【習作】魔術王は他作品にまで聖杯をばらまいた様です。   作:hotice

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第6話

 その後、立香は残りの4人も紹介したものの、艦娘の少女達の反応はいまいちであった。もちろん驚きはしたが、最初の二人の印象を上回るほどではなかったのだ。

 海賊二人組に関してはもう少し驚くかとぐだ男は思っていたので、少々意外であった。艦娘達にとって二人は大先輩なのである。けれども軍艦である彼女達にとって帆船というのはいささかピンと来ないのだ。現代の軍人が剣術の達人と出会っても、尊敬はしても感激はしないのに似ているかもしれない。

 ドレイクの方は特に気にしていなかった。船が人の形をしていることについては多少の興味はあったものの、それ以前に悪党であると自覚している彼女にとって子供と関わるのはあまり気乗りのしないことであったからだ。

 逆に黒ひげの方はとても残念であった。けれど途中で自分の船も美少女に変身する可能性があるかもしれない事に気付いた瞬間、彼は全力で自身の船に対して祈り始めた。どうか美少女になってくれ、と。ご主人様って呼んでくれるような美少女になってくれ、と。恐らく敵わない願いではあるが。

 ちなみに牛若丸を紹介した時曙はまた壊れた。

 「なんであの源義経がこんな痴女なのよ!源義経って日本一有名な侍じゃない!弓持ってる方はまともな恰好してるのに!」

 「曙ちゃん!落ち着いて!いきなりその、痴女呼ばわりはどうかと・・・・。後俵藤太さんだよ。」

 「ははは。武士は見得を張らねばならんのだ。彼女もそうなのだろうよ。」

 俵はカラカラと笑う。また曙に失礼な呼び方をされても彼は特に気にしてはいなかった。

 「侍、確か後世での武士の呼び名でしたか。私がその様に有名な武士であるとはありがとうございます、曙殿。

 ・・・ところで痴女とはどういう意味なのですか?知っておられますか、主殿?」

 立香は目を逸らした。

 「うわ、ぼのたん。あれマジで言ってるよ。マジもんの痴女だよ。」

 「漣殿は痴女というのを知っておられるのですか?」

 「え?あの、その恥ずかしい恰好してる人、みたいな?感じな?」

 「恥ずかしい恰好?きちんと隠すべき場所は隠していますが・・。」

 「いや、その、動いたら見えちゃうでしょ?」

 「そんな風には動かないので大丈夫です。」

 「ええと、えぇぇ・・・・。」

 潮はここまで狼狽えた漣を初めて見ていた。基本彼女はどんな相手にも自分のペースで突っかかていく。大抵はまともに付き合わずに流し、漣も気にせずハイテンションのまましゃべり続けるのだ。けれども牛若丸相手には自分のペースが保てていなかった。自分でもかなり変わっていると自覚している漣であったが、目の前の牛若丸はそれ以上に変わっている上に自覚がないのだ。自分がペースを乱すのがいつもで、自分がペースを乱されることに漣は慣れていなかった。そのため彼女相手にはたじたじな対応しか出来なかった。

 

 

 そうして彼らはお互いに自己紹介なんかをしながら船の上で暇を潰していたのだが、鎮守府の近くまで来たときに何人かの新たな艦娘がカルデアのメンバーを待ち構えていた。

 「初めまして、皆さん。横須賀鎮守府へ。ここから港へ案内しますので、付いてきてください。」

 先頭に立っていた艦娘がそう言って、案内を開始した。ぐだ男達は先ほど見た曙達の艤装に比べて、その艦娘が背中に付けている艤装のあまりの大きさに驚いていた。

 赤い傘を差し、一本に纏めたきれいなポニーテールを揺らしながら進む彼女は背中の艤装など無い様な振る舞いである。けれどもどう見てもその艤装は彼女よりもでかかった。なにせ身長の高い彼女が両手を横に伸ばしてもなお届かないだろう幅に、優に1mはあろうという奥行、後ろからでは彼女の上半身を覆い隠す高さ。まさに鉄の塊というべきであった。その上でその艤装の大半は砲身なのである。艦娘として縮小したはずの彼女達が、それでもなお強大で巨大な大砲をその背中に背負っていた。

 

 「曙ちゃん。あの人は?」

 思わず立香は尋ねた。なんとなく彼は予想はしていたが・・。

 「あぁ、大和さんよ。やっぱりすごいわよね。」

 成程、やはりかと立香は納得していた。あれが大和なのか、と。その名前は余りにも有名であった。最強であることを、最大であることを、最硬であることを求められて作られた日本軍の希望。何物をも一撃で破壊しつくす世界最大の46cm三連装砲、他の戦艦が霞むほどの巨体、何物をも弾き返す鋼鉄の鎧、彼女は望まれた全てを満たしていた。まさしく彼女こそが海の女王であった。

 「ほう。あれが俺の国の船なのか。すごいもんだ。」

 「えぇ、我がブリテン発祥の戦艦の一つのようですがあれは中々のものですね。」

 「海戦が不得意な訳ではありませんが、あの首を取るのは難しそうです。」

 武闘派の3人は純粋に関心していた。武人とはまた別の強さではあるが、確かに大和とやらは強かった。いや強く作られていた。

 「なあ、マスター!あれは軍艦なのか!?大和っていうんだな!?」

 ドレイクは感動していた。船乗りである彼女には感じられたのだ。あの大和という船のすごさを。

 そもそも彼女の時代において船の強さというのは余りなかった。船員がどれだけ優秀で、それを船長がいかに上手く扱えるか、そして単純にどれだけ船を揃えられるか。海戦の結果はそうして決まるのである。

 けれども彼女は違う。あの大和は違う。まさに最強の船であった。真正面から戦えばそれだけで勝てる。多少の数なら物ともしない。そういう船であった。

 ドレイクがかつて落とした無敵艦隊もすさまじかったが、あの船は一隻でも負けず劣らずの威容を誇っている。

 「いやぁ!すごいね!一度でいいから船の時の彼女に乗ってみたいもんだ!」

 「BBAが年甲斐もなくはしゃいじゃって。いたいですぞ!でゅっふゅっふゅ!」

 「何言ってんだ!黒ひげ!あんただってあれ見て何も感じないわけないだろ!」

 「・・・・・・。」

 

 立香は突然黙った黒ひげを見た。そこにはいつものおちゃらけた彼はいなかった。後世にその名を残す大悪党、誰もが思い浮かべるであろう黒ひげという海賊が存在した。

 彼は何も言わなかった。けれどその視線はただ愚直なまでに大和という船を捉えていた。海の上で誰からも恐れられた希代の暴漢は、港に着く最後まで海の上を進む最強の暴力の具現から目を逸らすことはなかった。

 

 


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