ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~   作:公私混同侍

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過去を求めるモノたち

恭夜「――ん!雨が降ってる!アイツを外に連れ出せれば……」

 

ゲルマ「雨か。この体は水に弱いのだったな。この建物は雨漏りの心配はなさそうだが迂闊に動けんか……」

 

恭夜「ルナ、大丈夫?」

 

ルナ「うん」

 

恭夜「あいつを外に出そうと思うんだけど――」

 

ルナ「ダメ!また壊れちゃう!」

 

恭夜「他に止める方法が思いつかないよ」

 

ルナ「大丈夫」

 

刀を振り上げる。刀に水の粒がまとわりつく。そして徐々にその数を増やし刀身は厚みを増していく。

 

恭夜「どうなってるんだ!?サリーの刀と関係しているのか?」

 

ゲルマ「ま、まさか!?そこの女が()()()をふらせたのか!?」

 

ルナ「ごめんなさい、ゲルマ!」

 

降り下ろされた刀から水の刃が放たれた。刃はゲルマの背丈を越えている。

 

ゲルマ「こうも分が悪いと立ち向かいたくなってしまうな!」

 

ゲルマは両目に赤い光を集め水の刃に向けて閃光をぶつける。水の刃は高密度の熱線を受け一瞬で蒸発する。

 

恭夜「レーザーみたいなものまで使うのか……」

 

ルナ「どういうこと?」

 

ゲルマ「厄介な能力だ。女性に手を挙げるのは主義ではないが……」

 

恭夜「逃げろ!ルナ!」

 

ルナ「私は……」

 

ゲルマは左の拳をルナに向ける。恭夜はルナの前に立つ。

 

ゲルマ「そうだ。男は常にか弱きものの剣でなくてはならない(俺は一体何を言っている?)」

 

恭夜「機械のクセに偉そうな事言いやがって!何が女には手をあげないだ!ルナを傷つけておいて!」

 

ゲルマ「くっ……(情けない。確かにこの男の言う通りだ。言動に齟齬をきたすとは頭をいじられた影響なのか?)」

 

ルナ「ゲルマ?」

 

ゲルマの目から赤い光が小さくなる。

 

恭夜「敵意がなくなった?」

 

恭夜は一歩、足を踏み出す。

 

ルナ「待って」

 

恭夜「今がチャンスかもしれない。ルナの力があれば――」

 

ルナ「私、人を助けたことがある」

 

恭夜「その刀貸して。俺が仕留めるから」

 

ルナ「その人、海で溺れてた」

 

恭夜「そうなんだ……え?」

 

ルナ「その時から、この刀が水を操れるようになった。ふふふ」

 

恭夜「俺を……」

 

ルナ「助けた」

 

恭夜「こんなことって……」

 

ルナ「偶然じゃない」

 

恭夜「本当に……本当にルナが溺れた俺を助けてくれたの?」

 

ルナ「ふふふ」

 

恭夜「思い出した!そうだ!この笑顔だ!俺が意識を取り戻した時のルナの笑顔だ!」

 

ルナ「ずっと覚えてた」

 

恭夜「ずっと言いたいことがあったんだ!」

 

ルナ「なに?」

 

恭夜「助けてくれてありがとう」

 

ルナは恭夜の感謝の言葉に頷いた。

 

ゲルマ「どうすれば……どうすればいいのだ?」

 

ルナ「ゲルマ?」

 

恭夜「あっ、こいつの事すっかり忘れてた」

 

ゲルマ「貴様ら……いや、お二方を見ていたら敵意を削がれてしまった」

 

ルナ「どうして機械の体になったの?」

 

恭夜「ルナ、あいつの話なんか聞く必要ないよ。どうせ油断させて手の平からなんとかブラスター!みたいなものを打つに決まってる」

 

ルナ「ふふふ、なにそれ」

 

ゲルマは両手をまじまじと見ている。確かに手の平には穴が空いている。

 

ゲルマ「信じてもらえないかもしれないが、ゲルマという人物の記憶があるかもしれないのだ」

 

恭夜「作られた記憶だろ。どうせ」

 

ルナ「私は信じる」

 

ゲルマ「現時点で断言する。このゲルマという人物はお二方に敵意を抱いてはいない」

 

恭夜「信じれるわけねぇだろ!誠を殺すとこだったんだぞ!」

 

ルナ「恭夜、ゲルマは嘘をついてない」

 

ゲルマ「申し訳ないと思っている。だが、許してもらえないと言うのならば――」

 

ゲルマは外に向かって歩き始める。外は土砂降りになっていた。

 

恭夜「あっ!」

 

ルナ「そんなのダメ!」

 

ゲルマ「自らの手で全てを終わらせるしかない」

 

恭夜「くそっ!父さん達が作った遺産をこんな形で終わらせちまっていいのか……?」

 

ルナはゲルマに抱きつく

 

ルナ「ゲルマはずっと一人」

 

ゲルマ「恐らく……恐らくだが一人ではなかったと思っている」

 

ルナ「私にはわかる」

 

ゲルマ「どういう意味だ?」

 

ルナ「難しいことはわからない。けど、恭夜ならわかる」

 

恭夜「ん?え?俺?」

 

ゲルマ「是非教えて頂きたい」

 

恭夜「う~ん……そうだなぁ……ルナはたぶんだけど……ずっと一人だったんだ……だからゲルマの気持ちもわかるよって感じ?」

 

ルナ「うん!」

 

ゲルマ「だから何だというのだ?」

 

恭夜「ゲルマに友達になってほしいなぁって……思ってる?」

 

ゲルマ「本当にそう思っているのか?」

 

ルナ「そうだよ」

 

恭夜「ふぅ……心臓に悪い」

 

ゲルマ(ルナという女は実に男心をくすぐる。この体も意外と悪くはないかもしれん)

 

恭夜「ゲルマ?」

 

ルナ「一緒に行こ!」

 

ゲルマ「条件がある」

 

ルナ「なに?」

 

ゲルマ「もしこのゲルマが誰かを傷つけようとするのならば、その刀で破壊してもらいたい」

 

恭夜「だってさ」

 

ルナ「うん……わかった」

 

雨は止む気配がない。誠は日が沈む頃に目を覚ました。




登場人物紹介

星宮隆太(ほしみやりゅうた)―男・15歳
双子の兄。
がさつなあかりを面倒見の良さで支える本作の大黒柱。
あかりの学業に専念してもらうためアルバイトと家事をこなす。すなわち主夫(シュフ)。
料理スキルが高く家庭料理であればどんなオーダーにも応える。すなわちシェフ。
得意料理はオムライス。
美人に滅法弱い。

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