ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~   作:公私混同侍

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命知らずの騎士

ゲルマ達がライナと再会を果たしていた頃、サリーとあかりは昔話に花を咲かせていた。

 

サリー「あの男、私の髪型を見てなんて言ったと思う?」

 

あかり「えー……ボーイッシュ?」

 

サリー「あの男はチョンマゲみたいだと言い放ったんだ!今思い出しても腹が立つ!」

 

あかり「そのまんまじゃん」

 

サリー「怒りに震える私は恭夜の指を折ってやったんだ!ハッハッハ!」

 

?「月に叢雲(むらくも)、花に風」

 

サリー「何か言ったか?」

 

あかりは首を横に振った。

サリーは『月』という言葉に反射的に空を見上げた。一人の男がこちらを見ている。

 

あかり「サリーお姉ちゃんの知り合い?」

 

サリーは正体不明の男から視線を外さないようにしている。

 

?「お主の心情を表すのにぴったりだと思ったのだがね」

 

あかり「おじいちゃん、誰?」

 

?「フハハハハ……お嬢ちゃん、ワシを帰る場所を失ったホームレスだとでも思ってるのではないかね?」

 

あかり「ど、どうしてわかったの?」

 

?「実際、帰る場所が無いのだよ」

 

サリー「フッ」

 

あかり「面白いおじいちゃんだね」

 

?「ところで一つお尋ねしたいのだが人生を楽しんでおるかね?」

 

あかり「みんな優しくて本当の家族ができたみたいで楽しいよ」

 

?「お主はどうかね?」

 

サリー「あなたの立場を重んじれば軽々しく楽しんでいるとは言えない」

 

?「気を遣われる心苦しさというのもある。それもまた人生の難しさでもあるのだが」

 

あかり「サリーお姉ちゃんは好きな人がそばにいないと生きててもつまんないんだよね」

 

サリー「そんな人間が存在するなら会ってみたいものだ」

 

?「もしも大切な人間がこの世から消え去るとしたら、お嬢ちゃんはどうするかね?」

 

あかり「みんな大切だから分かんないけど一人じゃ生きていけないかも」

 

サリー「そんな非現実的な事があるわけない。想像するだけ無駄だ」

 

?「それは可笑しい。お主は二度、いや三度大切な人間が命を落としかけた経験をしているではないか」

 

あかり「……え?」

 

サリー「あ、あなたは何者なんだ?」

 

?「ワシの名を人に教えるのは何百年振りだろうか。まあよい、教えてあげよう。ある時は預言者として振る舞い、ある時は時を渡る旅人となり、またある時は命知らずの騎士(ホットスパー)と呼ばれている 」

 

あかり「ほっとすぱー?」

 

サリー「……」

 

?「無理はない。なにせ日本の教科書には載っておらんからなぁ」

 

あかり「へぇー、そうなんだ」

 

サリー「やけに詳しいが、まだ名前を聞いていない」

 

?「何?そうだったかね?オホン、ならば教えてあげよう。ワシの名はへルマン・ラングニック」

 

あかり「ラングニック?どこかで聞いたことあるような――」

 

サリー「私もそうだが……」

 

へルマン「これは偶然ではないのだ。ワシはお前に会いに来たのだ。我が愛しの娘よ」

 

あかり「えっ……えぇぇぇ!?」

 

サリー「なっ……!?」

 

へルマン「驚かせるつもりで会いに来たのではない。話せば長くなるが、サリーやもちろん隣のお嬢ちゃんにも聞いてもらわねばならん」

 

あかり「このホームレスのおじいちゃんがサリーお姉ちゃんのパパなの?」

 

サリー「私はあなたの揺さぶりに動じるつもりはない。だが、先ほどの発言は聞き捨てならない。私を捨てた父が何故今さら会いに来たのか説明してもらいたい」

 

へルマン「強がりも無鉄砲もホットスパーの証。お前はワシに似ておる。無論、若かりし頃のワシの話だがね」

 

あかり「サリーお姉ちゃん、嬉しくないの?」

 

サリー「嬉しいどころか憎たらしいほどだ。あなたのせいで私は……」

 

へルマン「それ以上は口に出せんはずだ。何故なら過去を否定すれば愛する者達の存在を否定する事になる。違うかね?」

 

あかり「サリーお姉ちゃん?」

 

サリー「もうあなたの顔など見たくもない――帰ろう、あかり」

 

あかりの手を強く引っ張った。痛みで顔を歪めるが声に出さないように歯を食い縛る。ベンチから二人が立ち去るとへルマンはその温もりを感じるように腰を下ろした。

 

へルマン「宿命は変えられぬかもしれぬが運命は変えられるかもしれない」

 

へルマン「その運命を変えるのが女神の想いだ」

 

へルマン「女神も覚醒したようだ。失われた扉は復活した。ならばワシもこの世界から旅立つ準備をせねば――」

 

さあ、今こそ羽ばたく時だ……

 

震えて沈む、この世界から……


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