僕たちが地球を飛び立ってから一週間ちょっとが経った。まだナメック星までは遠いけど、僕らにちょっとした変化があった。
それは謎の密航者――――チアの存在だ。
宇宙船が飛び立ってすぐに見つかった彼女はやっぱり西の都で宇宙船に忍び込んでいたみたいで、元々はドラゴンボールを求めてカプセルコーポレーションにやってきたみたいだけど、紆余曲折あってドラゴンボールが使えなくなったことを知ってこの宇宙船に忍び込んだらしい。
チアの異様なまでの専門知識を不審に思ったブルマさんが問い詰めると、あっさりカプセルコーポレーションに忍び込んで資料や本を勝手に読んで、しかも持ち出していることが判明してまたブルマさんが激怒していた。
ちなみに性別に関しては不潔を嫌ったブルマさんによってお風呂に入らされた時に女の子だと判明した。
ブルマさんが「洗ってあげる」と言って一緒に入ろうとしてたが、チアは断固拒否して一人で入ったので、お風呂から上がって一目で女の子だってわかる程にキレイになった時には三人揃って驚いた。
クリリンさんは「か、かわいい子だな……」って呟いてたけど、僕もそう思った。あれだけ強い気を持ってるとは思えないほどに華奢で驚いた。正直本当に強いのかわからなくなった。
あとブルマさんは「見た目はいいのに中身がアレなのがすごく残念ね……あと目付きはヒドイまま」とも呟いてた……僕もそう思った。
そんなチアだけど、当初としては僕らも警戒していた。そりゃ無断で忍び込んだ人をそのまま信用するなんて事はできない。態度も態度だったし、何より彼女のあの一言が問題だった。
『ドラゴンボールを寄越せ』
チアは願いの内容を教えてくれなかったが、つまりは僕たちの目的とチアの目的は一見すると協力どころかむしろ敵対しかねないものだった。
その問題に触れた時、ブルマさんがまた怒りそうになったけど、チアはそれに一言付け加えた事でそれは解決した。
「私が使うドラゴンボールはナメック星のものでなくても構わない」
つまりはナメック星のドラゴンボール集めに協力する代わりに、地球のドラゴンボールが復活したらそちらを使わせろという要求だった。
そういう利害が一致しているのなら大丈夫だろうというのが、クリリンさんとブルマさんの結論だった。
僕としては単純に信じたいんだけど、クリリンさんは「なんていうか……アイツはピッコロとかと同じで基本は同調できないヤツだと思うぜ」って言ってた。ピッコロさんはそういう人じゃないって反論したら、「あー……そうか、そうだな。確かにそうだ。悪い」って訂正してくれた。
それにしてもチアも言葉足らずというかコミュニケーション能力が足りないというか……。いきなり「ドラゴンボールを寄越せ」なんて、言葉足らずにも程がある。
だってあの場面であんなことを言ったらどう考えてもナメック星のドラゴンボールを欲しがっていると思われても仕方がない。僕たちだってそんな事を言われて「うん」だなんて言えないし……
でもブルマさんが「コミュ障っていう奴ね。悟飯君はあんな風になっちゃだめよ!」なんて言ってたけど、さすがにそれはチアに失礼だと思う。
僕としてはチアと仲良くなりたいんだけど、基本的にチアは誰かと交流しようとせずに一人で別室に籠ってる事が多い。みんなでご飯を食べる時だって一度も一緒に食べた事がない。……いつ食べてるんだろう?
それでも全く交流がないわけではなく、ブルマさんに言われて嫌々ながら僕に勉強を教えてくれたりする。……理解するのが大変なんだけども。
隣で様子を窺っていたブルマさんやクリリンさんが「教えるの下手!」と言い切るくらいにチアは人に物を教えるのが苦手なようだ。なおチア本人は「塵に何かを教えるなど必要ないだろう」と開き直っていた。
そんなチアと僕らの中で一番話をしているのはブルマさんだ。
クリリンさんは「女同士話が盛り上がるんだろう」って言ってたけど、そういう理由じゃないと僕は思う。僕は女の人の事を良く知らないけど、普通女の人は動力の改修案や空間収納技術に関する話で盛り上がったりはしないと思う。
チアもブルマさんとの会話が有意義だと思っているのかそこまで嫌がっているようには見えない……と思ったけど、ブルマさんとの言い合いを見てみると諦めというか、面倒だからってだけでただ本気で相手をしてないだけのようにも見える。
ブルマさんはたぶんチアとの距離を少しでも埋めるために話しかけているんだと思うけど……向こうにその気が見られないから効果がちゃんと出ているのかあやしい。
そんなブルマさんはチアだけでなく僕にも気を遣ってくれている。僕が友だちになりたいって言ったチアに勉強を見てもらえっていったのもその一環だと思う。……効果が出ている自信はないけど。
そんな風にチアや僕を気に掛けてくれているのを見ていると、ブルマさんってお母さんみたいだなぁと思ってしまう。クリリンさんにそれを伝えたら「ブルマさん本人には言ってやるなよ」と忠告された。どういう事だろう……悪い事言ったつもりはないのに……
クリリンさんとはこの中では一番よく話していると思う。
特に宇宙船の中でも出来るような訓練――――戦い方の議論やイメージトレーニングなどをする事が多いけれど、とても勉強になる。
そういった訓練にチアを誘ってみる事もあるけど、きっぱり断られる時もあれば嫌々ながら参加してくれる時もあって、ちょっとは距離を縮められてるかなって思う…………参加してくれても嫌々なのが目に見えるのはどうにかならないかなぁ……
ナメック星まであと三週間くらい、それまでにもっとクリリンさんやブルマさん、そしてチアと仲良くなれたらいいなぁ……
(★)
地球から約30日強のナメック星へと向かう宇宙旅行、塵屑どもとの一ヶ月は苦痛以外の何物でもなかった。
思えば猫の話を聞いて西の都に向かったのが始まりだった。
カプセルコーポレーションに忍び込んだが、肝心のドラゴンボールを探すためのレーダーは持ち出されているとかでそこにはなかった。
幸い、そこは私の知識欲を満たすのに適した場所であり、隠れて書物を貪り読みながらそのレーダーの帰還を待っていた。
しかし帰ってきたかと思えば、ドラゴンボールは使用済みどころか、既に使用不可能になっていて、その復活のために別のドラゴンボールがあるというナメック星に向かうという事態になっていた。
控えめに言って訳が分からない。訳が分からないが、しかしドラゴンボールのために私はその宇宙船に忍び込み、ナメック星に向かう事に決めたのだった。
しかし忍び込んでいたカプセルコーポレーションから持ち出した書物類も早々に読み終わってしまった。もっと持ってきていればよかったと後悔する。
そして暇を持て余していると、鬱陶しい塵に絡まれ、鬱陶しい塵に教鞭を振るわされ、鬱陶しい塵の訓練に巻き込まれる。
本当に散々である。血反吐を吐くにも塵共の前で吐くわけにはいかないが故に、塵共が寝静まるのを毎日毎日どれだけ待ち焦がれていた事か。
なお警戒されていたらしい『ドラゴンボールを寄越せ』という発言は復活した地球のドラゴンボールを使わせろという事にしておいた。
まあそんなもの嘘に決まっている。
確かに私の目的が叶うのならばどちらのドラゴンボールを使うのでも構わないが、それが早まるのならそれに越したことはない。
やはり間抜けのようで、私の嘘をそのまま受け入れているようだ。せいぜい私の為に動くがいい塵共。
……優秀な私が病魔に侵され、間抜けな阿呆共が健康で、しかもそんな塵共に憐れまれるなど、耐えられるわけがない。やはり世界は間違っている。ああ、
少しでも早くこの病魔とおさらばするためならば、塵屑どもを利用するのに何のためらいがあるものか。
そしてようやく念願のナメック星に到着したのだ。しかし色々な面倒事が目まぐるしく起きた。
波乱万丈などという問題ではない。ナメック星に到着して一時間どころか10分も経ってない内に色々と起こり過ぎだ。
特に最後のは
ちなみに塵共は私が気弾を放った時に気の大きさが変化せずに感じられなかった事に驚いているようだ。
気を通常通りに解放していれば敵に気付かれ、気配を消すために抑えていたのでは敵に襲われた時に対応ができない。であれば、解放している気を隠すしかない。
外敵に不意打ちを食らうと致命的であったためにどちらのリスクも選ぶことができなかった私は、そのような考えの下に気を解放したままそれを外から隠す技術を身に付けた。
もちろん全解放した状態ではそれを完全に隠す事などできないし、そもそも全解放などすればこの脆すぎる身体が耐えられないのでしないのだが、通常時の力であれば外に出さずに解放する事も可能になった。
とはいえこの程度、訓練すれば誰にだってできる事だ。…………そう思っていたのだが、塵屑の反応を見る限り、相当珍しい技術のようだ。アドバンテージになり得る以上やり方に関しては隠す事にした。
閑話休題
使えない塵や鬱陶しい塵の事は一旦置いておく。今は行動するために状況がどうなっているかを理解しておく必要がある。
ブルマたちの話や先程の塵たち、サイヤ人に無数の邪悪な気配、これらを加味して私は次のように結論を出した。
「この星で感じる邪悪な気配というのは塵が所属している組織の塵共とその上司の塵で、それとは別にあの塵が来ている。つまりは塵と塵は塵同士敵対しているのだろう」
「ちょっとゴミゴミ言い過ぎて何が何だかわかんないわよ。もっとわかりやすく言いなさい」
これ以上ない簡潔な答えをブルマに反論された。何故これでわからんのか……理解できん。
要はサイヤ人のベジータとその組織は敵対している……つまりは裏切りという事だ。
もちろんベジータが組織に情報を提供して協力体制になっている可能性もゼロではないが、話に聞く印象からそれはないと判断できる。
俺様気質だというベジータが上司の為にドラゴンボールの情報を渡す? 有り得ない。むしろ隠し通して不老不死を叶えた後に下剋上をしようとするだろう。そうでなければ通信で知った情報を報告や援軍要請もせずに一年近くかけてたった二人で攻め込んでは来ないだろう。
あるいはそのサイヤ人が既に組織のトップの後釜に内定しているというのであれば話は変わるが……それならば無理に自らドラゴンボールを求めてやってくる必要はない。手下にドラゴンボールを献上させれば済む事だ。
「つまり……?」
「塵と塵の親玉がドラゴンボールを巡って内紛中だ」
そこまで説明して使えない塵共はようやく理解したようだ。どれだけ理解力が乏しいのかと口に出せば、「そんなのわかるか!」と
とはいえ今の結論はあくまで推論に過ぎない。一先ず正確な現状を知るために現地の人間に会いに行こうと近くにある集落だと思われる気の集まる場所へと向かう事にした。
ちなみにドラゴンレーダーの反応を見ると、その場所に一つあるのとは別に、その近くに既に四つほど集まっているそうだ。善良な気と共に近くに邪悪な気も感じるのが気になると悟飯が口にしていたが…………どう考えても答えは『ドラゴンボールを集めている塵の親玉がその集落らしき場所にドラゴンボール目的に部下を引き連れて近付いている』という一つであるが言う義理もないので何も言わなかった。
私としては判断材料を増やすためにその親玉を一度見ておく必要があると思っていたので渡りに船である。
なおブルマは留守番である。使えない宇宙船で使えるものを纏めるのだそうだ。
そうして星の地上げ屋の親玉を見た感想だが……
アレは、ダメだ。
数と力に頼り襲い掛かる侵略者の塵共、それらを跳ね除けていく若いナメック星人の塵共、それを更なる力で押し潰した親玉の側近の片割れらしき塵、虐殺されていくナメック星人の塵共……
その様子から、あの侵略者の親玉と側近との力量差が理解できた。今の私では勝てない。
特にあの真ん中の機械に乗ったフリーザと呼ばれている塵から感じられる気力が段違い……しかもあれでまだ氷山の一角だ。まともにやり合っては勝ち目がない。現状アレは関わってはダメな塵だ。
「――――やめろぉぉぉぉぉぉ!!」
だというのに、
影から様子を窺っている限り、奴らには気の感知能力が備わっていないようだ。おそらくは前に聞いた気の大きさを計る機械とやらに頼り切りになっているせいだろう。
だがこのままこの場にいては見つかる可能性もあるため、気配を隠したままその場を離れる事にする。飛び出した塵は……まあ運が良ければ生き残るだろう。
そして宇宙船まで戻る途中でこれからの立ち回りについて思考する。
状況から考えて現在、ドラゴンボールを巡る勢力は私を除いて少なくとも三つ存在する。
一つはあのナメック星人を殺してドラゴンボールを収集しているフリーザとかいうあの塵を筆頭とする勢力だ。戦闘員の質・数ともに最も優れている上におそらく大部分のドラゴンボール……最低でも七つの内の五つまでがこの勢力に収集されている。
二つ目はサイヤ人ベジータとかいう塵。戦闘力は高いようだからこの塵がどこまで食い下がれるかによるが、私にとってここは未知数としか言えない。
そして三つ目が地球から来たあの塵屑三人組。戦力としては最低だが、おそらくレーダーを持っているというのは大きいアドバンテージだ。あとは塵が助け出したナメック星人の塵をうまく利用できるかどうかといった所か。
勝ち馬に乗るのならば間違いなくフリーザ勢力だろう。だがここに与するのは絶対にない。
奴らに与しようとすれば必ず上下関係を強いてくるだろう。塵に媚びるなど、私のプライドが許さない。
何より、急に現れた新参者など使い終わったら捨てるに決まっている。無駄に関わって僅かばかりの情報が漏れる事すら避けたい。
だが、おそらくは先程ナメック星人に壊されていた気の大きさを計る機械がなければ奴らの探索能力は大きく落ちるだろう。その中で打たれると恐ろしかったのが人海戦術だが、たった今ナメック星人たちの奮闘によりフリーザ勢力の雑魚共はほぼ全滅したと見ていいだろう。つまりそれも実質使えない。
ナメック星人、役に立つ道具じゃないか。よくやった、褒めてやるぞ。
続いてはサイヤ人の塵だが……本当にここはどこまで使えるのか厄介なのかわからん。話を聞く限りであれば、手を組むには不安要素が多すぎる。そもそもとして判断材料が少なすぎる。
となるとやはり一先ずはあの塵屑三人組を利用していくしかない。レーダーという圧倒的アドバンテージがあれば、奴らの蒐集したドラゴンボールを盗み出す事も可能。そして裏切られるなどと考えてもいない能天気さのおかげで裏切る事も容易と来ている。
さらにはあの塵が助け出していたナメック星人の塵から情報を絞り出す事で更なるアドバンテージを得る事も可能……! 追い詰められる前ならば有用である。
さて、ここからうまく全てのドラゴンボールを掠め取り、あの宇宙の塵に私が直接関わらないように他の塵屑どもを利用して私が願いを叶える。
条件として厳しいが……何とか立ち回るしかない。
軋む身体を気迫で維持しながら、宇宙船へと急ぐ事にした。
ちなみにチアの気を隠す技術のイメージとしてはH×Hの念能力の『隠』です。