「メガミデバイスなんかも好きだ」
「メガミデバイスがお好き? 結構、ますます好きになりますよ!」
ここは日本にある東京都立川にあるちょっとお高そうなマンション。その一室に一人の男が住んでいた。
男の名は鎧明人。今年で20代後半に突入する社会人である。今日は金曜日、現在はもう午後の19時を過ぎたあたりである。
一人暮らしをする彼はもちろん自炊をしなければならない。今もこうして台所に立ち、夕ご飯を作っている最中である。
何を作っているかって?
こいつは一人暮らしで、料理が好きではない……つまり、作れるモノは決まっている。
炒飯、そう男の炒飯である。具はハムだけだ。まさにシンプル。
「撫子、皿」
「と、言うと思ってこちらに用意しておきました」
「さすが、撫子。さす撫」
「はいはい」
明人が呼んだ撫子という少女……というより小さな小人は、コトブキヤから発売されている『FA・G(フレームアームズ・ガールズ)』というプラモデルである。二度いうがプラモデルである。
『フレームアームズ・ガールズ バーゼラルド』それが撫子の本来の機体名である。ちなみにこのバーゼラルドことバゼ子は限定盤であり、色が赤で、髪の毛が黒。赤バニーではるのだが、明人は大和撫子を連想したらしく『撫子』というニックネームをつけた。
さすがに素体のままでは皿をもつことはできないので、武装を展開し、両腕のハードポイントにお兄さんというべき存在のフレームアームズの『アーキテクト』の腕をつけて皿を運んだのだ。
なんでバーゼラルドじゃないかって? アーキテクトは安いからね! カラバリも一杯あるよ! みんな“は”買ってみてね!
出来上がった炒飯を食べながらテレビをみる明人。そんな彼に充電くんに座り一息ついていた撫子が突然なにかを思い出したかのように声をあげた。
「あ、忘れていました!」
「ん、ふぁにを?」
「お行儀が悪いですよ。今日ファクトリ-から荷物が届いていたのを忘れていました」
「ファクトリー? ああ、コトブキヤからなんかメールが届いていたな。なんだっけ……そうだそうだ。会員に轟雷が送られてくるんだったな。ほんと、今更感あるよなあ」
『フレームアームズ・ガールズ 轟雷』は本来一番最初に発表、発売されたのだが、今現在発売されているFAガールのAIを搭載することになったので、初期ロットに発売された
轟雷を除き、現在標準装備のAIを搭載した轟雷は発売されていないのだ。
さらに付け加えると、この頃のFAガールの知名度は低く、コトブキヤのプラモを買っていない者達からすればなにそれ? 状態だったのである。有名なジャンルと言えば、アーマードコアやゾイドといったブランドの方が知名度があった。
しかし、AIを搭載したFAガールが発売されたことで一気に『FA.・G』というブランドは有名になった。発売された順番で行けばスティレットが最初に発売されたことになっているので、ただのというか普通のプラモデルである轟雷は貴重であり、オークションなどでは高値で取引されているという。
ちなみに明人は買ったはいいが作るのが面倒で積んであるので作ってはおらず、スティレットを購入して初めてFAガールを作った。一応本体より少数生産された轟雷のオプションパーツも買ってあるが、こちらも積んでいるのであった。
ご飯を済ませたアキトはさっそく送られてきたダンボール開けて中身を取りだした。
「おお! なんだかいつもと違うぞ!」
「そうですね。いつもでしたら、私達が描かれているパッケージですよね」
「フミカネの新規描き下ろしを期待していたんだけどなあ。ま、いっか。では、ご対面!」
箱の中央に素体の状態で轟雷が収納されており、その下に充電くんがあった。周りには轟雷の装甲と武装のランナーに説明書があった。
中身は発売中の他のFAガールと左程変わりはなかった。
明人は轟雷を手に取っていじくり始めた。
「ふむ、特にプラモの轟雷とはあんまり差がないな。色がちょっと違うくらいか」
「明人、まずは起動してみてはどうです?」
「それもそうだな。えーと、どこだっけ」
「起動のスイッチは胸の辺りですよ」
「そうだっけ? まあいいや。ポチっとな」
『……』
しかし、轟雷は起動しなかった。
「撫子、起動せんぞ」
「おかしいですね。取説にもちゃんと書いてありますのに」
自分の倍はある説明書を箱からだしてページを開くその姿はどこか可愛い。
「充電されてないのか?」
そう思った明人は充電くんを取りだして後ろの腰の部分にコネクタを指し込んだ。それから再度起動スイッチを押す。
それでも轟雷は起動しない。
我慢の限界を迎えたアキトは、
「動けこのポンコツが! 動けってんだよ! ふん! ふん!」
「そんな乱暴な扱い方はいけません!」
撫子が明人を止めようとしたその時である。轟雷の目が開いた。
「ふ、この手に限る」
「それしか知らないんでしょうが。でも、よかったで……」
轟雷は突然小刻みに動き出し始め、明人は思わず轟雷をテーブルに落としてしまう。水揚げされた魚のようにぴちぴちと体を動かしている。
『くぁwせdrftgyふじこpl』
「バグった――!!」
「もう、明人が乱暴にするからですよ」
「撫子、あとは任せたZE!」
サムズアップして明人はすべて投げ出した。撫子は人間でいうため息をつきながら、他の子が持っているサムライソードを手に持った。
「あの……撫子さん? 撫子さん?!」
ソードを構え、高く掲げ、振り下ろした!
「……覇!!」
『くぁwせ―――――』
「……峰打ちです」
「おいぃ! これはどうみても逝ったよ! 完全に逝ったよ?!」
「大丈夫です。峰打ちですから」
「んなもん、ドラマとかゲームだけだからな?! あーあ、これは返送しな――」
すると、倒れていた轟雷が突然立ち上がった。身体は明人の方を向き、ゆっくりと目を開いた。
「轟雷、起動完了しました」
「どやぁ」
「ちっ!」
「マスター、何故か首のあたりにダメージが蓄積されているようなのですが、起動した際に何か問題でもあったのですか?」
「……ちら」
「……ぷい」
明人が撫子に目を向けると、撫子は明後日の方を向いた。
「お二人ともどうかしたのですか?」
『いや、なんでも』
「そうですか。起動したばかりでこんなことをいうのも気が引けるのですが、装甲と武装を作ってほしいのです」
「積んであるガンプラを消化する予定だったが仕方あるまい。新しい同居人? の頼みが優先だもんな!」
「貴方の積みプラを数えろ!」
「今更数えきれんなあ!」
「お二人は仲がよいのですね」
「そうでしょうか?」
「撫子とはいつもこんな感じだけどな」
明人がそう言うと撫子も肯定したのか頷いた。
「撫子? それがバーゼラルドの名前なのですか?」
「あ、そうなのよ。うちにはもう一人、一体? のバーゼラルドがいるんだよ。そっちはバゼ子な」
「そうなのですか。よろしくお願いします、撫子」
「よろしくお願いしますね、轟雷」
「ちなみに、他にもFAガールが?」
「いるよ。描写が面倒だから出てないだけで、この部屋にいるよ」
「メメタァ」
「は、はあ?」
「さて、さっさと作るか。とりあえず、部分塗装とつや消しだけしとこ」
「明日は土曜日ですから、時間はたっぷりありますね。よかったですね、轟雷」
「はい!」
それから数時間後。轟雷の装甲と武装は完成した。
翌日になって、この轟雷が起動しないという報告をネットで見るまでは驚いたものだが、まさか隣の住人の轟雷も起動したとは思いもよらなかったのである。
基本短いですが、こんな感じで不定期でやっていきます。
え? プラモに名前をつけるのはおかしい?
またまた、貴方だって服を着せたり、色々と弄ってるんでしょ?