ヤミを祓うは七つ球   作:ナマクラ

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ナメック星編
第一話 いざ、ナメック星へ!


――――聖地カリン

 

 地球の西エリアに存在するその地にはカリン塔と呼ばれる塔が存在する。

 その塔は天高くまで聳え立ち、その頂上には武道の神が住んでいると言われている。

 そしてカリン塔を登り切った者は、その神より力を何倍にもしてもらえるという。

 故にこの地は武道家たちから『聖地』と呼ばれている。

 

 

「――――その噂を聞いてここまでやってきたが……仙豆とか言ったか? 素晴らしいものだなこれは」

「……お主の場合、強くなるよりも体を治す事に注力した方がいいんじゃないかの?」

 

 その聖地カリンのはるか上空、腕が千切れかけたり宙に浮けるようになる事態になったりしてまで登り切ったカリン塔の頂上で戦利品を物色していると、仙猫カリンと名乗る猫が呆れるような声で語りかけてくる。

 

「体を治すためにまず体を強くしに来たんだろうが。そんな事もわからんのか」

「体を治すために死にかけるとか、順序がおかしいじゃろうに……」

 

 当初の目的であった超聖水はただの水で激昂しかけたが、それとは別に猫が所持していた仙豆と超神水、この二つは利用価値がある。特に仙豆は失った体力と栄養と欠損部位を補填できるという事あって重宝する事になるのは目に見えていた。

 

「それに超神水も何の躊躇もなく飲んで何事もなく適合しおるし……」

 

 超神水も飲んだら死ぬと猫が散々言っていたが、いざ飲んでみると多少の激痛が身体を襲ったがそれだけだった。この程度の痛みなど日常である。その対価として肉体レベルの向上が可能であれば儲け物だろう。なお二口目以降はただまずかっただけだった。

 

 さらに仙豆の栽培方法を聞いてみたが、手間が掛かり過ぎて役立ちそうになかった。そもそも植物の世話などしている暇があれば病状回復に力を入れた方がいいに決まっている。そういう意味でも猫は役に立つ道具のようなのでこれからも利用する事にしよう。

 

「よくやった。お前は役に立つ道具だ。これからも利用してやろう」

「にゃ!? お主、また来る気か!?」

「当然だろう。仙豆はここでなければ補充ができないだろうが」

 

 その事を告げると、何やら焦ったような猫は更なる有用な意見を口にした。

 

「な、ならいっその事、ドラゴンボールでも集めて願いを叶えればよかろうが!」

「ドラゴンボール……?」

「あ……」

 

 しまったと言わんばかりの態度をとる猫に詳しく説明をさせると面白い、そして有益な話が出てきたのだ。

 

 ドラゴンボールの話自体はカリン塔について調べていた時に少し目にした覚えがあった。

 

 伝承によれば『七つ全てを集めればどんな願いも叶えられる』という……正直言えば眉唾物であるので放置したのだ。

 だが猫が言うにはここ数年、その効果は実際に発揮されているらしい。死人が蘇ったなどという話もある。それも一人や二人ではない。

 

 ……情報ソースが全て猫からという辺り信憑性に欠けるが、あの反応……特に最初の発言や西の都にドラゴンボールを探せるレーダーを持つ者がいるなどと口を滑らせたかのような様子を見るに全くの嘘ではないのだろう。

 

「役に立つ猫ではないか、褒めてやるぞ。よくやった」

 

 そうねぎらいながら壺に入っている仙豆を小袋に詰められるだけ詰めていく。残りの仙豆は壺ごと空のホイポイカプセルに詰めて持って帰る事にする。

 

「にゃ!? ちょ、待つんじゃ! 仙豆は儂の食糧だし、もうすぐ襲い来るというサイヤ人に対しての……」

「黙れ猫、死にたいのか……?」

「ぐ……うぅ……」

 

 何やら抗議の声が聞こえたが、一睨みすれば声は萎んでいった。仙豆がなくなったらまた来てやると言い残してその場を後にした。

 

 

 

 目的地は西の都、カプセルコーポレーションである。

 

 

(★)

 

 

 地球に襲来した二人のサイヤ人を何とか撃退できたものの、ヤムチャさん、餃子、天津飯、そしてピッコロがその犠牲になってしまった。

 

 あの戦いで生き残れた戦士は俺以外だと悟空とその息子の悟飯、あとは途中まで姿を見せなかったヤジロベーの四人だけだった。

 そしてピッコロが死んだことで神様も死んでしまい、ドラゴンボールが消滅してしまった。

 

 つまり、死んでしまったみんなを生き返らせることはできないのだ。

 

 救助に来てくれたブルマさんたちがその事に悲しんでいる中で、俺は襲ってきたサイヤ人たちの言葉を思い出していたんだ。

 

『アイツ、ナメック星人だぞ』

『そういえばナメック星人は何でも願いを叶えるという不思議な玉を作り出せるという噂があったが、それは本当だったのか』

『なら地球で手に入らなくともナメック星に行けばいい』

 

 そう、ピッコロと神様はナメック星と呼ばれる星の人間で、そこには地球と同じようにドラゴンボールが存在するかもしれないのだ。

 つまりナメック星まで行けば、死んだ皆を生き返らせることができて、しかも地球のドラゴンボールも復活できるかもしれない!

 俺の考えを皆に明かすと、死んだ皆が生き返らせることができるかもしれない可能性がある事に、色々な問題があったものの、俺達は希望を抱けたのだ。

 

 最初はサイヤ人が乗ってきたボールみたいな小型の宇宙船が一つ残っていたのを利用しようと考えてたんだけど、ブルマさんの不注意でその宇宙船が自爆して爆散四散の木っ端みじん。希望が絶たれたかと思われた。

 

 だけど神様の付き人であるポポさんが、神様が故郷の星から乗ってきたであろう宇宙船があると教えてくれたおかげで宇宙船の問題は何とかなった。

 

 

 問題は、誰がナメック星に向かうか、という事である。

 

 

 宇宙船というデリケートかつ命に直結するものがある以上、専門知識を持つブルマさんが行く事は確定であった。

 また、宇宙にはどんな危険があるかわからないし、もしかするとベジータのような好戦的な宇宙人がいるかもしれないという事で戦闘に長けた人も一緒に来てほしいとブルマさんの要望があった。

 

 俺達の中で一番強いのは間違いなく悟空だ。

 

 ただ、悟空はサイヤ人の一人であるベジータとの戦闘で動けないくらいの重症で、身体が治るまで普通だと半年以上かかる。仙豆があれば一発で治るんだろうけど、カリン様によると諸事情のため悟空に渡していた仙豆が今ある分全てだったらしく、新たに仙豆ができるのに一ヶ月ほどかかるらしい。

 

 そんなわけで生き残った戦士の中から、俺と本人の強い希望により悟飯の二人がブルマさんと共にナメック星に行く事に決まったのだった。

 

 

 そして宇宙船の改修作業が済んだ数日後、俺はやけにごつい服を来たブルマさんと七五三のような格好をしたおかっぱ頭になった悟飯と共に宇宙船に乗り込んでナメック星へと飛び立った。

 

 何やら不機嫌そうなブルマさんが別室に着替えに行くのを見送ってから俺達も着替えるかと悟飯と話していたのだが、俺達にそんな暇は与えられなかった。

 

「えっ!? ちょ、ちょっと二人ともこっち来て!!」

「ブルマさん?」

「どうかしたんですか?」

 

 別室から聞こえるブルマさんの呼び声に俺たちは扉を開けて部屋に足を踏み入れると、先程までのごつい格好のままで立ち尽くしているブルマさんの姿が見えた。

 

 何か異常事態でもあったのかと思っていると……

 

 

 

「――――うるさいぞ、塵共」

 

 

 

――――幼さが残る高めの罵声が聞こえてきた。

 

「…………へ?」

 

 ブルマさんの声にしては少し幼すぎるし、かといって悟飯の声でもない。もちろん俺の声でもない。

 

 その声が聞こえた方に目を向けてみると、見覚えのない一人の子どもがそこにいた。

 

 年はたぶん悟飯と同じくらいで、肌は青白いくらいに白く、目付きは濁さずに言えば悪かった。さらに色が抜けたように薄い黄緑色の髪が手入れも去れずにぼさぼさなまま肩口まで波打ったように伸びているせいでか、外見から男か女か判断するのは難しそうだった。

 ただ、その子から何か不吉なものを感じた。何がと言われると説明するのが難しいのだが、ただ見てるだけで不安になっていくような、そんな不思議な雰囲気を持っている子どもであった。

 

「この子が忍び込んでたみたいで……っていうかこの子どうやって忍び込んだの……?」

「たぶん西の都じゃないですか? 亀ハウスだとさすがに忍び込めないでしょうし……」

「と、とりあえず一度戻りましょう! 危ないですし!」

「ああ、そうだな。そうしましょうブルマさん」

 

 悟飯の発言に賛同する。今なら地球からそう離れていないだろうし、戻っても時間はかからない。そう思っての発言だったのだが……そこに異を唱える声がした。

 

 

「戻る? 何故わざわざ戻る必要がある? すでにナメック星とやらに向かっているのだろう? まさか出発早々トラブルが起きたわけでもあるまい」

 

 その声の主は、その子本人であった。……って、え? この子今何て言った!?

 そんな俺が引っかかったこの子の言葉が気にならなかったのか、それ以上にこの子の尊大な態度に引っかかったのか、ブルマさんはこの謎の子どもに食って掛かった。

 

「そのトラブルよ! 現在進行形で! すぐに地球に戻って降ろしてあげるちょっと待ってなさい!」

「何故降ろされなければならんのだ。馬鹿なのか貴様?」

「誰が馬鹿よ! 状況がわかってない子どもは黙ってなさい!」

 

 改まる事をしらないその態度にさらにヒートアップしていくブルマさん。今のブルマさんに口を挟むのはちょっと気が引けるけど……でもちょっと気になる発言があったし、オロオロしてる子どもの悟飯にその役目を押し付けるのもカッコ悪いしなぁ……よし!

 

「ちょ、ちょっと待ってブルマさん!」

「何よ!?」

「今この子、ナメック星って……」

 

 俺の言葉に頭に血が昇っていたであろうブルマさんの口から「あ」という声が漏れる。

 

 そう、この子は今確かに『ナメック星』と言ったのだ。

 

 この子はもしかするとナメック星に行く事を知って敢えて忍び込んだんじゃないのか……その事に気付いた俺達の疑問の視線を察したのか、その子はそれに解答するように肯定を示した。

 

「貴様らの行先も目的も知っている。地球のドラゴンボールが使えなくなったからナメック星とやらのドラゴンボールを使いに行くのだろう?」

 

 この子、ドラゴンボールの事も知ってるのか……しかも地球のドラゴンボールが使えなくなったことも……どこでそれを知ったのかも気になるけど、それ以上に何で忍び込んだのかが気になった。

 

 見ず知らずの俺達に協力するため? そんなわけはない。というかこんな子供に手伝ってもらえること自体少ないだろう。

 

「あんた、一体何が目的なのよ?」

 

 俺が疑問に頭を悩ませていると、ブルマさんが。多分考えてもわからないなら本人に聞いた方が早いという考えなんだろうけど、こういう判断をすぐに決められるってすごいよなぁ……

 

 そんな感心も、次の一言で吹き飛んだ。

 

 

 

「単刀直入に私の要求を言おう。私にドラゴンボールを寄越せ」

 

 

 

「…………へ?」

 

 その子の要求に思わず呆けてしまった。隣の様子を窺えば悟飯も俺と同じような反応をしていた。

 

 しかし、さすがというわけじゃないが、この物言いに一度落ち着いたブルマさんの頭に再び血が昇ってしまったようだ。

 

「――――ばっかじゃない! アタシたちもドラゴンボールを使わせてもらうために行くのに、それを寄越せですって!?」

「おいおい、これでも譲歩してやっているのだぞ? 本来なら貴様ら塵がこの私と交渉できるはずもないだろうが」

「ご、ごみ!?」

「貴様らに利用する価値があるからこそわざわざ時間を割いてやっているんだろうが。その程度の事も理解できんのか低能どもが」

「なあ悟飯、これ、俺も怒っていいんじゃないか……?」

「く、クリリンさん、落ち着いてください。僕一人じゃブルマさんを落ち着かせられないですよ……」

 

 あまりの物言いに俺もブルマさんの事を言えないくらいに頭にきている。悟飯が止めるから何とかとどまっているけど、俺の中で一発げんこつを落として地球に戻って説教した方がいい気がしてきた。その方がこの子の将来のためにもなるだろう。うん、そうしよう。

 

 

 

 

――――と思った瞬間、この子どもの気が急激に高まったのを感じた。

 

 

「――――っ! クリリンさん!」

「ああ、コイツ、強いぞ!」

 

 あまりの気の大きさに思わず俺も悟飯も身構えてしまう。幸いというか、気の強さ自体はサイヤ人程ではないけど、それでも相当な強さを持ってる……!

 

 しかもコイツの気、ものすごく邪悪だ! あのサイヤ人たちに勝るとも劣らないくらいに……!

 

 今のもあくまで威嚇で、この程度は出来るぞっていう意思表示なんだろう。俺と悟飯の二人掛かりなら問題なく抑えられるだろうけど、宇宙船を傷つけないようにできるかどうか……少なくとも今この場で暴れさせるような事態になるのは避けたい。

 

「私はただ、ドラゴンボールの実用性を確かめたいのだよ」

 

 そして威嚇が功を為したことを確認したその子はにやりと笑みを浮かべながらそう言葉を続けた。

 

 だけど気を感知できないブルマさんにとっては知った事ではないようで、警戒する俺達を尻目にさらにヒートアップしていた。

 

「ちょっと待ちなさいよ! 人の事をゴミだ何だって、あんた何様のつもりよ!」

「塵を塵といって何が悪い?」

「じゃああんたは何ができるのよ!? 優れてるって言うんなら自分で宇宙船でも作って勝手に一人でナメック星に向かえばいいじゃない!」

「何故私がわざわざ時間を割いて作らねばならないのだ」

「じゃあ何ができるのよ! 戦闘なんて言ったらこの二人に勝てるとは思えないし!」

「ぶ、ブルマさん、あんまり挑発しない方が……」

「何!? クリリン君まさかこんなちっちゃな子に勝てないって言うの!?」

「いや、さすがにそうは言いませんけど……」

 

 ……正直苦戦はしそうだけど、子供相手に苦戦するって言うのもちょっと情けないから濁してしまった……。

 

「えっらそうにして! 状況を理解してる!? あんたは無断で船に忍び込んだ密航者よ!」

「それがどうした。それとも人一人増えた程度で航行に支障が出る程設計に自信がないのか? まあ設計自体に問題が生じかねん改造を施すような阿呆のようだしな」

「な、なんですって!? どこが悪いって言うのよ!?」

「言いたい事は色々あるが……大体、無駄に設備を増やして……これでは航行速度が落ちるだろうが」

「か、快適性は大事でしょう! というか何を根拠に言ってるのよ! これでもちゃんと計算して改修してるんだから!」

「本当か? 本来ついていなかった設備を設置したせいでバランスが崩れ、重心もずれて、計算してみればこれだけの差が――――――」

「それは違うわよ! ちゃんと重心の位置と推進力の関係をこう計算して―――――」

「その推進力の計算だと――――――」

 

「……く、クリリンさん、あの二人が何を言ってるのかわかります?」

「わ、わからん……」

 

 最初は文句の言い合い罵り合いだったのがいつの間にか宇宙船の構造に関する専門知識の討論に変わっていた。

 

 専門的すぎて悟飯や俺にはもはやブルマさんたちが何を言っているのかわからない域にまで討論は進んでいた。いや、本当に進んでいるのかも俺には判断がつけられないんだけど……

 

「……とりあえずすぐに暴力を振るうようなヤツじゃないのは確かみたいだし、先に着替えるか……」

「え? い、いいんでしょうか……?」

「だって俺達がいてもこの話に入れないし……」

 

 

 そう言って俺達は激しく討論し合う二人を置いてその部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

――――なお、討論が終わった後に寝にくそうなパジャマに着替えたブルマさんに怒られたのは別の話だ。

 

 


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