ヤミを祓うは七つ球   作:ナマクラ

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第九話 形勢逆転!怒りの悟飯!

「ここが……ナメック星」

 

 ナメック星のドラゴンボールで生き返り、さらに二つ目の願いでナメック星まで転移した俺は降り立ったその大地にどこか懐かしさを感じていた。見た事もない故郷に、己の血が懐古しているのかもしれない。

 

 だがそれに浸っている暇はなかった。尋常ではないほどに巨大な気が猛烈な速さで移動しているのを感じ取ったからだ。

 

 界王の所で修行したからこそはっきりとわかった。この気のデカさは尋常じゃない。修行により強くなった俺でも勝負になりはしない。

 

 ……だが、逃げるなどという選択肢は存在しない。

 

 ここに転移させるために言った故郷の星が蹂躙された怒りというのはただの方便ではない。

 

 故郷などどうでもいいと思っていたが、それでも心のどこかに帰属意識でもあったか、許せない気持ちが湧いてくる。

 

 それに何より、あの弱くて泣き虫だったあの悟飯がこの強大な敵と相対しているのだ。師匠としてそれをただ見過ごすわけにはいかない。

 

 

 

「……待っていろよ、悟飯!」

 

 

 

 そうして俺は、巨大な気が向かう先――――悟飯の気も感じるその場所へと向かい飛び立った。

 

 

 

 その最中に暗かった空が明るくなり、おそらくはドラゴンボールによる変化だろうと理解しつつも思わず周囲を見渡していた際に、地面に誰かが倒れているのを見つけ、思わず進行方向をそちらに変えてしまった。

 

 倒れている人物は、外傷箇所自体は少ないが、その一つ一つが重症だった。凄まじい程の力が加わったのか腕は関節部分以外にも不自然に曲がっており、脚は踏みつけられたのか圧し潰したかのように拉げていた。そして何より肋骨や筋肉ごと撃ち砕かれたのか胸部が不自然すぎる程に陥没している。

 

 圧倒的な力量差がある相手に一方的にやられたのだろうと想像できる…………おそらく、相手はフリーザだろう。

 

 だが思わず足を止めてしまったのには他に理由があったのだ。

 

 

 

「俺と同じ、ナメック星人……」

 

 

 

 もはや虫の息であったその人物は、外見が俺とそっくりであるナメック星人であったのだ。

 

 

 

(★)

 

 

 

 上空から襲ってきた衝撃、それは僕らのいた島を完膚なきまでに破壊した。

 

 砕かれて岩石と化した島の破片は周囲に飛び散り海に落ちて音と共に波を立てて、そのまま海底へと沈んでいっていた。

 

 もしも対処が遅れていたら、僕らもあの島の破片と同じように、波を立てた後に海の藻屑となっていただろう。

 

 僕たちは衝撃の余波に煽られて近くの島に不時着する程度で済んでいた。怪我という怪我をする事もなく、負傷といえば島に不時着した時に身体をぶつけたくらいのものだ。

 

 でも僕は対応できていなかった。フリーザが攻撃してくるまでその予兆に気付けなかったし、気付いた後も身体を動かす事ができなかった。それは、隣にいるデンデも同じだった。

 

 それでも僕が、僕たちがこうして無事でいられたのには理由があった。対応できた人が、僕たちを助けてくれたからだ。

 

「ぐ……が……」

 

「く、クリリンさん……!?」

 

「ぼ、僕たちを庇って……!?」

 

 僕たちの視線の先には、ボロボロになって倒れているクリリンさんの姿があった。

 

 頭からは血を流し、全身は傷だらけ、ベジータが渡してくれたあの丈夫な戦闘服も所々皹が入ってボロボロになっていた。一番ひどい左足は、おかしな方向へと折れ曲がっていた。

 

「そ、そんな……!?」

 

 僕たちを庇ってなければ、クリリンさんだけなら、きっとこんな傷を負う事はなかった。

 

「だ、大丈夫ですか!? す、すぐに――――」

 

 デンデがクリリンさんに何かを言っているみたいだったけど、僕がそれを最後まで聞く事はなかった。

 

 

 

 一瞬、ピッコロさんが僕を庇ってサイヤ人に殺された時の事を思い出した。

 

 

 

 クリリンさんもフリーザの攻撃から僕を庇ってこんな状態に……!

 

 

 

 許せない……許せない……!!

 

 

 

 

 

 僕の大切な人を傷つけたお前は、絶対に許さない……!!

 

 

 

 

 

 

 

 ――――僕の中で、何かが切れた音がした。

 

 

 

 

 

 

 

「――――うわああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 怒りのままに力を解放して飛び上がる。僕の目にはもうフリーザしか目に入っていなかった。

 

 上空にいたフリーザへ向かって怒りに任せて拳を振るう。

 

「な――――っ!?」

 

 一撃、さらに一撃、もう一撃! 怒りのままに攻撃を食らわせる。

 

「だあああああああああ!!」

 

 力任せに地面に向けて叩き付けて、追撃にひたすらに気弾を撃ちこんでいく。

 

 一発二発じゃ済まない。何十発と、土煙でアイツの姿が見えなくなるまで、見えなくなっても、ひたすらに撃ち続けた。

 

「―――! ――――!」

 

「ああああああああああああああ!!」

 

 誰かが何かを言っている気がしたけど、そんなものは耳に入ってこなかった。それよりもアイツをもっと叩きのめさないと! アイツは、クリリンさんを――――!

 

 

 

 フリーザに向けて気弾を撃ち続けている最中、僕は意図しない方向から強く突き飛ばされるような衝撃を受けた。

 

 

 

「ぐ!? 何を――――!?」

 

 

 

 いきなりの横槍にその衝撃が襲ってきた方向を確認したら、そこには――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――僕を突き飛ばしたであろう左腕に大穴が穿たれたチアの姿があった――――

 

 

 

(★)

 

 

 

 フリーザの放った衝撃波が島を襲う。その様子を傍目に見ながら私はさらに攻め手を強めていた。

 

「な――――」

 

 それにまるで信じられないものを見たかのように驚愕の表情を浮かべるフリーザ。まるで島への己の攻撃が何の阻害もなく徹った事や己に更なる攻撃を仕掛けられている事に驚くかのように……ああ、そうか。

 

「お前、まさか私が塵を庇うとでも思っていたのか?」

 

 どうしてそんな発想へと至るのか、理解に苦しむ。何故この私が役にも立たない塵共を庇うと思ったのか。

 

 ともかくフリーザが悟飯たち(塵共)に一手無駄にしたおかげで私はその分余裕が生まれた。

 

 左手で気弾を放って牽制かつ体力を削りながら、右手に気を集中させる。フリーザにこの一撃を食らわせてその息の根を止めてやる。

 

「ぐぅ……!?」

 

 その私の様子をみてマズイと感じたのか、フリーザはその場を離れようとするがそれを許す私ではない。左手から放つ気弾群を操作しヤツの動きを制限する事で既にヤツは私の掌の上にいるに等しい。どれだけヤツ自身がこの一撃を避けようと画策しようと、この一撃を避ける事はできない。

 

「――――さあ、消え去れ塵屑」

 

 そして宇宙の塵屑を消却しべく右手の照準を合わせる――――

 

 

 

 

 

「――――うわあああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 ――――瞬間、その叫び声と共にフリーザが乱入者によって殴り飛ばされて照準から、そして私の支配下から外れた。

 

 

 

 どこの塵の仕業かと考えるまでもなく、下手人が誰かは明白だった。悟飯だ。

 

 

 

 何故激昂しているのかはわからないが、先程のフリーザの攻撃をどうやら避けていたらしい。チラリと悟飯が飛んできた方向を見てみると、そこには無傷のデンデとボロ雑巾のようになったクリリンの姿があった。デンデすらも避けているのにクリリンがボロボロになっている理由がわからん。理解に苦しむ。

 

 そんな事よりも今はフリーザだ。さっさと消し屑にしたいのだが、その後も激昂した悟飯がフリーザを無作為に殴り続けるせいで照準がつけられない。……悟飯ごと撃ち抜いても構わないが、ああも大きく物理的に揺さぶられると確実に命中させられるか難しい所だ。窮鼠猫を噛むとも言うし確実に仕留めたい所だが……

 

「だあああああああああ!!」

 

 さらに地面に叩き付けたと思えば、今度は気弾の雨を降らせる。命中しているのであれば足止めは出来ているのだろう。

 

 だが、肝心のヤツの姿が土煙で見えん。気で大体の場所はわかるが、正確な場所がわからん。これでは右手に溜めた砲撃が撃てない。

 

「おい! 無駄弾を撃つな! ヤツが視認できないだろうが!!」

 

「あああああああああああああ!!」

 

 悟飯に怒鳴りつけるが逆上しているせいか反応がない。くそっ、聞こえてないな。使えん塵め!

 

 口で言っても無駄であれば、手間ではあるが仕方あるまい。

 

「邪魔だと言っているんだ!」

 

 左手から衝撃波を悟飯に向けて放つ。さすがにこれで多少の動きが止まるだろう。さっさとフリーザを消し飛ばすとしよう。

 

 

 

 ――――そう思っていたら、衝撃波を出したために突き出していた左腕が見えない何かに穿たれた。

 

 

 

「何を――――!?」

 

 悟飯がこちらを見て驚愕しているが、そんな事を気にする余裕はなかった。

 

 この場において、不意を打って私の腕に穴をあけられそうな塵など、一人しかいない……!

 

 

 

 

 

「――――おや? ちょっとばかし強すぎましたかねぇ……」

 

 

 

 

 

 その声と共に土煙の中から現れたのは先程までのフリーザではなかった。

 

 先程よりも頭部が前後に伸びるように大きくなり、その重さのせいか背筋が曲がり、しかしその分身体全体に柔軟性が増したようにも見える。先程までの姿勢のいい形態と違って、異形に近い雰囲気を持つ形態になっていた。

 

 形態が変化したことでどう変わったかまではわからないが、それでも先程よりも強大なのは疑う余地はなかった。

 

「ち、チア……!?」

 

「こ、の……塵屑がぁっ!!」

 

 悟飯がこちらを見て何かを言おうとしていたが無視して咄嗟に右手のエネルギーを解放する。一撃で仕留められるかどうかに拘っている場合ではなく、今撃たなければ主導権を完全に握られると判断したからだ。

 

「おっと! 危ない危ない。さすがに今のは喰らうわけにはいきませんね」

 

 全てを呑み込む黒い光は、島を削り、海に大穴を空けたものの、フリーザには悠々と躱された。その口ぶりから先程まで微塵もなかった余裕すら感じられる。形態が変化した事でそれほど力が上がったというのか……!!

 

「さて、では先程までの分をお返しするとしましょう、か!!」

 

 その言葉とともにフリーザは距離が離れているにも関わらず指を二本そろえた状態でこちらに向けて突きを放ってきた。

 

 どう考えても届かない距離だが、何かがくると感じた私は咄嗟にバリアーを張る。が、目に見えない衝撃――――おそらくフリーザの指から放たれたものが障壁を撃ち砕いて私の身体へと襲う。

 

「ぐっ……がぁ……!? 塵が……舐めるなぁっ!!」

 

 今度は砲撃ではなく、数撃つ気弾の雨を降らしてやる。砲撃程でないにしろ威力がないわけではない。当たって動きが鈍った所をハチの巣にしてやる……!

 

「ほう、撃ち合いですか、いいでしょう。受けて立ちます」

 

 それに対し、フリーザは真っ向から両手で見えない衝撃――――指弾を飛ばして応戦してきた。

 

 その無数に飛んでくる指弾を少しでも躱すべく、縦横無尽に動きながらこちらも気弾の雨をヤツに目掛けて降らせ続ける。

 

 ヤツの指弾はバリアーで防げずとも逸らす事はできる。方向を逸らせば躱す事も可能になる。これで被弾を減らす事はできる。問題は此方の攻撃だ。

 

 

 

 奴に、気弾が当たらない……!!

 

 

 

 奴に向けた気弾の内、最低限だけ指弾で打ち消し、それ以外の弾は悠々と避けていく。

 

 対してこちらはヤツの指弾を全て防ぎ切れていない。逸らして躱して被弾を減らせたとしても、それはあくまでゼロにはなっていない。今この時にも被弾による負傷は増えているのだ。

 

 減らせどもなくならない被弾がある私に対して、完全に被弾を許さないフリーザ。これだけでどちらが優勢かわかるだろう。このままでは、削り負ける……!

 

「先程までのお返しです。嬲り殺しにして差し上げましょう……!!」

 

「誰に、向かってぇ……! ほざいているぅ……! 塵、ガ――――ッ!?」

 

 ついに指弾が障壁を貫いて額に衝撃が襲う。さらに続いて心臓を穿つかのように胸に指弾が命中した。

 

「ごぼっ!?」

 

 脳が揺れ、吐き気がこみ上げる。心臓が衝撃でまともに働かない。意識すらも朦朧として、無理やり抑えていたヤミが蠢き始める。

 

 それを抑える事に集中せざるを得ない状況で、障壁どころか舞空術にすら意識を向ける余裕がなくなっていた。星の重力に引かれるままに自由落下していく。

 

 そんな私の様子を見て勝利を確信したのか、フリーザは笑みを深める。

 

「では、一思いにトドメを刺してあげましょうか」

 

 落ちていく私に対して追撃をしようとするフリーザに、今の私は何もする事ができず、ただその様子を見ている事しか出来なかった。

 

 

 

「――――や、やめろぉーーーー!!」

 

 

 

 そんな中で悟飯がフリーザに突っ込むが、力の差は歴然。真っ向から突撃した悟飯はその攻撃を軽く躱され、そのまま無造作に蹴り飛ばされ血反吐を吐きながら地面へと叩き付けられていた。

 

 

 

「お望みなら先にあなたから始末してあげましょうか」

 

 

 

 そう言ってフリーザが悟飯に指先を向けた時の事だった。

 

 

 

 

 

 ――――下から突如として飛来した気で出来た薄い円盤が、なんとフリーザの尻尾を切り落としたのだ。

 

 

 

 

 

「――――何っ!? 私の尾が!? 一体どこから……!?」

 

 

 

 思わぬ不意打ちにフリーザは下手人を探して下を見渡すと、その姿はすぐに見つけた。

 

 

 

「――――気円斬」

 

 

 

 そこにいたのは、先程島を破壊した攻撃に巻き込まれ重傷を負ってボロ雑巾のようになっていたはずのクリリンであった。

 

 

 

「な……!? あの地球人、さっきの攻撃で虫の息になってたはず―――――」

 

 

 

 ピンピンしているクリリンに気を取られて驚愕しているフリーザだが、今度は上方から突如として現れたナメック星人に不意打ちで側頭部に蹴りを入れられて吹き飛んでいく。

 

 

 

 その様を見て、ざまぁみろと思いながら、私は――――――――ぐちゃりと音を立てて大地へと叩き付けられた。

 

 

 

 




クリリン「チアが俺達を庇うわけないから俺が二人を護らないと……!」
 ↓
悟飯「チアが身を挺して庇ってくれた……!?」
 ↓
チア「悟飯の邪魔がなければ塵屑消し飛ばせていたのに……!」

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