ヤミを祓うは七つ球   作:ナマクラ

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人造人間編
第十三話 新たなる脅威


 あのナメック星での戦いが終わってから約一年が経った。お父さんはまだ帰ってこない。

 

 

 

 

 

 僕らの転移に合わせて地球にやってきたナメック星のドラゴンボールを使わせてもらい、クリリンさんとヤムチャさん、餃子さんと天津飯さんが生き返った。

 

 その時にお父さんも生き返らせてもらおうとしたんだけど、ポルンガがお父さんは生きている事を教えてくれた。

 

 戦況を見ていた界王様から、フリーザに勝利したけどナメック星の爆発に巻き込まれて死んだと聞かされていたから、僕らはお父さんの生存に驚き、そして喜んだ。

 

 さっそく僕らはポルンガに頼んでお父さんを地球に呼び出してほしいと言ったんだけど、お父さんはその内自分で帰るからとそれを拒否したんだ。

 

 だから一先ず残りの願いでヤムチャさんを、そして次の願いで天津飯さんと餃子さんを生き返らせて、最後の願いでナメック星の人たちをナメック星と似た環境の星へ転移させる事になった。

 

 

 

 ……本当はチアの願いも叶えて上げたかった。どんな願いなのかわからないけど、僕たちがチアに助けられたのは確かだし、それがチアにとっての感謝になるのならそうするべきだと思ったからだ。

 

 でも他の皆にはやめておけと反対された上に、願いの具体な内容がわからないから叶える事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 ちなみに生き返ったナメック星の人たちだけど、ナメック星のドラゴンボールで新しいナメック星へと移り住むまでの間、ブルマさんの家であるカプセルコーポレーションで生活していた。

 

 ブルマさん曰く「ドラゴンボールを使わせてもらうんだからこれくらい安いものよ!」と言っていたけど、ナメック星の住人全員を全て受け入れられる辺りスケールが違うなぁと思った。

 

 ベジータ……さんも同じくブルマさんの家に居候する事になった。ベジータさんの危険性を知っているはずなのに「行くとこないならうちに来なさいよ」と提案できるブルマさんはやっぱりスゴイ。

 

 ベジータさん本人はというと、前までのように不老不死を望んでいるようではなく、暴虐に振舞うでもなく、修行をしているぐらいで、ただ地球に居残っていた。

 

 多分だけど、お父さんがスーパーサイヤ人に至った事が衝撃的で不老不死なんかよりもお父さんに追いつく事の方が重要になったんだと思う。

 

 あと、ブルマさんとしては本当はチアも引き取りたかったらしいけど、いないものは仕方ないと溜息をついていた。「あの子、性根は腐ってるけど、頭は私レベルにいいからこき使ってやろうって思ってたのに……」なんて言ってたけど、ブルマさんなりにチアを心配してるのがよくわかった。

 

 それにしてもチアは一体どこに行ってしまったんだろう。お父さんの行方も気になるけど、チアの行方も気になる。気で探そうにもチアは自分の気を完全に隠せてしまうから察知できないし……今度はいつ会えるんだろう……

 

 

 そんなことを想いながら日々を過ごしていき、そして、ナメック星の人たちが最後の願いで地球を去ってから、さらに一年程が過ぎた。

 

 

 お父さんのいない日常にも慣れてきてしまった僕は家で勉強をしていると、ずっと遠くから巨大な気が近付いてくるのを感じたんだ。

 

 その気を感じた僕はすぐさまナメック星で着ていた戦闘服を身に纏い、お母さんの止める声も振り切って飛び立った。

 

 その胸にあるのは希望や期待なんかじゃない。かつての経験から来る恐怖だ。

 

 

 

「最悪だよ、お父さん……!!」

 

 

 

 

 

 感じ取った気の正体はフリーザのものだった。

 

 

 

 

 

 お父さんは、まだ帰ってこない。

 

 

 

(★)

 

 

 

 途中でクリリンさんと合流し、フリーザが来るであろう場所――――幸いにも人気のない所々に岩山がある荒野に到着した時には既に他の皆も到着していた。

 

 ピッコロさんにベジータさん、ヤムチャさんに天津飯さん、餃子さんと、地球で戦える人たちが集まっていたのは予想通りだったけど、さらにブルマさんとプーアルさんまで来ていて驚いた。どうせ死ぬならフリーザの顔を見たいから来たらしい。

 

 

 

 そして、僕たちが久しぶりの親交を深める間もなく、その時が来た。

 

 

 

「――――来たぞッ!」

 

 ナメック星で見たフリーザの宇宙船に似た船が空から降りてきて、僕らのいる場所から岩山を一つ挟んだ辺りへと着陸するのを確認した。

 

 フリーザの他にも、それに似た大きな気を感じる……!

 

「貴様らすぐに気を消せ! スカウターで悟られるぞ!! 奴らに気付かれないように歩いて近付くんだ……!」

 

 ベジータさんの指示に僕らは従い、気配を消して歩いていく。気付かれてフリーザに先手を取られたら僕たちは完全に終わってしまう。

 

「っ…………!」

 

「お、おい……フリーザってのは、こんなにすさまじいのか……!?」

 

「こんなもんじゃありませんよ。ここから何回も変身をしてもっと強くなっていきます」

 

「そ、そんなヤツと戦っていたのか、お前たちは……!?」

 

 天津飯さんとヤムチャさん、それに餃子さんは僕の言葉にさらに衝撃を受けている。僕もナメック星では同じようにショックだったんだから気持ちはわかる。

 

「こ、こんな化物みたいなヤツが、それももう一人いるだなんて……どうしようもないじゃないか……!?」

 

「そんなことは誰だってわかってるんだよ」

 

 

 

 ヤムチャさんが思わず口にした言葉を切っ掛けに、この場にいる誰もが思っていた事を、ベジータさんが断言した。

 

 

 

 

 

 

 

「言ってやろうか? 地球は終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 それを否定する声は、誰からも上げられなかった。

 

 

 

 

 

「くそ……せっかく生き返ったっていうのに、また死んじまうのか……」

 

「ご、悟空は!? 悟空のヤツはまだ帰ってないのか!?」

 

「か、帰って来てません……」

 

「今いないヤツなど当てにするな!」

 

 

 僕たちをどうしようもない絶望が包み込んでいた……その時だった。

 

 

 

 ――――突如として、一人の気配がフリーザたちの近くに現れたんだ。

 

 

 

「―――――!?」

 

「な、何だこの気は……!? どこから現れた……!?」

 

「こ、この気は……!?」

 

 

 

 ヤムチャさんや天津飯さんたちが戸惑う中で、その気が誰のものなのか、僕は知っていた。

 

 

 その気の持ち主は――――

 

 

 

(★)

 

 

 

 

 地球へと着陸した宇宙船の中から多くの部下を引き連れて二人の人影が現れる。

 

 それはかつてナメック星で瀕死の重症を負い欠損箇所を機械で補った宇宙の帝王フリーザであり、その隣にいるのはその父であるコルド大王であった。

 

 彼らの目的は孫悟空への復讐である。

 

 フリーザはその身に受けた屈辱を返すため、コルド大王は最強を誇る自らの一族の名に泥を付けたスーパーサイヤ人という存在を消すために、孫悟空の故郷とも言える地球へとやってきたのだ。

 

 超サイヤ人というかつて全力のフリーザですら敵わなかった相手ではあるが、今のフリーザはたとえ超サイヤ人相手でも単独で勝てると想定できるほどにパワーアップをしている上に、万が一でもコルド大王と二人掛かりであれば間違いなく勝利できると踏んでいた。

 

「それで、ソンゴクウとやらが来るまで待っているのか?」

 

「それじゃボクの気がすまないよパパ。孫悟空が戻ってくるまでの間で地球人を皆殺しにしてやるんだ。悔しがる姿が目に浮かぶよ」

 

 途中で孫悟空が乗っているだろう宇宙船を追い越したのを確認していたフリーザたちは、今地球に孫悟空がいない事は理解していた。

 

 ならばその到着を待つがてら地球人を皆殺しにする事で悔しがる孫悟空の歓迎をしようと考えたフリーザは、連れてきた部下たちに指示を出して地球人の駆除に向かわせようとした時の事だった。

 

 

 

 

 

 ――――その背筋に、寒気が走った。

 

 

 

 

 

「―――――――!?」

 

 

 

 寒気の元を探るために咄嗟に振り向いた先にいたのは、先程までは影も形もなかったはずの一人の少女であった。

 

 

 

 体格としては華奢で、背は子供と称する程度に小さかった。

 

 僅かに覗くその肌は、地球人としては青白いと表現するほどに白かった

 

 肩下まで伸びているその髪は色素が抜け落ちたような薄い黄緑色をしていた。

 

 その特徴的な目は、まるで腐っているかのように濁っていた。

 

 

 

 その少女を、フリーザは見覚えがあった。

 

 超サイヤ人であり自身に黒星を付けた孫悟空を始めとした、あのナメック星で邪魔をしてきた連中の中で最も苛立ちを与えられた地球人だ。

 

 第二形態では甚振られ、最終形態でも痛みを感じる程の一撃を放ってきたこの少女をどうして忘れようものか。

 

 

「……ああ、憶えていますよ。ボクの事を塵呼ばわりして、そのくせボクに手も足も出なかった地球人ではないですか」

 

 

 胸の内に蘇る苛立ちを発散させるかのように放たれたそのフリーザの言葉に対して少女は何も答えない。ただ一歩、近づいてきた。

 

 

「嬉しいですねぇ……ボクね、貴女をこの手で八つ裂きにしてやりたいと思っていたんですよ」

 

 

 何の反応もない事にさらに苛立ちながらも続けるそのフリーザの言葉に対して少女は何も答えない。ただもう一歩、近づいてきた。

 

 

「万が一にも貴女に勝ち目はありませんよ。なんせナメック星にいた時よりもさらに強くなりましたからね」

 

 

 不思議といつも以上に饒舌なそのフリーザの言葉に対して少女は何も答えない。またさらに一歩、また近づいてきた。

 

 

「――――~~~!! 黙っていないで、何か反応してみせろ! 虫けらがっ!」

 

 

 望む反応が返ってこないどころかまるで眼中にないとでもいうかのような少女の様子に、感じた不安と先程の寒気を掻き消す程に激昂したフリーザの指先からついに光線が放たれた。

 

 

 

 指先から放たれた光線はそのまま少女へと向かっていき、少女を貫かんとする。

 

 

 

 と、その時、タイミングとしては聞こえるはずのない声が、フリーザの耳に滑り込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――邪魔だ、塵屑」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……気付けば、少女の姿は細切れ(、、、、)にされた(、、、、)フリーザの背後へと移動していた。

 

 

 

「なっ!? フリーぐぼぉッ!?」

 

 バラバラの肉片と化し、ガチャガチャベチャベチャという不快な音を立てながら地に散乱したフリーザに気を取られたコルド大王の腹を、少女の放った気功波が撃ち貫いた。

 

 

 

「ふ、フリーザ様とコルド大王が……!?」

 

「に、逃げ――――」

 

 

 

 トップ二人が瞬く間に殺されたことから恐慌状態に陥りその場から逃げ出そうとする部下たちを、少女の放った気功波が纏めて消し飛ばした。

 

 

 

「ふん……私の手を煩わせるなよ」

 

 

 

 さらに少女の身体から生み出された無数の気弾が、離陸態勢に移行しようとしている宇宙船の中へと一糸の乱れもなく飛来して侵入していき、内部を鮮血に染めながら直にその動きを止めた。

 

 

 

 

 

 少女の登場から一分も経たない間に、地球へと襲来したフリーザたちは文字通り全滅したのだった。

 

 

 

(★)

 

 

 

 突如としたフリーザたちの側に現れた気配を感じてすぐさまその場へと向かった僕らは呆然としていた。

 

 

 原型をとどめていない肉片。腹部に穴の開いたフリーザによく似た死体。吹き飛ばされた土砂に紛れた戦闘服を着た複数の死体。

 

 

 目の前に広がるこの光景が、今宇宙船に向かって歩いている僕とそう変わらない年頃の、僕よりも小さく華奢に見える一人の少女によって生み出されただろうことが信じられなかった。

 

 

「あ、あの有り得ないほどの強大な気を持ったフリーザがこうもあっさり……!?」

 

「な、何だあの女の子……!? あの子がやったのか!?」

 

 天津飯さんとヤムチャさん、餃子さんも驚いて少女の正体を気にしているけど、僕はあれが誰なのか、知っていた。

 

 少し髪や背が伸びたとは言え彼女の姿と先程感じた気を、他の誰かと間違えるはずがない。

 

「チア……」

 

「チア? 確か宇宙船に忍び込んで一緒にナメック星に行ったという……」

 

 それは、僕らがまだ現実に起きた事への衝撃から気を取り戻せていない時の事だった。

 

「――――~~~~~~ッ!!」

 

 僕らと一緒にそのチアの様子を見ていたベジータさんがいきなり三発、気功波を放ったんだ。

 

「ベジータ!?」

 

「な、なにを!?」

 

 一発目はバラバラになった死体に、二発目は腹部に穴の開いたフリーザに似た死体に、そして三発目は宇宙船へと放たれ――――三発目だけ宙で急に爆発したと同時にベジータさんの頬を掠るように一筋の気弾が通り過ぎていった。

 

「何のつもりだ、塵屑……」

 

 気弾を放っただろうチアはこちらに……ベジータさんへと視線を向ける。次は中てると言わんばかりに緊張感が高まっていく中で、ベジータさんは何か激情を抑え付けるかのように強く歯を噛み締めながらチアへと言葉をかける。

 

「クソガキ、貴様……それほどの力を、どうやって手に入れた……!?」

 

「塵に話す必要はない」

 

「答えろと言っているんだ!」

 

「お、落ち着けよベジータ!」

 

「それよりお前、その宇宙船をどうするつもりだ……?」

 

 そのまま飛び掛かってもおかしくないベジータさんをクリリンさんが何とか宥めて落ち着かせている間に、続いてピッコロさんがチアへと問い掛けた。

 

「これは私の戦利品だ。それをどうしようと私の勝手だろうが」

 

 そのピッコロさんの問いかけにそう答えながらチアはその宇宙船を大型用のカプセルに収納してその手に収める。けれどその事に対してヤムチャさんが異議を唱えた。

 

「待てよお嬢ちゃん。宇宙船の解析なら天下のカプセルコーポレーションでやってもらえばいいだろう?」

 

 だからそれをこっちに渡すんだ、とヤムチャさんが手を差し出して催促するが、チアはそれを鼻で嗤う。

 

「お前ら如きが私に命令するなどと……笑わせるなよ塵屑共」

 

「ご、塵!? ちょっと強くてカワイイからって人に向かって何て口の利き方をするんだこのガキ!?」

 

「塵を塵といって何が悪い? お前らがこの宇宙の塵屑共の始末もできないからこの私がわざわざ下さなければならないのだろうが……ついでだ、纏めて消し飛ばしてやろうか……?」

 

 そう言いながらチアの鋭い目付きがさらに鋭くなってくる。それに対するヤムチャさんたちもその言葉と視線を受けてすぐに構えを取っていた。

 

 このままだと本当にチアとみんなが戦うことになりかねないと思った僕は、すぐに両者の間に入った。

 

「ちょっと落ち着いてチア! みんなも喧嘩腰にならないでください! チアは地球を救ってくれたんですよ!」

 

「た、確かにそうだが……しかし宇宙船をそのまま渡してもいいのか?」

 

 確かにブルマさんに解析してもらった方がいいのかもしれないし、そのままにしておくよりは壊した方がいいのかもしれないけど……でもチアの言い分もわからなくもない。何もしてない僕たちがそれだけもらっていくというのもおかしい気もする。

 

 と、僕が悩んでいると、その解析ができるブルマさんが口を開いた。

 

「……別に宇宙船の所有権に関してはとやかく言わないわ。個人的には解析したいけどね……でも! 前にうちから持っていった資料は返しなさい! あれ一応社外秘なのよ!」

 

「……まあいい。私にはもう必要のないものだ」

 

 そのブルマさんの言葉に、チアが渋々と言った感じでカプセルをポイっと放り投げると、ボンという音とともにカプセルに入っていた資料がその場にばら撒かれた。

 

 ブルマさんがそれをかき集めるために駆け寄るけどもそれを気にすることもなくチアは宇宙船を入れたカプセルを仕舞いながら宙へと浮かび上がる。

 

「ちょっと、もっと大事に扱いなさいよ……ってどこにいくのよ!?」

 

「あ、待っ――――」

 

「ちょっと待ちなさいよー! 別の本を読みたくなったら私に一声かけたらうちに来て読んでもいいから! でも無断で持っていくのはダメよー!!」

 

 僕の呼びかけに答える事もなく、ブルマさんの言葉に何か返答する事もなく、チアはそのままその場から飛び去って行った。

 

 チアが去った事に対する反応はほっと息を吐いたり、苦渋に満ちた表情を浮かべてたり、飛んでいった方を憎々しげに睨み付けていたり…………人によって様々だったけど、チアを追いかける人は誰もおらず、沈黙が流れた。

 

 そんな沈黙を破ったのはやはりというか、ばら撒かれた資料を集め終わったブルマさんだった。

 

「もう、あの子ったら自分勝手なんだから……! 人の話くらい最後まで聞きなさいよね!」

 

「はは……まあチアですから……」

 

「しかし、あのような少女がいるとは……」

 

「お前たちよく一ヶ月以上もあんなのと一緒にいれたな」

 

「ははは……」

 

「で、でもチアにも良い所もあるんですよ」

 

「え?嘘だろ」

 

「例えば?」

 

「……頭がいい所とか」

 

「それはこの場合の良い所に含めてもいいのか?」

 

「個人的には人格面での良い所を知りたいんだが……」

 

 

 

 ……結局皆を納得させられるようなチアの良い所は上げられなかった。

 

 

 

 

 

(★)

 

 

 

 

 

 フリーザの来襲、そしてチアとの思わぬ再会の後、みんなと別れて家に帰ると待っていたのは怒りに染まったお母さんだった。

 

 勉強を放ってどこかに飛んでいった僕を叱るお母さんに僕はその理由と重要性を説くけれど、お母さんに「地球の未来よりも悟飯ちゃんの未来の方が大事だべ!」と言われてしまった。地球の未来がなくなったら僕の未来所じゃないと思うんだけど……

 

 そんなお母さんからの説教を受けていた時の事だった。

 

 

 

「ただいまー」

 

 

 

 しばらく聞いていなかった、それでいてずっと聞きたかった声で、暢気な様子で家の中に響いてきたんだ。

 

「え……? この声は……!?」

 

「悟空さ!?」

 

「おう、今帰ったぞ」

 

 それは、ナメック星で別れてしまってから行方がわからなかったお父さんだった。

 

「今まで何してただ! おらたちがどんだけ心配したと……!!」

 

「わ、わりぃなチチ。脱出に使った宇宙船でいったヤードラットっていう星で面白れぇ技教えてもらっててさ……」

 

 お母さんの怒りの矛先がお父さんに向いた事で僕は解放されたけど、お母さんの剣幕を前にしてもお父さんは特に反省とかはしてないみたいだった。それがお父さんらしいと言えばらしい。

 

 なんて思っていると、お父さんが僕の頭の上にポンと手を置いた。

 

「よく頑張ったな、悟飯。フリーザの宇宙船がオラの乗ってた宇宙船より早かったからちょっとばかし間に合わなかったけど、おめぇオラがいなくてもフリーザを止めようとしたんだろ」

 

「あ……でも結局僕は何もしてなくて、チアが全部終わらせたんだ」

 

「あー、確かナメック星にいた女の子だったか? あの子がやっつけちまったみてぇだな。思ってた通りやっぱ強かったんだな。オラ一回戦ってみてぇぞ」

 

「戦い戦いって、そんな事ばっか言ってねぇで悟空さも少しは働いてけれ!! もうみんな生き返って地球の危機もなくなって万事解決したんだべ!? 」

 

「あー……その事なんだけどな、チチ……」

 

「何だべ? まさかまたどっかに行っちまうだなんて言わねぇだな?」

 

「お父さん、もしかして何かあったの?」

 

 お父さんにしては珍しく、何か言いにくそうな感じで言葉を選ぼうとして、でもうまく纏まらなかったのか結局はいつもみたいな感じであっけらかんとこう言ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――何かオラ、もうちょっとしたら死んじまうんだってよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………え?』

 

 

 

 

 

 それは、新しい戦いの幕開けだったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 


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