fallout 双頭熊の旗の下に   作:ユニット85

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 新カリフォルニア共和国の首都はNCRという名前らしいですね。
 国名の略称と紛らわしいのでこの小説内では首都名はシェイディサンズとします。


9 懲りない人々

 

 新カリフォルニア共和国は首都シェイディサンズ郊外。

 中心街から離れたそこに有刺鉄線と高い塀に囲まれた、あまり背の高くないコンクリート製の建物がある。その建物は異様な風体をしていた。全く窓が無く目立った開口部は正面玄関のみなのだ。

 長年風雨に晒され風化した、見るからに陰気臭い雰囲気を周りに発するこの建物に好き好んで近づく者はいない。

 建物の外周を囲う汚いコンクリート製の塀。そこに一つだけ設けられた敷地内へ進入する入り口脇のネームプレートを一瞥すれば理由は明らかだ。

 new california ripublic military correctional facility。

 新カリフォルニア共和国軍矯正施設。ここはいわゆる軍事刑務所だ。

 

 その窓1つ無い建物の地下。地肌が剥き出しのコンクリートに囲まれた部屋で一人のカニシアンと人間が鉄製のシンプルな、悪く言えば飾り気の無い机を挟み、向かいあって座っていた。

 

「どうかね。こちらの食事はお気に召してもらえたかね?」

 

 天井の空調からカビ臭い冷風が吹き込み、少し肌寒い部屋の中、メガネを掛けNCR陸軍のカーキ色の制服姿の男――矯正官と名乗った男が言う。対して囚人服であるオレンジ色つなぎ姿の若いカニシアン――エルマーは無言で俯き自分の手に掛けられている手錠を見つめている。沈黙すること数秒、何か言葉を選んでいる様であったがやがて顔を上げ口を開く。

 

「率直に言って。まずい」

 

 エルマーが捕虜になって4日、出される食事は故郷では見たこと無い奇妙な物ばかりだ。食事は1日朝夕の2回、メニューは緑色でブロック状の粘土みたいな食べ物が2個とただの水。ブロック食の味は片方は薄い塩味のみでもう片方は無い、毎食そのメニューが変わらず続いている。

 非常に味気なく食欲をそそられる見た目でもない。ハッキリ言って家畜の餌みたいな代物だ。しかし他に食べる物も無いので仕方なく食べるが2日目で嫌気が差し、思い切って食事を運んできた看守にこれは何かと聞いてみた。

 看守に聞くところによると、これは合成タンパク質やビタミン剤で作られた合成食品だというのだ。しかもこの食品はここだけで出される特別な物では無いらしく、カリフォルニア国内で広く出回りよく食べられていると言うのだ。

 この事を聞いたエルマーは驚愕の念を抱く。こちらの人間は全員味覚障害なのか、それともよほど食べ物に困っているいるのか。

 

「まぁ、そう贅沢を言うものでないよ。毎日2食決まった時間に決まった量の食事が何もしなくても出る。それだけで恵まれた環境だと私は思うがね」

 

 どうやら後者らしい。

 エルマーが知るカリフォルニア国の風景は、石と砂だらけの荒れ果てた大地という印象が強い。モハビからここまで移送される間ずっと頭から袋を被され目隠しをされていたのでカリフォルニア国全域が荒廃した砂漠地帯なのかは判断出来ない。だが慢性的な食料不足ならばその可能性は高い。(実際はそうでも無いのだが)

 

「それで、何の用だ。さっさっと本題に入ったらどうだ」 エルマーはぶっきらぼうに言う。

 

「ならば単刀直入に言おう。君たちの故郷に関する情報が欲しい。君が知っている全てだ。君の国の言語、一般常識、地理、国際情勢、そして軍事。ありとあらゆる情報だ」

 

「断る。そのような利敵行為に手を貸すつもりは無い」

 

 言いながらエルマーは心中で怪訝に思う。なぜこいつらはアーキムの情報なんかを欲しがるのだろう。2つの世界を繋ぐ装置であるポータルはカリフォルニア人の言うことを信じるならば、既に破壊されてしまったというのに。両世界を行き来出来ない今、アーキムの情報なんて知っても意味は無いはずだ。

 

「素晴らしい、見上げた愛国精神だ。我が軍の者達にも見習わせたいよ」

 

 矯正官はパチパチと小さく拍手しながら立ち上がり、傍らに控えている警備の憲兵の一人に耳打ちする。憲兵はうなずくと退室したがすぐに戻って来た。だが彼はさっきまでと違い医療用の盤台を押しながら入室してくる。その盤上には白い布を掛けられた何かが、こんもりと白い小山を作っていた。

 

「ほ、捕虜に対する拷問はフェルツガルド条約によって禁止されているぞっ」

 

 白布の下に拷問器具を想像したエルマーは呼吸を荒くし、冷や汗をかく。

 

「おお、奇遇だねこちらの世界にも昔、ハーグ陸戦協定やジュネーブ条約といった捕虜の扱いを取り決める条約が存在したんだよ。

 残念ながら200年前の大戦争(グレートウォー)で何もかもが滅茶苦茶になってからバカ正直に守る奴らはいないがね。それに我が新カリフォルニア共和国はそのフェルツガルド条約とやらを批准しているわけでは無いし、端的に言えば我が国は君たちのアーキム王国をまだ正式な国家として承認していないのだよ。

 つまり君たちは正規の国軍ではなく、我が国の法に拠る所における武装勢力やテロリストにカテゴライズされるのだ。本来なら君たちは捕虜になる資格など無い」

 

 矯正官は一旦言葉を区切ると、盤台の上の白布をまるでエルマーに見せつけるかのように、ゆっくりとめくり始める。

 その下から現れたのはおぞましい拷問器具ではなく、1本の注射器であった。

 

「それに我々は拷問などという前時代的な方法を採るほど野蛮ではないのでね。もっと確実でスマートな方法でやらせてもらうよ」

 

 矯正官は注射器を手に取り、白く濁った薬液で満たされたシリンジをわざとらしく指先で弾いてみせる。

 

「この中には自白剤よりもっと便利な物が入っている。コレはね分子機械(マイクロマシン)なんだ。こいつは打ち込まれると脳内に侵入して性格を変えてしまうんだよ。具体的に言うと意志が消滅して人格が変貌し、こちらの言うことは何でも聞くイエスマンに変えてしまうんだ」

 

「キチガイめ」

 

 エルマーは喉の奥から絞り出す様に言う。それを聞いた矯正官は嘲笑う。

 

「このマイクロマシンは本来矯正や治療の見込みが無い犯罪者や精神障害者に使用される物なのだ。君たちにはもったいない代物だよ。本来なら君たちの脳を摘出し、取り出した脳から情報を引き出してもいいくらいなんだ――そんなこと出来るわけないと思っている顔だね、我々の医療技術と脳科学を舐めないでもらいたい。君たちの故郷とは数世紀ものテクノロジー差が我々と君たちの間にはあるんだよ。人口脳や記憶のデジタル化なんて我々にとっては訳も無いテクノロジーなのさ。脳ミソを摘出することに比べればマイクロマシン処置なんてテロリストにはもったいないぐらい人道的な方法だと思わんかね?」

 

 そこまで言うと矯正官は傍らに控えている憲兵達に目配せする。すると憲兵達は拘束具でエルマーを椅子に固定しようとして近づいてくる。

 エルマーは必死で身を捩り拘束されまいと抵抗するが、スタンガンを持つ憲兵達の前には虚しい悪あがきに終わった。

 

「や、やめてくれ、は、話す。あんたらが欲しい情報はなんでも話すから。頼むやめてくれ」

 

 拘束具によって身動きが取れないため、視線だけを矯正官に向けエルマーは必死で懇願する。

 

「大丈夫。マイクロマシンをインストール後も日常生活に支障は無い。それにもう遅い。君はさっき協力を断ったではないか。さぁ、いままでの自分に別れをつげたまえ」

 

「この悪魔どもめっ!」

 

 大声を上げて最後の抵抗をするエルマー。だが舌を噛まないよう布を口の中に押し込められると、くぐもった声しか出せなくなる。

 そこへ一歩一歩とマイクロマシン入りの注射器を持った矯正官が近づく。そして彼の首筋の静脈に注射針を突き立て、プランジャをゆっくりと押し液体を注入する。

 人格が変貌する恐怖の為かまたは冷たい薬液が血管内を伝い全身に広がる感覚の為か、エルマーは鼻息荒くし目を一杯に見開き目尻に涙を溜める。だがそれも長くは続かない。血液脳関門を突破したマイクロマシン群がエルマーの脳に作用し始めると、目がトロンとなり顔を俯ける。

 そのまま待つこと数分。ゆっくりと顔を上げたエルマーの目はまさに別人の様な輝きがあった。

 

「気分はどうかね? エルマー君」

 

「素晴らしい気分です」

 

 エルマーの表情は晴れ晴れとしており、彼の顔面には微笑が張り付いていた。

 

「共和国に忠誠を誓うかね?」

 

「はい、もちろん。新カリフォルニア共和国に忠誠を誓います」

 

 この時より彼は生まれ変わり、ウェイストランドでの新たな人生が与えられたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 エルマーが人格改造処置を受けてから2日後。同じシェイディサンズ内だが軍刑務所からだいぶ離れた、中央省庁が居並ぶ官庁街に位置する大統領官邸。そこの2階に存在する閣議室にてある委員会の緊急会議が開かれていた。

 その列席を連ねるのは大統領を始めとし、国防大臣に加え統合幕僚長を筆頭とする三軍の幕僚長達である高級軍人。さらに関係省庁の長までが円卓に座り列席を成していた。主な列席者は軍人であった。それはこれから開催される会議の性質を思えば当然である。

 中央国防委員会。それがこの委員会の名だ。

 議題は当然ポータルに関する事だ。

 

「大統領閣下。さすがに核攻撃はやりすぎだったのでは? あの規模の核爆発はさすがに隠蔽は無理ではないかと」

 

 内務大臣が発言する。

 先日のポータルに対して実施された純粋水爆を用いた核攻撃は、カリフォルニア本国からでも観測出来た為多くの国民が知ることとなった。その結果政府に対して問い合わせが殺到している状態だ。

 ミニニュークでは不可能な規模の核爆発であるということ、そしてポータルの実験の為一般市民立入禁止地帯に指定されていたニプトンで起こったということが共和国政府の関与を疑わせたのだ。

 内務大臣の発言を受けて大統領ではなく空軍幕僚長が反論する。

 

「内務大臣。確かに核爆撃は過剰だったかもしれない。しかし敵の増援を防ぐためポータルを破壊する手段は核攻撃しか無かったのだ。さらに敵の橋頭堡とポータルの破壊を同時に達成し得る一石二鳥の手段でもあった。橋頭堡にいる敵戦力は陸軍でも対処可能な規模だったのだが、まごまごして本格的な橋頭堡を築かれると厄介だったで核攻撃を実施したのだ」

 

「ならば、このような事態になったのは陸軍の責任では? 陸軍がポータルの向こう側で食い止めておけば核攻撃なんぞしなくて済んだのだ」

 

 内務大臣が今度は陸軍幕僚長へ矛先を向ける。

 

「お言葉ですが内務大臣。ポータルの大きさからして戦車などの重装備を向こうに送り込むのは不可能でした。付近にいて今すぐ動かせる戦力はモハビにいる歩兵部隊しかいなかったのです。ですのでポータルの向こうで遅滞戦闘を行い砲兵と機甲部隊の展開完了まで時間を稼ぐというのが作戦だったのです。さらに付け加えるなら敵はシーザーリージョンやレイダー団とは訳が違うまさに国家規模の戦力を保持しているということをお忘れなく」

 

 内務大臣は納得したのか、反論出来なくなったのか、別の切り口で質問を浴びせる。

 

「陸幕長。最近省庁間でこういう噂が流れている。アーキム王国の捕虜達から異世界に関する情報を集めているとか。ポータルが破壊された今意味があるとは思えない、一体何の為にその様な事を行うのか説明を求める」

 

「もちろん、異地への再進行の為ですよ」

 

「再進行? ポータルが無い今どのようにして? 冗談はこのような場では控えて頂きたい」

 

「陸幕長が言っている事は冗談などではないよ内務大臣。詳しくは産業科学局(OSI)長から説明を行ってもらう」

 

 陸軍幕僚長ではなく大統領が応える。大統領からの目配せを受けたOSI局長が発言した。

 

「皆さん。確かに『ニプトン』にあるポータルと超空間通路は消滅しました。ですがキャンプサーチライト近郊にあるポータルは消滅したわけではありません」

 

 本来ならば極秘で行われるはずだった2つのポータルを超空間通路で繋ぐ実験。万が一失敗した事を考えてニプトンとサーチライトという今は誰も住んでいない無人の廃村で行われた実験は、ニプトン側のポータルが異地へ繋がってしまうという想定外の結果となった。ではサーチライト側のポータルはというと、全く起動せずただのアーチ状のオブジェと化している有様であった。

 

「OSIはニプトンの超空間通路の解析と並行して、サーチライトのポータルも何とか異地に繋げられないかと今まで試行錯誤してきました。そしてつい先日成功したのですが問題がありまして……」

 

 OSI局長が言うには間違いなくサーチライトのポータルは異地へと繋がったという。問題は別にあった、それは……

 

「サーチライトのポータルは異地の地中へ繋がってしまったのです」

 

 サーチライトポータルが起動した後、ニプトンポータルと同じく内側を満たす青白い水面の様な膜へ調査用プロテクトロンを進行させようとしたが、プロテクトロンは膜に少し入った所で足踏みしている状態になってしまったのだ。

 怪訝に思った科学者は自分の腕をポータルへ突っ込み、そしてプロテクトロンが進めない原因を理解した。科学者の手の平に伝わってきたのは湿って柔らかい感触、さらに自分の手に付いた黒々とした肥沃な土だったからだ。

 すぐさまその土はサンプルとして採取され、ニプトンポータル側の異地で採取された土と比較、分析された。そして両方のサンプルは違い無く一致したのだ。

 

「しかし大統領。再び異地に繋げられても地面の中じゃどうしようもないじゃないですか。まさかそこから何メートル上にあるかわからない地上に向けて堀り進めるおつもりですか。それとも異地の地下に都市を築くおつもりですかな」

 

「内務大臣。ワシらはvault-tec社では無いし、ましてやその真似事などするつもりなど無い。さっきの話を聞いていなかったのかね?

 超空間通路の解析は完了し、異地にもう一度ポータルを開く目処はついたのだ。ならばあとはポータルの規模と位置そして金の問題だ」

 

「大統領閣下。内務大臣として再考をお願いします。ポータルより国内のインフラ整備と東進の為の予算投入の方がはるかに有意義です。ポータル及び異地はあまりに不確定要素が多すぎます」

 

 内務大臣が言う事にも一理あった。未知の世界への開拓に国家予算を投じるという冒険を行うより、その予算を国内のインフラ整備――学校、病院や道路、発電所などの建設やカリフォルニアより東のウェイストランドの開拓に予算を投じるべきだというのだ。

 だがそれにも問題があった。インフラの整備維持には当然金が掛かるし、その為の税収の基幹となる国民人口も産業も以前と比べて急激に発展しているが未だ十分とは言えず、しまいにはそれが原因で新たな社会不安が発生しつつあった。 

 

 東部の開拓も順調とは言い難い。今まで軍事力に物を言わせた強引な手法で東部ウェイストランドを共和国の領土とする為併呑してきたが、さらなる東部にはシーザーリージョンとは別の仮想敵が存在していた。

 東部ブラザーフッドオブスティール(BOS)とアメリカの何処かに潜伏していると思われるエンクレイブである。両勢力ともにとてもじゃないが共和国と平和的な関係を結べる様な思想を持ち合わせていなかった。

 

 BOSとは200年前の核戦争を繰り返さないという名目の元に戦前のテクノロジーの収集と保管に血道を上げる組織であり、共和国とはおよそ40年前に戦争を行った。その戦争に敗れた西海岸BOSはそれ以降急激に勢力を衰えさせ、今では風前の灯火だ。しかし東のワシントンDCに派遣された一派は地元の勢力を吸収し

2277年以降急速にその勢力を拡大させ、今ではワシントンDCことキャピタルウェイストランドは東部BOSの軍事政権下にあるという。

 

 もう一つの仮想敵であるエンクレイブはBOS以上に話し合いの余地がない存在だ。戦前の政府高官や高級軍人達で構成された秘密組織の末裔である彼らは、ウェイストランドに住まう生き物を放射能と強制進化ウイルス(FEV)の影響下にある汚染された生物と見なし駆除の対象としたのだ。当然その中にはウェイストランドに住む人間も含まれており駆逐の対象とされた。

 もちろんそんな思想を持つ組織とウェイストランドの住民は相容れるわけが無く、とある人物の活躍によって本拠地である、カリフォルニア沖に浮かぶオイルリグを破壊されてしまい、西海岸ではその後エンクレイブは凋落しやがて撲滅されてしまった。2242年のことである。

 だが風の噂によるとアメリカの何処かに新たな本拠地を構え虎視眈々と復活の機会を伺っているという。

 

 存続が噂レベルのエンクレイブはともかく、東海岸BOSは着実に勢力を伸ばしており、西の共和国と東のBOS双方が拡張を続ける限りいずれ衝突するのは火を見るよりも明らかだ。仮にBOSとの戦争に勝利し旧合衆国の領土を手に入れても、得る物といえば核戦争によって荒廃し疲弊した、汚染され資源に乏しい土地とかつて大都市であった瓦礫の山のみだ。

 

 それならばポータルを利用し、核戦争で荒廃した地球とは違い緑豊かでおそらく未発見の資源が多量に眠っている異地への開拓に賭けてみるのも1つの手だ。

当然異地の全てを共和国は知っているわけではない。異地のテクノロジーレベルは地球でいうところの20世紀半ばぐらいだが、未だポータルの向こうの大部分は未知の世界だ。アーキム王国とも再び戦争状態になるかもしれないし、それとは別の敵対的な未知の国家が存在する可能性があるかもしれない。

 

「だがそれでもワシは異地の可能性に賭けてみようと思う。このまま地球に留まっていれば遅かれ早かれ人類は残された僅かな資源を奪い合って、絶滅するまで戦争を続けるだろう。何としてもそれだけは避けねばならん。たとえ異地の住民を殺戮しつくしてもだ。国家と党、そして人類の存続は全てに優先する」

 

 ジョージ大統領は第2次フーバーダム戦争中、前任のアーロン・キンバル大統領が凶弾に倒れた為、政権を握ることになった人物である。

 元軍人である彼はこの国で強大な権限を持つ軍部をバックに、様々な改革を実施していった。大きなものとしては選挙の停止と野党の結党の禁止が挙げられる。当然国内からは大反発を受けた。

 だが軍部を味方につけたジョージ大統領は腐敗した政治を正し経済のさらなる発展のためには政治的安定が必要であるとして改革を強行したのだ。その過程で血も流れ、結果として共和国は人民党という政党の支配下になった。

 まさに新カリフォルニア共和国の建国当初の理念である民主主義の復活に逆行する暴挙である。

 だが支配政党である人民党は人類と共和国の存続、さらなる発展を理念に掲げ反対勢力を力ずくで弾圧していった。

 その様な暴挙を成して尚、人民党が存続し共和国が分裂していないのは一応は経済的発展と国民生活の向上を一応は達成しているからだ。それが達成出来たのは国民の政治参加を制限し独裁を正当化する開発独裁とでも言える体制に移行したからだ。

 大部分の大衆からは殆ど不満は上がらなかった。一党独裁に移行しても殆ど大衆の生活にはほぼ変化はなかったし、ましてや徐々に生活状況が改善されていくのに反発する者はいなかった。一般大衆はパンとサーカスが提供されているうちは一党独裁と化した共和国政府に不満はなかったのだ。

 

「大統領。これは絶対に失敗出来ない大きな賭けですぞ」

 

「無論失敗するつもりは無い。二の舞いにならない様に前の実験用ポータルとは比べ物にならないくらい巨大な物を作るぞ。もちろん新しいポータルの建設地は慎重に策定するつもりだ」

 

 もはや共和国を止められる者は西部ウェイストランドには存在しなかった。この瞬間から彼らの飽くなき欲望は異世界へ向けられたのだ。

 

 果たしてこの博打は愚挙かそれとも英断か。

 ポータルは天国へ登るための梯子か、それとも地獄へ通じる門か。神に、まして悪魔ですら見捨てた地に住まう者達にその判断はつかなかった。

 

 

 

 

 


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