【習作】魔術王は他作品にまで聖杯をばらまいた様です。   作:hotice

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第9話

 元帥の言葉に立香も顔を引き締める。カルデアには幾人もの、王や軍師などもいる。戦う者ではない。作戦を纏め、戦争の準備をし、戦況を眺める。そういった者たちである。

 立香も彼らから多くのことを学んでいた。もちろん立香が凡庸であるのは、立香自身もまた教える者達も知っている。故に彼が学んだことは大したものではない。基本や基礎そういった程度である。

 けれども全員が口をそろえて言っていた言葉がある。

 戦争は戦った時には既に決着はついている。それまでの準備こそが戦争なのだ、と。

 ある種の戦士に対する冒涜と言えるかも知れないが、カルデアにいる戦士は何も言わなかった。自身達はそれを覆しうる存在であると自覚していながら、誰も異論を挟まなかった。彼らこそが例外で、それは真理であったからだ。

 

 「実はそこまで状況は悪くない。」

 そういって元帥は大和をちらりと見る。

 「実際のところ戦力自体ではイーブン、むしろ人類側の方が勝っている。恐らく全戦力を投入すれば勝ち目がないわけではない。

 が、しかしいくつかの問題があってな。第二次世界大変で日米が争った太平洋には大量の怨恨が満ちている。その為現世に影響を与えるレベルの幽鬼がいくつも存在している。そういった奴らが聖杯によって強化されたせいで下手なサーヴァント並みの存在になってな。鬼級や姫級など呼ばれているが、艦娘にはちと荷が重い。戦艦の艦娘などが束になってかかった上で相応の被害と共にようやく沈められるんだ。

 今まではその鬼級や姫級にどうやって対処するのかが問題だった。何せまともに対抗できるのは大和だけだ。が、もし万が一こいつが沈めば勝ち目が一気に薄くなるし、そんな危険を冒さければいけない程追い詰められてもいないからな。慎重に機会を窺ってきた。

 そうして今その機会がやってきたってことだ。」

 元帥は立香を見る。彼こそ元帥が、人類が渇望していた対抗策なのだ。彼が連れているのは純然たるサーヴァントである。陸地でならば大和が手も足も出ず、水上でも決して楽に勝てる相手ではない。そういう存在が6体なのだ。

 「鬼級や姫級が増える速度はかなり遅い。年に数体現れる程度で、しかも奴らは基本群れない。集まっても精々が2,3体程度だ。」

 「なら、特に苦戦する相手ではないですね。」

 「ふむ。心配はいらないと思うが油断はするなよ。幽霊といえど聖杯によってサーヴァントとも戦えるくらいには強化されているからな。」

 元帥はさらりと言ってのけた立香に一応の苦言を呈する。これだけの英雄を引き連れているのだ。そういう人物ではないとは分かっていたが。

 「はい。大丈夫です。一応死神を相手したことがありますから。」 

 「ほう。さすがは世界を救ったことだけはあるな。」

 「う~ん、坂崎君。一応言っておくけど、立香君が戦ったのは神代の冥界の神だよ。まあエレちゃんも全力だったわけでもないけど。」

 ダヴィンチが補足を入れる。恐らく二人の想像しているレベルがあまりにも違っているであろうから。

 「なっ!?」

 元帥は驚愕に言葉を失う。彼はなんらかの形で寿命を過ぎた者、或いは運命でそう決められた者の命を刈り取る低級の名もなき死神との対決を想像していた。

 けれど冥界の神など死神の中でも最高位の神である。そんな存在と神代で、神が何の制約もなくその力を振るうことのできる時代で対決したというのだ。

 「世界を救うとは・・・・。それ程の・・・。」

 「まあ俺は大したことはしてませんよ。実際に戦ったのはサーヴァント達ですから。」

 「だが、神代の冥界の神など現代の人間が見て耐えれるものではないぞ・・・。」

 「え?確かにエレちゃんは見た時は背筋がゾクっとしましたけど話してみると結構かわいいですよ?」

 「・・・・成程。どうやら私は随分君のことを過小評価していた様だ。出来れば後で君の話を聞いてみたいものだ。」

 完全体の冥界の神など存在そのものが死である。ただの人間が見ればそれだけで無意識に体が自分が死んだと勘違いして死にかねない。それを本当に心の底からかわいいと言い切るとは豪胆なものである。

 「さて、なら鬼や姫の対処は問題ないな。それ以外の取り巻きや海に跋扈している深海棲艦は私達が受け持つ。

 大規模作戦になるため準備に2、いや3ヵ月は掛かるだろう。細かい作戦等はその間に決めよう。」

 「ならその間自分達は何をすれば?」

 「立香君は自由にしていてくれればいい。どうせ3ヶ月後には一番働いてもらうことになるからな。

 その間の身の回りの世話は全てこちらでさせてもらうよ。出来れば艦娘の訓練の手伝いなどをしてくれれば助かるが。」

 「サーヴァントは成長しないのに、訓練するんですか?」

 「いや、成長というよりはリハビリだよ。軍艦である彼女達が人型でも戦えるようにするためのな。」

 「成程分かりました。」

 「では、これからよろしく頼むよ、立香君。」

 そういって元帥は手を差し出す。

 「こちらこそよろしくお願いします、坂崎さん。」

 立香もそれに応じる。幾度となく繰り返した行為である。もちろん中には肩を叩いてくるもの、ハグしてくるものだっていた。けれどどれも違いはない。互いに仲間だと認め合うことなのだから。これこそが藤丸立香の原点にして、彼が歩んできた旅そのものであった。

 

 




型月だから世界観はきちんと描写しないといけないけど説明役をじじいにしたのは失敗だったかな。絵が地味すぎるよ。
でも有能爺提督が好きなんだ。かっこいいよね。

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