ホットスパーズ ~命知らずの騎士と二人の女神~ 作:公私混同侍
ゲルマとカインの回想は夢物語を聞かせられているような気がしてならかった。本人達が真剣に話しているのだから信じるしかない。思い込みかもしれないが、おのずと恭夜達は感情移入していた。
カイン「全て作り話だと思ってもらって結構だよ」
ゲルマ「オレ達が五百年の時を超えた証拠など持ち合わせていないからな」
当然ながら二人に異論をぶつけようなどと考えるような人間はその場に居合わせてはいなかった。
恭夜「信じてもいいけどカインとゲルマは十七世紀からやって来た、って事でいいんだよな?」
カイン「ボクとゲルマの記憶を擦り合わせたが齟齬はなかった。間違いはない」
ルナは首をだらりと下げ口をパクパクさせている。
隆太「え~と、ゲルマさんはヨウヘイでカインさんはキゾクで合ってますか?」
ゲルマ「そうだ……以前『騎士の誇り』などと口走ってしまったが思い出すだけで恥ずかしい」
恭夜「あの絵画を描いたのってライナって人なのか。後でサリーに教えておかないと――」
隆太「あの綺麗な絵画を描いた人と知り合いだなんて羨ましいです」
ゲルマ「当時は無名だったんだが、まさかこの時代で持て囃される日が来るとは」
カイン「やはりボクの見る目は正しかったみたいだ」
ルナは体をゆらゆらさせている。
恭夜はゲルマとカインが所有していた大剣は同一なのではと思い、
恭夜「あっ!もしてかしてゲルマが大昔にぶんまわしていた大剣って――」
隆太「どこにあるんですか?」
カイン「キミは恭夜に恨みでも抱いているのか?それとも嫉妬からくるものなのか?」
ゲルマ「マスターは勘がいいからな。女心を手玉にとって傷つけてしまうのが玉にキズであるが」
隆太「な、何の話をしてるんですか?僕は兄さんに嫉妬なんて――」
恭夜「誰の話してんだよ」
カイン「この時代に来て正解だったかもしれない。ゲルマが女心を語る姿が見れたからね」
ゲルマ「最初に出会えたのがルナでなければ今の自分は存在しなかっただろうな」
隆太「そういえばルナさんがトイレから帰って来ませんね」
恭夜「ずっと俺達の後ろにいたよ……ルナ?」
存在感を消し去っていたルナは誰の言葉にも反応を示さない。
隆太「ルナさん、気分でも悪いんですか?」
ゲルマ「――体温、血圧は正常。運動反射や神経系にも特に異常はなさそうだが……」
医療系の精密機器も搭載しているようだ。恭夜は内心、頭を抱えた。
カイン「ボクの考えに間違いがなければ、ライナ・リゲイリアもこの時代に来ているはずだ。
恭夜「マジかよ!後でサリーに教えなきゃな」
ゲルマ「手癖の悪さは相変わらずだ」
恭夜「はあ!?」
ルナ『そうなの?ウフフフ……』
ルナの表情が不規則に変化している。若干肩に力が入っているように見え、何かに取り憑かれているようにも映った。
隆太「兄さんは女性なら誰でもいいの?見損なったよ」
カインはルナの挙動に睨みを利かせている。
恭夜「頭が痛くなってきた。隆太やポンコツロボットの話を聞くだけでムシャクシャする、やっぱりあかり達と飯食いに行けば良かったなぁ!」
ルナ『ここは美術館よ。静かにしてなきゃ他のお客さんの迷惑になるわ』
隆太「そうですよ。ルナさんの言うとおりです……今、ルナさんが喋ったんですよね?」
恭夜「なんか雰囲気変わった?」
カイン「その耳障りな口調……まさか!?」
ゲルマ「ライナ!?ライナなのか!?」
ルナはゆっくりと顔を上げる。いつもの物静かでしおらしい態度が嘘のように変貌した。感情豊かになり外見も別人のように変化している。
ライナ『ふぅー!やっと表に出てこれたわ。久しぶりね、ゲルマにツンツン男』
カイン「その呼び方、ライナがボクにつけた
ゲルマ「あ、ああ……」
隆太「ルナさんじゃないんですか?」
恭夜「どいうことだぁ?」
カインは事情を察していたようだがゲルマは虚を突かれ動きが機械的になる。恭夜と隆太は調子を狂わされ面食らっている。
ライナ『ごめんなさいね、驚かせちゃって。ワタシはライナ・リゲイリア。よろしくね。恭夜君に隆太君』
恭夜「よ、よろしく……」
隆太「お願いします……」
カイン「この二人を知っているということは意識そのものがルナの中に混在しているのか」
ゲルマ「オレと……同じ?」
ライナ『ワタシもよく分かってないんだけど、この世界に来てからこのルナっていう
隆太「ライナさんは明るい人なんですね」
カイン「それでもボクはルナの方が好みなんだ。申し訳ない」
恭夜は警備員が二人、近づいてくることに気づいた。
ライナ『悪かったわね。ワタシはルナちゃんよりスタイルは貧相だし可愛げもないわよ。そんな事より場所を変えましょ』
ゲルマ「ああ、久方ぶりの再会に舞い上がり過ぎたようだ」
ライナ達は美術館に併設されている庭園に移動する。まだまだ話を聞かなければならない。恭夜は強迫観念に駆られていた。偶然とは思えないゲルマ達の再会に意図的なものを感じたからだ。真実は知ってしまえば残酷な結末を生むかもしれない。
もしかしたらサリーと一緒に過ごすことが出来なくなるのではないか?
そんな現実、受け入れられるわけがない。耐えられるわけがない。恭夜は胸を締め付けられるような思いの中、新たな景色を望んだ。