鉄の艦娘達   作:かじもこ

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戦争は簡単であり、これに必要な知識は極めて低級なように見えるが、実行してみると、その反対である。

クラウゼヴィッツ




1話 私は悪魔

 目がさめると全身が傷と血だらけで海岸に倒れていた。起きようとしたが、あまりの痛みに顏をしかしめる。

 

 身体中がズキズキする。しかも、右の腕が無くなっており血が止まらない。なおかつ、なぜかさっきまでの記憶が全くない。自分が誰なのかも思い出せない。

 

 周りの砂浜には戦車らしきものの残骸や兵士らしき人物の死体が辺り一面に転がって血とオイルの何とも言い難い匂いが漂っている。

 

 とりあえず状況を把握するために、起き上がり背中に装備していたものを外した。しかし外した瞬間、身体の感覚が一斉に無くなった。意識はあるのだが身体に全く力が入らない。まるで、今背中から外した装備に身体の神経が持っていかれるような感覚だった。

 

 倒れたまま動くことが出来なかったが時間が経つにつれて彼女は、何があったのか、自分は何者なのか思い出して来た。

 

 彼女はさっきまでのして来た自分の行いに恐怖した。5分後、彼女は生存者の捜索に来た兵士に発見され、保護された。艤装を外していたため、もう少しで出血多量で死ぬとこであった。

 

 保護されても彼女は怯え切っており、救助に来た兵士に泣きながらこう伝えたという。

 

 わたしは「悪魔」だ。「悪魔」になってしまったと。

 

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 その出来事より3年後、外はお昼近くで日が高く上っている中、東北管区第3鎮守府の地下艤装格納庫の奥の奥、分厚い金属の壁に囲まれまるで核シェルターのような場所にひっそりと佇む艤装があった。そしてその前に1人の少女が居た。

 

 彼女は複雑な思いでこの艤装を見ていた。すると後ろからピンクの髪をしてハチマキを巻いている艦娘がやって来た。

 

「不知火ー、またここに居たの?提督にまた見つかったら怒られるよ」

 

 そう、ここはこの鎮守府の提督の許可がなければ厳重に立ち入り禁止にされている場所であった。しかも不知火が立ち入るのはこれが1度目というわけではなかった。先週も勝手に入り、提督にこっ酷く怒られたばかりであった。

 

「明石ですか。分かってはいるんですが、どうしても腑に落ちないんです。提督、いえ、前の提督や大和さんたちの多くの犠牲のもと守り抜いたものが、こんな勲章一つで済んでしまうなんて」

 

「それも確かに分からなくもないけど、上層部にそれを言っても大和や赤城達が生き返るわけでもないんだよ?」

 

「分かっています!分かっているのですが・・・。青葉っ・・・。」

 

 そう頭では前の提督や大和、青葉達が戻らないことは分かっていた。だがどうしても心の中にぽっかりと合いた穴は艦娘の上層部から最上位の勲章を贈呈されても、埋まる事は決してなかった。

 

「そう言えば不知火のこと提督が呼んでたよ。なんか今日新しい娘が配属されるらしいよ」

 

「分かりました」

 

 そう言って不知火は秘密格納庫より出て言った。それを茶化すように明石が

 

「今回のことは提督には点検で開けたことにしといてあげるよ、第3鎮守府の悪魔さん」

 

 その名を聞いた瞬間、不知火が形相を変えて明石に迫った。

 

「だから!その呼び名は使うなと何度言えばわかるんですか!」

 

「じょ、冗談だってば。ほ、ほら提督が待ってるよ」

 

 そう言うと不機嫌な様子ながらも不知火は部屋を後にした。明石はいつも以上の不知火の怒りように唖然としといた。いつもだと「辞めて下さい」で終わる。だが今日は違っていた。

 

「やっぱり提督の言う通り、不知火はこの部屋に入れないほうがいいかもしれないな」

 

 そう言って明石は艤装秘密格納庫のドアを閉めた。部屋の真ん中にある駆逐艦三日月 艤装TYPE 『O(オー)』は部屋の電気に照らされて鈍い光を放っていた。

 

 同時刻、第3鎮守府の門の前に1人の少女が居た。

 

「ここが第3鎮守府かー」

 

 彼女の名は三日月。今日この鎮守府に配属になった艦娘である。

 

 鎮守府には人が沢山いて賑やかな場所であると三日月は考えていたが、意外なことにこの鎮守府には人はほとんどおらず、警備の兵士が5・6人うろついているだけで、艦娘の姿も全くなかった。港にも戦艦大和が余裕で10隻停泊できそうな場所にイージス艦が1隻停泊してただけであった。

 

 あまりにも人が少な過ぎたため、不安になる三日月であったが、とりあえず提督と会わなければ始まらないので提督の執務室を目指した。

 

 途中道に迷いそうになったが、親切な兵隊さんに案内され提督の執務室がある建物前に着いた。ここに来てもなお、他の艦娘の姿は全くなかった。

 

 入り口に入り、受付を済ませて執務室に案内された。入り口にも受付と館内の警備担当の兵士しかいなかった。本当にここが鎮守府なのかと本当に不安になる三日月であった。

 

 執務室の前に着いた三日月であったが先程からの不安からなかなかは入れずにいた。

 

「間違ってるってことはないと思うけど、やっぱり不安だなー」

 

 しかし、このままでは何も進まないので勇気を出して執務室に入った。

 

「しっ、失礼します!」

 

 緊張してカチカチになりながらも提督の前まで移動した。まるで就職試験の圧迫面接を受けに来たような気分であった。

 

「本日この鎮守府に配属された駆逐艦三日月です。よろしくお願いします!」

 

 この鎮守府の提督は赤髪で長髪、身長は175センチぐらいでスラッとしている美人である。

 

 緊張して見えていなかったが、提督の隣に秘書艦らしき人物がいた。髪はピンク色で艤装の形からして陽炎型であることはわかった。しかし三日月は彼女に違和感を感じた。なぜ、この秘書艦は地上にいるのに、艤装をつけているのかと。

 

 艦娘は水上では艤装を装備しなければ、普通の人間と同じで浮くことや動くこと、肉体強化などがされないので装備することは必須であるが、地上に上陸した深海棲艦は艦娘ではなく各国の陸軍が対応するため艦娘が地上戦をすることはまず無い。また、装備したままだと艦娘本人に負担が掛かるだけでなく、何もしなくても艤装に燃料の補給が必要になってしまい貴重な資源を消費してしまうことから、艦娘は地上では艤装を外すのが基本である。

 

 しかしこの秘書艦は艤装を装備したままである。

 

 三日月がそんなことを考えていると提督から優しく声をかけられた。

 

「私はこの鎮守府の提督の佐藤 沙月(さとう さつき)よ。よろしくね。えっと出身は第2教練艦隊の3番隊出身ね?」

 

「はい!第2教練艦隊3番隊の旗艦を務めておりました」

 

「教練監督の艦娘は?」

 

「・・・」

 

「ん?どうしたの?」

 

 三日月は暗い表情で黙った。なんせ、三日月の艦隊の教練監督は教練艦隊の中でも随一の実力を持った鬼監督で、他の教練艦隊の監督艦娘からこう呼ばれるほどの実力を持っていた。

 

 教練艦隊の『悪魔 北上』と。

 

 あの地獄の日々は思い出したくもなかった。

 

「き・・・」

 

「き?」

 

 提督は疑問そうな様子だ。

 

「教練艦隊の北上さんです」

 

「え?まさか、あの北上?」

 

「はい・・・」

 

 三日月の教練監督の北上は元々、中央指令本部直属の第2艦隊の旗艦を務めており、他の鎮守府でも名が知れているほどである。

 

「そ、そっか。大変だったんだね」

 

 提督も察したようである。

 

 そんなことを話していると、後ろの方でドアが開いた。

 

「提督ー!第2艦隊、タンカー護衛任務から帰投したぜ!」

 

 短髪のセーラー服を着た、いかにもおてんばそうな艦娘が入ってきた。その様子を見て提督が椅子から立ち上った。

 

「深雪!執務室に入る時はちゃんとノックをしてからっていつも言ってるでしょ!」

 

「ハハハハー。そんな細かいことどうでもいいじゃん!それよりこの子、新入りさん?」

 

「そうよ、名前は三日月よ。」

 

 すると提督が何か思いついた様子になった。

 

「そうだわ!深雪、ついでだから三日月にこの鎮守府を案内してあげて。あなた午後からオフだからどうせ暇でしょ?」

 

「えー、これから摩耶とトランプする約束だったのにー」

 

「深雪ー?」

 

 提督は口は笑いながらも目が笑っていない様子で深雪に迫った。

 

 これには深雪だけでなく全く無関係の三日月さえたじろいでしまった。

 

「わっ、わかったよ提督!だからその目は辞めてくれ。なっ?」

 

「よろしい。ついでに三日月の艤装と荷物もちょうど届く頃だから受け取りに行ってねー」

 

「はっ、はい!」

 

 そう三日月が返事をすると同時に深雪に左手を引っ張られ執務室を後にした。その頃には秘書艦が艤装をつけっぱなしにしていたことは忘れ去られていた。

 

 しかし、三日月は思った。この鎮守府なら楽しくやっていけそうだと。

 

 




第3鎮守府艦娘紹介

第1艦隊 出撃メイン

旗艦・秘書監 不知火
比叡
加賀
秋月
鳳翔
三日月←NEW

第2艦隊 遠征メイン

旗艦 深雪
摩耶

吹雪
那珂
千代田

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