原作をなぞりつつもちょっとした差異の説明回のはずが、思った以上に長くなってしまいました……
宇宙の塵屑がわざわざ地球にまでメディカルポッドを届けに来た。
その他の処理に手を煩わされたが、まあ塵屑にしては役に立ったのでよしとしよう。
メディカルポッドを使用する事で身体の維持に意識を向けなくて済む時間ができた。
根本的な病みの根治はできず、あくまで対症療法による時間稼ぎにすぎないが、それでもその効能は大きかった。
何せ眠りに落ちても死なないのだ。病みにより崩れようとする身体を、メディカルポッドの機能によって一時的に意識せずとも抑えられるようになった私は初めての睡眠を体験した。
メディカルポッドの治療の終了で痛みとともに睡眠から目が覚めた時、その頭の冴えの違いに驚いたものだ。
今までの思考がまるで虫食いだらけの襤褸屑のように頼りないものだったようにも感じてしまう。それだけ睡眠という物は生物にとって重要であり、それをできなかったこの身体を与えた世界は間違っているという事を再認識した。
そして、思考が冴え渡るにあたり、昔の事も思い出した。
睡眠時に見る夢は、記憶の整理による現象であるとも言われている。故に今まで乱雑に管理されていた年単位の記憶が整理された結果なのだろう。
その記憶は私にとって不快なものであり、そしてそれ以上に有益であった。
不快であっても有益であるのならば、捨て置く理由などありはしない。
――――さあ、私の役に立てよ。お前の存在価値など、それだけだろうが
(★)
お父さんが地球に帰ってきた時に、新たな脅威の存在が発覚した。
その名は、人造人間
かつてのレッドリボン軍という組織にいたドクター・ゲロという科学者が生み出した生体兵器で、南の都の近くの町に突如として現れ、殺戮と破壊の限りを尽くし、世界を恐怖のどん底へと突き落とす。
それが、
そんな話をお父さんから聞いた、再び集まった僕ら――居場所のわからなかったチアを除く――は、判断に困った。
――――その話を信じられる根拠は?
――――その青年って誰だよ?
――――そもそも未来から来たって……?
――――でも悟空がこんな嘘わざわざ吐くか?
どう考えても与太話にしか聞こえない話だけど、お父さんがそんな嘘を言うとは思えないし、その見も知らない青年の嘘を何の根拠もなく信じるなんて、さすがのお父さんもしないだろうと思ったからだ。
お父さんはどうしてその青年の事を信じたのかを聞いてみると、「え? 嘘言っているようには見えなかったしなぁ」という何とも感覚的な答えが返ってきたんだけど、その他にもこんな答えが出てきた。
何とその青年はスーパーサイヤ人になれるらしい。
現在、生き残っているサイヤ人はお父さんとベジータさん、それに僕しかいない。
だったら未来から来るでもしないとおかしいだろうとお父さんがあたかも思い付きのように口にして、それに対してじゃあ誰の子どもなんだという話になって、「え、それは……」とお父さんは口を噤んでしまった。……結局青年の正体に関してはよくわからなかった。
そのままだと話が進まないから、未来の僕たちは何をしているのかという話に変わった。スーパーサイヤ人になれる人が二人もいるはずなのに何もしていないのはおかしいだろうという当然の疑問だったが、想像以上に未来は残酷だった。
どうやら最初の襲撃の後、人造人間の暴挙を止めるために立ち上がった戦士は、僕以外みんな殺されてしまったらしい。
生き残った僕以外死んでしまったという事は、ピッコロさんも死んでしまったわけで、つまり神様も死んでしまってドラゴンボールは消滅。それ以降死者を生き返らせる事ができなくなってしまった。
その後、未来の僕はその青年とともに破壊活動を行う人造人間に抵抗していたものの、数年前に人造人間に殺されて、地球で戦える戦士はその青年だけになってしまったそうだ。
ちなみにお父さんは人造人間が現れる前にウイルス性の心臓病で死んでしまうらしい。その治療のための薬も貰ったのだという。
結局ここで話していても何が正しいのかなんてわからないという事で、修行する人は各自して、一先ず人造人間襲撃予定日には集まるという結論に至った。
僕は何とかお母さんを勉強もちゃんとするからと何とか説得して、お父さんとピッコロさんと三人で修行する事になった。
――――そして、三年の月日が流れた――――
(★)
お父さんが帰って来て、新たな危機が訪れる事を告げてから、三年の月日が流れた。
僕たちは南の都の近くの島にある街を一望できる場所までやってきていた。
そこに来ていたのは、僕とお父さんを除けば、クリリンさんと天津飯さん、ピッコロさんにヤムチャさん、そしてブルマさんとその腕に抱きかかえられた赤ちゃんだった。話を聞いていないチアはともかくベジータさんは来ていなかった。ちなみに餃子さんは天津飯さんに実力的についていけないと判断されて置いてこられたらしい。
ブルマさんの腕の中にいる赤ちゃんを見て、僕はブルマさんとヤムチャさんが結婚したのかと思ったけど、どうやら違ったみたいで、ヤムチャさんが面白くなさそうな顔で「俺達結構前に別れたんだよ」と口にした。
なら誰との子供なんだろうと疑問に思っていれば、お父さんが父親はベジータだろと赤ちゃんの『トランクス』という名前と共に言い当てたのだ。
……僕らとしては、お父さんがそれを言い当てた事よりも、この赤ちゃんの父親がベジータさんであるというのにすごく驚いてしまった。既に知っていたヤムチャさん以外の人も僕と同様に驚きを隠せないようだった。
その後、スカイカーに乗ってカリン塔から仙豆を持ってきてくれたヤジロベーさんと軽く話をして、人造人間の襲来を何とかするために頑張らないと……と、気を引き締めた――――その時にそれは起こった。
帰っていくヤジロベーさんのスカイカーが、突如として空中で爆発したのだ。
僕は急いでヤジロベーさんの救助に向かったんだけど、そこから事態は急激に進んでいったんだ。
気を感じないのに起こり続ける人造人間による街での破壊活動が始まり、僕らが手分けして人造人間の捜索をしている所でヤムチャさんが襲撃を受けて気が小さくなっていくのを察知した僕らは急いでその場に急行して、その姿を目の当たりにしたんだ。
太った男の姿をした人造人間19号と、年老いた男の姿をした人造人間20号、そして人造人間20号に腹を貫かれているヤムチャさんの姿を。
何とかヤムチャさんに仙豆を食べさせて回復させた後に、街中から場所を人気のない岩山に囲まれた荒野に移して、お父さんと人造人間19号の戦いが始まった。
スーパーサイヤ人になったお父さんは、けれどどこか様子がおかしくて、最初は19号を圧倒していたけど、徐々に息が切れて逆に19号に押されるようになっていった。
その様子を見て、気付いたんだ。お父さんが未来で掛かったっていう心臓病が、未来よりも遅れて進行し始めたんだって。
そのまま劣勢になったお父さんの気を吸い尽くしてトドメを刺そうとする19号を食い止めようと僕たちも飛び出そうとした時、誰かがお父さんを抑え付けていた19号を吹き飛ばしたんだ。
19号を蹴り飛ばした影の正体は、ベジータさんだった。
そのベジータさんが何とスーパーサイヤ人へと変身して、そして19号をあっさりと破壊してしまった。
その様子を見ていた人造人間20号は勝ち目が薄いと思ったのか逃走したんだ。
倒れたお父さんをヤムチャさんにお願いしたあと、それぞれ手分けして追っていったんだけど、ピッコロさんが20号に奇襲を仕掛けられて気を吸収されて、それをピッコロさんからテレパシーで知らされたんだ。
僕はすぐにその場に向かってピッコロさんに絡みつく20号を叩き落して解放して、その後逆にピッコロさんは20号を圧倒して右手を切り落とす所まで追い詰めた。
今度こそ逃がさないようにしながら、このまま終わらせると思っていたその時、その場に見覚えのない男の人が現れたんだ。
背格好からお父さんが言っていた未来からきた人だと思ったんだけど、その人がこう呟いたんだ。
「また、オレの知らない人造人間……!?」
その言葉に気を取られた僕らの隙をついて、人造人間20号はさらに僕たちが聞き逃せない台詞を吐いたんだ。
「これで勝ったと思うな! 今に17号と18号を起動させて貴様らを殺してやる!!」
そんな捨て台詞を吐いて、僕らを追ってこの場に向かっていたブルマさんたちの乗った小型飛行機を爆破したんだ。
爆破された飛行機に乗っているブルマさんとトランクス君はさきほど現れた男の人がブルマさんを救出していたんだけど、僕らは再び人造人間20号の逃走を許してしまった。
その後、ブルマさんの心配ではなく20号を見失った事に執着していたベジータさんとその男の人とでひと悶着起こりそうだったけど、ブルマさんの発言でそれどころではなくなったんだ。
「というかみんな人造人間と戦ってたんじゃないの? あれ、ドクター・ゲロ本人じゃない?」
「え?」
「前に科学誌で写真見たもの。間違いないわ」
まさか自分を改造しちゃったのかしら……と呟くブルマさんの言葉に僕たちは驚きで言葉も出なかった。まさか人造人間の一人である20号が黒幕だと思われてたドクター・ゲロだとは思わなかったんだ。
「あれが、ドクター・ゲロ……? オレの世界じゃ一度も……最初期だけ出てきていたのか……?」
何かに悩むその男の人に、クリリンさんが恐る恐ると言った感じで声を掛けた。
「お、お前が悟空の言ってた未来からきたってヤツなのか?」
「え……あ、はい、そうです。もう隠す必要はないでしょうし、名乗らせてもらいます。オレの名前は――――」
「――――トランクス、そこにいる赤ん坊の未来の姿だ。違うか?」
「――――! ……ええ、その通りです」
ピッコロさんの断言にも近い問いかけに、その男の人――――トランクスさんは肯定で返した。
「え……ええ!? マジかよ!? この赤ん坊があいつ……!?」
「ピッコロ、何故わかったんだ!?」
「少し考えればわかる。現状悟空にベジータ、悟飯以外にスーパーサイヤ人になれる可能性があるのはそこの赤ん坊だけだ。何より悟空のヤツがその赤ん坊の名前を意図も容易く言い当てていたからな。アイツにそういう機微を察する感性はない」
根拠としてお父さんが酷い言われ方をされているけど、僕としても何も反論できなかった。
でも確かに、未来でお父さんとベジータさんが死んでしまって、僕と共に戦える年代のサイヤ人となれば、消去法として今ブルマさんの抱える赤ちゃんのトランクス君以外にはあり得ないんだ。
「本当に!? よかったわねートランクス! あんた将来イケメンになるみたいよー」
「気になるのそこなんですかブルマさん……」
まさかの事実に僕たちが驚いていると、トランクスさんは戸惑うように口を開いて、さっきも言っていた、よくわからないことを口にしたんだ。
「それよりも……皆さんは、一体
「何って……お前が言っていたという人造人間だろう?」
トランクスさんから知らされた情報で僕らは集まり、そして戦った。そして相手からも人造人間だという確認は取れた以上、間違いはないはずだ。
けれど、トランクスさんの反応は、やはり僕らの望む物とは違う物だった。
「……さきほどのドクター・ゲロと思しき人造人間も、ここに来る前に見た残骸も確認しましたが、どちらもオレの知っている人造人間じゃないんです」
その言葉は、僕たちの警戒心を引き上げるのに十分すぎるものだった。
「何だと!?」
「つまり、未来を壊す敵はまだ別にいるってこと……?」
「……トランクス、お前の知っている敵についての情報を詳しく話せ。こちらとしても悟空に伝えられた僅かな情報だけではどうしようもない」
「というか場所も日時もあれだけの情報で何とかしてくれっていうのも今考えれば無茶ぶりだよな」
「え……?」
まだ僕たちの知らない敵がいるという事実に、トランクスさんからその人造人間の詳しい情報を聞こうとしたんだけど、僕たちの言葉、特にクリリンさんの不満とも言えるその発言に、トランクスさんが思わずと言った感じの困惑の声を上げた。
そして次にトランクスさんから放たれた言葉で今度は僕たちが困惑することなる。
「ちょ、ちょっと待ってください。オレはちゃんと詳しい場所も日時も伝えましたよ。皆さんはそれで奴らの襲撃に対応できたんじゃ……?」
「何……?」
「いやいや悟空から聞いた話じゃ、襲撃してくるっていう人造人間の数も曖昧だったし、襲撃の場所も南の都の近くの島の街ってだけだし、日時も三年後のこの時期ってだけで具体的な日にちはわかんなかったんだぜ?」
「場所は何とか絞りましたけど、今日集まったのもとりあえずって感じでしたしね」
そう、僕たちがお父さんから聞いた人造人間の襲撃日と場所の情報は、そんなあやふやなものだった。時期は三年後という事以外には今月の半ばあたり、場所も南の都の近くにあるどこかの島の街というだけだった。
場所に関してはブルマさんがお父さんのあやふやな情報から候補を絞り込んでくれたおかげで何とか割り出せたけど、日時に関してはわからなかったから、ひとまず今日この日に集まってみようと言った感じだったんだ。
それはきっと、未来から来た人……トランクスさんからの情報がそれ以上なかったからだと思ったんだけど……
「お、オレの言った事が全然伝わってないじゃないか……」
「ご、悟空のヤツ……!」
お父さん、これはちょっと擁護できないよ……。
もしかすると、他にも僕らに伝え忘れている事があるんじゃないかと心配になるけど、僕だけじゃなくトランクスさんも不安になったみたいだった。
「じ、人造人間について悟空さんから聞いた事は……?」
「え、えっと……ドクター・ゲロっていう元レッドリボン軍の研究者が生み出した戦闘兵というのは聞いたな。人造人間の数は二体なのか三体なのかよくわからなかったが……」
「その人造人間が悟飯を除いた俺達が全員殺されて、そのまま殺戮と破壊を続けていき、既にまともに抵抗できる戦士はお前だけ……と聞いている」
「そ、そこは大体伝わっているみたいですね。よかった……」
トランクスさんがほっと胸を撫で下ろしているけど、これでも大体くらいの情報量みたいだ……お父さん、興味のある事しか覚えられなかったのかなぁ……?
「二度手間で悪いが、未来での詳しい敵の話をしてくれ」
「わ、わかりました」
トランクスさんは一つ咳を吐いてから、改めて未来の世界について説明を始めた。
「俺のいる未来では、幾つもの勢力によって人類は疲弊してしまっています」
「え、敵は一つの勢力じゃないのか」
クリリンさんの疑問にトランクスさんは「はい」と返して続きを語り始める。
「まずは二体の人造人間、17号と18号です。この二体はスーパーサイヤ人になれる俺でも何とか少しやり合うのが精一杯で……。こいつらはドクター・ゲロを憎んでいて、その殺害を目論んでいるんですが、それ以上に残虐な性格で、遊び感覚で人や街を破壊しています」
「ソイツらがさっきヤツの言っていた、俺達を殺しに来るという奴か」
「そいつらの外見の特徴は?」
「どちらも俺と同じか年下に見えるくらいの少年少女です。17号は黒髪の少年、18号は金髪の少女でどちらも凍ったように冷たい目をしています」
「お、女が敵なのか……」
「性別は問題じゃありません。17号も18号も、人を人と思わない残虐非道な殺人マシーンです」
「わ、わかってるさ。女で物理的にも精神的にもヤバいヤツがいるってのはチアっていう具体例がいるし……」
そこでチアを例に挙げるクリリンさんの気持ちはわからなくはないけど、残虐非道な人造人間と比べるのはどうかと思うなぁ。
「次に、どこからともかく現れる神出鬼没・正体不明の名もなき悪魔です」
「悪魔?」
「実際に悪魔なのかどうかはわかりません。戦闘力に関してはあまりないようですが、こちらの攻撃も通らず、その身に宿る不浄と穢れによって病を振り撒いて弱っている人から死んでいく事から『
「そいつはどんな姿なんだ?」
「おそらくコイツに関してはオレが説明しなくても見たら一発でわかります。蠅や蟲が無数に寄り集まったような嫌悪感や忌避感を抱かずにはいられない、そんなヤツです」
「そ、ソイツの対処法は……?」
「オレたちの時代ではヤツが飽きて去るのを待つしか…………ヤツの振り撒く病の正体も、ヤツを撃退する方法も、そもそもヤツがどういった存在なのかすらわからないんです。その正体を探る事もオレが過去に来た理由の一つです」
そんな正体も対処法もよくわからない敵がこれから出てくるなんて、人造人間だけでも脅威だっていうのに……。
「まだ他の勢力がいるのか?」
「はい。あとは、大男の人造人間とソイツが率いる継接ぎだらけの兵隊、ソイツらを従わせて略奪を繰り返し行わせている事しかわかっていない、謎の黒幕が率いる勢力もいます」
「うん? その大男の人造人間はさっき言ってた二人の人造人間とは違うのか?」
「はい。彼らとはまた別の人造人間です。むしろ敵対しているといっていいでしょう。一度彼らが同じ場所に現れてすぐさま彼ら同士の殺し合いが始まった事もあります」
同じ人造人間同士で争うなんて……もしかしてドクター・ゲロに従順かどうかの違いなんだろうか? 17、18号はドクター・ゲロを憎んでいるって言っていたし、それで反抗を受けているって事……?
「ところでその人造人間が率いているっていう継接ぎだらけの兵隊? そいつらも人造人間なのか?」
「いえ、人造人間とは違う、おそらく人や生物を人為的に繋ぎ合わせて生み出した生体兵器……例えるならゾンビのような兵士です。ソイツらは通常兵器でも倒せない事はないんですが、数が多く……」
「そんな雑魚の情報はいらん。その大男の人造人間の力はわからないのか?」
「…………この人造人間の力は、正直次元が違います。スーパーサイヤ人のオレはおろか、二人の人造人間を相手取っても苦戦しないほどでしょう」
「そ、そこまでの力を持ってる敵がいるのかよ……!? しかもソイツを従わしている黒幕もいるんだろ!?」
「……その人造人間がその勢力のトップではないのか?」
「オレ達も最初はそう思っていたんですが、先程話した例の悪魔がそれを否定しました」
「黒幕は別にいる、と……その言葉、信用できるのか?」
「もちろん嘘の可能性も考えましたが、確かにその人造人間は何かの指示に従っているような節が見えるのも確かな以上、否定はできません。悪魔の口振りから、その黒幕と悪魔は何らかの協力関係にあるとも思われますが……具体的にはわかりません。人造人間が配下であるという辺りから、その正体はドクター・ゲロではないかとも推測していたのですが……」
「それにしてもドクター・ゲロが生み出した人造人間同士で争ってるって……なんかややこしいな」
「なので俺達もこの二つの勢力が別だというのを明確にするためにそれぞれ名称をつけているんです。17号、18号の二人を『双牙』、そしてもう一方を黒幕と纏めて――――」
「――――そんな呼び方などどうでもいい。ようは残る人造人間があと三体、ついでに謎の黒幕に神出鬼没の悪魔なんてのもいるわけだ。それもあの爺よりも強いヤツが、だ」
トランクスさんの説明を遮ってベジータさんが要点だけ纏めた。とはいっても具体的な敵の数を明確にしただけだけど、ベジータさんにとって重要なのはそこだけなんだろう。
そんなベジータさんの様子を見て、クリリンさんが何かを察したみたいで恐る恐ると言った感じで口を開いた。
「お、おいベジータ……お前、まさかわざと起動させるつもりじゃないだろうな……?」
「あの爺相手なら手応えがなさすぎるからな。カカロットとの戦いの前哨戦にちょうどいいだろう」
「な……!?」
そのベジータさんの言葉にトランクスさんは驚きを隠せず思わず声が出てしまっていた。自分のいた世界を壊した相手をわざわざ起動させようと言うんだから当然のことだ。
「ま、待ってください! 奴らの強さは尋常じゃない! 起動前に破壊してしまうべきです!」
「お前、それでも本当にサイヤ人か?」
「え……」
そんな愚行とも思えるベジータさんの考えを改めさせ揺と食って掛かるトランクスさんだったが、ベジータさんのその一言で動きを止めてしまった。
「相手が強ければ強い程に心が躍る。それこそが戦闘民族サイヤ人だ。カカロットだってそこは同じ考えだろうぜ」
「…………!」
その言葉に絶句してしまったトランクスさんを放ってベジータさんはブルマさんへと声を掛けた。
「おいブルマ、ヤツの根城はわかるか?」
「え? ヤツってドクター・ゲロの事? 詳しい場所はわかんないけど……確か北エリアの渓谷地帯のどこかの洞窟に研究所を構えてるって聞いた事があるわ」
「それで十分だ。人形如き、この俺が全て纏めて叩き潰してやる!」
ブルマさんのその返答を聞くとベジータさんはすぐさま北へと飛び立っていってしまった。
「ま、まずいぞ……ベジータのヤツ、本当に人造人間を起動させかねない……!」
「『双牙』の二体が目覚めてしまえば、あの絶望の未来に近づいてしまう……!! それだけは阻止しなければ……!」
そしてベジータさんを追いかけるようにトランクスさんも飛び立っていった。
「俺達も行くぞ!」
ピッコロさんたちもその後を追い、僕も一緒に向かおうと思った時、クリリンさんが僕に声を掛けてきた。
「悟飯、悪いけどブルマさんたちとヤジロベーを送ってやってくれないか? チチさんも心配するだろうし」
「え……あ、わかりました…………って、ヤジロベーさん?」
「さっきの飛行機、ヤジロベーも一緒に乗ってただろ。多分まだその辺りで生きてると思うんだ」
「「あ」」
僕とブルマさんの声が重なった。どうやらブルマさんもヤジロベーさんの事を失念していたみたいだ。
こうして僕は、ブルマさんとトランクス君、それにヤジロベーさんを送り届けるために、人造人間を追うみんなとここで一度別れることになった。
未来トランクスの長い説明の要約
・Z戦士は原作通り、悟飯とトランクス以外最初の方で死亡。悟飯も後に死亡。
・原作と違って、人類の敵対勢力が双子の人造人間だけじゃなく、よくわからない悪魔っぽいのとゾンビの軍勢を率いてる大男の人造人間がいる。
・敵はどれも強かったり攻撃が効かなかったりで勝てそうにない。
・なんか敵は敵で争ってるっぽいけど手を組めそうにない。
・街は双子に壊され、病気を悪魔に振り撒かれ、物資その他をゾンビの軍勢に略奪される。
・ドクター・ゲロの生死は不明
この辺りの説明を悟空も聞いていたけど、ややこしすぎて要点かつ興味のある所しか覚えてなかったという……原作みたいなピッコロさんのフォローがなかったから仕方ないですね