fallout 双頭熊の旗の下に   作:ユニット85

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5 ワーストコンタクト

 

 

 太陽が東の地平線に顔を出し、地上に長い影を作る頃。朝焼けでオレンジに染まる空を背景に小さな黒い点が3つ現れた。鳥ではない、それらの黒点はやがてレシプロエンジン特有の爆音と共にプロペラ戦闘機を形作った。

 

「目標上空まで15分」

 

 狭苦しい操縦席でエンジンの轟音に負けじと大声で無線機に怒鳴るのは、この編隊の隊長であるカルジョ空軍大尉だ。彼は当然人間ではない、イヌ人であるカニシアンだ。

 新カリフォルニア共和国も航空戦力を保有しているが、所有する全ての航空機がポータルを通れないでいた。それは単純にポータルを通るにはNCR空軍の航空機がポータルより大きい為だ。そのせいでNCRは異地にベルチバードすら持ち込むことが出来ない。よって異地の制空権はアーキム王国側にあった。

 

「カルジョ大尉、2回も攻撃に失敗して陸軍の連中なにをやってるんですかねぇ」

 

 雑音混じりの無線音声から僚機の通信が入る。カルジョの右後方を飛ぶセサール少尉からだ。

 

「陸軍を責めるのは酷だぞ、カリフォルニア人は異星から来た人間だ、俺たちの想像もつかない装備を持っているのかもしれない」

 

「事前のブリーフィングではそんな話は聞かなかったですけど。まぁなんにせよ敵の頭の上に爆弾を落としてそれで終わりですよ」

 

 彼らが操縦する戦闘機、ザンナ82型は機首に星型空冷エンジンを備え、4丁の13ミリ機関銃を搭載するやや旧式の単発単座戦闘機であった。主力戦闘機の座を後継機種に譲ってからは、もっぱら地上攻撃を行う戦闘爆撃機として使用されていた。現在搭載する武装は機銃だけでなく、翼下に2発の100キロ爆弾をぶら下げていた。

 

「まぁな、早く奴らに目覚まし代わりの爆弾を落として早く帰りたいぜ」

 

 まるでピクニック中が如く気楽な会話をする2人、実際楽な任務であった。カリフォルニア人は対空火器を持っているのを確認されておらず、抵抗をほぼ受ける事無く投弾できると予測される。爆弾を叩きつけた後は機銃で地上にいる人間を掃射し血祭りにあげる予定だ。彼らは目標まで数分の距離に来ていた。

 

「カルジョ大尉、前方斜め下から何かが飛んできます」

 

 カルジョのもう1機の僚機、ローデム少尉が何か不審な物を発見したらしく、無線で報告してくる。

 カルジョは目を凝らしローデムが言う物体を見つけようと努める。それはすぐに見つけられた。細長い物体が白い噴煙を長く曳きながら、凄まじい速度でまっすぐローデムの乗るザンナ82へ向かっていく。

 

「噴進弾?」

 

「大尉まっすぐこっちに向かってきます、どうすればいいんですか、助けてく」

 

 ローデムが最後まで言葉を続けることは出来なかった。飛行物体はローデムの機に真正面から突っ込むと爆発を起こし、ザンナ82の機体をローデムの肉体ごと爆散させる。

 

「ッ! 回避しろ」

 

 慌てて散開し、敵弾から逃れるため上昇する2機。

 

「今のは何だ」

 

「大尉、もう1つ来ましたっ。こっちに来ます」

 

 カルジョは首を巡らせ、セサールの機の方を見る。セサールは右に急旋回し飛行物体を振り切ろうとするが、飛行物体もセサールのザンナ82の機動にピッタリと追従する。

 

「セサール! 爆弾を捨てろ!」

 

 重い爆弾を破棄し身軽になることを、カルジョはセサールに命じるが、それがセサールに届くことは無かった。

 旋回するセサールのザンナ82と飛行物体の軌道が重なると、セサールの駆るザンナ82は火球へと変じ、空中に機体の破片をばら撒く。

 

「クソッ! 誘導噴進弾だと」

 

 自らも爆弾を捨て、空域からの離脱を図るが、彼の機にも飛行物体が迫っていた。

速度を上げるためスロットルレバーを倒すが、飛行物体の速度はそれ以上であり、引き離すことが出来ない。

 このままではやられる。そう思った刹那カルジョは風防を開け。機外へ飛び出す。

 飛び出した数秒後、カルジョのザンナ82は左翼の付け根を吹き飛ばされ、紅い炎を曳きながら、クルクルとおもちゃの様に地表へ落下していく。

 その様子をカルジョは背中に背負っていた落下傘からぶら下がりながら呆然と見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「ビンゴ!」

 

 ランドルフが肩に長大な黒い筒を担いだまま、その場で嬉しそうに飛び跳ねる。彼が今担いでいるのはNCR陸軍が装備するMANPADS(携帯式地対空ミサイル)であるFIM92だ。その長細い筒には赤外線誘導式ミサイルが収められている。

 彼は今しがたそれを用いてこちらに向かってくるアーキム王国の航空機、おそらく爆弾を装備した戦闘爆撃機の3機の内、最後の1機を撃墜したところだ。

 

「うるさいハエがいなくなって清々したぜ」

 

「まさかコレが役に立つなんて。持ってきてよかったですね」

 

 ローランドとランドルフが喜色あふれる声で話し合う傍ら、彼らの周りに居るNCR兵からも歓声が上がる。

 だがその歓声に混じり別の異質な重低音が微かに混じる。その異音は徐々に大きくなりやがてレシプロエンジンの爆音となった。まるで潮が引くかの如く歓声は止み、そしてNCR兵の1人が叫びながら空の一点を指差す。

 彼が指差す先を見るとさっきと同じタイプの戦闘爆撃機が6機、こちらを目指して進入してくるところだった。

 

「クソッまだ来るのか。ローランド、ミサイルを寄越せ」

 

「ランドルフ中尉、これが最後のミサイルですよ」

 

 ローランドがコンテナからFIM92のランチャーを取り出しランドルフに渡す。

 FIM92を受け取ったランドルフは、右肩にランチャーを構え、バッテリーと冷却ガスが内蔵されたたBCユニットをランチャーの下にねじ込み、照準器を覗き込む。本来ならIFF(敵味方識別)用のアンテナも展開するが、この世界に味方の飛行機などいないので省略する。照準器で敵機を捕捉し続けていると、ロックオンを知らせる甲高いブザーが鳴る。それを聞くと素早く発射トリガーをランドルフは引く。

 するとランチャーから細長いミサイルがブースターによって勢い良く飛び出し、10メートル離れたところでロンチモーターを切り離しロケットモーターに点火、敵機へ向かって飛翔する。

 黄色い噴炎と多量の白煙を曳きながら急上昇し敵機に迫るミサイル、それは一番先頭を飛ぶ戦闘爆撃機に命中した。

 空の一角で赤い炎が上がり、一拍遅れて爆発音が聞こえてくる。空中で生まれた炎は黒煙を曳きながら地面に激突し大爆笑をおこした。

 

「これで残りの奴らがビビって引き返してくれりゃいいんだが……」

 

 ランドルフの期待虚しく残りの敵機はそのまま怯むこと無く突き進み、やがてNCRの陣地近くの上空に到達した。

 近づいてきた敵機に対してNCR軍はM6A1の30ミリ機関砲で対空射撃を行い、多数の曳光弾がザンナ82の周りを錯綜する。

 M6A1に搭載されている30ミリ機関砲は低空を飛ぶヘリコプターぐらいなら対処できる性能があるが、高射機関砲ではないので射角の制限もある。相手は高速で飛び回る固定翼機であり、相手にするにはいささか分が悪く中々命中弾が得られない。だがそれでも射撃はやめない、敵機を威嚇し爆撃の狙いを妨害するためだ。

 と、ここで先頭を飛行するザンナ82がおそらく30ミリ砲弾が命中したのか、不意に姿勢を崩し墜落する。

 だが撃ち落とせたのはそこまでだった。ザンナ82は目標――つまりさっきからひっきりなしに対空射撃を行っているM6A1歩兵戦闘車に狙いを定めると、急降下を開始し爆弾を投下する。

 M6A1の近くに着弾した爆弾は巨大な火炎と茶色い爆煙を巻き上げ、その車体をグラグラと小刻みに揺らす。続いて2番機が別のM6A1へ爆弾を放つ。投下された爆弾はまるで吸い込まれる様にM6A1の戦闘室上面に落ちその薄い上面装甲を突き破り、車内で弾体に詰め込まれた炸薬のエネルギーを解放した。車体後部にある乗降用ランプドアから炎と爆風が吹き出し、車体は火だるまの鉄くずと化す。

 残りの機も投弾を行うが他に有効弾と言えるのは、退避壕の至近に着弾し数人の負傷者を出した1発のみであった。

 

「あ~あ、一両オシャカだよ安くないんだぞ――爆発は……しないようだな」

 

 黒煙を上げ燻るM6A1歩兵戦闘車の残骸をしばらく見ていたランドルフはホッとしてつぶやく。なぜ彼が爆発の心配をしたのかというと、ウェイストランドに放置されている車には原子力エンジンが使用されおり、中には強い衝撃を与えると核爆発をおこす物があるからだ。

 本来ならば衝撃を与えたり銃撃したぐらいで核爆発をおこす物では無い。しかし200年も放置された結果、核爆発を起こさない為の安全装置が劣化してしまい、非常に危険な事にエンジン部に強い衝撃を受けると核爆発を起こす様になってしまったのだ。

 だが爆弾を受けたM6A1は黒煙を吹き上げているが、核爆発を起こす様子は無い。今ここにあるM6A1は戦前の物を修復した物ではなく、全てNCR国内の兵器工廠で新規に製造された物なのでしっかりと安全装置が働き核爆発を起こす心配は無かった。

 

 しかしいつまでも核爆発の心配をしている場合ではなかった。空を切る甲高い音を響かせながら砲弾が陣地に着弾したからだ。

 

敵弾飛来(インカミング)。総員防御姿勢をとれ」

 

 その一発を皮切りに数多の砲弾が降り注ぎ、陣地を土色の花が満遍なく包み込み、万雷の如し爆発音が辺りを圧する。

 先日の砲撃時よりも威力の大きい砲撃も混じっているため、どうやら大口径砲も射撃に加わっているようだ。まるで地形ごと吹き飛ばすかの様な弾幕にNCR兵達は地面ごと揺さぶられ、壕の中で縮こまることしか出来なかった。

 パワーアーマーを着装したランドルフも塹壕の底で中腰になり砲撃に耐える。フルフェイスヘルメットの集音センサーは装着者の鼓膜を守る為安全レベルが設定されており、今聞こえてくるのは耳を圧する砲撃音ではなくガリガリという空電雑音のみだった。

 どのぐらいの時間が過ぎたかわからないが、永遠に続くと思われた砲撃は唐突に止み、ヘルメット内部にも音が復活する。爆煙が落ち着くと無残にも砲撃で掘り返され、黒く変色した大地が残った。

 

「損害を報告しろ!」

「ライノ02、05がやられました、あとライノ06がエンジン損傷、擱座しました」

 

 ライノとはM6A1のコールサインだ、NCRが異地に持ち込んだM6A1は8両しかなく、戦闘可能なものは残り5両であった。

 

「迫撃砲も2門やられました、負傷者も多数」

「負傷者の後送を優先しろ」

 

 ここで再び砲弾が撃ち込まれM6A1の近くに着弾する。しかしさっきまでの砲撃とは違い砲弾が着弾してから砲声が轟く。爆発の規模もずっと小さい。

 

「戦車だ!」

 

 見ると平原の向こうに長い砲身と丸っこい砲塔を備えた戦車12両とその後ろから大勢の歩兵がこちらに向かって邁進してくる。戦車は進みながら射撃をしてくるが精度は不正確で、さっきからM6A1をねらって砲撃してくるが砲弾はただ地面を抉るばかりだ。

 

「ライノ全車はミサイルで敵戦車を攻撃せよ」

 

 M6A1の砲塔横に備え付けられている有線式対戦車ミサイルが収められた2連装ボックスランチャーが跳ね上がり、発射準備を完了させる。

 目標に指向した砲塔の照準器の十字線に戦車を重ねると砲手はミサイルの発射ボタンを押した。

 M6A1各5両が各1基ずつ対戦車ミサイルを発射する。ランチャーから飛び出したミサイルは2本の誘導用ワイヤーを曳き、両サイドから噴射炎を出しフラフラと蛇行しながら飛翔していく。やがて各ミサイルは敵戦車の正面に命中した。

 一瞬、爆炎が戦車を包み込み、少し遅れて砲弾が誘爆し砲塔がまるでびっくり箱の様に宙に舞い上がる。

 

「第2射撃て」

 

 再び5基のミサイルが放たれ、それぞれの目標に全基命中する。1射目と2射目合わせて10両の戦車を撃破したが、まだ2両残っていた。

 爆発炎上し平原をオレンジに染める戦車の残骸の間から、灰色の野戦服を着た歩兵が怯まずに前進してくる。その様子はまるで灰色の水が戦車の間から染み出してくる様であった。

 

「ライノは30ミリで残りの戦車を攻撃、迫撃砲(モーター)も撃ちまくれ」

 

 M6A1は30ミリで戦車の正面を撃ちまくり、正面に命中し激しく火花を散らすが装甲は相当厚いらしく、この距離では貫通しない。跳弾を起こさないAPFSDSに撃たれ続けた為、敵戦車の正面はまるで蓮根みたいに穴だらけになるが、その状態でも構わず反撃してくる。

 戦車砲特有の腹に響く重低音と共に砲口に巨大なマズルファイアが生まれる。飛び出した徹甲弾は、M6A1の砲塔に当たり大きな火花を咲かせその砲を使用不可能にした。

 

「本部こちらライノ07。砲破損、戦闘続行不能」

「ライノ07。ポータルを通過し離脱せよ」

 

 M6A1の砲塔は無人の為幸い操縦手と車長兼砲手の2人は無事であった。主砲である30ミリ機関砲と連装機銃を砲塔ごと潰され、対戦車ミサイルも撃ち尽くしたライノ07に戦場で出来る事は無かった。ヨロヨロと車両壕から出、ポータルをくぐり帰っていった。ライノ07を撃った戦車は、残りのM6A1から集中射撃を浴びてやがて沈黙した。

 

 M6A1が戦車の対応をしているため、歩兵は30ミリ榴弾を浴びること無く前進してくる。その為81ミリ迫撃砲が敵兵へ砲弾を降らせていたが、2門だけになった迫撃砲では、平原に広く散開し距離を詰めてくる倍以上の敵を相手にするには限界があった。

 ここでさっきまで射撃をしていた迫撃砲が急に射撃をやめてしまう。

 

「どうした! 何故撃たない!」

 

 偽装網に覆われた中隊本部で中隊長のクラーク大尉が無線に向かって怒鳴る。

まだ迫撃砲弾はあるはずだ。 

 

「クラーク大尉。もう砲身が真っ赤ですよ。これ以上撃ったら砲弾が暴発しちまいます」

 

 2門の迫撃砲はその砲身を赤熱させ、火山の火口みたいに砲口から白煙と陽炎を立ち上らせていた。これ以上の射撃は砲弾が暴発する恐れがあった。

 

「水筒の水を使って冷やせ!」

「全部使ってしまいましたよ!」

「なら小便を掛けてでも冷やせ」

「さっきから小便を掛けてます、もうコレ以上出ませんよ」

「クソッ!」

 

 悪態をつきながらクラーク大尉は無線機の受話器を思い切り叩きつける。当然そんなことをしても状況は好転するはずも無く、ついに彼我の歩兵がその射程内に双方を捉え凄まじい銃撃戦が展開される。NCRの汎用機関銃に分隊支援火器(MINIMI)そして自動小銃。アーキム側のライフルや軽機関銃から一斉に黄色いマズルフラッシュが迸り、銃声は平原一面にゴロゴロと雷鳴の如く轟いた。

 時間辺りの火力は自動小銃や分隊支援火器を装備するNCRが有利だが、アーキム側はNCRの10倍以上の人数が居り、さらに迫撃砲の攻撃が無くなった事により徐々にだが確実に距離を詰め、ついに有刺鉄線の前面まで到達した。

 

 有刺鉄線にまで到達したのはいいが攻めあぐねるアーキム兵達。するとここで敵の最後の戦車が有刺鉄線を蹂躙するため前へ出て来る。

 本来ならM6A1が相手をするのだが、アーキム側の準備砲撃で数両撃破されてしまったので防衛ラインに穴が出来てしまっていた。そのため敵の戦車はうまく防衛ラインの隙きを付く形となった。

 

「まずいぞ、戦車が突破してくる。対戦車班、目標2時方向の敵戦車だ!」

 

 命令を受け対戦車班に所属する隊員がゴソゴソと対戦車火器である無反動砲を取り出す。カールグスタフ84ミリ無反動砲と呼ばれるその肩撃ち式の砲を射手は肩に背負う。次に装填手が弾薬箱からHEAT弾を取り出し、砲尾のラッパ状の閉鎖器を開け黒く大柄な砲弾を装填する。

 

「551弾装填よし」

 

 装填手が射手のフリッツ型ヘルメットをポンポンと2回叩き、砲弾の装填が完了したことを伝える。すると射手は塹壕から上半身を露出させカールグスタフの砲尾が塹壕の外に出るようにする。これは無反動砲の発射時に後ろから強烈なバックブラストが発生するのでそれが塹壕内に吹き込まない様にする為だ。

 

「後方の安全よし」

 

 射手が自身の後ろを振り返り人や物が無いことを確認すると、カールグスタフの照準器を覗き込む。照準器のレクティル越しに今まさに有刺鉄線を乗り越えようとする戦車がいっぱいに映り込む。

 

「撃てっ!」

 

 トリガーを引くとドンッと言う砲声と共に砲弾が撃ち出され、同時に強烈なバックブラストが後ろにある草や土を吹き飛ばす。撃ち出された砲弾は安定翼を展開すると同時にロケットモーターを点火させ真っ直ぐに戦車へ飛んでいく。装填されていた砲弾、551弾はロケットアシスト弾であり、射程延長と飛翔速度の上昇を図った砲弾であった。

 戦車の車体正面に命中した砲弾はメタルジェットにより装甲に穴を穿ち、次いで炸薬の爆発で発生した爆風と高温のガスが戦車内部に吹き込み、操縦手を焼き殺した。

 

「もう1発撃て」

 

 再びカールグスタフから砲弾が撃ち込まれる。今度は砲塔正面に激突し、砲弾を誘爆させ戦車のあらゆるハッチから火柱が吹き出る。文字どおり内部が火炎地獄になった戦車から火達磨になった乗員が砲塔上面ハッチから地面にドサリと飛び降り、断末魔を上げながらそこらを転げ回る。

 

「やったぜ」

 

 ガッツポーズをするカールグスタフの射手。だが発射時のバックブラストは未だに彼の後ろでもうもうと白い煙を漂わせていた。それは戦場にあっても非常に目立ち、結果として敵に射点を暴露してしまうこととなった。

 パァァァンという間延びした銃声と共に頭を仰け反らせ塹壕内に崩れ落ちるカールグスタフの射手。すぐにそばに居た装填手が駆けつけて彼の無事を確認する。

 

「おい大丈夫か?」

「あ、ああなんとか」

 

 自身の頭を撫で回し傷が無いか確かめる射手。彼のそばには銃弾が命中した際に弾き飛ばされたヘルメットが転がっていた。どうやら弾丸は浅い角度でヘルメットに当たった為貫通せずに済んだようだ。

 

「ははっ運のイイ野郎だ。新型ヘルメットがなければ死んでいたな」

 

 装填手は笑いながら射手の肩を叩くのであった。

 

 

 

 

 

 

 一方で戦闘は新たな局面を迎えていた。戦車での有刺鉄線突破に失敗したアーキム軍が別の手段に出たのだ。

 地面の凹凸を利用し銃火に晒され無いよう、匍匐でにじり寄る一団があった。彼らは長細い筒の様な物を抱えており、有刺鉄線の近くまで来ると、その筒を連結させ少しずつ前へ押しやっていく。

 

「まずいぞ、バンガロール爆薬筒だ」

 

 NCR兵が警告の声を上げるが、気付くのが遅すぎた。次の瞬間にはバンガロールが有刺鉄線の真下で爆発し、黒い爆煙と一緒に有刺鉄線の一部を空中に巻き上げる。

 爆破された部分の有刺鉄線はきれいに吹き飛び、そこにアーキム兵が一気に殺到する。NCRも突破されまいと、果敢に銃弾を浴びせるが相手の兵力数はNCRを圧倒しており、いくら撃ち倒しても後から次々に沸いて出て来る有様であった。

 ここで別の方面の有刺鉄線も吹き飛びそこにもアーキム兵が群がり突破しつつあった。

 

「突破された! 第1防衛線の3、4小隊は予備陣地まで後退。1、2小隊は後退を援護しろ」

 

 これ以上一番最前線の塹壕は持ちこたえられないと判断したクラーク大尉は後退命令を出す。

 NCR軍の火力が半減した為アーキム兵達はここぞと突撃してくるが、第2小隊とランドルフが指揮する第1小隊が味方の後退を援護するため、銃弾を敵に撃ち続ける。

 

「攻撃を途切れさせるな、撃ち続けろ」

 

 部下達に命じながらもランドルフ自身もM4A1カービンを敵に向けて撃ちまくる。

既に銃身とガスチューブは赤く輝き、ハンドガードの放熱孔から陽炎がゆらゆらと立ち昇るが、それでも構わずに黙々と撃ち続ける。彼の足元には黄金色をした真鍮製の薬莢が大量に散らばり、そこへ1つまた1つと新たな薬莢が微かに硝煙を燻らせながら上から追加されいく。他の隊員も撃ちまくるが敵の圧倒的な数を前に接近を阻止しきれないでいた。

 

「ローランド。指向性散弾地雷の起爆の準備をしろ、起爆のタイミングは任せる」

了解(ROG)

 

 コードに繋がれた大きなホッチキスみたいな形をした遠隔操作スイッチを手に取りローランドは起爆のタイミングを伺う。

 指向性散弾地雷は草むらに紛れる様にして隠されており、なるべく多くの敵を巻き込む為にギリギリまで引きつける。

 

「ナムアミダブツ」

 

 click click click

 ローランドが3回スイッチを押し地雷を起爆させる。指向性散弾地雷には1KgのC4爆薬と700個のベアリング球が内部に仕込まれており、爆発と共に飛び散り50m以内の生物を殺傷できた。

 平原の一角で巨大なオレンジ色の爆炎が生じ重々しい爆発音が響く。その指向性散弾地雷の爆発をアーキム兵達は至近で浴び、超音速で飛散したベアリング球と爆発によってその肉体を細切れにし、一気に数十人が霧散した。

 さっきまで肉体を構成していた千切れた肉片と臓物が爆風によって吹き飛ばされ、地雷の爆発に巻き込まれ無かった後続のアーキム兵に降り注ぎ、彼らを恐慌状態に陥れた。ある者は悲鳴を上げながら、自身に降り注いださっきまで戦友だった肉片をふるい落とし。またある者は恐怖に駆られ背を向けて逃げ出そうとしたが上官に射殺される。

 さらにローランドは5回地雷を起爆させ地獄めいた光景をあちこちに作り出す。

指向性散弾地雷が起爆する度にアーキム兵の躰は砕け散り、ベアリング球により四肢を引き裂かれ、ピンクのゴムホースのような腹ワタと血を地面にぶちまけた。

 

「よし、1小隊、2小隊も後退しろ」

 

 中隊長から後退の命令が下るが、全員一気に背を向けて後退はしない。交互躍進

を行い、まず第2小隊が後退しそれをその場で第1小隊が援護する。第2小隊が所定の位置に着いたら立ち止まり第1小隊を援護し、その援護を受けながら第1小隊は後退する。これを交互に繰り返しながら予備陣地まで後退していく。

 先に後退していた第3、4小隊と、M6A1から発射されたスモークディスチャージャーの援護。さらに地雷の爆発で未だ混乱している敵のおかげで殆ど攻撃を受ける事無くランドルフ達は後方の予備陣地まで後退することに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「けっこうやられたな」

 

 予備の陣地から少し後ろに下がった場所で弾薬箱から5.56mm弾を取り出し空のマガジンに上から押し込みながらランドルフは独り言を言う。

 彼が眺める先には担架に乗せられてポータルの向こうに後送されていく血まみれの兵がいた。負傷者は1人や2人だけではない。自力で動ける者は歩いてポータルまで行き、そうでない者は肩を抱えられ或いは担架に乗せられポータルの向こうまで運ばれていく。

 その負傷した者達の呻き声に混じり、原子力モーターの低い唸り声が近づいてくる。動けるM6A1歩兵戦闘車が破壊され擱座した別のM6A1をワイヤーで引っ張りながら後退してきたのだ。

 今戦闘は小休止状態であった。敵にだいぶ損害を与えたのか、彼らは占拠したこちらの塹壕から動かなかった。おそらく部隊の再編と攻撃の準備を行っているのだろうと思われる。時折散発的に銃声が鳴る以外大きな動きは双方無かった。

 

「ランドルフ中尉少し話がある」

 

 不意にランドルフに話掛けてくる人がいた。中隊長のクラーク大尉だ。

 

「どうしました大尉、話ってなんですか?」

「俺たちに撤退命令が出た、上級司令部からだ。そこでランドルフ中尉の小隊に殿を頼みたい」

 

 撤退命令。そのことにランドルフは特に驚きもしなかった。むしろ時間の問題だと思っていた。いかにパワーアーマーを装備した機動歩兵部隊といえど10倍以上の敵に包囲されれば限界であった。それに補給の問題もあった、ポータルは狭く今その周りは後送されていく怪我人や曳行されていくM6A1で一杯であった。そのため補給が滞り始めていた。

 

「時間があれば全部のM6A1を回収したいがそんな時間はなさそうだ」

 

 まだ一番損傷がひどいM6A1が1両回収出来ずにいた。

 

「いいんですか。敵に鹵獲されますよ」

「ああ、そのことは心配しなくていいエンジンに細工をしておいた」

「そうですか。何にせよ急いで撤退したほうが良さそうですね。敵もいつまでも待っててくれませんし」

「ああ、殿を頼むぞ」

「任せて下さい。なるべく長く暴れてやりますよ」

 

 ヘルメットの下でランドルフはニヤリと不敵に笑うのでった。まるでこの状況を楽しんでいるみたいに。

 

 

 

 

 ランドルフはローランドの元へ行き、彼に小隊員を集めるように言う。程なくしてパワーアーマー姿の男たちがゾロゾロと集まってくる。皆ヘルメットを外しており表情を見て取る事が出来た。彼らは少し疲れている様子だが目は生気を失っておらず気力に満ちていた。

 

「撤退命令がでた。俺達が殿を努める」

 

 ランドルフの言葉に皆黙って聞くのみであった。そのことを聞いても誰も落胆の表情を見せず、むしろ全員さらに目を輝かせる。撤退できる喜びではない。困難な任務と戦いを与えられ、喜ぶ戦士の表情であった。

 

「いいか、あのクソ犬共に俺達にケンカを売ったのが間違いだったと思い知らせてやれ! 一匹でも多くあの世に送ってやれ! これは命令だ」

 

「ガンホー!! ガンホー!! ガンホー!!」

 

 小隊員全員が士気を上げる為、一斉に掛け声を上げる。

 その直後ピッーーと甲高い笛の様な音が敵の方から鳴り響く。敵の指揮笛の音だ。攻撃命令がくだされたのだろう。

 

「敵もやる気十分らしいな。歓迎会の準備だ!」

 

 一斉にパワーアーマー姿の男達がドカドカと走り出し、持ち場である最前線となった予備陣地へと向かっていく。当然ランドルフも一緒になって走る。

 予備陣地と言っても塹壕が掘られているわけではなくただ乱雑に土嚢が積み上げられただけの簡易な防御陣地であった。配置に着いたたランドルフは早速、自身の愛銃のM4A1を構え敵の攻撃に備える。

 ピッーーピッーーと指揮笛が鳴った2回鳴った後、敵がワラワラと塹壕から次々に湧き出てくる。灰色の軍服を着た敵は文字通り灰色の壁となって押し寄せて来る。彼らが手に持つ長細い小銃の先には例外なく銃剣が装着され、陽光が反射しその白刃を鈍く輝かせる。

   

フラァーーーー(万歳)!!」

 

 喊声を上げ突撃してくる灰色の壁。それに銃声を以って応えるランドルフ達。だがその火線は敵の数に対してあまりにも貧弱であった。機関銃もカービンもフルオートで撃ち敵を撃ち倒すが、カニシアン達は仲間の死体を乗り越え、押し寄せる波の如くランドルフ達を圧迫する。

 

「ピン抜き用意」

 

 手榴弾の投擲の準備をランドルフは命じる。敵はもう手榴弾が届く範囲まで迫っていた。

 ランドルフも腰部のグレネードポーチから野球ボール大の手榴弾を取り出しレバーをしっかり握ると、安全ピンを引き抜く。

 

「投げっ!」

 

 号令で小隊の全員が手榴弾を一斉に投げる。放たれた丸いアップル型の手榴弾は

緩い放物線を描き敵集団の前面に落下し、その直後炸裂しオレンジ色の爆炎と鉄片をばら撒く。

 ある者は爆風に薙ぎ倒され、またある者はカミソリの様に鋭い鉄片に手足をもぎ取られ地面に崩れ落ちる。

 敵もお返しとばかりに手榴弾をランドルフ達の陣取る土嚢に一斉に投げる。土嚢の向こうに落ちた敵の柄つき手榴弾の1つはランドルフの至近に落下する、だが彼は特にそれに気にも留めない。数秒後手榴弾が爆発しランドルフのパワーアーマーを破片が叩く。まるでトタン板に小石を連続でぶつけた様な音がパワーアーマー内にも響くが、彼はびくともせず変わらず立ち続けている。

 

「グレネード1個でパワーアーマーを殺れるわけないだろう。バカタレが」

 

 確かに手榴弾が至近で炸裂したのに平然としているランドルフ達の様子に、敵はわずかに浮足立つが、それでもランドルフ達に果敢に突っ込んでくる。どうやら敵は白兵戦に持ち込むつもりらしい。

 

「総員着剣。白兵戦に備え」

 

 ランドルフらも鞘からM9バヨネットを取り出し各々の銃へ装着し、もはや不可避となった白兵戦に備える。

 

「まさか23世紀の終わり近くになって白兵戦をやるはめになるなんてな。古典的すぎる」

 

 少しでも敵の数を減らす為M4を撃ちながらランドルフは独り言をつぶやく。敵は後10メートルの所まで迫っていた。ここまで来るとカニシアン兵の目の白い部分や個々の表情までハッキリと見えた。皆白い犬歯を剥き出し鼻の頭にシワを寄せ、まさにイヌが威嚇する時の表情その物の顔をしている。

 

「でも、白兵戦は嫌いじゃない」

 

 そして激突。

 カニシアン達はランドルフ達を刺殺せんとばかりに銃剣着きのライフルを突き出し、さらに至近から発砲する。ランドルフ達も負けじと銃剣を突き出してカニシアン達を刺殺し、または銃床を振るい、死体の山を築いていく。彼らのパワーアーマーは返り血で塗装され、不気味に陽光でぬらぬらと反射した。

 パワーアーマーは白兵戦でもその性能を発揮し、特殊鋼とセラミックさらにチタン合金製の積層複合装甲は突き出された銃剣を弾き返し、至近距離から撃ち込まれたライフル弾すら物ともしない。

 パワーアーマーの装甲は破られる事は無いが、中に居るのは生身の人間だ無限に動ける訳がない。雲霞の如く押し寄せてくるカニシアンに対してさすがに疲労が蓄積していき、徐々に動きが鈍くなる。

 

「ヤァァッーーー」

 

 鋭い気合の声と共に自らを刺突せんと突き出された銃剣をランドルフは自身の銃剣で横に去なし、がら空きになった相手の腹にそのまま銃剣を突き入れる。軽い衝撃と共に柔らかい肉に金属の異物を突き刺す感覚がパワーアーマーのマニピュレーター越しにも伝わる。

 崩れ落ちた相手から銃剣を引き抜こうと手間取っていると。

 

「このブリキのバケモンがぁぁー」

 

 それをスキとみて横合いから新手が銃床で殴り掛かろうと飛びかかってくる。

ランドルフは銃剣を引き抜くのをやめ、そいつの犬面に真正面からパワーアーマーの特殊鋼で出来た拳を叩きこんでやる。

 グチャリという粘性の音がし、鼻頭が潰れ血と唾液と一緒に砕けた歯が飛び散る。さらに下から掬い上げる様に拳を振るう。倍力機構によって増幅された鋼鉄の塊の如き一撃は顎の下を捉え、顔面を砕きながらそのまま上に振り抜ける。砕かれた顔面から両の眼球が視神経を曳きながら飛び出し、さらに衝撃で砕けた頭蓋骨の破片と共に白い脳が外に飛び出す。

 

 銃剣着きの自分のM4を死体から力任せに回収したランドルフはさらに近くに居るカニシアンに襲いかかる。大股でノシノシと間合いを詰め自身とパワーアーマーの体重が乗った銃剣の一突きを相手の喉に突き刺してやる。反対側から血と脂に濡れた銃剣が飛び出しぬらぬらときらめく。ゴボッという声にならない声を上げゴボゴボと泡混じりの血を口から溢れさせ首を押さえながら地面に倒れる。

 

「ワンちゃんはお座りだ」

 

 地面に伏したカニシアンにランドルフは足を振り上げ、その腹に向かって全体重を乗せた足を振り下ろす。

 グェッとカエルが潰れる様な声を出し、パワーアーマーの重量を受け止めた腹は地面と一体化し、さらに口と肛門から臓物を飛び出させ彼は絶命する。

 

「畜生めがキリがない。――ローランド、アーマーのフュージョンコアは後どれ位持つ?」

「残り60%を切りました」

 

 ランドルフ含めた他の者も似たような状態であった。弾薬も半分を切っており、そろそろ退却の潮時であった。電池が切れ二進も三進もいかなくなり爆薬で爆破されるか換気システムが停止しアーマーの中で窒息死するよりは、フュージョンコアと弾薬にまだ余裕があるうちに撤退したかった。なによりこんな所で戦死して英雄の仲間入りをするつもりは彼には毛頭なかった。

 他の味方の姿はポータルを通って撤退したため既に無く、ここで戦っているのはランドルフの部隊だけであった。彼らは味方の撤退まで時間を稼ぐという任務に成功した、だがその代償として包囲されつつあった。

 

「総員、15秒間全力で射撃。そのあと1分隊と2分隊は後退。残りは援護」

 

 小隊の装備するあらゆる銃火器が火を吹き、敵の攻撃の手を僅かだが確実に緩める事に成功する。その隙きに後退を始める。

 

「さあ来い、イヌ共」

 

 M4A1をフルオートで撃つ。銃身が加熱で真っ赤になろうが構わずに撃つ。まるでボーリングのピンをなぎ倒すが如く敵は倒れる。

 薙ぎ倒されつつある敵の少し後ろに小銃ではない大柄な筒を肩に背負った敵をランドルフはふと見つける。その武器はまるで。

 

「ロケットランチャー?」

 

 銃をそいつへ向け発射を阻止しようとトリガーを絞るが、トリガーが動かない。弾切れかと思いマガジンリリースボタンを押すがマガジンは何かに引っかかたみたいで落ちてこない。慌てて手首を捻りエジェクションポートを確認する。2つ並んでいるケースとそれに引っかかり中途半端な位置で止まっているボルトが見える。

二重装填(ダブルフィード)と呼ばれるマルファンクションだ。

 

「クソッ。注意しろロケット砲を持ったヤツが2時方向にいるぞ」

 

 M4を左手に持ち右手で腿のホルスターに収められている9ミリ拳銃を引き抜こうとするが間に合わずロケットランチャーによる攻撃を許してしまう。

 飛び出したロケット弾は紅い炎を曳き、ランドルフの20メートル横で射撃を行っていた隊員のパワーアーマーの腹部に命中する。

 爆炎に包まれるT-60型パワーアーマー。爆炎が晴れると立ったまま頭を垂れ、黒煙を吹き上るパワーアーマーの姿があった。

 

「ボブがやられた」

 

 9ミリ拳銃をがむしゃらに乱射してロケットを撃ったヤツを射殺し、ランドルフは小隊間データリンクシステムでボブのバイタルデータを確認する。脈拍なし、心肺機能停止、体温99.9度。体温のデータを見るにアーマーの中は灼熱地獄だろう。どう見ても戦死(KIA)だ。

 

「ボブのパワーアーマーの回収を優先しろ」

 

 別の小隊員2人がかりで中にボブの遺体が入ったままのパワーアーマーを抱え、戦場から離脱するべく後退する。3人も人数が欠けた分隊では持ちこたえられそうにない。ランドルフ達も先に後退していた分隊の支援射撃を受けながらポータルへ向かって走りはじめる。

 走りながらM4のマルファンクションを解消すべくマガジンを無理やり引き抜こうとするが、中途半端に装填された弾が引っかかり抜けない。ならばエジェクションポートにマニピュレーターを突っ込んで弾を掻き出そうとするが、太い指を持つマニピュレーターではうまく掻き出す事が出来ないので、諦め逃げる事に専念する。  

 ふと敵の様子を見るため後ろを振り返ったランドルフはまた別のロケットランチャーが今度は自分に向けられているのを知る。

 

「死ね無毛猿」

「fuckyou」

 

 パワーアーマーのヘルメットに備えられている集音装置が正確に相手の暴言を捉え、それに対しFワードで返しながらランドルフは拳銃を相手に向けるが、9ミリ拳銃は弾切れの為スライドが後退したままであった。頭に血が上り冷静さに次いていたため弾切れに気付かなかったのだ。

 拳銃の予備マガジンも持つてきておらず。M4も使い物にならない。ランドルフに敵を倒す手段は無かった。

 だがロケットランチャーの射手がトリガーを引くのと同時に、どこからともなく飛んできた弾で射手の頭が爆ぜる。その為ランチャーの狙いが少しズレ、飛来したロケットはランドルフのパワーアーマーの肩部装甲に浅い角度で命中する。

 ガァァンとまるで金属板を思い切り叩いた様な音がし、着弾の衝撃でランドルフは思わず後ろへよろめき尻餅を付く。ロケット弾は浅く命中した為うまく信管が作動せず、そのまま明後日の方向へ飛び去っていく。

 

「大丈夫ですか、ランドルフ中尉」

 

 銃口から硝煙が立ち昇るM4片手にローランドがランドルフの下へ駆けつけ、迫り来る敵をフルオートで薙ぎ払う。どうやらロケットランチャーの射手を狙撃したのはローランドらしい。

 

「1つ借りができたな」

「帰ったらバラモンステーキを奢ってくださいよ」

 

 尻餅を付くランドルフに手を貸し助け起こしながら、2人は言葉を交わす。

 

「奢って欲しかったら、俺を無事にカリフォルニアまでエスコートするんだな」

「あんたは殺しても死なないですよ」

 

 冗談を言いながら2人はポータルへ向かって走る。その2人の頭越しに手榴弾が敵へ向かって投げられる。味方の援護だ。爆音に混じり敵の断末魔が背中越しに聞こえてくる。

 

「隊長早く」

 

 手榴弾を投げた味方達がそう言うや否やポータルをくぐり、青白い光の膜の向こうへ消える。

 ランドルフ達もそれに倣い全速力でポータルの水面の様な青白い膜へ突っ込む。

 

 こうしてウェイストランド人は1人残らず異地から消えた。

 大量のカニシアンの死体と薬莢を残して。

 

 

 

 


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