ヤミを祓うは七つ球   作:ナマクラ

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ナメック星編のエピローグです。


第十二話 逆十字の誕生

 

 あの後の事を簡単に話していこう。

 

 

 

 みんなでつないで何とか作り上げた巨大な元気玉はナメック星に大穴を空けながらフリーザを呑み込んだ。

 

 その衝撃はすさまじく、距離のあった僕とクリリンさんも余波で吹き飛ばされるほどだった。

 

 より近くにいたお父さんたちは無事なのかと心配だったけど、海中から姿を現したお父さんとピッコロさんを見つけてホッとした。

 

 お父さんがボロボロになったベジータを担いできたのには僕たちも驚いたけど、お父さんがベジータも連れて帰ると言った時にはもっと驚いた。

 

 ピッコロさんやクリリンさんは反対したし、ベジータ自身も驚いていたけど、お父さんは今回フリーザとの戦いで生き残れたのはベジータのおかげだって引かなかった。

 

 ……色々と言っていたけど、たぶんお父さんはベジータともう一度戦いたいんだろうなと僕らは察して、お父さんの説得を諦めてベジータも連れて行く事にした。

 

 後はさっき吹き飛ばされたチアを探して、ブルマさんと合流して地球に帰るだけだ――――そう思っていた。

 

 

 

 ――――飛んできた光線がピッコロさんの胸を貫くまでは――――

 

 

 

「ぴ、ピッコロさーーーーんッ!?」

 

「あ……あ…………!?」

 

 光線が飛んできた方向、その先を見た僕たちは絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 フリーザは、生きていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「い、今のは死ぬかと思った……このフリーザが、死にかけたんだぞ……!!」

 

 元気玉を食らってボロボロになってたけど、戦えないほどじゃなくて、僕らを殺すのに何の支障もない様子だった。

 

 

 

 お父さんが僕らに逃げろと叫ぶけど、それを許すフリーザではなく、逃げる間もなくクリリンさんが見せしめのように宙に磔にされ、そのまま爆破された。

 

 

 

 このナメック星への旅の間、色々と教えてもらって僕を助けてくれたクリリンさんの死は、僕にとってもショックが大きかったけど、それ以上に長い付き合いだったお父さんにとっては相当大きなショックだったみたいで、見た事もないぐらいに動揺していた。

 

「く……クリリンは、もう二度と、生き返れないんだぞ……!」

 

 そんなお父さんの様子が少しおかしい事に気付いた。ただ動揺しているだけじゃない。何か、内側に押さえきれない何かが渦巻いているみたいに漏れ出して、髪がざわつき始めいつも以上に逆立っていったんだ。

 

「よ……よくも……よくもクリリンを…………!!」

 

 

 

 そしてついに決定的な変化が起こった。

 

 

 

 

 

 黒髪黒目だったお父さんがいきなり金髪碧眼へと変化したんだ。

 

 

 

 

 

「な、何だ……!? サイヤ人は大猿にしか変身しないはずだ……!?」

 

 そのお父さんの変化には僕たちだけじゃなくフリーザも狼狽えていた。

 

「悟飯……みんなを連れて地球に帰れ。宇宙船ならオレが乗ってきたヤツがある」

 

「え……!? お、お父さんは!?」

 

「オレはここでフリーザを倒す……!」

 

「で、でも……」

 

「いいから行け!! オレの理性が残っている内に!! ……大丈夫だ。オレはフリーザを倒して、必ず地球に帰る……!」

 

 言動も少し荒っぽくなっている気がしたけど、それでも僕らを気遣う所は変わっていなくて、僕はお父さんを信じて重症のピッコロさんとベジータを連れてその場を離れた。

 

 

 

 ……それからチアを探しながらブルマさんと合流してお父さんが乗ってきた宇宙船へと向かっている最中に空が急に暗くなったと思ったら、気付いたら僕らは崩壊しかけていたナメック星じゃなく別の場所に移動していた。そこには僕たちだけじゃなくて、殺されたはずのナメック星の人たちもいたんだ。

 

 後から聞けば、地球のドラゴンボールでフリーザたちに殺された人たちを生き返らせて、その願いで最長老様が生き返った事で復活したナメック星のドラゴンボールでナメック星にいるお父さんとフリーザ以外のすべての人間を地球に転移させたらしい。

 

 直接フリーザに殺されたわけじゃない最長老様がその願いで生き返るかどうかは賭けだったみたいだけど、何とかうまくいったみたいで最長老様も地球へと転移していた。

 

 同じく転移していたデンデにピッコロさんとベジータの治療をしてもらい、あの後どうなったのかを説明した。

 

 ピッコロさんは何でお父さんがわざわざ勝てない勝負のために残ったのか理解できないみたいだったけど、僕はそれを否定した。

 

 

 

 僕は確信していたんだ。お父さんはフリーザに勝って地球に帰ってくるって。

 

 

 

 

 

 

 

 お父さんはきっとなれたんだから――――――――スーパーサイヤ人に。

 

 

 

 

 

 

 

 …………ただ気がかりだったのが、チアの姿が見えない事だ。

 

 フリーザに吹き飛ばされていた後、探しても見つからなくて生きているのか死んでいるのかわからない状況だったけど、どちらにしても地球とナメック星のドラゴンボールで地球に転移しているのは間違いないはずだ。

 

 

 

 なのに彼女の姿が見えなかった。

 

 

 

 ナメック星の人たちにもチアを見なかったかと確認すると、一人のナメック星人が先程誰かがどこかに飛んでいくのを見たと言っていた。気配を全く感じなかったので見間違いかと思ったらしいけど……多分それがチアだ。

 

 何故チアがすぐさま立ち去ってしまったのかはわからないけど、とりあえず無事に地球にまで戻ってこられた事には安心した。

 

 

 

「――――地球のお方、一つよろしいですか?」

 

 

 

 そんな時に、最長老様が話しかけてきたんだ。

 

「あ、はい。何でしょう?」

 

「もし、彼女――――チアという少女に会ったら伝えてほしい事があるのです」

 

 

 

 そして最長老様はチアに伝えたいという言葉、想いを口にしていった。

 

 

 

「――――……以上です。できれば今の言葉を彼女に伝えていただきたい」

 

「えっと、今のはどういう……?」

 

「ああ、無理に言葉の意味まで理解する必要はありませんよ。きっと彼女はそれを嫌がるでしょう」

 

 最長老様の意図が僕にはちゃんとわからなかったけど、ちゃんとチアに伝えることを最長老様と約束した。

 

 

 

 その後、多くのナメック星人たちに囲まれて惜しまれながら、最長老様は息を引き取られた。

 

 ピッコロさんやクリリンさんが殺された時と同じく悲しい気持ちはあったけど、今回はその最長老様の死が単純に理不尽なモノだとは思えなかった。

 

 言葉にするのは難しいけど……最長老様を慕いその死を純粋に悲しむ多くのナメック星の人たちに囲まれて亡くなった最長老様の最期の表情が、きっとただ悲しいだけのものじゃないと思えた。

 

 親しい誰かの死というのは間違いなく悲しい事だ。けど、死ぬっていうのはきっと単純に理不尽なものじゃないんだって思えたんだ。

 

 

 

 ……でも、最長老様の言っていた事は本当にどういう事なんだろう?

 

 

 

「生きようと思う事は、当たり前だと思うんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 …………その時の僕は、その『生きる』という意味を全く理解できていなかったんだ。

 

 

 

 

(★)

 

 

 

 

 夜空を彩る星々は、厚い灰色の雲によって隠され、空から雨粒が地上に降り注ぐ。

 

 その場所は村のようだったが、そこにある建物はボロボロであり、人の気配が感じられず、長い間人の生活した形跡が見られない……所謂廃村というものであった。

 

 そんな廃村の中で他の建物と同様にボロボロになった教会、その扉が開いていた。

 

 教会の中はというと、何か珍しいものがあるわけではない。扉の先には質素な礼拝堂があり、長年人の手が入っていないが故に埃に塗れていた。

 

 そこに足を踏み入れた一人の少女――――チアは身体に滴る雨と体液でぐちょりという音を立てながら倒れ込んだ。

 

 ナメック星にて全て――――身体の維持する力も含めたあらゆる力をあの一撃に注いだ反動、それが今時間差でチアの身体を襲っていた。

 

 身体操作による常態維持が上手く機能できず、その身体は所々に病魔による歪みが生じ――――否、そもそもとしてそれらは存在していたそれらを抑える事が出来なくなっていた。

 

 息を吸えば、腐った体液が空気とともに肺へと侵入してくる。無意識呼吸など恐ろしくてできない。どこであろうと気を緩めれば溺れる危険があったからだ。

 

 心臓が動けば、圧に耐えきれずに血管が破裂する。送られる血液自体が腐っていれば、それを通る管も、送り出す臓器すらも腐っていた。

 

 胃はただ只管に腐った酸を放出し続け、腸は仕事を放棄し汚物を蓄えるだけの保管室と化している。故に早々に食事をとる事をやめた。口にしている固形物は仙豆のみである。

 

 脳すらも眠りにつけと意識を落とそうとしてくる。その行き着く先が死であるのがわかっているはずなのに。故に今まで意識を落とした事などない。睡眠とは死と同義なのだから。

 

 

 生きるためのあらゆる行為が、肉体と精神を蝕み、死へと近付けていく。

 

 

 自身の肉体すらも味方ではない。己を死へと追いやろうとする障害と化している。

 

 それが日常化しているのだ。最早生きていられる状態ではない。

 

 それでも彼女は生き続けてきた。生きたいという一念だけで病魔に抗ってきた。

 

 己に死を与えようとする世界こそが間違っているのだと断じて、それを覆すために奔走した。

 

 

 

 

 

 

 

 だが――――それもここまでだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ドラゴンボールを求めた。方策を練った。致命的なミスはなかった。一度は願いを叶える目前まで至った。

 

 

 

 

 

 それでも希望は、手からすり抜けていった。

 

 

 

 

 

 激痛は変わらず襲ってくる。しかしその感覚は薄くなっている。痛みが和らいだわけではない。それに反応する意思が弱まっているのだ。

 

 命の灯火が消えていく。それに微かに抗うためか、あるいは消えていく余韻か、薄れていく意識の中でふと上を見れば、教会の礼拝堂に安置された十字架に磔にされた聖人像がこちらを見下ろしていた。

 

 その聖人像の眼差しは何を思って作られたのか……それは最早わからない。慈愛だったのかもしれない。祝福だったのかもしれない。あるいは救いだったのかもしれない。

 

 

 

 だが――――チアはそのようには受け取らなかった。

 

 

 

「……み……くだ、すな……」

 

 

 

 ――――罪科により、裏切りにより磔にされた塵にすら見下されるなど、ふざけるな。

 

 

 

「あわ、れむなッ…………!」

 

 

 

 ――――糞が、塵が、屑が……! この私を、見下すな……! 憐れむな!

 

 

 

 怒りか、はたまた怨念か、執念か。消えかけていた意思たる灯火が再び燃え上がる。

 

 それに伴い身体を襲い続けている激痛を精神が再び感知し始める。

 

 しかしその痛みはチアにとって日常であり、人生における隣人であり、潰すべき敵であり、生きている証明でもあった。

 

 

 

 終わるのか? 諦めてしまったのか?――――そんなわけがないだろう……!

 

 

 

「ふざッ、けるな……ッ! 私は、死なんッッ……!! 絶対にぃ……生きるのだッ!!」

 

 

 チアの中で生きる意思が爆発的に燃え上がり、意思とともに身体から力の波動が放たれ、その衝撃は教会を内側から吹き飛ばした。

 

 夜空に一時響く炸裂音、その後に残る雨の音、雨と瓦礫が夜の帳から降り注ぐ中、崩壊した家屋にてチアは血反吐を吐きながら一人悠然と立ち上がる。

 

 

 

「――――私が、間違っていた」

 

 

 

 何を馬鹿な事を考えていたのだろうか、そう思わざるを得なかった。

 

 

 ドラゴンボールは全てを集めた者の願いを叶える希望だ。神とやらが哀れな人間に施しとして与えた奇跡だ。世界が許容する範囲で願いを叶えるシステムだ。

 

 

 私は愚かにもそれに縋ってしまったのだ、と悔いていた。

 

 

 

 

 ――――私に不条理を押し付ける間違った世界が、その間違いを自ら正そうとするはずがないのに。

 

 

 

 

 

 その結果が今の有様だ。ドラゴンボールに拘った結果、願いを叶えられず、何の収穫も得られずにただ時間を無為にしたのだ。

 

 

 

「そうだ……私は、ドラゴンボールなどに頼るべきではなかったのだ」

 

 

 

 ――――施しなどいらない。求めるモノはこの手で奪い、手に入れる。それらは献上され、徴収すべきモノだ。

 

 

 

 ――――乞い願い、それで天がそれを施してくる。それではまるで、私が世界に屈服したようではないか。

 

 

 

 ――――私は決めたはずではないか。例え外道畜生と指差されようとも、どんな手を使ってでも快復して見せると。

 

 

 

 ――――優秀な私が短命で、愚劣な塵屑共が長く生きる世界など間違っている。

 

 

 

 ――――故に正すのだ。間違っている世界を、この私が正すのだ。

 

 

 

 

 

 ふと周囲に目を配ると、先程まで礼拝堂で祀られていた聖人像が、十字架に磔にされたまま逆さまの状態で落下していた。

 

 

 奇しくもそれは、上から見下ろしていた先程とは違って下からチアを見上げる状態になっていた。

 

 

「そうだ……これこそが、正しい形だ……!」

 

 

 

 ――――貴様ら生きているのなら私の役に立てよ。それが道具たる役割だろうが……!

 

 

 

 ――――役に立たないのなら塵なりに分を弁えろよ。地に臥せて見上げていろよ……!

 

 

 

 ――――邪魔をするなら逆さ十字に磔にして、頭を垂らさせればいいだけの事だ……!

 

 

 

 

『――――あなたは、悪に染まる必要はないのですよ』

 

 

 

 ふと、どこかの道具が口にした言葉を思い出す。それに対して、私はどう返しただろうか?――――――――決まっている。その答えは今とて何ら変わっていない。

 

 

 

 

 

「――――私は、望むべくして外道となったのだ」

 

 

 

 

 

 そしてチアは再び歩み始めた。月も星も照らす事のない闇の中へと……

 

 




これにてナメック星編が終了となり、次回から人造人間編へと移行します。

ナメック星編はプロローグ的な位置でしたのであまり原作から乖離しないようにしましたが、人造人間編からは徐々に原作から外れていくでしょう…………多分。

なので更新速度は今まで以上に遅れてしまう可能性がありますが、どうかご容赦を……

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