ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~ 作:公私混同侍
サリー『もしもし、聞こえるか?』
恭夜「はいはい、聞こえてますよ」
サリー『明日の朝には着くから空港まで向かいに来てくれ』
恭夜「少し遅れたらごめんね」
サリー『遅れること前提で言うな』
恭夜「そういえば母さんから聞いた?」
サリー『アンドロイドの事か?私なりに調べはしたが、完全な自我を持つアンドロイドなんて全く耳に入ってこなかったぞ』
恭夜「そっか」
サリー『恭夜?』
恭夜「なに?」
サリー『……』
恭夜「どうしたの?」
サリー『いや、なんでもない』
恭夜「ふーん、それより早く帰って来てよ。話したい事がたくさんあるから」
サリー『わかった。お母様と星宮兄妹に時間を伝えといてくれ』
次の日、恭夜は空港に着くと特徴的な髪型を見つけて手を振った。サリーもすぐに恭夜に気づき少し口元を緩ませる。だが、目元は時差ぼけからか疲れが出ていた。
恭夜「おかえり」
サリー「去年ぶりだな」
恭夜「大袈裟だなぁ、二ヶ月しか経ってないじゃん」
サリー「フッ、そうだな」
二人はタクシーに乗り込んだ。何故か二人を見た運転手が顔を強ばらせている。
恭夜「その髪型さぁ、もうやめない?」
サリー「どういう意味だ?」
恭夜「もうすぐでサリーも二十でしょ?そんな髪型の人と一緒にいる人の気持ち考えたことある?」
サリー「元はと言えば、恭夜がポニーテールが似合いそうだとかぬかすから――」
恭夜「違うよ!俺はポニーテールが似合う女性がタイプって言ったんだよ!誰がチョンマゲにしてくれって頼んだんだよ!」
サリー「恭夜、指を出せ」
恭夜「やだよ。また折られたくないし」
サリー「まあいい」
恭夜「プッ、アハハ」
サリー「何故笑う?」
恭夜「隙アリィ!」
恭夜はサリーの髪を勝手に下ろす。
サリー「お、おい!?何をする!?」
恭夜「そっちの方が可愛いじゃん」
サリー「は、早く返せッ!!」
恭夜「これってさ……輪ゴムだよね?」
サリー「ああ」
恭夜「まともなの買えば良いのに」
サリー「仕方ないだろ。節約だ、節約」
恭夜「じゃあ今度、俺が買ってあげるよ」
サリー「ならティアラを買ってもらおう。それにダイヤもつけてもらおうか」
恭夜「はいはい。わかりました、わかりました」
子供のような無邪気な笑顔でサリーの手首に輪ゴムを通す。サリーは二人だけの時間を噛み締めるように外の景色を眺めていた。何故か運転手は安堵の表情をしていた。
サリー「――ここに例の双子が住んでいるのか」
恭夜はサリーの髪型が元に戻っていることに気づき落胆した。
サリー「恭夜、インターフォンがないぞ。このアパートのセキュリティはどうなっているんだ?」
恭夜「ホテルとは違うんだよ、ホテルとは――」
扉を開けると奇妙な光景が目に飛び込んできた。ゲルマ以外の三人はダルマ落としをしている。だが、ダルマ部分はゲルマの頭が置かれていた。端から見れば生首にしか見えない。
サリー「ひっ!な、な、なんだあれは!?」
あかり「ジャジャーン!ゲルマ落としだよ!」
隆太「お待ちしておりました!サリーさん、どうぞお入り下さい」
ルナ「恭夜、おかえり」
ゲルマ「やあ!マスター。ダルマ落としとやらは楽しいものだな」
恭夜「落とされてるの、お前だぞ」
サリー「一体、何がどうなっている?」
異質な光景に動揺を露にしている。六人は改めて自己紹介することに。
サリー「――とりあえず、私はこれから世話になるサリー・ラングニックだ。サリーと呼んでもらって構わない」
あかり「よろしくね!サリーお姉ちゃん!」
隆太「お世話になります、サリーさん」
ゲルマ(信じられん、あの奇怪な髪型は何だ?まさに現代に生きる武士!ここは勝負所だ。目にものを見せてやらねば!)
サリー「な、何だか物凄い敵意を感じるのだが……」
ゲルマ「あっし、ゲルマと申しやす」
恭夜「やりやがったコイツ」
ルナは口を両手で覆っている。声を出さずに笑いを堪えているようだが目元が隠せていないので意味がない。肩もプルプルしている。
恭夜「ルナはサリーの髪型をバカにしてんのか?それともゲルマの喋り方に笑ってるのか?」
あかり「あ、あたしは凄く可愛いと思うよ!」
隆太「ぼ、僕もそう思います!何と言うか……アバンギャルドな髪型ですよね!」
ゲルマ「アバンギャルドか……前衛的な髪型ということだな」
恭夜「むしろ前時代的だけどな」
サリー「ふん!まあいい。それよりも気になる事が――」
恭夜「ん?ルナがどうかした?」
サリー「何故ここに?」
ルナ「ふふふ」
恭夜「まだ笑ってるよ……」
サリー「まさか!?恭夜!私は聞いてないぞ!」
恭夜「まだ何も言ってないだろ!」
あかり「サリーお姉ちゃんは恭夜お兄ちゃんの……恋人なの?」
隆太「そうなんですか?」
ゲルマ「なるほど」
ルナ「そうなの?」
サリー「知らん!」
恭夜「俺にとっては頼り甲斐のある姉上って感じかな」
あかり・隆太・ゲルマ「ふーん」
ルナ「サリー、ご飯食べた?」
隆太「そうですよ!サリーさんの歓迎会しましょう!何か食べたいものありますか?」
あかり「隆太お兄ちゃん、我が家の
サリー「私は恭夜と同じで構わない」
隆太「え?」
あかり「嘘でしょ?」
ゲルマ「ふぅう!こいつはマジもんの片鱗を見せつけられたぜぇ」
ルナ「ゲルマ、ふふふ。なにそれ」
サリー「はっ!い、今のは間違いだ!わ、私は、え、えーと……そうだ!オムライスが食べたい!」
恭夜「動揺し過ぎだろ」
ゲルマ「低い声から高い声に変わるとなあ、こう耳がキーンなるんや。この理由、わかるかあ?」
ルナ「はぁ……はぁ……もうだめ」
隆太「サリーさんの顔、タバスコみたいに真っ赤になっちゃいました」
あかり「それならケチャップじゃない?」
隆太はオムライスを作っている。待っている間、五人は座る場所で揉めに揉めた。長方形のテーブルに六人で座らなければならないからだ。あかりと隆太が四人の要望を聞き入れる形で決着した。扉側に恭夜が座る。対面にはゲルマ。恭夜の右手側出前からサリーとルナ。左側出前からあかりと隆太。
明日は恭夜とサリーが母親の元に出向くという。