か。丁度いい」

 

 血で染まり切った服を脱ぎ捨てて、そこにあったサイズの合いそうな服に着替える。デザインとしてはデンデの服装に似ていた。おそらくはここに住んでいたナメック星人の子どもの服だろう。

 

 ゆったりとした服で全身を覆い隠せて、かといって動きにくいわけではない。肉弾戦などには多少支障が出るかもしれないが、そもそも私は肉弾戦をしないから問題ない。

 

「ふむ、まあいいだろう」

 

 家具も壊れていないのでそのままそこにあった椅子に腰かけて今後の事を考える。

 

 現状ではフリーザどころかベジータを出し抜く事すらできなかった。実際にドラゴンボールを一つとして奪えずに戦場離脱するので精いっぱいだった。

 

 

 ドラゴンボールを手に入れるには最低でもベジータを何とかしなければならない。

 

 

 だが今の私ではそれすらも難しい。かといって使えそうな道具はいない以上、私だけで何とかするしかない。

 

「力がいる……」

 

 それも時間をかけてなどいられない。手っ取り早く強大な力を手に入れる必要がある。

 

 しかしそんな都合のいいものなど、ドラゴンボールくらいしか思い浮かばない。ドラゴンボールを揃えるためにドラゴンボールが必要など矛盾にも程がある。とはいえそれくらいしか思い浮かば…………いや、待てよ。

 

「そういえばあったな。そんな都合のいい話が」

 

 ニィっと自然と口角が歪に吊り上がっていくのを、わざわざ止める気にはならなかった。

 

 

(★)

 

 

「――――俺が不老不死を手に入れても貴様らには手を出さんと約束してやる!」

「で、でも他に方法も……」

「それ以外に方法はない! 急げ! 間に合わなくなっても知らんぞ!!」

「……ぐ、ぐぐ……! や、約束は、絶対に守ってもらうからな……!」

「わかったから、全力で飛ばせーーッ!!」

「チックショーーーーーッ!!」

 

 地球人の二人とサイヤ人が飛び立つ。新たに空から降ろうとする五つの邪悪で強大なパワーがこの地に降り立つ前に願い玉で願いを叶えるために。

 

 その姿を見届けた後、私はデンデとともに家の中にいる最長老様の元へと戻った。

 

「最長老様、彼らは往きました」

「そうですか……」

「さ、最長老様……彼らは、大丈夫なのでしょうか?」

「わかりません。我々に出来る事はもはや彼らの無事を祈る事のみでしょう」

 

 デンデや最長老様が彼らを心配する気持ちはわかるが、しかしこのままでは彼らの目論見が叶う事はないと私は確信していた。

 

 何故なら今の彼らには願いを叶えるために必要なものが欠けているからだ。例え空から新たに来る五つの邪悪を退けられたとしても、だ。

 

 それに御気付きになられない最長老様ではないだろう。そしてそれをそのままにしておくような御方ではない以上、何かしらの手を打つはずである。例えば……

 

「ネイル、私は大丈夫ですので、あなたも彼らとともに――――」

 

 

 

 

 

「――――貴様が最長老とやらか」

 

 

 

 

 

「――――――!!」

 

 最長老様の御言葉を遮ったのは、いつの間にかそこにいた子どもだった。

 

 背格好だけ見れば先程の地球人の子どもやデンデと同じくらいの齢だと思える。だがしかしその内面は違う。その目からは他人を見下すかのような念しか感じられず、微かにしか感じられないが邪悪な気が隠し切れずに確かに漏れ出している。

 

 まさか侵略者たちの手がここまで伸びたかと思い、警戒を強めるが……

 

「あ、あなたはチアさん……? 悟飯さんやクリリンさんといっしょにいた……」

「何!?」

 

 デンデの言葉に思わず耳を疑う。このような邪悪の塊が彼らと共にいただと……!?

 

 しかし最長老様は特に動じる様子もなく、その侵入者に対し御声を掛けられた。

 

「あなたは……先程の地球人の方々のお仲間ですか?」

「仲間? はっ、この私があんな塵屑どもと対等であるものか。奴らなど所詮道具にすぎん」

 

 その言葉に何かを隠すような意図は感じられない。つまりこの者は本心から彼らを道具程度にしか見ていないのだろう。そしてそれをこちらに隠そうともしない。

 

「だがその道具が使えん道具である以上、今は私にも力がいる。貴様は潜在能力とやらを引き出せるのだろう?」

 

 私の力を引き出せ――――そう言外に要求する。その横柄な態度にやはりこの者が先程までいた地球人たちとは全く違う、邪悪であると再認識する。

 

「貴様のような邪悪なものに力を与えると――――」

「いいでしょう」

「最長老様!?」

「今は一人でも多くの戦力が必要な時です。それにもしかすると……」

「ならさっさとしろ。時間がないのだろう」

「では、こちらへ」

 

 如何に目の前の存在が邪悪であろうと、フリーザという巨悪を何とかしないといけない今、戦力は一人でも多い方がいい。確かに理屈としては正しいのだろう。

 

 

 だが――――本当にそれでいいのだろうか?

 

 

 もしかすると、フリーザという巨悪を倒すために更なる巨悪を生み出す事になるのではないか。

 

「これは……あなたは地球人では……」

「いいから早くしろ」

 

 そのような私の懸念に関係なく、最長老様の手がヤツの頭にかざされて、潜在能力が引き出された。

 

「ほう……成程、成程成程! 素晴らしいパワーだ! よくやった! 役に立つじゃないか! 褒めてやるぞ!」

「何と、禍々しい……!」

 

 先程の地球人たちの潜在能力も凄まじかったが、この娘の潜在能力も群を抜いている。何より解放されたそれをすぐさま完全に掌握して周囲に漏らさぬように抑えている……いや、隠しているのか。

 

 目の前にいた私にもその力の大きさを感じ取れたのは一瞬だけ。あの侵略者たちが持つという機械や自身と同様の感知能力を有する地球人たちにもその力の発露を感じ取る事は出来なかっただろう。

 

 その力はおそらく、戦闘タイプであるこの私をも優に…………!

 

 内心焦りを覚えながら、警戒を強めている私を気にする事もなく、ヤツは解放された力に満足しているようだ。

 

「ところで、ドラゴンボールだがただ集めただけで願いが叶えられるのか? 何か必要な符丁でもあるんじゃないのか?」

「それを知った所で今のこの状況、既にあなたが願いを叶えられるものではないと思いますが」

「この私を貴様ら凡俗の尺度で計るな。私は願いを叶える。必ず、どんな手を使ってもだ」

 

 で、どうなのだ。そう催促するようにヤツは最長老様に視線を向ける。その視線は言外に教えなければ無理矢理にでも口を割らせるとでも言いたげなものであった。最長老様がお亡くなりになれば願い玉も消失する事は知っているだろうが、何かの拍子に危害を加えようとする可能性もある。

 

 であればここで黙っているのは悪手だ。そう判断し、最長老様に代わり私が口を開いた。

 

「それに関しては問題ない。地球にも願い玉がある以上、合言葉は地球人の彼らが知っているだろう」

「……それならいい」

 

 これに関しては方便である。呪文、というほどのものではないが簡単な合言葉があるのは確かであり、おそらくはその言葉の意味が大きく違うわけではない事も確かだろう。そういう意味では地球人の彼らも合言葉を知っているのは間違いない。

 

 しかしナメック星の願い玉はナメック語ではなければ『夢の神』が現れる事はなく、願い事が叶う事もない。つまりはナメック語が使えない彼らではどうあっても願いを叶える事はできないのだ。

 

 そのため、先程最長老様は戦力でありナメック語を話せる私を彼らの元へと遣わせることで、その障害を取り除こうとしたのだ。

 

 

 

――――だが、この者がいるのであれば話は別である。

 

 

 

 例えフリーザという侵略者から護られても、この目の前の邪悪な存在に願いを叶えさせるわけにはいかない。

 

 

 それに、目の前の邪悪とは関係なく、何か悪い予感がする。最長老様の身に何か災禍が降り注ぐのではないかという悪い予感が。

 

 地球から来た彼らには悪いが、最長老様を御守りする事が私の為すべきなのだ。

 

 そう改めて決意を固めている中で、用は済んだと言うかのようにこの場を後にしようとするヤツの背中に、最長老様が一言御言葉をかけられた。

 

「あなたは、悪に染まる必要はないのですよ」

 

 そう窘めるようにかける最長老様のお言葉に、ヤツは最後に一言口にした。

 

 

 

「――――私は、望むべくして外道となったのだ」

 

 

 

 そう言い残し、ヤツは飛び立っていった。

 

 

「……願わくば、彼の者が正しき道を歩まんことを……」

 

 あのような邪悪にも気を掛けられる最長老様を見て、私は一つの決意をした。

 

「――――最長老様、御願いがあります。私の潜在能力も引き出してはいただけませんか」

 

 

 少しでも、邪悪に対抗する力となるために―――――

 

 


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