ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~   作:公私混同侍

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ライナの叫び 轟け、天馬の名よ

ゲルマの生首が目を開けた。

 

サリー「やはりコアを破壊しなければ完全には止められないか」

 

ライナ『コアって何?』

 

サリー「自我を形成するための頭脳のようなものだ」

 

ライナ『そんな事したらゲルマはどうなるの?』

 

ヘルマン「この世を去ることになるであろうな」

 

ゲルマ「その前にヘルマン・ラングニック。オレは貴様に一矢報いる必要がある」

 

ヘルマン「減らず口を。その体たらくで何が――」

 

ゲルマ「この頭脳には博士達の想いが詰まっている!貴様はそれを踏みにじったのだ!恥を知れ!」

 

ヘルマン「ワシに説教するか。傭兵の分際でなんと愚かしい」

 

ゲルマ「ならば教えてやろう。この頭脳に込められた博士達の遺産をな!」

 

ヘルマン「なに!?」

 

恭夜「もしかしてエマージェンシー・プログラムの――」

 

サリー「起動を可能にする方法があるというのか?」

 

ゲルマ「その『鍵』は……ライナ、お前が持っているはずだ」

 

ライナ『ワ、ワタシ!?そんなの知らないわよ!恭夜なら持ってるんじゃ――』

 

恭夜「俺が持ってたのはロックを解除するパスワードだけなんだ」

 

ゲルマ「あと一つは認証だ。簡単な話だ。オレが大切していたもの。それを答えればいい」

 

ライナ『ゲルマが大切していたもの?』

 

ドラジェ「エマージェンシー・プログラムノ、解析終了。認証方法ノ検索結果ハ……声紋認証」

 

サリー「フッ、なるほど」

 

ヘルマン「な、なんだと!?」

 

恭夜「声紋認証って声で解除出来るってことかよ」

 

ライナ『声ってワタシの声ってこと?ワタシ、ゲルマの大切なものが思い出せないわ!』

 

ゲルマ「落ち着け。すぐに答えを出そうとするな。認証は一度しか出来ない。このチャンスを逃せば二度とお前を救えなくなる」

 

ライナ『ゲルマは答えを知ってるんでしょ?なら教えなさいよ!』

 

ゲルマ「オレの声でその言葉を口にしたらプログラムだけでなく、コアが記憶したデータが消去されるように設定されている」

 

ヘルマン「お、おい!人形め、さっさと声紋認証とやらを封印せんか!」

 

ドラジェ「了解シマシタ。暫クオ待チクダサイ」

 

恭夜「ヤバイぞ!あのストーカー野郎を止めないと!」

 

サリー「わかっている!」

 

ヘルマン「動くでない!」

 

サリー「チッ!」

 

ヘルマンは拳銃を取り出し檻に銃口を向ける。

 

ヘルマン「静かにしておれ」

 

ライナ『何で?何で思い出せないの?』

 

ゲルマは空を見上げた。薄暗さが和らいでいく。

 

ドラジェ「凍結準備中……凍結開始。残リ三分」

 

ライナ『うるさいわね!ちょっと黙ってなさいよ!』

 

恭夜は空を見上げた。時が経つのは早い。橙色の空に様変わりしていた。

 

ゲルマ「女神は圧政に苦しむ民を救おうと楽園へと導く。右手は自由を説き、左手は平和を謳う」

 

サリー「その詩は……」

 

恭夜「自由と平和を愛する女神は民衆を解放し先導者になった。しかし、民衆は抗い革命を起こした。そして()しき国家は打倒された」

 

ルナ「私も覚えてる」

 

ゲルマ「民衆は自ら手にした自由と平和を謳歌した。ところが人間にとって余りある自由は民衆を狂わせた」

 

あかり「すごーい!心に入ってくるよ!」

 

恭夜「見境のない自由は他の人々の自由を奪い、いつしか平和は打ち砕かれた。そして矛先は女神に向けられる」

 

隆太「何でだろう?不思議だね」

 

ゲルマ「混沌に染まった民衆は女神の両腕を切り落とす」

 

ヘルマン「ぐぬぅ……」

 

恭夜「女神は悲しみのあまり人間を見捨て天界へと旅立つ」

 

ライナ『思い出したわ……』

 

ドラジェ「残リ十秒」

 

ライナ『お願い!ゲルマを救って!――』

 

ドラジェ「五、四、三――」

 

ライナ『コスモス!』

 

風向きが変わった。ゲルマの青き眼光が消え赤みを帯びていく。胴体が倒れた。

 

ゲルマ「ヘルマン、残念だったな。博士達が仕込んだバグがまさか、この瞬間の為に仕組まれていたとは信じられないだろう?」

 

ヘルマン「お……おのれぇぇぇ!!」

 

恭夜「や、やった!?」

 

サリー「上手くいったのか?」

 

ルナ「ゲルマ、お帰り」

 

ライナ『ちょっと待ちなさいよ!ワタシの声なんていつ録音したの!?』

 

ゲルマの胴体が起き上がる。生首を掴みガッチリと嵌め込む。

 

ゲルマ「相変わらず頭の悪い女だ」

 

ライナ『悪かったわね。どーせ、ワタシは……』

 

ゲルマ「まだ泣くな。全て説明する。星宮博士は唯城恭一朗博士の遺志を継いでプロジェクトの研究を続けていた。その間に星宮博士はあの『コスモス』の絵画に触れ、お前に出会ったんだ」

 

ライナ『その時に録音したって言うの?』

 

ゲルマ「博士を見くびり過ぎだな。星宮正晴博士はお前の声を聞き、記憶だけを頼りに声紋認証プログラムを作成していたんだ。誰にも知られずにな」

 

サリー「星宮博士はこの事態を見通していたのか?」

 

ライナ『でも……良かった……』

 

ヘルマン「ヌハハハ……」

 

恭夜「急に笑い出すんじゃねぇ」

 

サリー「まだ笑う余裕があるのか」

 

ヘルマン「素晴らしい情熱だ。言い換えれば狂気と言えよう」

 

ゲルマ「貴様の小細工は二度も通用しない。次は仲間でも呼ぶか?小心者に従う部下などいるとは思えないがな」

 

ヘルマンは手のひらを空に向けた。空間が歪み裂け目が生まれる。

 

ヘルマン「この手は出来れば使いたくは無かったのだが致し方ない。ワシに歯向かったことを永遠の時の中で悔いるが良い」

 

裂け目から三枚の絵画が出てきた。

『コスモス』だ。

 

サリー「やはり……隠していたか」

 

ライナ『ゲルマ……』

 

ゲルマ「さっきまでの威勢はどこにいった?」

 

ライナは今にも泣き出しそうな表情で絵画を見つめる。

ヘルマンは絵画に手を潜り込ませた。中から引きずり出した。楕円形の影が徐々にハッキリしてくる。

 

ヘルマン「コレこそが我が切り札。月に照らし出された刀とは対になり、数々の歴史に干渉してきた魔剣――」

 

禍々しい剣が降臨する。刀身はありとあらゆる生物の生気を吸いとろうとしているようだ。

恭夜達の周辺に霧が立ち込み始めた。


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